ぜんぜん好みのタイプじゃないはずのに、彼を一目みてからずっとドキドキしてる。なんてことはなくなるのかな。
さて、ニューヨーク在住のソフトウェアエンジニアDale Markowitz氏が、イギリス発のマッチングサービスLoveflutter(ラブフラッター)を使ってみたときのことです。登録すると、アプリからMarkowitz氏へアドバイスが。「なるべくネガティブにならないように。相手に無駄な時間を過ごさせないために、はっきり早めの意思表示を。ぐずぐずしてると、相手もしびれをきらすぞ!」…え、どうしてこんなアドバイスが? Loveflutterは、Twitter(ツイッター)をもとにしたデートアプリで、プロフィール入力や、質問に答える必要は一切なし。登録するのはTwitterのアカウント名だけ。人工知能ベースで言葉を解析するReceptiviti(レセプティビティ)と連携してユーザーのツイートを分析し、マッチする相手を探します。ということは、Twitterアカウントを登録しただけで、アドバイスできるくらい彼女のことがわかったということですか?!
デートアプリ、マッチングサービスは好みの相手を探し出し、相性のいい相手と結びつけてくれます。うまくいくこともあれば、からっきしハズレなことも。ときにはマッチングサービスが自分以上に自分のことを理解しているなんてこともあるのではないでしょうか。マシンラーニングアルゴリズムが発達すればするほど、精度が増せば増すほど、より多くの人が使えば使うほど、マッチングサーバーはユーザーのことをより深く学び、よりよい相手に導いてくれるようになります。
マッチングサービスは、今、まさに過渡期。マッチングサービスの未来にロマンスはいらない。必要なのは、ユーザーの好みをユーザー以上に理解して、ユーザーも予想しない相手を探し出す効率性です。
ユーザーをどこまで理解できるのか?
今日のマッチングサービスは、2つにわけることができます。ひとつはeHarmony(イーハモニー)やMatch(マッチ)、OkCupid(オーケーキューピッド)のようなユーザー情報入力型。運営側からのアンケート調査に答え、自分のこと、自分の暮らしに関するたくさんのことを登録し、これに基づいてマッチ相手を探します。質問は、「あなたは面倒くさがり?」とか、「週に何回くらい運動する?」などなど多岐に渡ります。
この形式の利点は、ユーザーについての非常に詳細な情報がとれるということ。欠点は、登録に時間がかかり、ユーザーが自分の本当の姿を(故意であれ、無自覚であれ)伝えない可能性があるということです。
もうひとつは、Tinder(ティンダー)などのSNS連携型。長いアンケートに答える必要はなく、Facebook(フェイスブック)などのソーシャルメディアサービスのアカウントを連携するだけです。たとえば、TinderだとSpotify(スポティファイ)のアーティストやInstagram(インスタグラム)の写真などを連携し、表示させることができます。このタイプはユーザー同士の適合性ではなく、スピード感がウリとなっています。
考えてみれば、TwitterのポストやFacebookの「いいね」、Instagramの写真にFoursquare(フォースクエア)のチェックインは、自分で思っている以上に自分のことをさらけ出したデータです。となれば、SNSとマッチングサービズを連携させることによって、自分に関するかなりのデータを提供しているということになります。たとえばこんなことが。The Guardianの記者が、「Tinderに自分に関するすべてのデータを提出してください」とリクエストしたところ、記者のもとに届いたレポートは800ページもあったというのです。
将来的には、ユーザー情報入力型サービスよりも、SNS連携型サービスのほうが、よりユーザーの性格やライフスタイルを理解できるとようになっていくのでしょう。一部の研究によれば、Foursquareのチェックインから几帳面さが、ツイートやInstagramのフィルターからはウツ状態が、Facebookの「いいね」からは知性や幸福度、ドラッグ使用度がすでに予想できるなんて話がありますから。
ソーシャルメディアという監視
私はこういう性格なんです、とは明確にいいにくいもの。自分で自分のことをどれほどわかっているかすら怪しいものです。自分の思う自分像は、はたしてどこまでリアルなのでしょう。そもそも、マッチングサービスのプロフィールを書くときって、きっとFacebookで「いいね」するときよりも、真面目に考えながら(よりよく見せようと)取り組む人が多いのではないでしょうかね。
バーモント大学でTwitterやInstagramと鬱の関係を研究するChris Danforth(クリス・ダンフォース)教授はこのように語っています。
マッチングサービスのプロフィールは、きっと現実とは遠いものだろうというのが、私の最初の考えです。ただ、研究をすればするほど、自分が思っている以上に自分のことをさらけ出しているケースというのが見えてきたのです。Facebookの「いいね」が、本人へのアンケート調査よりうまいマッチを予想できる可能性があります
SNSのデータがマッチングサービスでプロフィール作成の手助けをすると考えることもできます。ここでいう手助けとは、正直に書くお手伝い。メリーランド大学でソーシャルメディアと情報の交差を研究しているJen Golbeck研究員が、面白いことをいっています。
OkCupidでプロフィールを作成中に、「それ、本当ですか?」なんてポップアップがでたら面白いと思いますよ。あなたの「いいね」を解析した結果、喫煙者である可能性が高いのですが、本当にNOで登録します?なんてね
また、ユーザーのネットでの行動から、嘘の申告をしたかもしれない項目を予測できるようになったら…。たとえば、実際のOkQupidのアンケート調査に「よく運動するほうですか?」なんて質問がありますが、こんなのすぐバレるようになりますよ。
すでに、MeetMeOutsideというスポーツ大好き系ユーザーにフォーカスしたマッチングサービスでは、Fitbit(フィットビット)とアカウントを連携することで、実際に運動したり体を動かすのが好きだということを証明する必要があります。「週末はまったり派? アクティブ派?」なんて質問も同じ。マッチングサービスがGPSやFoursquareのチェックインのデータを見ればわかってしまいますから。どうしても嘘をつこうと思ったら、かえって面倒でかなりの労力がかかるでしょうね。
また、ネットでの言動を通して危険な人物を予測し、入会を拒否するというのも、運営会社にとってはデータの使い道のひとつです。今年8月、バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者集会での事件を経て、いくつかのマッチングサービスは会員ユーザーに白人至上主義者アカウントの報告を呼びかけ、彼らのアカウントをバンするという対応にでました。
危険人物だけでなく、恋愛対象として不適切なユーザーをサービスから拒否することもできます。たとえばeHarmonyでは、4回以上の離婚歴がある人、身体障害者へ差別偏見がある人、または最初のアンケート調査にて鬱の疑いがある人はサービス入会を拒否しています。将来的には、ソーシャルメディアでの行動から、嘘を見分けるだけでなく、性差別者、人種差別者、同性愛差別者などをアルゴリズムが割り出し、鬱の症状まで予測して、サービス入会を拒否するなどの対応も可能でしょう。
アルゴリズム信仰
膨大なデータにアクセスでき、人間よりもデータ処理のキャパが大きいコンピューターならば、人間が見逃しがちな、または認識すらできていない行動パターンを読み取ることができるでしょう。バーモント大学のDanforth教授は、それについてこう語っています。
あなたが「いいな」と思う相手のページを見ているとき、あなたが見ているページ=アクセスするデータは、そのいいなと思った彼・彼女のものだけです。
いっぽうで、アルゴリズムはその彼・彼女とそのほか何百という人々のデータを瞬時に照らし合わせることができます。そうすれば、違いや特性など、あなたの目では見えないさまざまな方向から傾向を探ることができるんです
あなたというユーザーをアルゴリズムがより学習していけばいくほど、好みのタイプに関してもアルゴリズムは理解を深めていきます。すでに、誰を右/左スワイプしたかなどのパターンからユーザーの好みの学習を進めているサービスもあります。これは、Netflix(ネットフリックス)が視聴したコンテンツから新たな映画をオススメするのと同じようなもの。
アンケート調査をするのではなく、ユーザーがマッチングサービスをどう使うのかを見ています。「求める相手の年齢層は?」とユーザーにきくより、彼が25歳ブロンドの女性をチェックすれば、システムが「25歳ブロンドの女性」をオススメに表示し始めますよ
こう語るのは、複数のマッチングサービスで使われているアルゴリズム提供しているRecSys(レクシス)の創設者Gavin Potter(ギャビン・ポッター)氏。
OkCupidでは、ストレートの男性が女性をチェックする場合、アンケート調査で彼らが答えた年齢よりも多少若い層を見ているというデータがあります。このデータから、オススメ機能では自己申告にある求める年齢層よりも低めの人物を表示するようにしているといいます。Potter氏は以下のようにも話しています。
オススメされる相手を見ると、それぞれのユーザーにはパターンがあるのがよくわかります。たとえば、ヒゲがある男性としかデートしない女性がいたり、中国のユーザーは控えめな女性をタイプとする人が多かったり
アルゴリズムのおかげで、自分では見つけられない/説明しがたい/微細なユーザーパターンを解析することができるということです。さすれば、未来のマッチングサービスは、人間が言葉では表現できない「好みのタイプ」を理解してくれるというわけです。
とはいえ、コンピューターによって真の好みのタイプが明らかになることに嫌悪感を抱くユーザーもいるでしょう。AIマッチングサービスBernie.aiの創設者Justin Long(ジャスティン・ロング)氏に、今までどんなパターンが見つかったのか尋ねたところ「それに関しては、ショッキングな結果もあるので公開は差し控えています」との返答が。この返答をきいて、頭をよぎったのは人種差別。OkCupidの統計では、アンケート調査にて相手の人種は気にしないと答えた人でも、実際に相手を選ぶときには気にしているというデータがでています。
ワシントン大学でマッチングテクノロジーとプライバシーの関係を研究しているCamile Cobb(キャメリー・コブ)氏はこのように言っています。
誰をどっちにスワイプするか、どういう人とマッチするかによって、自分でも気づいていない偏見があるのでは、と考えたことはあります。多くの人は、深く考えることなく「いい人いないかな?」とマッチングサービスを使っています。
もちろん、私を陥れようというわけではなく、よりよいマッチングのためにデータを使っているのはわかります。それでも、もし自分が気づかないうちに特定のタイプに偏見を持っているとしたら、このデータを利用してほしくないなと思ってしまいますね
データへの渇望
マッチングサービスの運営会社は、このデータをもとに「ユーザーを陥れてやる!」ってなことはないにしても、お金儲けのために使うかもしれません。どんなデータを広告主に提供しているのか、きな臭いことばかり考えてしまいますね。そこには、自分でも気づいていない自分のデータがあるかもしれないわけで。
たとえば、タバコを吸わないのにタバコを吸っているプロフィール写真にたくさん「いいね」をしている人は、無自覚のうちに「タバコ=かっこいい」と思っている可能性があるわけです。この無自覚データが広告主に渡れば、誰が何をかっこいい、かわいい、魅力的だと感じるか、すべてバレてしまうということです。知らない間に、ある特定の広告のターゲットになってしまうということ。
アルゴリズムがよりユーザーのことを深く学び、ユーザーそれぞれによりカスタマイズされたオススメがでれば、そりゃ、右スワイプ(いいね)する回数は増えるでしょう。Long氏がBernie.aiというパーソナルマッチングアシスタントを開発したとき、彼の頭にあったのはまさしくこの考え。スワイプやらメッセージやらあれこれやって何回デートにこぎつけたか、その過程と結果にイライラした彼は、デートまでのプロセスを代わりにやってくれるボットを作成しました。
Long氏によるアプリBernieは、ユーザーにTinderアカウントと連携させ、ユーザーがスワイプする様子を観察することで好みを学ぶという仕組み。基礎学習が終われば、ユーザーの代わりにTinderのスワイプはBernieがやってくれます。マッチした相手には「アボカド好き?」と、こんな具合に会話を開始します。このメッセージも人工知能が考えだしたもっとも返信率の高いメッセージなんでしょうかね?
その後Long氏は、Tinderからの申し入れにより、Bernieアプリの使用中止を余儀なくされてしまいました。それでも彼はオンラインデート用のパーソナルアシスタントこそ、マッチングサービスの未来だと考えています。写真スワイプやメッセージなど、リアルで会う前のプロセスはデジタルアシスタントに丸投げする。アシスタントは、ユーザーのSNSやカレンダーの予定、GPS情報から好みを学び、相手を探してデートにこぎつけるのが仕事。結果、よい相手に出会ったら、次に利用するときはもっと詳細な自分のデータをアシスタントに渡すことになるのでしょう。
デートまで行けば、あとは自分しだい
アルゴリズムの精度があがれば、どのプロフィール写真を気に入ったかというデータだけでなく、実際に会って(リアルして)どうだったかというデータも欲しくなるに違いありません。現状、目につく限りでは、リアルした後どう思ったか、デートの結果はどうなのかまでを訪ねるサービスはないのではないでしょうか。なぜリアル後の反応を聞かないのか、OkCupidのエンジニア担当Tom Jacques氏に尋ねたところ、こんな回答が。
ユーザーがどこまで情報提供してくれるのかというのは、とても難しくてデリケートな問題なんです。ユーザーの行動をトラッキングできるのは、サービスを使っているときだけ。関係がリアルに移行してからは、ほとんどの人が状況を教えてはくれません
とはいえ、やる気になったらできるのでしょう。サービスアプリ側に提供している情報を細かく追えば、たとえばGPSデータを使って、どこに誰とどのくらいの時間いたか、2軒目はあったのか否かなんて、本気になればデータとれるのでしょうけれどね。過去には、アプリがデート中のカップルの心拍数を、Fitbit経由でモニタリングし、デートの興奮度を図ったことがありました(結局、心拍数は体の物理的な動きにばかり反応して、細かい心情にはうまく反応せず、いい結果はでなかったらしいですが)。
今日、マッチングサービスは、私たちユーザーのデジタルデータを(少なくとも公には)最大限取得しているとはいえません。でも、もっと取れるデータはあるはず。もしかしたら、運営側はそこまでやったら気持ち悪がられると思っているのでしょうか? 「皆そこまで知られたくないはずだ」と考えているのでしょうか?
でも、もしですよ? もし、個人のデータをもっととることによって、もっと効率的よく相性のあう相手に出会えるのであれば、それは悪いことではありません。データを喜んで差し出すという人も少なからずいるでしょう。
自分でも気づかないほどマッチする相手を探したい人にとって、マッチングサービスの未来には期待しかありません。でも、自分の直感で胸がザワザワするような恋をしたい人は、こんなアルゴリズムの話は忘れてくださいね。
Image: Angelica Alzona/Gizmodo US
Source: Loveflutter, Receptiviti, Wikipedia(1, 2, 3, 4, 5)App Store(1, 2), OkCupid(1, 2, 3), The Guardian, Science Direct, USA TODAY, PNAS, Chris Danforth, Jen Golbeck, MeetMeOutside, The Huffington Post, Mashable Asia, The ACM Conference Series on Recommender Systems, Bernie.ai, Camile Cobb, TechCrunch, Forecasting the onset and course of mental illness with Twitter data
Dale Markowitz - Gizmodo US[原文]
(そうこ)