実はガジェット好きの中田ヤスタカさんに訊く。「テクノロジー」は中田サウンドにどんな影響を与えているのか?

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  • author ヤマダユウス型
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実はガジェット好きの中田ヤスタカさんに訊く。「テクノロジー」は中田サウンドにどんな影響を与えているのか?
Photo: 稲垣謙一

今じゃないとできない意味がそこにはあるから。

2018年2月7日、中田ヤスタカさんが初となる自身名義のアルバム『Digital Native』をリリース。ヤスタカサウンドはPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅなど、数多の提供楽曲を通じて世界中に息づいていますが、ソロ名義でのアルバムリリースは意外やこれが初めてだったりします。

そんな中田さん、なんと嬉しいことにギズモード・ジャパン読者の一人であることがわかりまして、同時にかなりの(かなりの!)ガジェットファンでもあったのです。サウンド的にもガジェット好きであることは合点がいくところですが、そのルーツや音楽面への影響はどんなものなのか、気になります。

今回は、新譜『Digital Native』をフックに、ソロ名義リリースとなった理由や、中田さんがもつガジェット愛などを、中田さんのプライベートスタジオにて伺ってきました。超ミニマルな制作環境にもご注目。

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Photo: 稲垣謙一
今回の取材は中田ヤスタカさんのプライベートスタジオで行なった。中田さんの手がけるアーティストのレコーディングを含め、楽曲のほとんどがここで生まれている。

中田ヤスタカとガジェット。「ガジェットが好きななかで、音楽が得意だったからDTMをやっているわけで」

──早速ですが、ガジェットはどれくらいお好きですか?

中田ヤスタカさん(以下、中田):ギズモード・ジャパンは、僕のお気に入りに登録されている数少ないサイトの一つでして、なんというか、欲しいものを探す場所みたいな感じで見ています。欲しいものってあったほうが楽しいし、そういう気持ちがあると楽しいじゃないですか。ガジェットってそういうものかなと思っていますね。

──Kickstarterでキャンペーンしていた「Arduboy」がスタジオの机に置いてありましたが、クラウドファンディングも活用されているんですね。

中田:使ってますよ。これもクラウドファンディングで買ったキーボードでして(奥から機材を持ってくる)。

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Photo: 稲垣謙一

──これは、分割できるMIDIキーボード「KOMBOS」ですね!

中田:これ何が良いって、フルサイズでそれなりにタッチ感の良い鍵盤を使っているんですよ。でも分割できる強度をもたせた結果、超重いのが弱点で。機内に持ち込むには良いから、海外によく行く人には向いてる機材だと思います。他にもクラウドファンディング系だとこういうのもありますよ。

──Miselu社の「C.24」、iPadのカバーにもなるMIDIキーボードとして話題になったやつですね。

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Photo: 稲垣謙一

中田:クラウドファンディングのモノってすぐ手に入らないじゃないですか。このC.24が公開されたときも当時のiPadにはジャストだったんですけど、手元に届いたときには新しいiPadとサイズが合わなくなったんですよね。だからカバーとしては使えなかったけど、こういうものは昔から好きです。あと最近だと自動翻訳機とかカメラジンバルとかも買いましたね。今これ、撮影に使ってるのは「Osmo Mobile 2」?

──こっちは1(初代Osmo Mobile)ですね。本当は2を持ってくるつもりだったんですけど電源の入れ方が変わって慣れなくて…。

中田:僕もOsmo Mobileは自分で使ってみたくて買ったんですけど、使う機会もそうないので、今はスタッフが使ってますね。

──用途よりも先に触ってみたいという気持ちが来るモノって、確かにありますよね。

中田:そうなんですよ。ドローンとかもそんな感じで、「DOBBY」を買いました。200g以下で手軽に飛ばせるのが面白そうだと思ったんですけど、そもそも飛ばす機会があんまりないので部屋の中で遊ぶだけっていう(笑)。とりあえず見てみたくてっていう気持ちですね。

──ちなみにこのスタジオにあるディスプレイが「Thunderbolt Display」なのも、何か理由があるんでしょうか?

中田:Thunderbolt端子でデイジーチェーンできるからですね。Apollo Twin(使用しているThunderbolt 2オーディオインターフェイス)とディスプレイでMacBook Proを2ポート使いたくないんですよ。今、(Thunderbolt 3で)電源もとれて映像出力もできるみたいなディスプレイも何種類か出てるじゃないですか。でもApollo Twinのデイジーチェーンを考えると、その選択肢はまだなくて。次世代Mac Pro用に5Kか8Kかそれくらいのデカイのが出ると思うのでそれは買おうかなって思ってます。それは多分Thunderbolt1本で背面もハブになってるから、ついにMacBook Proから出ているケーブル(制作環境)が1本にできるっていう(笑)。

──すごくミニマルですよね。ガジェットがお好きなのは子供の頃からですか?

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Photo: 稲垣謙一

中田:そうですね。これ(制作に使っているMIDIキーボード「KOMPLETE KONTROL S88」を指さして)もガジェットの一環というか、たまたまピアノをやってたから、電子楽器が得意なガジェットであり物欲の場って感じです。だから、単純に音楽が好きな人と種類が違うかもしれなくて、何か作りたいっていう気持ちはあるけれど、それはゲームでも映像でもグラフィックでも良かったかもしれない。コンピューターを使って何かやること自体が楽しくて、そこでたまたま自分は音楽が得意だったからDTMをしているわけで。

──ツールに強い関心があるのですね。

中田:映画の特典ディスクでも、俳優さんの話よりもグラフィックを作ってる人の裏話のほうが楽しいですね。このシーンはこうレイヤーが重なってこうなってますとか、そういう解き明かしてるチャプターのほうが再生回数多いです(笑)。

テクノロジーから中田サウンドへ「デジタルだとバレていた頃のデジタルに面白さのキーがある」

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Photo: 稲垣謙一

──そうした中田さんのツールへの想いも、やはり中田さんの音楽に影響が出ているんでしょうか?

中田:だと思いますね。コンピューターに限らずなんですけど、目的のためにしょうがなくツールを使っている、という感覚の人もいますが、僕の場合は必要にかられてしょうがないから使っているモノではないです

──仕事が関わってくると、必要にかられて使うものも多々ありそうですね。

中田:そうなんですよ。音楽をやってる人でも、その機材を使いたくて使ってるわけじゃないけど、自分が音楽活動をする上に必要だと思ってるから買うみたいな。そんな人も多いんですけど僕はそういう感じではなくて、まず「欲しい」って思ってから、いざ手に入れてどう使おうかなと考えたりします

──目的ではなくモノに対する愛着ありきなのですね。非常にガジェットファン的な思考だと思います。

中田:音楽の場合って、たとえば何か曲を聞いて良いなと感じて、その影響を受けて自分も作りたいなって思って、じゃあ何が必要なんだろうと思って何かを買うことが多いじゃないですか。

──楽器やプラグインなど機材なんかやその流れですね。

中田:僕の場合は何ができるかもわからないでとりあえずシンセサイザーを買ったし、そのあとシーケンサーやMIDIを知っていくという。それこそ、最初は部屋のインテリアとして欲しいみたいな感じだったんですよね。

──インテリアでシンセということですと、このスタジオは機材がほとんどありませんよね。最近はハードシンセは使ってないのですか?

中田:持っておきたいんだけど、自分の曲の中には反映されないのでインテリアになっちゃいますね。なので楽器は減る一方で、どうしてもないといけなくて頻度が高いのがギターとボーカルです。電子楽器に関してはもうハードウェアはいらないですね。

──ガッツリしたハード系はライブ指向なものが多いですしね。

中田:曲に使うライブラリ音源はどんどん増やしていくけど、ハードとかは実際に触ってみて「あ、こんな音するんだ」って思ったら、それをソフト側で作り直しますね

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Photo: 稲垣謙一

中田:こうしたデジタルとアナログの話だと面白いなと感じていることがあって、アナログモデリングシンセサイザーってすごくデジタルな仕組みじゃないですか(アナログモデリングシンセサイザー=デジタル信号を用いて、アナログシンセサイザーのシミュレーションを行なうデジタル音源)。一個もアナログの要素はないけど、アナログを再現することを目的としている。

──フィルターやVCOなんかをアナログな感じで再現しようとしているものはたくさんありますね。

中田:(UVI Workstationを起動しながら)一方でこうした初期のデジタルシンセを再現しているソフトもあって、これは実機の音をマイクで録音して、当時の波形をライブラリ化してたりするんです。なので、デジタルが一度アナログにコンバートされて、それをデジタル化したものをデジタルシンセ。そしてデジタル信号でアナログを目指すソフトをモデリングシンセと呼んでいるという、逆転現象みたいなのが面白いなと思ってるんですよ。

──そうか、実機がデジタルであってもサンプリングの過程でアナログ化されてると!

中田:普段から感覚的に使っているデジタルやアナログという言葉だと、UVI Workstationなんかはアナログって表現すると思うんです。で、アナログモデリングシンセのことをデジタルと表現すると思う。こうしたデジタルシンセの音を曲で使うときって、ハードシンセの実機感というか、言葉は違うけどアナログ感を求めてるんですよ。逆にアナログモデリングシンセを使うときはデジタル感を求めていたりする。初期デジタルというか、デジタルがデジタルだとバレていた頃のデジタルというか、そのときの面白さはひとつキーだと思っていますね。

──解像度が未熟であった頃の肌触りって、確かに懐かしく感じます。

中田:こうして解像度が上がっていくことによって、解像度が低かった頃のものを低かったと認識できるようになってからの現在だと思うんです。90年代のCGも今見てみると面白いし、デジタル全体の解像度があがったおかげで、最新だと捉えていた90年代や2000年代のテクノロジーを現在と比較して違いがわかるようになった。その面白さはあるんじゃないかなと。これは新しいものを生み出すというより、捉え方が変わるということだと思いますね。

──古いとも感じなくなってきますよね、昔の作品を見ても。そういうカルチャー、そういう仕様なんだなっていう風に受け取れます。

中田:しかもそのあたりって物理じゃないからすごいなと思ってて。音楽を聞くにしても、レコード店だと新しいコーナーと古いコーナーで差があったのが、デジタルで検索すると新曲も古い曲も関係なく聞けるじゃないですか。あれって検索結果にリリース年が書いてなかったら、聞こえ方や音楽の探し方もずいぶん変わってくると思いますよ。で、今はパッと聞いて「いつの時代なんだろう?」とわからない音楽や、時代感のない音楽も多い。「これは新しい音楽だ」という気持ちで曲を聞いているのはリリース年が書いてあるからで、作ってるほうもそれほどタイムリーな音楽をやっている自覚もないんじゃないのかな。

──今っぽくない音作りも簡単にできるようになってるし、それが好きだという人もいますしね。

中田:僕は特別好きな年代とかはないんですけど、確実にその年代が好きっていうスタンスでやっているクリエイターもいるじゃないですか。60年代が自分の音楽、みたいな感じで50年以上やっている人とか。でも、本当の60年代の音楽とは何か?ということではなく、グラフィックの場合だと、モチーフを使うのか質感まで再現するのかみたいな話で、今は選択肢が増え続けてる時代かなと思います。

──昔は単純なリバイバルも多かった気もしますけど、最近はただ懐かしむだけのものと、そうじゃないものとも混交している気がします。

中田:最新ハードウェアのゲームを白黒のブラウン管テレビに繋いでプレイしてる動画とか見てるときがあって、つまりはそういうことなんですよ。質感だけが昔のテイストになっていて、中身は当時では決して映らなかった映像が映ってる。そういうほうが僕はピンときます。今じゃないとできないという意味がそこにはあるから

現代のテクノロジーと音楽の関係。「いまや音楽にテクノロジーの特権はない」

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Photo: 稲垣謙一

──そもそもテクノロジーの進化って、音楽にどのような影響を与えてきたと思いますか?

中田:電子楽器でいえば、たとえば最初にこういう楽器があって、それがこう進化しました。その楽器をいち早く使ったミュージシャンが現れて、こういうジャンルを作りました。やがてその楽器が多くの人が買える値段になりました。っていう循環があったと思うんですよ、フェアライトとかシンクラヴィアみたいな。で、今そのライブラリがそのまま販売されてたりするんですけど、「マイケル・ジャクソンのあの音ってこれそのままだったんだ!」みたいなことを最近になって知る感動ってあるじゃないですか。

フェアライトとシンクラヴィア──シーケンサーやサンプラーなどの機能をそなえた1980年代の統合型のワークステーション。デジタルオーディオの先駆的な電子楽器となり、現在の音楽制作ソフトウェアの原型。当時の価格は数千万円と、限られたプロしか所有できなかった。

──めちゃめちゃわかります。

中田:そういうのって当時何千万円持ってる人じゃないと作れなかった音だし、「この音ってあの楽器のプリセットの3番目の音なんだ」みたいなことを知れる特権があったんだけど、今はそういう特権を誰も持っていなくて。数千円から数万円のライブラリを買えば使えてしまうものがほとんどです。

もちろん(これまでの循環どおりに)進化し続けている分野もあって、そこに、今は誰でも買えるという性質が加わると、その音がどういう時代を経てこういう音になったのか、順序を気にしなくてもいいんですよ。たとえばスーパーファミコンの『ファイナルファンタジー4』でストリングス(ヴァイオリンなどの弦楽器)の音が出たとき、みんなすごいと思ったじゃないですか。あれは当時すごく生に聞こえたし、もう少し経つとKORG(コルグ)のTRINITYのストリングスがすごく生っぽくて、それを使うのがブームになった時期もありました。そういうのを経て、改めてスーパーファミコンのストリングスに戻ったときに、進化の過程で1回古くなった音という感覚なしに、この音いいねっていう感覚で使える。今そういうところにいるんだと思うんです。

──あぁ、わかります。再現に迫る過程だった音が、ライブラリとして見るとそのまま価値になっている。

中田:「その音は生に聞こえないから駄目」っていう考え方は、2世代くらい前の進化を知ってる人の感覚だと思う。フラットに聞いてみて、その音が自分が出したい音かどうかってだけで今は判断してる気がしますね。もちろん生ドラムのサンプリングだったりシミュレーションの技術はどんどん上がっていくし、そこはCGが実写かどうかわからない解像度になっていく進化に似たことが起きてると思います。

──その選択肢のなかで8bitなチップチューンを選ぶなり、生音に近い音を選ぶなりが可能になっていますね。

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Photo: 稲垣謙一

中田:これからの新しい音の感覚って、機材の限界を超えてくるものだと思うんですよ。今までは、人が想像する範囲の音を再現する楽器がなくて、それを実現するために技術が進歩して、買える値段まで落とし込まれてきたっていう歴史ベースじゃないですか。今では当たり前になってるピッチ修正やリズム修正というのもDAW(Digital Audio Workstation、音楽制作ソフトの総称)が出てくる前はできなかったことだから。で、今はこういう技術が出てきたときに本来とは違う使い方をする人が出てくると面白くて、説明書には載っていないような使い方が新しい音楽が生むのが現在なんです。

──求められるのはアイデアマンですね、こうなってくると。

中田:そうなんですよ。今のクリエイターは受け身すぎて。最近は、これまで手作業でやっていたエディットを簡単にするためのソフトがよく売れてて、メーカーもクリエイターに合わせて作っちゃってるから、意思の疎通がとれちゃってるんです。僕は意思の疎通が取れてないほうが良いと思ってて(笑)。

──なんかわかります。想像したものを提示されるだけでというのはやや刺激に欠けるというか。

中田:クリエイターがメーカーに対して「こんな風に使ってみました」って見せて、それで怒られるくらいの疎通のなさが面白いと思うんです。「音歪んでんじゃん!」みたいなことが起きたほうがずっと良いと思うんですよね。今はプロフェッショナル向けというよりも、もう少しハイアマチュアめの製品が多い気がしてて。もちろん導入となるものはいつの時代も必要です。今はコンストラクションキットっていうすでに曲が出来上がっているようなサンプルパックが売れているので、それはそれで良いんですけど、たとえば「GarageBand」のループを組み合わせるアレが作曲になっちゃうとどうかなって。もちろんループの音もフィルターもすごく良いし、フィルターだけVST(DAW内で利用するプラグイン)で出してほしいくらいなんですけど…(笑)。

──クリエイティビティの在り処やいかに、的な感じが。

中田:それで良いってなっちゃうと、曲を作るためというよりも作曲側のユーザー体験が楽しいみたいな。そこで終わっちゃう感じがする。

──さっきの話ですけど、いわゆるプロに迫るアマチュアが多いというのは実際に感じますか?

中田:スポーツだと趣味でやってる人いるじゃないですか、プロを目指さずとも。DTMもそこまで来たのかなっていう実感はあるかもしれない。昔ながらのプロというポジションに最初からこだわってなくて、週末フットサルみたいな感じで音楽を作るというか。

──そこですごくクオリティの高いものを出しているっていう感じですね。

中田:そうそう。でもDTMをする人が増えていくのは良いことだと思います。たとえばクラシックってピアノや吹奏楽を経験した人が興味を持つ側面があって、DTMでもそういう人が増えると、「この音楽ってどうやって作ってるんだろう…?」っていう受け身のリスナーとは違う音楽の聞き方をしてくれると思う。そういう聞き方ができることで、このジャンルの音楽の人気が出てくる可能性もあると思うんで。

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Photo: 稲垣謙一

──リスナー視点だと、テクノロジーの進化でハイレゾが聞き方の選択肢の一つになってますよね。ハイレゾについてはどんな考えを持っていますか?

中田:聞きたい人はもちろん聞けばいいし、録るほうも環境があるなら録っておくに越したことはないかなって。ハイレゾが良くてそうじゃないのが悪いとかそういう大げさなものでもないし、どっちでもいいなら良い音のほうが良いでしょ、っていうそれだけのことかなと。(ハイレゾとそれ以外に)もっと差がないとわかる人は少ないとは思うし、アナログ放送からデジタル放送に変わるとか、そういうものでもないじゃないですか。

──再生機器や環境にもよりますしね。

中田:CDフォーマットとハイレゾの差って他媒体の変化量に比べてわかりにくいけど、要求されるものは多いですからね。同じ曲を比較して圧倒的に違うというのがわかるレベルの環境を作るには、ハイレゾ以前のことになってくるかなと思います。でもハイレゾ好きな人はスピーカーやイヤホンをそろえるのも好きな場合が多いから、そういう人がハイレゾもっと対応して欲しいとアピールすれば、レコード会社はハイレゾ対応を進めるかも(笑)。僕はリマスターでも良いと思いますけどね。ニセレゾっていうらしいけど(笑)

──ニセレゾ(笑)。

中田:今のフォーマットのほうがそりゃ良いに決まってるし、要は古い映画でも今ならBlu-rayや4Kリマスターで見たいっていう話ですよね。リマスターの過程で良くなる部分もあるし、昔のデジタルリマスターはある程度の処理だったけど、今ならでここまで処理できるっていう、そういう技術もたくさんあるしね。

──ハイレゾで音質を追求する分野もあれば、一方でストリーミングのように消費的に音楽を聞いている分野もあるというのが僕は面白いなと思っていて。ストリーミングサービスについてはどう思っていますか?

中田:ちょうどこの前Spotifyの会社に見学に行ったんですけど、地域によって聞かれ方もかなり違うみたいなんですよね。南米あたりは流しっぱなしにしてる人が多くて、音楽が生活に欲しいっていうライフスタイルで、目的の曲を聞くという使い方ではないんですよ。それはもうライフスタイルとして密接な音楽で、濃い趣味としての音楽ではないんですよね。僕も好きな映画はBlu-rayで買い直したりボックスで買うんですけど、そこからディスクを再生するかとなると別の話で、Netflixにあったらそっちで見るってなるんですよ。それがSpotifyなのかなと思ってます。

──あぁ、すごくよくわかります。

中田:初回限定CDを買っても、実際に聞くのはSpotifyやApple Musicっていう人はたくさんいると思う。こうした動きは音楽体験的には僕はとても良い部分もあると思っていて、お正月だから『春の海』でもかけようかと思ったけど、買ったりレンタルするほどでもないなと。そこでお正月っぽいプレイリストを流しておけば、家がちょっとお正月っぽいムードになったり。こういうのすごく良いと思います。中華料理作ったから中国の伝統音楽流すとか、そういうの好きです(笑)。

──本気でカレー作るときはインド料理屋で流れてそうなプレイリストを探すとか。

中田:そうそう。しかもインドのポップスって良いんですよね、リズム隊の組み方がやっぱり良い。

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Photo: 稲垣謙一

──こうした中田さんのお話を聞いていると、デジタルやガジェットがありきの人生という意味での「Digital Native」という言葉が、とてもマッチしているように感じてきました。

中田: アーリーアダプター的なノリはありますね。何かが当たり前になる前に楽しんでいる人たちというか、ギズモードの読者ってまさにそういう人たちだと思うんですけど、僕も小さい頃からずっとそっち側でした。スマートフォンがスマートじゃない時代であっても試行錯誤して楽しんでいた、というか試行錯誤を楽しんでいた(笑)

──10年くらい前のスマートフォンってまだまだ珍奇で、可能性を計りかねていた感じでしたもんね。

中田:使い勝手が悪いからダメとかそういうことじゃなくて、とにかく「欲しい!」っていう気持ちがあるかってことなんですよね。iPhoneはそうした最新さを使えるものにしたっていう功績が大きいと思うんですけど、使えるものになる前の段階から体験したいっていう側だったので。どうせ手帳を買うなら「ザウルス」が良い、とか。

──それはまさにアーリーアダプター的思考かなと。

中田:クラウドファンディングなんかはそのワクワク感が楽しいですよね。「これ本当に動くの?」くらいの疑問を抱くモノがもっと増えて欲しいなって思います(笑)。夢がありますよね、やっぱり。

中田ヤスタカの匿名性。「ソロ、プロデュース、劇伴、作り方がそれぞれ違う」

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Photo: 稲垣謙一

──今作『Digital Native』をソロ名義したのはどういう思いがあったのでしょう?

中田:いろんな音楽を作るときにその人のところへ行くよりも、思いついたときにその人を呼んだほうが早いと思って。あとは極論、呼ばなくても良いので。一応アルバムで発売されているのでプロとしての活動なんですけど、限りなく学生のときにやっていたノリに近いですね。今はプロになっちゃってますけど、自分が今18歳だったら間違いなくSoundCloudに曲を上げてるだろうし、それに近い感覚です。

──かなり初期衝動的というか、フラットな活動の場なのですね。

中田:今回はたまたまそういう感じになったんですけど、むしろソロ活動については何をするか決めないでいこうと思っています。プロデュースをする側として考えると「この人はこういうものにしよう」とか、「この曲はこうしよう」とか考えるけど、ソロに関してはそんな大掛かりなものじゃなく、ログみたいな感じでやっていこうかと。音楽ログですね。

──音楽ログ、とてもしっくり来るフレーズですね。

中田:そうすると何でもできるし、「今こんな人とこんなことしてまーす」みたいなことを音楽で表現できる。なので、ソロ活動は別にアルバムが目的というわけではないかもしれない。作るって決めないとできないことがあるだけであって。

──ソロ活動での音楽と、プロデューサー視点でのいわゆる匿名的な立場から提供する楽曲とで、マインドの違いもありますか?

中田:音楽を作るうえで、いろんな場やいろんな関わり方があったほうが、いろんなことができますよね。同じ関わり方や出方をすると可能性も同じになっちゃうので。やりたい音楽をやるためには、いろんなチャンネルが欲しいんですよね。僕がプロデュースしたり関わったりするものを、すべて僕だけでやろうと思ったらできるかもしれない。でもそうなると、作りたいものも減ってくると思うんです。「そこならこういうのやろっかな」という気持ちが欲しいし、そういうためのチャンネルかなと。映像作品の劇伴でも、単体で自分の作品ですって言わないからできる作り方がある気がしていて。新曲として聞いてもらうなら、曲のパワーとして何か違うものを注入しないといけないし、曲だけを聞いて「良いね」って思ってもらえる仕掛けも考える必要がある。作り方が違うんですよね、それぞれ。

──フィーチャリングする人はどうやって選んでいるんでしょう?

中田:曲を作りながらこの曲に合いそうな人いないかなーと考えて、思いついたらお願いしています。人ありきで曲を作るとプロデュースと変わらなくなってくるので。ソロの音楽を作るうえで、僕が欲しい要素を自分自身で出せなかった場合、それを出せる人を呼んでいる、という感じです

──楽曲にふさわしい人をフィーチャーしているのですね。

中田:そうそう。ドラマーやギタリストがフィーチャリングと書かれてないのは僕は良くないと思ってて、なんでボーカリストやラッパーだけなのかなって。感覚的にはそれと変わらなくて、シンガーソングライターが自分にできないことを、得意な人を呼んでお願いするのと同じです。僕はいろんな声が出ないので、ふさわしい声が欲しいという感じです。

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Photo: 稲垣謙一

──今後のソロ活動はどんな予定でしょうか?

中田:やりたくなったことをやっていく場にしようと思っているので、コンセプトは決めずにいこうかなと。音楽を始めた頃の感じでやりたいですね。誰かから作ってと言われずに作る音楽も大事だし、リリースが決まってるから曲を作り始めるわけでもないのがソロだし。とりあえず作って、面白そうな人がいたら呼んでみようと思うし、逆に全編インストになる可能性もあります。そんな感じですね。


Photo: 稲垣謙一

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