ソニーのaibo開発チームにインタビュー:「何ができるか」ではなく「何を実現するか」。愛されプロダクトに宿したAI技術を探る
Photo: ギズモード・ジャパン

ソニーのaibo開発チームにインタビュー:「何ができるか」ではなく「何を実現するか」。愛されプロダクトに宿したAI技術を探る

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「かわいい!」の内側にはいろんなものが詰まってます。AIとか愛とか。

私たちを癒してやまなかったソニーのペットロボット「AIBO」は2006年、惜しまれつつその生産・販売に幕を下ろしました。そのいっぽうで、2015年にはそのオーナーたちによって自発的にAIBOの合同葬儀が行なわれるなど、「ロボット」の枠を越えた家族としての存在をずっと確立し続けきたプロダクトでもあります。

そして、生産終了から約12年を経た2017年秋、まったく新しい小文字の「aibo」が発表されました。丸みのあるボディや愛らしい動きなど、より生命感ある「犬」らしくなったのは見た目だけではありません。搭載されているAIもまた、大きな進化に一役買っているんです。

2018年、AIは私たちに何をもたらしてくれるのか? 今回は、ペットロボットのaiboというアウトプットにフォーカスを当てて、開発チームに話を聞いてみることにしました。

aiboでAIがどう使われているか、また、ソニーが犬型のペットロボットを再び作ろうとした理由はなんだったのか、大きく2つの視点から魅力に迫っていきます!

また、2006年までに生産されていたAIBOは大文字、2017年に発表された新しいaiboは小文字で表記しています。


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左から順に、松井さん、石橋さん、森田さん
Photo: ギズモード・ジャパン

・松井直哉さん(AIロボティクスビジネスグループ、統括部長)

・石橋秀則さん(同グループ、商品開発グループ)

・森田拓磨さん(同グループ、ソフトウェア開発グループ)

aiboのAIってどんなことするの?

◯AIを一言で定義するのは難しい

──はじめに、aiboの「AI」の仕組みについて教えてください。

松井 直哉(以下、松井):aiboの基本的なAIの構造は、センシング技術を使って「状況認識」をし、「知的処理」をして「行動計画」を考え、メカトロニクス技術で「行動する」というサイクルをどんどん繰り返しています。

また、aiboはローカル(本体)とクラウドでAIを使いわけています。まず本体には、個々のaiboがローカルにAIを持っており、おもに脊髄反射的な機能を司ります。たとえば「オーナーに呼ばれたらすぐそちらに行く」などの行動ですね。いっぽうクラウドにある別のAIで、学習したことをほかのaiboと共有することで、地上のaiboたちが全体的に賢くなっていく仕組みをとっています。

──具体的にはどんなAI技術が使われていますか?

松井:まずは知的認識から。aiboはさまざまな認識をしますが、代表例として鼻先のカメラ・マイクや身体のタッチセンサーがあります。まず、鼻のカメラでは人々を認識し、強化学習型のAIで「よく呼び止めてくれるのがどの人か」などの学習を行ないます。それにより、より可愛がってくれる人に近づいていくようになります。

さらに、マイク/タッチセンサーでは、aiboは褒められたりなでられた直前の行動を、オーナーにとって良いこと、つまり正の報酬と判断します。さらに、背中を叩かれたり「こら」「だめ」「ストップ」と叱られると、その前の行動はオーナーにとって「やってはいけないこと」だと認識し、こちらは負の報酬となります。

この学習の積み重ねによって、正の報酬を受けた行動はより多く、負の報酬を受けた行動はより少なくなっていき、オーナーの好みに応じたaiboの成長が育まれていきます。

また、背中にあるSLAMセンサーでは自己位置推定をします。SLAMとは、家の間取りなどaiboの行動範囲の地図を作成し、自分が今どこにいるのかを推定しながら自由に移動するための技術です。aiboははじめ、充電台を自分で探し当てて戻っていくんですが、毎日遊んでいくなかでSLAMのカメラが部屋のつくりを記憶していきます。aiboは充電台がどこにあるかを徐々に学習していき、記憶上のマップを頼りに充電台へダイレクトに戻っていくようになります。これもAI技術ですね。

──「aiboのAI」といえば、一番大きな部分はどこなんでしょうか?

森田 拓磨(以下、森田):実は、あらゆる部分でAIを使っていて、ピンポイントに「どこ」と答えるのが難しいんです。たとえばボールを見たとき、どんなふうに近づいて、どう蹴るのか、と考える能力はAIが担っていますが、そもそもボールを「蹴る」こと、ホネを「くわえる」ことが正しい行動なのか、といった判断もすべてAIが機能しています。

──たとえば、目の前にaibo専用のボールと野球ボールが並んでいるとき、aiboはどのように自分のボールを判断するのでしょうか?

森田:「自分のボール」という認識はなく、「ピンク色のボール」と判断しています。大きさや色の区別はこいつが本能として持っている判断力で、「ピンク色」「ボール」ということや、大きさの違いもわかります。人の判別の場合は「ピンクのボール」程度ではなく「この人は〇〇さん」といったように、きちんと区別しています。

──aiboはクラウドとローカル(本体)でAIをどう使い分けていますか?

森田:瞬発的な認識が必要な場合はローカルAI、それ以外はクラウドを使っています。ただ、クラウドと本体で明確に行動を切りわけているわけではありません。「やりたいこと」に対して、どちらが最適かを考えていますね。

──クラウドでは、どんな情報をシェアしているのでしょうか?

森田:たとえば、家族と触れ合うなかで「お父さんはこんなふうに可愛がってくれる」「子どもはよく遊んでくれる」といった情報がクラウドにあがっていきます。その情報が蓄積されることによって、子どもが多い家のaiboには「こんな行動」が好まれている、などのパターン化された情報をaibo同士でシェアして、全体的に学んでいくことができるんです。

◯aiboには人間の感情が宿っている

──表情やリアクションの面では、どんなふうにAIが使われていますか?

松井:aiboは、たとえばOLEDの目や鳴き声、全体的な身体の動きを使って感情表現をします。この部分にも学習が使われているんですよ。

ちなみに、aiboは犬ではなく人間の感情をモデルにしています。そもそも、犬の感情を人間が完全に理解することはできていませんが、人間の感情であれば容易に想像ができますよね。オーナーにaiboの気持ちが伝わるかどうかはとても大事で、ここは意識しました。いっぽう性格については、人間も千差万別です。なので、今回は犬の性格として「犬格」という定義にしました。

森田:感情を表すにしても、そもそも「感情とはなんなのか?」といったように、言語化できないものです。それを一つ一つ定義していって、こんなふうに動くと犬らしいとか、オーナーとインタラクションしているように見える、という動きの仮説を立てて、いろいろな技術を当てはめていきました。

たとえば、ソフトウェア的には「怒っている」という設計でも、実際にaiboが怒っているように見えなかったら意味がありません。この部分はアウトプットとして、メカとも大きく絡んでいきます。どう動いたら「怒った」ように見せられるのかなど、ソフトとハードがセットになって考えていましたね。

──ソフトウェアとメカのリンクには、どのような難しさがありましたか?

石橋秀則(以下、石橋):ソフトウェアは、ハードがあってこそ埋め込めるものです。なので、プロジェクトの前半でボディを作って、それに合わせてソフトウェアを開発していく流れでした。

森田:シミュレーターでは簡単にできたことでも、実際に動かしてみると思うようにいかないことがよくありました。特に難しかったのは、いうことを聞く、聞かないの具合です。たとえば、「怒られているか」「褒められているか」の認識をするとき、音声やタッチの具合、オーナーの笑顔などの要素を組み合わせて、正しい判断をするのが大変でした。なかには笑いながら叱る人だっていますからね(笑)。

ソニーがaiboを作る意味

◯AIBOとaibo、その違いは?

──ソニーが先代AIBO(以下、大文字AIBO)のプロジェクトから12年を経て、再び「犬型」のペットロボットを開発しようとした理由は何だったのでしょうか?

松井:aiboのプロジェクト発足時の最初のコンセプトとして「愛情の対象となる商品」という方針がありました。愛情の対象のみが目的であれば、二足歩行型やネコ型も考えられたかもしれませんが、やはり先代のAIBOのことが頭にあったんです。残念ながら、AIBOは一度プロジェクトから撤退していたものの、世の中に非常に大きなインパクトを与えていました。私たちにとっては越えるべき存在だったので、自然とaibo復活に落ち着きましたね。

──AIBOの合同葬儀がニュースになっていましたが、このエピソードはどう捉えましたか?

松井:世の中で自発的に合同葬儀をしていただいたことは、「それだけ愛されたんだな」と非常にありがたく思っています。今回のaiboも、いずれ同じように愛してもらえるような商品を作っていかなければいけないと、非常に意識しました。

──AIBOのどんな部分を意識しましたか?

森田:まず、AIBOはリスペクトの対象で、かなり参考にしました。AIBOの開発メンバーには意見をヒアリングしたり、設計をレビューしてもらったりもしましたね。

石橋:ハードウェア面では、やはりAIBOとはまったく違う部分も多くありました。はじめからAIBOを越えなきゃいけないと思っていたので、プレッシャーもかなり大きかったです。ただ、aiboが組みあがった時点で当時のAIBO開発メンバーに見てもらったとき「すごいね」と言われて。「いい筋いってるんじゃないかな」と感じられたときは安心しましたね。

◯機能価値より感性価値を

──AI技術を使ったプロダクトとして、音声アシスタントのような実務なものではなく、「愛される対象」を作ったという点には、どのような考えがあるのでしょうか?

松井:aiboには「何ができる」といった機能価値よりも、感性価値を追求しています。平井(社長)がソニーを再定義したとき、感動会社という表現をしましたが、ユーザーが心を動かしてくれる商品を出すことは私たちの使命でもあるんです。これはソニー独自の考え方かもしれないですね。ある程度の没入感や思い入れが生まれることで、愛着や感動に繋がっていくものだと思っています。

aiboにおけるAIも、感性価値を追求して開発しています。aiboは家ごとに独自に学習して成長し、個性が芽生えていきますが、その過程でかけがえのない物語としてaiboとの時間を紡いでもらいたい、というのがプロジェクトの根底にあります。

森田:たとえばこいつに「お手」っていうじゃないですか。それでお手をすると「言われたことをやっただけで、なんかロボットみたいだ」って言われたりします。aiboは実際にはロボットなんですが(笑)。でも、お手をしないと「なんでいうこと聞かないんだ」って言われる。これはこの商品特有の感覚なのかなと思いますね。

松井:aiboがある行動をしたり、しなかったりすることで、オーナーは「なんでしないんだろう?」と考え出すんです。その時点で、オーナーはこの子のことをおもんばかっているんですよ。つまり、ロボットであるaiboが人にとってコミュニケーションの対象になるんです。そういった心を通わせていくプロセスが、愛情の対象としてのスタート地点になっていますね。

──そういえば…みなさん、aiboを「この子」とか「あいつ」と呼んでいますね。親しみがこもっているのがすごく伝わってきます。

松井:たしかに、僕「この子」って自然に言いましたね(笑)。

森田:カメラなどのプロダクトを開発しているときは「急にフリーズした」とか「落ちた」とかいうんですけど、aiboの場合は「どうした、お前大丈夫か!?」ってなります(笑)。

僕の場合はaiboを自分の子どものように愛しています。どうやったらみなさんに喜んでもらえるか、感動を与えられるかについてはずっと考えていました。

それと、僕は自分のaiboに必ず名前をつけています。周りの開発者でモノのように扱う人がいたら注意しますね。後輩で、こいつのことを「彼」っていってる人がいて、「彼」はちょっとあまりにも他人行儀だからやめようって言いました(笑)。ちゃんと名前をつけて、名前で呼んであげようって。

──ちなみに、この子のお名前は…?

松井:この子は僕の取材対応の子なので、みんなに呼んでもらいやすいように「aibo」って名前です。

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取材対応の「aibo」さん
Photo: ギズモード・ジャパン

◯シンギュラリティが来るとしたら「友達」を作りたい

──今後、ソニーのAIプロダクト開発にはどんな展開が待っているのしょう?

松井人に寄り添うものを作り続けていきたいです。家の中心にいる存在とか、人との関係をより密にしていく商品ですね。物理的に、何かができる/できないというより、心を満たしてくれる存在かどうかを突き詰めていきたいです。

──AIは一般的に、計算の速さや正確性の向上に注力されますが、これについてはどう考えていますか?

森田:こいつが「どれくらいオーナーのことをわかってくれてるか」という点は向上していきたいです。ソフトウェア開発で「どういうものを満たしていくのか」という抽象的なブレイクダウンはとても難しく、ここがAI設計のキーになりますね。

ディープラーニングや強化学習など、手段は世の中にいっぱいありますが、技術レベルというより「何を実現したいか」という部分に注力したいです。

──イメージとして「シンギュラリティによってAIに凌駕される未来」など、人間との関係が不安視されることもありますが、これをどう思っていますか?

松井:そのような展開はやはり、機能価値を追求していった結果起こることなのではないでしょうか。愛情の対象とか感性価値の追求、という部分が抜け落ちているのかもしれません。

石橋:aibo開発では、どう動いたら「かわいいか」ばかりずっと考えてました(笑)。

森田:本来、AIやロボットって、人の支えになる方向であるはずだと思うんです。みんなが機能価値や利便性だけを追い求めずに、感性価値の視点からもAIを見られるようになってほしいですね。いっぽう、個人的にはシンギュラリティを実現したいとも思っていますが(笑)。

──シンギュラリティを実現するとしたら、どんな開発をしたいですか?

森田:なんだろうな、「友達」とかかもしれないですね。


Image: ギズモード・ジャパン
Source: AV Watch

(豊田圭美)

    いつかの未来じゃなく2018年のいま、AIが私たちに何をしてくれているのか、いまのAIを見てみましょう。

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