ThinkPadのデザイナー 高橋知之さん:世界に誇るノートPCをデザインする日本人はプレッシャーを感じているの?
Photo: ギズモード・ジャパン

ThinkPadのデザイナー 高橋知之さん:世界に誇るノートPCをデザインする日本人はプレッシャーを感じているの?

PCのデザイナーというとなかなかイメージが浮かばないのが本音ですが、もちろん一つひとつのマシンにはデザイナーの魂がこもっています。

レノボから販売されているビジネスノートブック「ThinkPad」は、この方、高橋知之さんがデザインを手がけています。ThinkPadは1992年の初代モデル「ThinkPad 700C」から日本で開発されており、高橋さんは初代から開発に関わってきました。

そんなThinkPadは2017年に25周年を迎え、記念モデル「ThinkPad 25」を発売。この度ギズモードはそのレビューに加えて、ThinkPadのデザインを統括する高橋知之さんに話を聞いてきました。

世界で使われるノートブックを日本人がデザインしているだけに、プレッシャーを感じるのか気になるところですが、今はプレッシャーをあまり感じない、という予想外な答えが返ってきました。またライバルであるMacBookについてどう思うか、少し攻めた質問もぶつけてみました。以下、インタビューをどうぞ。

我々デザイン部門は、ThinkPadをどういう製品にするかを決めています

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レノボ ノートブック製品デザイン/ユーザーエクスペリエンス部門 部長 高橋知之さん

──はじめに、高橋さんがThinkPadのデザインに関わるようになったきっかけを教えてください。

IBM時代(*)の話をすれば、私が入社したのはちょうどパソコンの出始めの頃でした。はじめはパソコンではない、プリンタや銀行端末、POS端末のデザインをやっていたんですね。しかし時代が進んで、だんだんとこういったデバイスが減り、最後にパソコンが残ったんです。そのときに私が所属していたのが(IBMの)ノートブックの事業部でして、そこでThinkPadのデザインを担当してきました。今のLenovoになってからは、デザイン部門でデザインのマネジメントを行なっています。

*ThinkPadは当初IBMが開発していた。2005年レノボに売却。

──ひとくちにパソコンのデザインといってもさまざまですが、実務ではThinkPadの何をデザインされているのでしょう?

実務ではThinkPadの外見と、使い勝手の部分をデザインしています。PCのなかを設計するエレキやメカとかの人たちは、別の開発部門にいて、我々はThinkPadをどういう形にして、どういう製品にしていくか決めています

──高橋さんは、もともと機械のプロダクトデザインを勉強されていたんですか?

はい、大学のときに工業意匠学科というのが工学部にありまして、そこで製品デザインを勉強しました。デザイン系の人って、大きく区別して工学部系の人と美大系の人がいると思うんですけど、私は工学部系ですね。うちのデザイン部門には、美大系も工学系も両方の人がいます。

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Image: レノボ
1992年発売の初代モデル「ThinkPad 700C」

──1992年のThinkPadのデザイン原案は、ドイツの工業デザイナーのリチャード・サッパーさんに依頼したのは有名な話ですが、当時はいかがでしたか?

頼んだというか、一緒にThinkPadのデザインを考案したような感じですね。リチャード・サッパーは、IBMのころからデザイン部門のコンサルタントだったんです。

──当時は高橋さんも、リチャードさんと直接的にやりとりしていましたか?

はい、ずっとやりとりしてましたね。たとえば彼は1、2年に1回くらい日本にくるんですが、そのときに製品のレビューをうけたりしていました。あとは製品のデザインについて意見を聞きたいときは、FAXで写真を送ったりしていました。

世界で使われることのプレッシャーは、今はない

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Photo: ギズモード・ジャパン

──ThinkPadは世界中で使われているPCですが、デザインをするうえで世界中に使われることのプレッシャーは感じますか?

うーん、今はないかもしれませんね。というのも、またIBM時代の話になりますが、当時の数字とアルファベットしか扱えなかったコンピューターは、漢字がある日本では販売できませんでした。日本でコンピューターを販売するには、独自の日本向け製品をつくる必要があったんです。

ですが技術も進んで、日本向けのコンピューターでなくてもソフトウェアで日本語に対応するようになってきたんですね。そうすると、反対に我々が作っている日本向けの製品も、ワールドワイドで販売できるようになりました。なので海外で販売されるときは、「本当に大丈夫なのかな?」と不安は思いましたね。

今はワールドワイドで販売されるのが前提になっているので、そういうプレッシャーは意識していません。ですが、デザインするときに「これは日本だったら通用するかもしれないけど、ワールドワイドだったらダメだな」という考え方はいつも意識しています。

──たとえば、海外を意識するのはThinkPadのどういったところですか? キーボードやトラックパッドでしょうか?

キーボードはパソコンのなかで非常に重要な部分ですが、ピッチやストローク、キーサイズなどは、アメリカや中国でコンセンサスを得た使いやすい値があるので、国ごとの差異はないんです。すでに使いやすいデザインが世界的に確立されているんですね。

たとえば海外を意識するのは、壊れにくくないか?という堅牢性の部分ですね。日本人だったら許される丈夫さでも、海外だったら壊れるかも、という意識はいつも考えています。一般的に言って、日本人は物を大切に扱うと思うので、海外のほうが要求される堅牢性は高いんですよね。

──逆に、海外よりも日本のほうが要求スペックが高いところはありますか?

はい。やはり日本だと、製品の品質ですよね。

でも最近はどこの国も品質に厳しいと思います。端的にいうと、iPhoneをはじめとしたスマートフォンの登場で、業界的に製品の品質が非常に精巧になりましたよね。今までの工業製品の精密さからいうと、違うレベルになったと思うんです。

そうすると、ユーザーが要求する工業製品の品質も一気にあがったんです。パソコンに求められる品質も、スマートフォン以前に比べると格段にあがったと思います。

もちろんAppleには負けられない

──さきほどiPhoneの言葉が出ましたが、ウルトラブックのThinkPad X1 Carbonを開発するときに、本国から「Beat MacBook Air」(=MacBookを倒せ)との言葉を掛けられたそうですね。

やはり他社ですごい製品がでたりすると、なんとかしなきゃってあたふたするのはどこのメーカーも同じですよね。その言葉は、Airに対抗する製品を出す必要がある、という意味で上の人が言ったんだと思います。

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高橋さんが業務で使っているのもThinkPad X1 Carbon

具体的にいうと、Lenovoの製品は安いものから高いものまでワイドなレンジで展開しているんですが、MacBook Airが出た頃のAppleはハイエンド製品ばかり販売していました。そのハイエンドに我々が戦える製品がないんじゃないの?という意味でそういう言い方になったんだと思いますね。

──高橋さんにとって、今のMacBookはどういう存在ですか?

Macは別世界ですね。まずThinkPadはWindowsの世界で負けられない、というのがありますから。もちろんAppleにも負けれらないんですが、なかなかAppleと同じことはできないですよね。

──ThinkPadは、道具であるという価値がありますもんね。たとえば、見た目の美しさと道具としての使いやすさ、どちらかを優先する迷った場合、ThinkPadは道具としての使いやすさを優先する場合が多いと思いますが。

パソコンは外見的な美しさ、使い勝手、性能のバランスをとってデザインしていくんですけど、このバランスポイントに各社の特徴がある気がします。Appleのように、見た目の美しさにバランスポイントを置く企業もありますから。ThinkPadはビジネスツールなので、まずはお客さんの仕事が成功するのが大事です。性能を確保するために、外見の美しさを譲らないといけない部分もありますね。

7段キーボードが消えた理由と、復活した理由

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左:6段キーボード(ThinkPad X1 Carbon)/右:7段キーボード(ThinkPad 25)

──今回のThinkPad 25でリバイバルされた7列キーボードですが、それを採用しなくなったX1 Carbonは、ThinkPadの転換点になったマシンだと思います。X1 Carbonで、デザインのバランスポイントを外見の美しさに寄せた印象を受けましたが、いかがでしょうか?

そうですね。時代のトレンド的に、見た目の美しさに寄せたという面もありますし、ThinkPadのお客さんもどんどん変わってきました。ThinkPadの7列キーボードが良しとされていたのは、デスクトップPCのキーボードと同じように打てるからなんですね。当時はデスクトップPCがメインで、ノートブックでも同じような感覚でキーボードを使えるように、たくさんのキーを搭載していました。

ですが、今ははじめからノートブックを購入するユーザーが増えてきましたので、独立したファンクションキーが本当に必要なのか見直して、使わないものを整理しました。

あと、ディスプレイのアスペクト比も変わりましたよね。昔は4:3でしたが、今は16:9なので縦のサイズが狭くなりました。でもトラックパッドのサイズは犠牲にしたくないわけで、そうするとキーボードの幅を狭めざるを得なくなって、7段から6段になりました。

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──反対に7段キーボードをリバイバルしたThinkPad 25は、今は採用されていないThinkPadの良さだったりアイデンティティを、いまのThinkPadの落としこめないか開発陣が模索しているようにも感じました。

そういう言い方もあるかもしれないですね。たしかに、キーボードから7列から6列になったのは大きな転換点ではあったのですが、それはお客さんや時代が変わったから合わせたわけであって、その流れは基本的には間違ってはいないと思うんですね。

ただThinkPadには、ロイヤリストと呼ばれている古くからのファンがいるんですが、(X1 Carbonなど)新しい時代に合わせてThinkPadの形を変えていくと、ロイヤリストの嗜好から離れてしまったんじゃないかと。で、デビット・ヒル(米Lenovoの最高デザイン責任者)が25周年に向けて、過去のThinkPadを復刻しようと言いまして、何を復刻して欲しいかWebでユーザーに意見を聞いたところからThinkPad 25の開発がスタートしました。公表すると反響は大きくて、ある時点で良かったThinkPadを提供したい思いで、この25周年モデルができました。

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ThinkPad 25のロゴは、IBM時代のオマージュになっている

せっかくこういった復刻モデルを出したんだから、この先どう繋げていくのかは考えないといけないと思うんですけどね。

──非常にそこは気になっています。たとえばウルトラブックのサイズに、7段キーボードを搭載するような可能性も感じられたのですが、今後の構想はありますか?

あんまり先のことは言えないんですが(笑)、それはやっぱり考えていかないといけないと思いますね。

──変な質問なんですが、25周年でこのモデルをつくったというのはタイミングが良かったからですか? 20周年ではない理由って何かありますか?

25周年という区切りはアメリカの人とかにとっては心地よい数字だからですね。クォーターセンチュリーとか言いますし。今まで10周年、15周年、20周年は日本だけで記念モデルを作っていたんですよ。で、今回は国際的にも区切りがいい数字ということで、ワールドワイドでThinkPad 25を発表しました。

──今回ThinkPad 25を体験させていただきましたが、やはり今のウルトラブックの時代では重いと感じました(1.7kg)。それは昔からThinkPadを使っているなら重さは気にしないという方針なのでしょうか?

ThinkPad 25にはベースモデルがあるのですが、基本的にはベースモデルと寸法は変わりません。

ベースモデルにそのモデルを選んだ理由としては、昔からのThinkPadファンは機能がリッチなものが好きなんです。薄いPCだとポートをたくさん搭載しにくいので、ポートがたくさんあるモデルをベースに選んだわけですね。

──ThinkPad 25はマットな黒ですが、ThinkPadは毎回、黒の色味にすごくこだわっているようですね。

そうですね。毎世代、この黒でいいのかと考えて、色味を変えるときもあります。

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左:ThinkPad X1 Carbon 4世代/右:第5世代

たとえば、こっちのThinkPad X1 Carbon 4世代のときは、黒って古い感じがするんじゃないかと、新しいユーザーに受け入れられないのを懸念して、少しグレーにして仕上げています。表面をつるっとさせて、メタリック感を出したりしています。

でも作ってみたら、ThinkPadっぽくないんじゃない?っていう意見が多くて…前のほうがいいねって(笑)。それで、最新の5世代はマットなブラックに戻しました。

──黒の色味の違いは、製造ではどこに違いがあるんですか? たとえば今回のThinkPad 25はラバーっぽい手触りでしたよね。

黒の塗料が違いますね。たとえば、ThinkPad 25や第5世代は少しラバーっぽい手触りなのですが、塗料にそういう材質のものがはいっているんです。

(インタビューここまで)

歴代のThinkPadを飾る「ThinkSpace」

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今回、高橋さんにインタビューをさせていただいた場所は、まさにThinkPadが開発されている、横浜・みなとみらいのレノボ・ジャパン 大和研究所。そこには、歴代のThinkPadを展示される「ThinkSpace」という部屋があり、特別に案内していただきました。

一般開場はしていないので、ここでは展示されている名機をいくつかご紹介します。

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ThinkPad 700C

初めてThinkPadの名がつけられた1992年の「ThinkPad 700C」。真っ黒の筐体に赤のワンポイントというイメージは、すでにこの時代から完成していました。

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ThinkPad 750C

1993年発売の「ThinkPad 750C」。キーボード部分が跳ね上がる仕様で、中に簡単にアクセスできます。当時はHDD容量の増加スピードが速かったため、交換しやすい設計にする必要がありました。

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ThinkPad 701C

1995年発売の「ThinkPad 701C」。その界隈では有名なThinkPadの「バタフライキーボード」を搭載したマシンです。バタフライキーボードの開閉のようすは、その仕組みに圧巻ですよ。

バタフライキーボードを搭載したモデルは続かなかったものの、そのアイデアとデザイン性からニューヨーク現代美術館で永久保存されています。

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ThinkPad 770

1997年発売の「ThinkPad 770」。当時のフラッグシップモデルにあたり、価格は上位モデルで100万円以上(ちなみにRAM 32MB/ストレージ 5.1GB)。

パームレスト側のつまみを引くと、右サイドと左サイドから、モジュールが飛び出し、DVDドライブやバッテリーを換装できます。

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ThinkPad W700ds

2009年発売の「ThinkPad W700ds」。17インチのディスプレイから、10.6インチのディスプレイがスライドして出てくるというギミックを持つ当時のハイエンドマシンです。


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Image: レノボ

(山本勇磨)

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