Spotifyが上場申請。CEOが語る夢と現実
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Spotifyが上場申請。CEOが語る夢と現実

みんな大好きSpotifyだけど、課題は山積。

3月1日、スウェーデン発のストリーミングサービスSpotifyが、前から噂されていたようにニューヨーク証券取引所に上場申請書類を提出しました。ただ普通の上場とちょっと違うのは、「直接上場」という手法を使っていることです。

The New York Timesによれば、この方法だと「新しい株式は発行されず、そのため新たな資金調達とはならない」そうです。でも公開市場ですぐに株取引ができるようにはなるので、Spotifyの既存株主が株を放出し、それを他の投資家がこぞって買うことになると思われます。一般的な上場では証券会社が仕切ることで手数料を得るのですが、Spotifyはそれを回避し、The Wall Street Journalによれば「数千万ドル(約数十億円)」節約したようです。

Spotifyの夢、もはやわりと普通

でも上場申請書類でSpotifyのCEOダニエル・エク氏が1,259ワードを費やして語っているのは、意外とオーソドックスな夢です。Spotifyは今、一見夢を語りつつ、中身はわりと普通の会社、ということになっているように見えます。以下がその彼らのビジョンです。

我々はプロのクリエイターが媒体の制限から自由になり、誰もが没入感ある芸術的体験ができるカルチャーのプラットフォームというビジョンを描いています。それは人々がお互いに共感し、より大きな全体の一部であることを実感できるような場です。しかしこのビジョンを実現するには、プロのクリエイターは彼らがしたいことをしながらも十分な生活費を稼げるようであるべきです。そこにおけるマネタイゼーションとは、創造活動の中核にあるもので、後づけすべきではありません。我々はクリエイターとユーザーに深く配慮しており、Spotifyは彼ら両方にとってのWin-Winであると確信しています。


それが私たちのミッションです。つまり、100万というクリエイティブアーティストに彼らの才能を生かす機会を与え、その作品を数十億のファンに提供して、楽しみインスパイアされる機会を与えることで、人間の創造力の可能性を切り開くのです。

その後エク氏は「世界中で、我々の地平を拡大する共通文化において、業界を民主化する」と誓ってもいます。そして「アプリケーションとして始まり、プラットフォームに成長したもの(Spotify)は、今グローバルなネットワークにならなくてはいけません。そしてそれは、クリエイターやプロデューサー、パブリッシャー、レーベル、ファン、その間にいる誰もが持つ相互依存的な関係を認識し、育てる存在です」とも言っています。

我々はこのような未来を描いています。すなわち、アーティストはジャンルやカルチャーの境界を超え、社会を前に進めるアイデアを生み出します。一方ファンは、他では見つけられなかったものをここで見つけられるのです。我々はみなグローバルネットワークの一部として新たなつながりを作り出し、アイデアを共有していくのです。

内包するリスク

Spotifyはこんな夢を描いてるだけじゃなく、強固なユーザーベースを育ててきました。でもその裏側で、Spotifyがロイヤルティを出し渋っていると主張するソングライターやパブリッシャーとの関係には長いこと悩まされてきましたMarketWatchは、今回の申請書類でもこの部分がリスク要因のリストに明記されていることを指摘しています。Spotifyいわく、彼らが著作権者に支払うお金の計算は複雑なので、支払い額が少なすぎたりすることがこれまでもあり、今後もありうるのです。これによって大きな訴訟をいくつも抱えてしまう可能性もあるということです。

またThe Wall Street JournalはSpotifyの時価総額を226億ドル(約2.4兆円)と推定していて、上場して株価が上がればこの額はもっと大きくなるかもしれません。でも上場申請書類によれば利益は出ておらず、むしろ売上を超える勢いで赤字額も急拡大しています。2017年には前年比約39%増の41億ユーロ(約5300億円)の売上があったんですが、損失は12.4億ユーロ(約1600億円)で、前年は5.39億ユーロ(約700億円)、その前の2015年は2.3億ユーロ(約300億円)だったので、赤字が急激に増えています。

そんなに散財してるなら普通に上場して新たに資金調達する方がいいのでは?と思われるかもしれませんが、The Wall Street Journalは、Spotifyはキャッシュフロー的にはプラスになっているので、現金を集めることに躍起になる必要がないのだと指摘しています。キャッシュフローと損益にギャップが出る理由のひとつは、サブスクリプション料金が前払いで、「Spotifyの銀行口座には入っていても、すぐには損益計算書に反映されない」ためです。

ラスボスはApple

上場申請書類の内容によるとSpotifyの月間アクティブユーザーは現在1億5900万人、うち有料ユーザーは7100万人いるそうでかなり順調に成長しています。でもBloombergに言わせれば、YouTube/GoogleやApple、Amazonのような潤沢な資金を持つプレイヤーもみんなしのぎを削っていて、それぞれの持つハードウェアで競合のアプリケーションをブロックしたり、汚いやり方も辞さない構えです。彼らがハードウェアとのシナジーを求めて資金をつぎ込もうとしているのに対し、現在のSpotifyにはそこまでの資金も事業の広がりもありません。

特にApple MusicはAppleデバイスにプレインストールされていて、米国を中心に急速にシェアを伸ばしてきました。Appleはその巨大な財布をちょこちょこ引っ張り出しては、人気アーティストと楽曲独占提供契約を結んでいます。そしてそのやり方は、TVや映画にまで広がっていく可能性があります。

そう考えると、結局Spotifyが描くユートピアより、お金とか市場シェアを持っている企業がストリーミング市場も制する、ことになってしまいそうな気もします。Spotifyにもがんばってほしいです。


Image: Spotify
Source: The New York Times, The Wall Street Journal, SEC.gov
Reference: Ars Technica, MarketWatch, Bloomberg

Tom McKay - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)

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