今年も、色んな音ありけり。
岡崎体育が学習机とラップトップ1台で素晴らしい曲を提供しまくっているのですから、商業的に耐えられる音楽でさえ、楽器がなくても作れてしまう現代です。それでも僕らが楽器に魅了されるのは、そこに鍵盤があるから? ピストンが、ツマミが、弦があるから?
かくして、2017年もいろんな楽器が発売されました。技術的にもどんどん可能なことが増えてきて、音色だけでなく体験をアップデートしようという向きはさらに強まったように感じます。体験の場を増やすためにポータブル性を求めるスタイルもあれば、反対に腰据えてじっくりスタイルもあり、その棲み分けが増えてきたのはポータブルでありながら高品質なモノが作れるようになったから。ひとえに技術ですな。
では、2017年を彩った注目楽器たちを振り返ってみましょう。
MATRIXBRUTE
多くの音楽メディアをして怪物シンセ、モンスターシンセと言わしめたMATRIXBRUTE。ルックス100点×音色100点×操作性100点の100万パワーシンセシンセとも言うべき仕上がりで、それでいてわりと手頃価格なのが嬉しい。奥深さと万能性を併せ持った、2017年の技術力を象徴するシンセです。
こうしたMinimoogスタイルなシンセが今の市場的に求められているかはわかりませんが、見て触って気分がホットになれる楽器であれば、それは間違いないものだと思います。何かとスマート化しつつある昨今においてこの圧倒的ツマミ面構えは、楽器屋で見かければきっとワクワクするはず。恐れず触ろう、触ればわかるさ。
ROLI Seaboard Block
5次元タッチキーボード「Seaboard」が、まさかのBlockファミリー入り! この製品には驚かされました。あのSeaboardがポータブルに使えて、しかも値段もめっちゃお手頃ときた。これは衝動買いもあり得る、あり得てしまうレベル。
Seaboardって「可能性は感じるけど投資が…」という気持ちがわからないでもない機材ですし、導入ハードルを下げる作戦はグッドです。触っているうちにインスピレーションが湧くタイプの楽器だと思うので、気になる人はお近くのApple Storeもしくは楽器店へGo。
GODJ Plus
世は空前のDJブーム。ラップトップ1台とDJソフトがあれば秒で始められますが、それでは機材いじりをしたいというツマミ欲求が満たされません。GODJ Plusならツマミもいじれるし、スタンドアローンで楽しむことができる。それでいてビルトインスピーカーというのが、コンセプトと非常に噛み合っていると感じました。
ビルトインスピーカー=ライト層ねらいという風潮はあれど、ケーブルレスに音が出せるのって実際すごく楽なんですよ。外で使うとかじゃなくって、膝の上で操作したりリビングに持っていったり、そうした持ち出しやすさは触る頻度に繋がってきます。逆に、同じ金額出すならもっと極めたいという人もいるでしょうし、そこもすみ分けです。
AKAI MPC X、MPC Live
ホームスタジアムにも似たMPC Xと、バッテリー駆動のMPC Live! どちらも素晴らしい機材で、ヒップホップとかやらないけど今年ずーっと欲しいと思い続けています。MPC Liveとかカフェでビートメイクできるんですよ? ラップトップの代わりにスタバでコレいじってたら超クールじゃないですか。
ポータブル性を獲得したMPC Liveと、ヴィンテージシンセも制御できる司令塔MPC Xとで、この2機種も棲み分けがなされていますね。UIもDTMユーザーにも使いやすい感じですし、DAWでビートメイクをしている人はこのへんの機材も試してみてはいかがでしょう?
Roland SE-02
SE-02、先日のモジュフェスで初めて実物を触ったんですが、おっタマげました。うぉお、ってなりました。ブリブリ震える分厚い音は紛うことなきアナログのそれで、ディレイをかけたらもうゴキゲンがドントストップ。けっこうな時間のめりこんでしまいましたよ。
これまでBoutiqueシリーズでアナログ再現に注力してきたRolandでしたが、SE-02のヒット如何では第2弾、第3弾のアナログ機がリリースされる可能性も大いにありますね。2018年のRolandに、期待を込めて星4つ。
YAMAHA VKB-100
構想から6年、ついに製品化されたVKB-100こと「ヤマハ ボーカロイドキーボード」! これも触ってきましたが、鍵盤を押さえるとボーカロイドが歌うという今まで成し得なかった手応え、アメイジングの一言です。歌詞の準備や操作子への慣れなどはありますが、ライブ的に使うならスキャットにしてしまうのも面白い気がします。
なにより、ヤマハがここまでモノとしてかたちにしてくれたことが嬉しいですね。実用や性能一辺倒ではなく、楽器にはロマンやワクワクも求めたいもの。それを使いこなす人が現れればコンテンツも生まれてるでしょう。次の超会議には、ボカロキーボードセッションなんてのが出てくるかも?
昨年はアナログがキーワードでしたが、最近はアナログをブームではなく要素として捉える向きが強まったように感じています。もともとデジタルへのパンクスから生まれたアナログリバイバルが、機材や環境の充実につれて現場でも使いやすくなり、製作現場においてもソフトウェア音源とのすみ分けで使われるようになりました。嗜好品だったアナログが、現場へ復帰してきました。
そうした音色的なムーブメントが落ち着いてきたせいか、今年は体験の多様性が目立ったように思います。最近のVRもそうですが、コンテンツが飽和してくると体験へのアプローチを錯誤するのは自然な流れ。楽器なんてのは体験がすべてですから、ココが変化してくるとかなり面白いことになると思うんですよ。とはいえ革新的すぎるとダメなのが楽器の難しいところですし、ROLIなんかは攻めてるなーと思います。実用面も大事ですからね。
AI×音楽も、面白いことになってます。AIマスタリングサービス「LANDR」を筆頭に、人工知能がサウンドメイクを手伝ってくれるiZotopeの「Neutron」や、ディープラーニングで歌唱を学習する中国マイクロソフト産のおしゃべりAI「微软小冰」などなど。自動作曲も増えつつあるこの頃、いよいよ人間が音楽を作る意義が問われてきている気もしていて、「ある場面に応じたBGMの提案」であれば、AIも負けていないんじゃないかなと。ストーリーや表現力、文脈といった感性的なものもいつかは学習されるかもしれませんが、そうしたナマ感みたいなモノをもそっと出したほうが良いと思うのです、作曲家は。イトケンや下村陽子のような音楽をAIが作れるようになったらと思うと空恐ろしい…。
そんなこんなで、今年も色んな音がありましたね。ひとまず2018年にはRolandの新たなアナログ機に期待したいところです。あ、2018年の10月には楽器フェアもあるじゃないですか! 10ヶ月後の楽器かぁ、想像もできないや。
Image: YouTube
Source: YouTube1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 楽器フェア
(ヤマダユウス型)