爆速ニュース速報アプリ「NewsDigest」の秘密。「記者のカン」をもったAIが価値ある情報を発見する

  • author かみやまたくみ
爆速ニュース速報アプリ「NewsDigest」の秘密。「記者のカン」をもったAIが価値ある情報を発見する
Image: かみやまたくみ

人間離れした速さの裏側が気になりまして。

「NewsDigest」というニュース速報アプリがあります。SmartNewsなどのように、大手報道機関やメディアの記事を配信するニュースアグリゲーションを基本としながら、オリジナルの記事も出しています。これだけ聞くと「ごくふつうのニュースアプリ」という印象なのですが…

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Image: JX通信社

速報を出すのがマジで速いという特徴があります。大手報道機関の速報記事が出典のこともありますが、速さが目立つのはNewsDigestオリジナルの速報記事。

先日、山手線に乗っていると、人身事故で運行見合わせになりました。NewsDigestは2分後にはこの出来事を記事にし、通知してきました。その場に居合わせた僕がすぐに記事を書いたとしても、2分で出せたかは正直怪しい。ほかの報道機関の速報を検知して通知するケースも多いのですが、いずれにせよとにかく情報への感度が高く、高速です。

GoogleフォトやAdobe Senseiなど、人工知能(AI)を活用した便利なサービス や機能が身近になっていますが、NewsDigestもAIを使って爆速な速報を実現しています。AI×ニュースってことは…やっぱり記事を書かせているんでしょうか? 今回は、NewsDigestを運営するJX通信社 代表取締役・米重克洋さんにその実態をうかがってみました。

入ってきた情報はすべて自動解析

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Photo: かみやまたくみ

ギズ:NewsDigestのどんなところにAIが使われているのですか?

米重:ほぼすべての部分がAIによって自動化されています。具体的には、どういう記事を速報で通知して、どういう並び順で表示するかなどです。自社で出す速報以外のすべてのニュースが人の手を介さずに出ているのが特徴ですね。

ギズ:NewsDigestの速報って本当に速いのですが、どのように作られているの ですか?

米重:NewsDigestの速報は、兄弟サービスの「FASTALERT」がベースになって います。FASTALERTは、報道機関向けに事件・事故・災害といった情報をSNSなどから検知して配信するというサービスで、NewsDigestに検知した情報を流しています。

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Image: JX通信社

ギズ:兄弟サービスということは、FASTALERTにもAIが用いられているのですか?

米重:はい。

これが実際のFASTALERTの画面なんですけれども、入ってきた情報がすべて自 動解析されて「何県何市で何が起きている」っていう形で表示されています。...先ほど、上野で火事が起きましたね。これは6分前の情報ですが、すでに解析されています。

ギズ:メイン画面の左にあるタイムラインには、「大阪府島本町で転倒事故」の ような見出しが並んでいますが、これもAIが解析してつけたものですか?

米重:そうです。ニュースソースとなっている人の過去のSNS投稿や画像の中にある標識などを総合的に解析して、何県何市の可能性が高いという判定をするわけです。そのうえで、NewsDigestに流すときには、関連機関にスタッフが事実確認をとっています。停電の情報であれば電力会社に、火災であれば消防ですね。

ギズ:FASTALERTはニュースソースを見つけるにあたって、どんなところをウォッチしているのですか?

米重:基本的には、ウェブとSNSです。特にSNSでは、Twitterが最初の情報源になるケースが多いです。災害などの写真をアップする人がときおりいるので、Instagramも見ていますね。

ギズ:NewsDigestやFASTALERTのソースになっているウェブサイト数やアカウ ント数はどれくらいなんでしょう?

米重:NewsDigestもFASTALERTも、特定のところを見るようなことはしていな いんですよね。なので、「それは無数」というのがストレートな答えになります。感覚的には入ってくる情報の99%がノイズで、報道価値のある情報は1%もありません。だからこそ、機械でやるべきところですよね。

ギズ:ニュースソースは人間が選んでいるんですか?

米重:いえ、「この出来事についてはどこの情報を出すべきか」という判断もす べて機械化されています。中〜長期的には、速くてちゃんとしたニュースを出せるところの情報が出やすくはなりますが、私たちが恣意的に選ぶことは一切していません。人手が入るのは事故や火災の速報だけで、それ以外のニュースは勝手に出ているんです。

「記者のカン」を機械学習によって再現

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JX通信社のオフィスには、ニュース垂れ流し用のテレビがたくさん Photo: かみやまたくみ

ギズ:ノイズとそうでない情報の切り分けって、とても感性的な問題ではないかと思うのですが。

米重:そうですね。「感性的な問題」をより細かく言うと、「報道価値がある/ない」という判断の話になってくるでしょう。

今までは、そうした判断は属人的なものだったのですが、事件・事故・災害などにジャンルを絞ると、機械学習などの技術によってある程度再現できるんです。ベースとなる人間的な判断を機械が学習し、真似できるようになります。そして、人間が見て価値がないと感じるものはノイズだと判断できるようになっていきます。

ギズ:記者は現場に長くいて「情報の目利き」になっていくと思うのですが、そうした人の経験値をAIが持てるということですよね。

米重:そうですね。

とはいえ、報道価値の判断の仕方は、人によっても変わってきます。また、たとえば地方では、事件にしろ事故にしろ、東京などよりも報道されるハードルが低くなっていて、管内で起きたことはだいたい報じる傾向にあります。地域によっても価値判断は変わってくるでしょう。

ギズ:東京でも報じる価値のあるニュースAと、ローカルだったら報じてもいいけれど東京で報じるレベルではないというニュースB、AIがこれらを見わけられるようになるまでの過程はどのようなものだったのですか?

米重:私は幼いころから報道を好きで見ていたので、「このニュースは報じられる/報じられない」というのが、体感的にわかります。

たとえば、車って案外すぐにひっくり返ったり燃えたりといった事故を起こすんです。でも、「超高級車がレインボーブリッジの上で燃えた」くらいでないと報じられないんですね。こうした判断をデータとして機械に渡し、フィードバックを繰り返したんです。

ギズ:米重さんの判断データが基準になっている、つまりJX通信社のAIは米重さんの分身ってことになりますか?

米重:はい。NewsDigestのほうがその色が強いと言われますね。「ちょっと堅 いニュースが多い」と評されることが多いのですが、「私がそういうのが好きだからそういうニュースに強いんじゃないか」と知人に言われることがあります。

ギズ:ギズモードは柔らかめの記事が多いメディアなんですが、もしうちの編集者をベースにNewsDigestやFASTALERTのAIを調整したら?

米重:まちがいなく、ぜんぜんちがうものになるでしょうね。

特定のジャンルを重点的に取り上げるモードに自動的に切り替わる

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JX通信社は、報道を取り扱いながらも、エンジニアが多いテックカンパニー Photo: かみやまたくみ

ギズ:NewsDigestのタイムラインは厳密な時系列順ではなく、微妙に並び替えが行なわれていますね。その並び替えはどんな基準で行なわれているのでしょうか?

米重:たとえば、ライフラインに関わる情報が多いときには、そういった情報 を重視した編成になります今のように五輪ムードであれば、それに関連した報道への関心が高いので、それに合わせたりもします

ギズ:仮に「大雪が降った」というニュースが増えてきたとしたら、気象関係や災害関連の情報を重く取り上げるようにAIが自動的に判断すると。

米重:そういうことですね。

私たちは、事件・事故・災害といったライフラインに関わる情報を重視しているのですが、そうした情報は発生から報道までのタイムラグが長いという課題がありました。たとえば、大雪が夜に降ったら、朝刊に向けて記事が書かれて、朝の2〜3時に記事が出てくるといった具合でした。こうした情報が出るまでの時間を縮めることを目指しているので、積極的に取り上げて、記者に限らず、家族を見守りたい人などを含めた敏感な人たちに気づいてもらいたいと思っているんです。

ギズ:ということは、ライフラインに関わる情報はアルゴリズムの中では評価されやすくなっているということでしょうか?

米重:されやすいですね。ユーザーが価値を感じやすい情報でもあると思いま す。

ギズ:少し話が戻りますが、五輪ムードなんかもAIで検知できるんですね。

米重:今開催されている平昌(ピョンチャン)五輪を例にすると、北朝鮮が絡むような政治的な話題としての五輪と、スポーツの話題としての五輪があると思うのですが、「スポーツとして関心が持たれているときにはスポーツのニュースを出す」といった判断はある程度、自動でできています

ギズ:五輪は開会式前は政治などの周辺的な話題が盛り上がりますが、競技が始 まってしまえば、あともう誰が金メダル取ったっていう話になっていきますよね。AIはそうしたところまで判断していると。

米重:そうです。NewsDigestでは今「平昌五輪」というタブを設けていますが、あれを見ていただくと、政治の話題はほとんど入っていません。

単純に五輪関連の情報を検索して出すだけだと、たぶん政治の話題だらけになります。北朝鮮関連の話題はどのニュースアプリでもたぶんよく読まれていると思いますが、そういうものだけを評価すると、「北朝鮮が〜」「北朝鮮が〜」というだけのフィードになってしまうでしょう。それはユーザーが希望していることとはおそらくちがうでしょうから、そういう判断もできるようになっています。

ギズ:NewsDigestは、いろんな関心を持ってるごくふつうの人が見たときに偏 りがないように配慮して、無数の情報の中から適切なものをピックできると。

米重:はい。一言で言うと、最大公約数的な報道価値をいちばん重視しています。ちなみに、あくまで報道という範囲でやっているので、ネットで話題になっている柔らかめのニュースを、完全に無視するケースもありますよ。

AIは「報道の機械化」のための道具

ギズ:最後に、JX通信社ではAIを使うことをどのように捉えているのですか?

米重:一言で言うと、「報道の機械化」に欠かせないものと考えていますね。

あらゆる産業の中でもいちばん人手がかかり続けてるのが報道産業だと思います。何から何まで人間がやってしまうワークフローなどがその原因ではないでしょうか。労働集約的なモデルだからコスト構造が高いままで、売り上げが減ってもコストを減らせないし、コストを減らそうと思ったらリストラする、またはひとり当たりの労働量を増やす、という話になってしまいます。当然のように、過労死や長時間労働といった課題が出てきてしまいます。

こうした問題を解決するには、労働集約をやめるしかありません。ここ200年 で、ほとんどの産業が機械化によって産業革命を成し遂げてきましたが、報道はそれがある意味できていません。そのための道具がAIだと考えています。


多方面から情報が出るようになった現代では、情報が出てくる場所をウォッチして、きちんと把握しておくのがまず大変。NewsDigestでは砂金探しのようなその仕事をAIに任せることで、超高速なニュース速報を実現していたわけです。

速さという恩恵の裏を探ってみれば、AIの力あり。かつてのSF技術がコモディティ化している現状にちょっと感動してしまいますね。

Photo: かみやまたくみ
Image: JX通信社

(かみやまたくみ)

    いつかの未来じゃなく2018年のいま、AIが私たちに何をしてくれているのか、いまのAIを見てみましょう。

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