アクションに迫る心理劇を。プロダクション I.G×Netflixオリジナルアニメ『B: The Beginning』中澤一登監督インタビュー
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アクションに迫る心理劇を。プロダクション I.G×Netflixオリジナルアニメ『B: The Beginning』中澤一登監督インタビュー

スリリングさと絵作りの妙たるや。

2018年3月2日(金)、『攻殻機動隊』や『東のエデン』などを手がけてきたアニメ製作会社プロダクション I.GによるNetflixオリジナルアニメ作品『B: The Beginning』の配信がスタートします。昨年のNetflixアニメスレートでPVが公開されたタイトルで、僕もとても楽しみにしていたオリジナルアニメのひとつです。

ストーリーは、凶悪犯罪者ばかりを始末する謎の殺人鬼「Killer B」と、それを追う王立警察特殊犯罪捜査課に戻ってきた天才肌系の捜査官キース・フリックを中心に描かれていきます。犯行現場に必ずの刻まれる「B」の文字、果たしてその真意は……。

クライムでサスペンス感あふれる今作を監督するのは、映画『キル・ビル』のアニメパートを監督したことでもしられる中澤一登監督。今作の見どころや、Netflixで長編アニメを手がけることについての意義などを伺ってきました。




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──今作『B: The Beginning』の企画はどういったところからスタートしたのでしょうか?

中澤監督(以下、中澤):前の仕事が終わって、次こういう仕事(今作)がありますと言われて、じゃあやりましょう、と。その時にダークヒーロー物がやりたいと言われまして、じゃあそれでいこうと。そんな感じでしたね。

──クライムサスペンス系というより、ダークヒーロー物で始まったのですね。

中澤:はじめはダークヒーロー物をやってたつもりだったんですけどねぇ…(笑)。僕自身が一介の絵描きなので、演出論や物語をつくるにあたってのストーリーみたいなものをもってないし、そもそも興味がないというか(笑)。ただ、絵描きとして原画を書いたり画面を作っていくということについては何を作るにしても一緒だと思っていたので、自分の中の記憶や経験を組み合わせて、何かイメージがあったらそこに付随していくものを作っていくというかたちで進めていきました。で、最終的にクライムサスペンスというジャンルになりましたが、緊張感ということに関していうと心理劇でもアクションシーンでも同じような感覚は得られるんじゃないかとも思って。あと、キース・フリックというキャラクターができたときに、「こいつは運動できなさそう」という意見がでてきて、アクションさせにくくなっていくこともありましたね(笑)。

──プロダクション I.Gと中澤一登監督によるオリジナルアニメがNetflixで始まるよ、と最初に発表されたときは、「パーフェクト・ボーンズ」というタイトルでした。そこから現在のタイトルに変わったのはどうしてでしょう?

中澤:僕の中ではタイトルは決めずにいて、こんなタイトルはどうだろうとNetflixさん側からいうかたちでいただいたのが「パーフェクト・ボーンズ」でした、まだ企画書段階でしたけどね。で、作っていくうちに企画書と壮絶に離れていってしまって、そもそも骨関係なくね?という風になりまして(笑)。とはいえ新しいタイトルも決めかねていたので、プロデューサーやいろんな方の意見を聞いて、『B: The Beginning』となりました。

──骨の要素はなくなったということでしたが、逆に何か一貫して残している設定などはありますか?

中澤:残さなきゃいけなかったのは「」です。そもそもこれをモチーフにして作品を作ろうと思ったはじまりなので。和装の黒い礼服の黒って、他に類を見ないくらい黒いなと思っていたのですが、全部の染料を混ぜれば黒になるのだそうです。油絵を昔やっていた時も、雲の色を塗ろうと思ってグレーの絵の具を出したら先生に怒られたんです。その雲のグレーも色を混ぜて作るんだと言われて。なんせ、いろんなものが混ざると黒になるっていう感覚は面白いなと思ったので、それだけはずっと大事にしていますね。

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──背景美術や部屋に置かれている調度品などがとても精緻だなと感じたのですが、そうしたものはどういう基準で選んでいるのでしょうか?

中澤:はじめモチーフに出てたのがイタリアのクレモナという街で、観光地化されていないイタリアの街は面白いかなと思って。あとはキューバも面白いなと思っていて、根本的に旧車が好きというのもあるんですけど、当たり前のように旧車が走っている風景はやっぱり良いなぁと。日本でも旧車が走っているのを見るとカッコいいなと思うんですけど、やっぱりデザインが優れていると見ちゃうと思うんです。そうした状態がキューバには残っていて、おそらくデザインが優れた街や国というのは世界中にたくさんあると思うんです。そういうところをミクスチャーしていったら面白いんじゃないかなとは思いました。

でも僕自身は語彙が本当に少ないので、「なんとなくこういう感じが良いです」ってお願いして、お任せするかたちにしてます。他の方がやられたコンテもほとんど直してないですね。最終的にいろんな発想があってそれをまとめていったというだけで、それも一人の力ではないですし、いろんな人がいろんなもの好きなんだなぁって思いながらやってました。


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──地上波ではなく配信というかたちをとることで、たとえば残酷表現がもっと描けるとかそういったことは意識していましたか?

中澤:その話でいうと僕が担当していない他のコンテのほうが激しい表現をされていて、僕が担当したものに関してはそんなに無かったです。駄目だったら言ってくれたら直しますし、映像にする時に避ける手段はいくらでもあるので、そこは臨機応変に。絵描きとして僕がやられて一番困るなと思っていたのがポケモンチェック(パカパカというアニメーション技法、チカチカする点滅表現の放送を避けること)なんです。それが今回は自由に使えると言われたのでヒャッホウ!ってなりました(笑)。アレが使えるようになったら稲妻の表現もカッコ良さが全然違うんですよねぇ。正直、あんまり話題にもならないだろうと思っていたので、試したいこともいっぱいあるし色々やってみようかなと思っていて。昔のテレビはいろいろできたんですけど、今はできないことが多くなっちゃったので、やってないようなことはやってみたいよねってプロデューサーの黒木君(黒木類プロデューサー)ともずっと話してたんです。日本のアニメはこういうやり方もできるんだよというものを見せられれば、それが次に繋がるんじゃないかなと思っています

──表現の規制については、監督自身は柔軟に対応する派なのですね。

中澤:「これはダメなのにこれはオッケーなんだ」って思うことはいくつかありますけど、その中でできる表現をするので。セクシャリティについての規制はありましたが、一方で二話なんかは残酷表現が結構キツいんじゃないかなと思っていたら普通にオッケーが出たりもしています。

──二話の神経ガスのシーンですね。あれは見ていてウっときました。

中澤:そう、僕もきちゃったんですよ。でもこれがオッケーなのかぁと思ったので、その辺の探りがわからないなってのはありました。なのでもうそこは身を委ねたり、こちらも少し抑えたりはしました。でも、なんとなくそうなんだろうなっていうものは海外ドラマなんかを見ていて少し感じていたので、おおよそはって感じですね。

──そのあたりのさじ加減みたいなのは、やはりNetflixということで海外作品がベースになっているんですね。

中澤:最初の企画では日本では放映しないっていう話だったので、じゃあそういう作品にしていかないといけないなと。それからはいろんな海外作品を見て勉強してたんですけど、すごく面白いものがたくさんあって、正直なところ焦燥感もありました。

海外ドラマも映画もアニメも見まくったんですけど、とにかく『ゲーム・オブ・スローンズ』が衝撃的すぎて、これを毎回テレビでやられちゃったら、なんかもう困ったなぁって(笑)。あとタイトル忘れちゃったんですけどすごく面白い海外ドラマがあったんですけど打ち切られちゃってたんですよ。だから、こんなに面白くても打ち切られるなんて厳しい環境の中でやっているんだなぁと思いましたね。

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──Netflixからは、クリエイターには自由にフィールドを提供して、その中で良いものを作ってくれればOKみたいな雰囲気を感じてたりはするんですけど、たとえば予算や納期などは融通がきいたりするんでしょうか?

中澤:いやいや、そんなネバーランドみたいなことはないです(笑)。予算的にもそんな大げさに多いわけではないですし、スケジュールは普通にテレビ作ってる時よりも少しあるかないかって感じですね。

──Netflixだと一気見ができるのが魅力というか、最近はそういう形態も増えてきましたが、制作時にそうした視聴スタイルを意識したりはしましたか?

中澤:それがですね、制作途中に一気配信するらしいぞと言われまして。言われても「そんなバカな」と最初は信じてなかったです(笑)。そんなところで数話進んでいって、どうやら本当に一気に配信するみたいだというのがわかりまして。かといって作り方を変えるようなこともできないですし、最初から意識的にもテレビの感覚でやっていたのでそのまま進めてました。

──次にこうした形態で作品を作る場合でもテレビベースで制作される?

中澤:いや、そこは変えますね。雑にっていうとアレですけど、もっと勢いよく物語を走らせられるんじゃないかっていうのは、今回やってみて感じました。他のタイトルの制作に加わる時は、とことん説明していかないといけないって言われるんですけど、それ自体が物語のテンポを崩してしまう可能性はあると思うんです。

でも、わからなかったところを見直して学習できるシステムがあれば、もっと容易にテンポとリズムと勢いで物語を成立させることができるんじゃないかなと。僕が見ていた時代のアニメもわりとハイテンポなものが多い気もしていて、改めてみると信じられないくらい不親切だなって思うものもあったりします(笑)。でも、その世界に身を委ねて面白かったという印象は残っているので、そういうものもあるんだよというジャンルの一つとして作れたらいいねって話は、プロデューサーともしていますね。


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──地上波で毎週放送するかたちではなく、アニメをネットで配信するというシステムについてはどう思われますか?

中澤:正直、まだよく理解できていないなと思っていまして…。去年アメリカのアニメーションのイベントにも行かせていただいたんですけど、海外のファンと接していると、彼らが見ている媒体はやっぱりネットなんですよね。すると、ネットであるがゆえに作品の時差みたいなものが無いというか、新しい作品や古い作品という概念が無いんですよ。古くても面白いものはあるし、新しいものだから良いというものでもなく、今コレかっていうコスプレイヤーさんも多かったりしますし。ただ、このペースで物語を作る、仕事をするっていうのは僕はできないなというか、一歩身を引いて普通にやっていくというか。良質な作品の需要が今は昔よりも大きいけれど、そんなハイペースで物語は作れないし、その合間を埋めてくれる作品はネットでいくらでも見れるので。少なくとも、今アニメ業界で流行っているところからは離れようかなと…(笑)。言い方は変なんですけど、ニッチなエンターテイメントを目指すという感じです。

──そうしたニッチさでエンタメを展開する中澤監督の作品と、現代のメインストリームの作品や古き名作など、あらゆる気質のクリエイターの作品が一堂に会しているというのが、配信の醍醐味でもありますね。

中澤:嗜好品ですからね。世の中に無くてもいいものだからこそ頑張らなければいけないと思うし、好き嫌いっていうジャンルまでもっていけるほどのものを作りたいなと思っています。

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──最後にちょっと伺いたいんですが、ようやく去年スマホを購入されたとさっき聞きまして。スマホは普段どんな風に使っていますか?

中澤:カイロソフトのゲームとか遊んでますよ、無課金で。あとはもう電話とメール、写真ですね。SNSはよく理解していないのでやってなくて、『LINE』も入れようと思ったんですけどよくわからず…。写真撮影は制作現場でも役に立っていて、手を描く時にすごくお世話になってます。どうしても広角気味になっちゃうのでトリミングは必要ですけど。

──それは実にアニメ製作現場のガジェットらしいですね。

中澤:昔はだいたい机にが置いてあったんですよ。いやぁ、良い時代になったものですね。


Netflixオリジナルアニメ『B: The Beginning』は、2018年3月2日(金)から全世界同時配信スタートです。


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Source: B: The Beginning, YouTube

ヤマダユウス型

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