「集まった人たちの『思念』で川島君の存在を生み出す」ブンブンサテライツ、最後のライブでの「ボーカル降臨」はいかに実現されたか

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    「集まった人たちの『思念』で川島君の存在を生み出す」ブンブンサテライツ、最後のライブでの「ボーカル降臨」はいかに実現されたか

    奇跡の一夜です。

    中野雅之さんと川島道行さんによるバンド、ブンブンサテライツ。ロックのダイナミズムをたたえたエレクトロニックミュージックで、1997年のデビュー以来20年以上にわたって世界的な人気を誇る一方で、メンバー川島さんがデビュー間もなくから脳腫瘍との闘病を続けてきたことでも知られています。

    2015年7月、川島さんが5度目の脳腫瘍を発症したことにともないライブ活動を休止、残念ながら2016年10月9日に川島さんが永眠され、2017年3月1日にベストアルバム『19972016』が最後の作品としてリリースされました。

    ギズモードでは、ラストアルバム『SHINE LIKE A BILLION SUNS』、先述のベストアルバム『19972016』のインタビューを通じ、バンド活動の終盤を追ってきました。

    そのときわれわれは「最後のライブ」が計画されていることを知らされていたのですが、それが2017年6月18日、新木場STUDIO COASTで開催されました。

    ライブバンドとしても世界的な高評価を得てきたブンブンサテライツ、やはり「最後はライブで終えたい」と考えたメンバー中野さんが、自分たちとファンのために用意した舞台。

    2018年3月14日に映像作品『FRONT CHAPTER - THE FINAL SESSION - LAY YOUR HANDS ON ME SPECIAL LIVE』としてリリースされたこのライブは、真の意味で特別な時間が収められたものだと言えます。

    この特別なライブに臨み、半生を捧げたバンド活動に終止符を打った中野さんに話を聞きました。

    一夜限りの「ラストライブ」に込められた想い

    ── 2017年6月18日に行なわれたライブを計画し始めたのはいつごろのことだったのですか?

    中野雅之さん(以下、中野):2016年の春でした。シングル『LAY YOUR HANDS ON ME』をリリースする前くらいだったと思います。まだ川島君が生きているころです。

    ── そのときは、それが最後のライブになるとは考えていなかった?

    中野:いいえ、考えていました。川島君はその段階でライブをできる状態ではなかったので。ファンにとっても自分たちにとっても、ライブをやって活動を終えたいという気持ちがあり、そういう場を作れないかと。ただ、果たしてできるのだろうか?という気持ちもありました。ボーカリストなしで、どういう形があり得るのか? 白紙の状態からそれを探り始めたのです。

    ── まずどういうところから着手したのですか?

    中野:単純に、川島君の映像に合わせて歌とギターの音を流すということではなく、彼がいない場所でその存在を感じてもらうにはどうすればよいかということを話し合いました。例えば、真っ暗なステージにロウソクを灯すことだってファンに何かをイメージしてもらえるかもしれない、とか。それくらいフリーな状態でミーティングを重ねました。

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    その場にいる人たちの「思念」で存在感を作り上げていけるのではないか、集まった人たちのメンタルの集合体によって亡霊のように浮かび上がってくるものがあるんじゃないかという思惑はありました。実在しているボーカリストを超えるような、エネルギー体みたいなものをその時間だけ生み出せれば理想的だなと思っていて。極論すると「妄想ライブ」とでも言えるような。

    ── 川島さんのパートは、過去のレコーディングやライブの音声データを使用したそうですが、その取り組みを通じて感じたことは?

    中野:リハーサルをやっているときには不安もありました。リハーサルスタジオでボーカルの音声データを流しても、熱量がないというか、生身の人が隣にいないので息遣いもなく平面的に聴こえてしまうし、これを本番でどこまで持っていけるのかというのはものすごい想像力が必要だなと感じました。ボーカルというもの、人の声というもののすごさを逆に痛感させられたところもありましたね。人の声帯が空気を震わせることで何を伝えているのかとか、人は何を感じているのかということを、逆説的に教えられたようでとても興味深かったです。

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    ライブという現場では、マイクのダイアフラムを震わせた音声がアンプで増幅されて会場に流れる、そこに余計なものは介在しない。スピリチュアルな話になってしまいますが、そこに乗ってくる念のようなものが存在しているんだなということを強く感じましたし、魅力的なボーカリストというのは、川島君に限らず持って生まれたものがあり、それをマイクとスピーカーを通してたくさんの人に伝える力があるんだ、そういう選ばれた人たちなんだと、このライブの制作をやっている間に強く感じました。

    ── 音声データをライブにフィットさせるための音作りや、演出面で工夫したことがあれば教えてください。

    中野:例えば『LAY YOUR HANDS ON ME』は、それまでライブで一度もやったことがなく、最初で最後の演奏だったわけですけど、バンドインする前にちょっとした間合いをとることで会場の空気や集中力を高めたり、少しブレスを強調したり細かい調整が施されています。それと連携するようにライティング、映像、美術周りを作り込んでいきました。

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    ── 映像や演出を作り込んでいく上で、スタッフやクリエイターの方々にはどのような言葉で伝えていったのですか?

    中野:最初の曲『LAY YOUR HANDS ON ME』は「魂が舞い降りたところからライブがスタートする」とか、最後の曲『NARCOSIS』は「バンドの歴史を走馬灯のように一気に駆け抜ける時間にしたい」という言葉で伝えました。そういった、ある意味で観念的な表現から始まって、それが十分に伝わったら具体的な手法、テクニカルなことを話していく。LEDのスクリーン、プロジェクターを映写する紗幕、会場全体に映像を映し出す巨大プロジェクター、数々の照明、カラーレーザーを用意して、観念的なイメージをどう具体的にしていくかということを、それぞれのプロフェッショナルが一堂に会して話し合っていきました。

    ── かなり長い期間をかけて試行錯誤されたのでは。

    中野:ミーティングの期間は長かったですね。それこそバジェットの話から大議論だったので。あの演出は、通常STUDIO COAST(舞台となった東京・新木場のライブハウス)規模ではできないことなんです。チケットを高額に設定しなければならないことをファンは受け入れてくれるだろうかとか、いろいろクリアしなければいけない問題があったのですが、僕も含めて、あのライブを作り上げようと集まった人たちの熱量で成功させることができました

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    終わった今はけろっとしていますけど、振り返ってみるとよくやり切れたなと感じます。1日のライブのために準備をあれだけしたというのは相当レアなケースかもしれない。あそこまで作り込んだ場合、普通はツアーをしてたくさんの人たちに見てもらってということになるのですが、今回は、これまでバンドを支えてきた人たちとファンの気持ちを成就させるだけの目的でやったもので、とても純粋な空間を作り上げることができたなと思います。

    ── 率直に、ライブを終えてどういう気持ちになりましたか?

    中野:寂しさは、もちろんありました。STUDIO COASTは何度となくライブをやってきた場所です。ブンブンサテライツとして立つのが最後なのは間違いないわけで、当日は本番前のサウンドチェックから片付けて撤収するまで何とも言えない気持ちでしたね。ブンブンサテライツというバンドを大学生のときに始めて、都内の小さいライブハウスでライブ活動を始めたところからつながる1本の線が終わりを迎えるということの寂しさはありましたけど、最後の楽曲をリリースして、ベスト盤を出して、作品的にはけじめはついて、あとはライブだけだなという気持ちも強かったので、しっかりやり切れたなとも思います

    ── ライブ後のインタビューで「そこに川島君がいるような感覚が味わえた」とコメントされたそうですが、観客を含めて、みんながイメージすることで、確かに存在を感じることができたということですね。すごい力ですね。

    中野:それがSTUDIO COASTを選んだ理由でもあるんです。僕にとっても川島君にとってもホームのような感覚がある場所だし、いわゆるライブハウスでは、東京では最大クラスで、それ以上の会場になるとまた雰囲気が変わってきてしまう。入れなかったお客さんはいっぱいいたんですけど、あそこを選んでよかったなと思います。

    視聴体験を左右する映像編集へのこだわり

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    ── 今回は映像制作の監修もされていますね。どのような作業を行なったのですか?

    中野:ライブビューイング用のスイッチングアウト映像を元に、一部ライブビューイングでは使用されていなかったカメラの映像に差し替えるような作業です。会場で起きていたことのストーリーが汲み取れるな映像にしながら、バンドの熱量を見せることを同時に達成しなければいけないのですが、なかなか両立が難しいことなので、ていねいに編集していきました。

    ── 映像の見せ方を手がけたことは過去にもあったのですか?

    中野:ここ数作、ライブ映像に関してはわりと深くかかわっています。過去にはプロモーションビデオの編集も何度か行なったことがあります。

    ── ご自分で編集機材を扱って?

    中野:はい。Final CutやPremiereを使って自分で編集した作品がいくつかあります。自分にアイディアがあり、他人に任せることができなかったという経緯ですね。あと、ディレクターズチェアに座って指示を出していても何フレームという単位の話になってくると細々と注文をつけるよりも「マウス貸して」というふうになってしまうので(笑)。

    ── どういう点が気になりますか?

    中野:演奏する人、歌う人の切り取り方はすべてにおいて気になります。「ここでしょ」というポイントが自分の中にあって。例えば、ギターソロになったときにギターの手元に寄るような編集が好きじゃない。ギターソロに入るときってステージから発せられる熱量や会場の空気が変わる瞬間だと思うのですが、手元に寄ってしまうとそれが分からない。この視点は、音楽を深いところで扱っている人にしかないのかもしれないですね。そういえばイギリスの映像クリエイターにはバンド経験者が多いんですよ。例えば、クリス・カニンガムはミュージシャンでもあるから、彼が作る映像はとても音楽的だったりする。これは僕の希望でもあるんですけど、日本の映像がさらにグローバルな評価を得ていくために1つ鍵になるのが、音をちゃんと扱えるかどうかということなのではないでしょうか。

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    ── 今回の映像制作を一緒に手がけたのは?

    中野:ここ数作、撮影からお願いしている岩井正人君という映像クリエイターです。彼とは以前『EXPERIENCED』という映像作品を作りました。幕張メッセイベントホールでのワンマンライブを収めたもので、このクラスの大きさの会場では通常クレーンやレールを使った映像でスケール感を出すのですが、それを一切やらず、すべてハンディカメラで撮影しました。客席の中にハンディを持った人をたくさん入れて、ステージにもハンディを持った人を立たせて、観客の目線、メンバーの目線で楽しめる映像を目指しました。手ぶれが多いので見づらい部分もあるのですが、ライブを見ている感覚になれる映像だと思います。そういうアイディアも一緒に実現してきた人なので、今回のライブを収録するにあたってもよく話し合いました。

    ── 収録にあたっても「バンドの熱量」と「会場で起こっていること」を両方押さえることに気を使われたのですか?

    中野:そうです。ライブ当日まで、作品としてどういうものになるかは考えなかったですが、収録に関してだけはきっちり打ち合わせました。会場全体の引き画を撮れるのが天井ぎりぎりの位置だったり、限られた環境だったので工夫しながら。

    ていねいに隙なく作られていた情深いもの

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    ── タイトル『FRONT CHAPTER - THE FINAL SESSION - LAY YOUR HANDS ON ME SPECIAL LIVE』の“RONT CHAPTER”にはどういう意味があるのですか?

    中野:僕たちが定期的にやってきたイベントの名前です。始めたときは、イベント自体がスクールとかクラスとか、何かを考える場、知的なセッションをする場になればというイメージがありました。そういう思いもタイトルに込められています。

    ── 限定版の方は100ページのブックレット付きですね。中身はどのような内容になっているのですか?

    中野:主に平間至さんの写真で構成されています。平間さんのセレクトした写真を、デザイナーの有馬トモユキさんが、当日の時間軸に沿うように構成して。

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    きちんと製本して、装丁のいい本を作るような感覚で作っています。最近は何でもデジタルになり、今後もその流れは続いていくでしょう。そういう時代なので、多少高額な商品になっても、手元に置いておく、存在する意味のあるものにしたいなと考えました。

    ── 映像の最後、メンバーやスタッフの名前がクレジットされるところで、書体が徐々に崩れていくような見せ方も印象的でした。バンドがフェードアウトするようなイメージでした。

    中野:そう感じるでしょうね。エンディングは、ライブの演出でも活躍してくれた山本太陽君というクリエイターが作ってくれました。彼は、ああいう書体が崩れていくというか溶けていくような演出を情感豊かに使ってくる子で、分かってんなぁと(笑)。今回の作品は、そういった心の琴線に触れることがいろいろなところにあると思います。ほんの何フレームのカット割りの違いで生み出されるものが、さまざまなところに存在していると思う。それらが積み上がっていくととても深い、重層的な感動が生まれると思うんですよね。それはこれからも大事にしていきたいと思っています。すごくライトにものが作れる時代になって、スピード感が面白さにつながっている、すぐ作ってすぐアップロードする、それも確かに面白いし、いろいろなクリエイターが出てきては消えというスピード感が高まって、それを消費することの楽しみみたいなのも理解していますが、一方で本当に繊細なところまで表現し切った、ていねいに隙なく作られていた情深いものも大切だなと思っていて。自分はやっぱり古風な人間なので、どんな時代が訪れてもそこは大事にしたいなと思います。

    中野雅之のこれから

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    ブンブンサテライツとしての活動を終え、寂しさは隠し切れないながらも「やり切った」すがすがしさも感じさせた中野さん。親友のことを想い、最後のライブでこれだけのことができるなんて、正直とてもうらやましい気持ちになりました。

    現在、主に他アーティストのプロデュース活動を行なっている中野さんですが、いずれは「自分自身の音楽を作る場所を作りたい」とも考えているそうです。

    「いままで僕は川島君と2人だけで音楽を作ることに飽きることもなかったし達成感を持って終了にしたくなるようなことも一度もなかった。常に何かを作ると課題が出てくるし、それを乗り越えることを当たり前のこととして過ごしてきました。それを自分でもう一度設定して、やっていきたい。いま、そういう気持ちです」

    今後の展開に期待しつつ、続報を待ちましょう。



    Source: BOOM BOOM SATELITTES

    (北口大介)

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