「ネット中立性」がなくなるって何? 私たちにとってのインターネットとは
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「ネット中立性」がなくなるって何? 私たちにとってのインターネットとは

米国の話…と思ってるといつか残念なことになっちゃうかも。

2017年の年末、米国では「ネット中立性」なるものを撤廃する決定がありました。といってもそれで「ネット中立性」が完全に消えたわけじゃなく、それを守りたい人となくしたい人、具体的には通信事業者とコンテンツ事業者の間の攻防はまだまだ続いています

米国のみんなが必死になっている「ネット中立性」とは何なのか、というか我々とどう関係があるのか、この記事でまとめていきます。

ネット中立性って?

簡単にいえば、「インターネットプロバイダー(ISP)が、ネット上のコンテンツをわけへだてなく中立に扱う」ということです。「ネット中立性」という言葉を生み出だしたコロンビア大学のティム・ウー教授は、「中立」なものの例として電力網をあげて説明しています。

電力網は、ユーザーがつなぐものがトースターでもアイロンでもコンピュータでも、気にしない。その結果として電力網は存在し続け、電化製品市場の巨大なイノベーションの波を支えてきた。電力網は1930年代のラジオでも、2000年代のフラットスクリーンでも機能してきた。よって電力網は中立で、イノベーションを推進するネットワークだと言える

これがインターネットの場合なら、YouTube(ユーチューブ)のネコ動画でも政治家のTwitter(ツイッター)でも、友だちのFacebook(フェイスブック)でも、ISPによって意図的に通信速度を制限されることなく利用できるということ。

…って、そんなの当たり前じゃないの?と思われるかもしれません。たしかにこれまでは当たり前のことでしたが、2000年あたりからネット中立性に異を唱える人たちが現れ、状況を変えようとしていたんです。

米国では2015年、ネットの成長を支えてきた土壌を守るべく、バラク・オバマ大統領によってネットワーク中立性保護のための法律が整備されました。でも2017年にドナルド・トランプ氏が大統領に就任すると、「ネット中立性ルールは企業の成長を邪魔する規制」と考える人物が連邦通信委員会(FCC)の委員長に指名され、オバマ氏が作った法律の撤廃に踏み込んだわけです。

ネット中立性撤廃派の言い分

ウー教授が言ったように、インターネットの成長を支えてきたのがその中立性なのだとしたら、どうしてそれを今変えようとしてるんでしょうか?

ネット中立性撤廃派の中心にいるのは、インターネットプロバイダー(ISP)。ISPにはコンテンツやサービスとユーザーの間を取りもってデータを流す役割があり、動画や音声といった重いコンテンツが増えれば負担も増えてしまいます。日本でも2000年代中盤、通信事業者とコンテンツ事業者の間で「ネットワークインフラただ乗り論争」なる騒動が巻き起こっていました。

ISPからすれば、負荷が増えても設備増強とかでおカネがかかるのに収入は増えるわけじゃなし、コンテンツ事業者だけが広告とかサービス利用料でもうけてるじゃん! ずるい! というわけです。

そんなピンチをチャンスに変えようとする人たちも現れました。どうするかって、「重いコンテンツをたくさん流す事業者からおカネをとればいいんじゃない?」と考えたんです。

ここで「throttle」(減速する)とか「fast lane」(高速レーン)といったコンセプトが生まれました。つまりおカネを払わない会社の通信は減速し、おカネを払う会社は高速で流すということです。そうすれば、ISPの悩みの種である「負荷ばっかりかかってもうけにならない」コンテンツを流すコストは抑えられて、負荷の分だけおカネをくれるコンテンツが優先できるという発想です。

我々にとっての意味は?

ISPの負担ばっかり増えて大変なんだよって考えもわかるような気がしますが、「おカネを払う事業者を優先」の発想を具現化すると、何が起こるんでしょうか? これには大きくわけてふたつのことが考えられます。

ひとつは、動画のような重いコンテンツを流すコンテンツ事業者が、「fast lane」の利用料としてISPに支払うおカネの分、ユーザーに負担させようとすることです。つまりNetflix(ネットフリックス)とかHulu(フールー)の値上げが挙げられるでしょう。

もうひとつは、多分こっちのほうが深刻なんですが、「おカネのある会社のコンテンツは快適に利用できるけど、おカネのない会社のコンテンツは重くてなかなか見られない」状態。具体的には、YouTubeやNetflixの動画は今までどおり見ることができるけど、個人とか小規模なスタートアップが始めた新しいメディアやサービスは重くて見られたもんじゃない、といったことが考えられます。

新しいサービスはただでさえ使う人が少ないのに、通信が重くて使えず余計に人が集まらなくなるのはとても深刻な問題です。これによって大規模で資金力のある企業だけが生き残り、小規模なサービスがどんどんつぶされてしまうかもしれません。

このままいけば、動画だけでなくSNSやメッセージアプリなどあらゆる分野で新規・小規模サービスより既存・大手が有利になります。そうなればインターネット全体で新しいアイデアが育ちにくくなってしまいますよね。今まではどんどん便利に面白くなっていたのに、そうはいかなくなってしまうかもしれません。

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ISP料金値上げの可能性も

ISPの負担が転嫁される先はコンテンツ事業者だけではなく、ユーザーになる可能性もあります。つまり、動画や音声といった重いデータを多く使うユーザーに対し、ISP料金が値上げされるのではという懸念も出ているんです。USA Todayによれば、たとえばイギリスのVodafone(ボーダフォン)は月3〜7ポンド(約460〜1070円)支払うと動画や音楽の特定アプリがデータ容量無制限で使えるオプションをスマートフォン向けに導入しています。無制限で使えるなら一見よさげですが、7ポンドの「Video Pass」ならNetflixやAmazon Prime Video(アマゾンプライムビデオ)が無制限のように、アプリが特定されています。つまり「Netflix観るならプラス7ポンド」「FacebookやTwitter使うならプラス5ポンド」という具合にどんどん上乗せされるんです。

もちろんスマホに関しては、イギリスに限らず米国でも日本でもデータ容量に制限があるのが普通ですよね。一定以上使うと、追加料金がかかったり速度が遅くなったりします。だから「Pass」オプションを使ったほうが、実質的には利用料が低く抑えられることもあるかもしれません。でもこのオプションを使い始めれば、データをたくさん使おうが使うまいが毎月一定額のオプション料金を払わなきゃいけなくなります。

また、無制限対象のアプリを通信事業者があらかじめ指定することで、「使いやすいアプリが固定化する」という先ほどの問題にもつながっていくでしょう。

これからどうなるの?

今のところ、幸いFCCでネット中立性のルールを撤廃したからって、ISP各社がこれ幸いと突然帯域を絞ったり、特定のサービスを優遇したり、妙なオプションを導入し始めているわけじゃありません。これは、ネット中立性保護派の意見が根強い中でISPが目先の利益しか考えないような動きをとれば炎上必至だからでしょうね。ただ米GizmodoのRhett Jones記者が書いているように、通信事業者内部では「我々が考えたことすらないような金もうけプランを心に秘めている」ものと思われます。

それに対抗すべく、いろいろな人たちがこのネット中立性を守るべく動いています。たとえばAmazonやGoogle、Facebook、Netflixといった大手テック企業40社のロビイ団体がFCCに対し訴訟を起こすことを発表しています。ほかにも米国の21州の司法長官やFirefox(ファイアーフォックス)を開発するMozila(モジラ)など、あらゆる方面から訴訟が起きていて、FCCの決定を無効化しようとしています。これによってネット中立性をめぐる戦いの舞台はFCCから法廷へと移り、長期戦となることが予想されます。

日本ではどうなる?

って、この話はあくまで米国の動きなので、日本のネット関連のルールに直接影響してくるわけじゃありません。ただ、もし米国でネット中立性が失われていくとしたら、長期的には世界中にじわじわ効いてくるはずです。我々が毎日使っているGoogle(グーグル)やYouTubeやTwitterやFacebookは、みんな米国の中立なネットから生まれたもの。それを生みだした土壌がなくなれば、既存のツールやプラットフォームも固定化して新しいものが生まれなくなる可能性が高いです。

日本でも「ただ乗り論争」が起きていたし、じつは今でもP2Pファイル共有の通信は制限されていることが多いようです。米国のISPが事業者に課金するようになり、世の中的にもまあいいやというムードになれば、日本でも追随する動きが出てくるかもしれません。

ただ米国とほかの国で大きく事情が違うのは、米国のISPはケーブルTVや通信事業者の寡占状態になっていて、たいていの地域ではISPの選択肢が1、2事業者くらいしかないこと。私自身ニューヨーク郊外在住ですが、ISPはケーブルTV一択です。競争がないせいか、ブロードバンド契約料金は米国全体で月額60〜80ドル(約6,600〜8,800円)とかで、速度も日本に比べたら遅いです。ネット中立性というより、寡占状態であること自体が問題の核心じゃないかという意見もあります。

ともあれ、米国のケーブルTVや通信事業者といった寡占企業たちがネット全体を左右する方針に影響を与えています。法廷に持ち込まれた戦いがこれからどうなっていくのか、引き続き要注目です。


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Source: Tim Wu, Gizmodo(1, 2), Wikipedia, USA Today, New York Times, ライフハッカー[日本版], Fastmetrics, tom's guide

(福田ミホ)

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