Appleの公式映像を制作したのは新人CGアーティストだった。その想像力の源をたどる

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  • author 中川真知子
Appleの公式映像を制作したのは新人CGアーティストだった。その想像力の源をたどる
Photo: ギズモード・ジャパン

史上最もパワフルなMacといわれる「iMac Pro」。以前ギズモードでそのパワーを検証したときに映像製作者でないと使いこなせないであろう、という結果になりましたが、実際に使ってみて違いを実感できている人はどんな感想をもっているのでしょうか。

今回、iMac Proのパワーを実証するために動画を製作した6組のうちのひとり、日本を拠点に活躍する元彫刻家のCGアーティストのルイジ・オノラさんに話を伺いました。フランスから日本にやって来たきっかけやiMac Proでの作品作り、さらにARへの期待といったことを聞いてきましたよ。

Video: Apple/YouTube
ルイジさんの製作したビデオ


日本のゲームやアニメに憧れて来日するも壁にぶつかって美大へ

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Photo: ギズモード・ジャパン

──日本に来たきっかけはなんですか。

ルイジ・オノラ(以下、ルイジ):元から3Dのゲームアニメに興味を持っていました。あれは16歳の頃だったと思いますが、僕が住んでいたフランスの地方の図書館でアニメ版『攻殻機動隊』に関する講義が行なわれました。『攻殻機動隊』の1話の予算と関わった人の人数が、同じくらいの予算と人数で作ったアメリカのテレビシリーズと比較して紹介されていたのです。その歴然の差に圧倒され、日本はすごい国だと思いました。

『攻殻機動隊』や『AKIRA』の漫画を大切にしていて、何度も繰り返し読んでいます。ストーリーは理解しているので、主に制作面に注目しています。特に『AKIRA』は、大友がどうやってひとりであれを完成させたのか今でも理解できなくて、手に取るたびに感動させられます。

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Photo: ギズモード・ジャパン
本棚には『攻殻機動隊』の他に、繰り返し目を通してはインスピレーションをもらっているという大友克洋の代表作『AKIRA』が。

それからプレイステーションのゲームソフト『メタルギアソリッド』に魅了され、日本のゲーム業界で働きたいと強く願うようになりました。日本に来てからは忙しくてゲームをしたりアニメを見たりする時間がありませんが、『メタルギアソリッド』という作品は特別で、今でも大きな影響を受けています。 でも実際に日本のゲーム業界で働くようになると、自分が思い描いていたゲームの世界と方向性が違いました。また自分のスキルにも限界を感じました。

CGには写真やシネマトグラフィといったさまざまなスキルを必要としますが、僕は独学でCGを学んでいて、ドローウィングや彫刻のスキルを持ち合わせていませんでした。それで壁にぶつかったので、改めて武蔵野美術大学で彫刻を学びました。


焦りから始めたSNSプロジェクト

──iMac Proのプロモーション動画を作ることになったきっかけをお聞かせください。

ルイジ:去年、武蔵美を卒業したのですが、それからの約2カ月ほどはアーティストとしての活動をほとんどしていませんでした。それで焦りを感じて、勉強のためにと半年間毎日、Instagramに作品動画をひとつアップするプロジェクトを始めました。その時の作品が米Appleの目に止まり、「何か一緒にできないか」と連絡をくれたのです。

毎日、4時間という限られた作業時間でひとつの作品をアップすることに決め、同じスペース、同じサイズ感、同じセットアップで制作を続けました。毎日ひとつの作品を作るということは決して楽ではありませんでした。そんな中、Appleから話をもらい、iMac Proというパワーのあるマシンを使えば、新しい環境、新しいスケールで自分のプロジェクトをプッシュできそうだと思い、引き受けました。

またSNSの作品を見て、イギリスのマッシヴ・アタックという音楽ユニットバンドもメールをくれました。その時の縁で、今回のAppleの僕の動画で使われている音楽を彼らが担当しています。

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Photo: ギズモード・ジャパン
負荷の高い流体シミュレーションもストレスフリー。

──プロジェクトを引き受けて実際にiMac Proを使ってみてどうでしたか。

ルイジ:まず、プラグを刺すだけで使い始めることができるシンプルさが良いですね。届いたその日からスムーズに作業が始められたのはありがたかったです。それに外見のスタイリッシュさも気に入っています。iMac Proだけでなく、Macはハードがなくなってソフトのみを残すようになってきていますよね。インターフェースにしてもボタンがなくなって、とてもシンプルです。

僕は、今の世の中で集中し続けることの難しさを感じています。SNSだけに限らずいろんな通知がしょっちゅう来て、なにかと集中が途切れるでしょう。Appleの余分なものを削ぎ落とす姿勢は、「集中して作業させる環境づくり」に繋がっていると思います。

──今回の作品のことをお聞かせください。

ルイジ:テーマは「パワー」です。僕はパワーから連想できる「expansion(拡張)」「duplication(複製)」「growth(成長)」を表現しようと思いました。

この作品に限らず、制作している段階では、なるべく他のCG作品を見ないようにします。そして、彫刻や建築、その他の映像の世界からインスピレーションを探っています。

その他で大切にしたのは作品に「あえて制限をかける」ことです。最近のCGで表現できないものはありません。しかしリミットがないとなると逆に何も作れなくなってしまうんです。

──作品に「Appleらしさ」を加味しようとは考えましたか。

ルイジ:特にはしませんでした。僕はかねてから作品に黒、金、銀、赤を使い、シンプルな形状が好みです。その時点でAppleのプロダクトと系統が似ていたと思います。なので、さらにAppleらしさを加味する必要はないと考えました。

──たしかに作品はシンプルですね。

ルイジ:僕は作品に何かを語らせるのではなく、作品のもつ形状に興味があります。その形状にしても、アニメーションをつけたり、何かのメッセージを伝えるとかではなく、形状そのものに語らせたいのです。

たとえば、彫刻家でいうと19世紀を代表するオーギュスト・ロダン(『考える人』で有名)の作品にはテーマがあります。反対に、これは彫刻家ではありませんが、画家のジャクソン・ポロック(※20世紀のアメリカの抽象表現画家)は抽象表現主義で、絵を通してわかりやすい何かを表現していません。絵、単体として何かを表現しようとしています。

僕はその違いをとても大切にしています。僕も作品にはポーズを取らせず、その作品単体の形に何かを語らせたいのです。作品に対して常にオープンでいたい、ニュートラルな存在をメインにしているのです。

だから、表現方法は自由とはいえ、テーマありきの作品作りというのはある意味挑戦でした。

Video: Apple/YouTube
メイキングビデオ

──制作にはMODO(※)とHoudini(※)を使っているそうですね。

ルイジ:環境はMODOで、動く物体はHoudiniのプロシージャルモデリング(※)で作っています。Houdiniのモデリング機能は決していいとは言えませんが、僕はポリゴンやXYZ、トポロジーといった所謂3Dらしさから離れたいので、その点でいうとHoudiniは最適なんです。

映像の中で僕は負荷の高い流体シミュレーションを行なっていますが、iMac Proでは全くストレスを感じられずに作業できました。

MODO(モド): The Foundry社による3DCGソフトウェアでモデリングに特化していると言われている

Houdini(フーディニ): Side Effects Software社による3DCGソフトウェアで高度なシミュレーション機能で知られる

プロシージャルモデリング:数値に合わせて作るモデリング

──作品の全行程をひとりでやられましたか。

ルイジ:はい。僕は日本に来てから由水桂氏率いるKEICAというスタジオで働いていました。彼もそうですが日本はスペシャリストではなく、全ての工程をひとりでやるジェネラリストの考え方があります。『AKIRA』の大友を敬愛していることもありますし、僕もひとりでAppleのCMを作りきったことをとても嬉しく感じています。Appleという大企業がひとりのアーティストを信用して任せてくれたことにも感謝しています。

生徒には彫刻家としてのCG活用法を教える

──ルイジさんはアーティスト活動の傍ら、母校である武蔵野美術大学で非常勤講師をしてらっしゃいますが、どんなことを教えているのですか。

ルイジ:彫刻学科で3Dを教えています。 僕の授業を受けている内、約半数が彫刻学科の生徒ですが、ほかの学科の生徒たちも参加できるため、映像学科の生徒も大勢います。決められた期間で項目をカバーしていかなけれなならないので入門編ですが、CGスキャニングやCGプリンティング、ARやVRでクライアントに説明するためのビジュアリゼーション方法といった、彫刻家がどうCGを活用するかを教えています。

──時代の流れとともに彫刻のあり方も変わってきましたね。

ルイジ:写真が世に出たとき、絵画に大きな変化がもたらされましたが、今は同じようなことがスキャニングとプリンティングの登場で彫刻の世界にも起こっています。ゲーム業界がZbrushから3Dスキャニングベースになった速度ほどではないでしょうが、彫刻も確実に変化しています

僕が武蔵野美術大学に入学した時はスキャニングもプリンティングも一般的ではありませんでした。それがこの6年で大幅に変化しました。近い将来、金属のプリンティングも当たり前のようになるでしょう。

──学ぶことが今よりも多くなりそうです。

ルイジ:いろいろな面で垣根がなくなっていくでしょう。3Dプリントだけでなく、プロダクトデザインのスキルも持ち合わせないといけない。プロダクトデザインだけでなく、CGもできないといけない。CGだけでなく、プロダクトデザインもできないといけない。スペシャリストではなく、他の分野ともつながる必要があります。中でも3Dは彫刻から学べる部分がたくさんあるでしょう。僕はその架け橋を作っていきたいと思っています。


ARに求めるミニマリズム

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Photo: ギズモード・ジャパン

──彫刻とCGといえば、FoundryがMODOと連携可能なVRスカルプティングのソフト「kanova(※)」をリリースしましたね。

ルイジ:kanovaはVRとデスクトップ作業が両方できるソフトとして、とても注目しています。ただ僕にとってのVRスカルプトのネックは、実態があるものとは違って抵抗を感じられないことです。しかし、若いアーティストにとっては当たり前になるかもしれませんね。XYZの考え方から離れて直感的な作品作りが一般的になると思います。そういった変化の流れは、既にZbrushで完成されています。同じことがVRでも起こるでしょう。

Kanova (カノヴァ): MODOと連携可能なVRスカルプトソフト

──今後、VRやARに期待していることはありますか。

ルイジ:現実の世界にARの展示を作れたら面白いと思っています。僕はミニマルな考え方が好きで、ARを使えばこの世界をもっとミニマルにできると考えているんです。極端な話、本以外はARでいい。

──うーん、SF映画に見られるような広告をARにするとか、ですか。

ルイジ:最近だと『ブレードランナー2049』や『ゴースト・イン・ザ・シェル』でAR広告が使われていましたが、あれはシンプルとは真逆でゴチャゴチャさせていました。ARがディストピア感を出すのに一役買っていたと思います。

僕が日本を好きな理由のひとつに、「情報過多な街に共存するミニマル文化」があげられます。今、日本含め世界的に消費主義ですが、今後、人は消費から離れてシンプルな生活を求めるようになると思います。そこにARやVRが絡んでくると思うのです。ARが世界をユートピアにするか、ディストピアにするかの鍵を握っている、なんて考え方は面白いのではないでしょうか。

──AR、VRを使ったシンプルな世界を夢見るということは、ルイジさんご自身はもう彫刻をやらないおつもりですか?

ルイジ:いや、彫刻への情熱はいつまでも消えないでしょう。僕は溶接やブロンズといった金属に興味があるんです。いつか3Dを使った金属の彫刻をしたいと考えています。今はアトリエもありませんし、不可能ですが。

それにアトリエの問題だけでなく、いつまでも日本にいられるわけでない自分にとって、彫刻は、言葉は悪いですが、邪魔になってしまいます。というのも、僕は彫刻を売るために作っているわけではなく、全て手元に置いておきたいのです。今の生活を考えると彫刻には手を出せません。いつの日か、そうですね、60歳になった時に今の環境を捨てて彫刻をやる、なんて良いですね。

変わらぬ時間でより多くの創作を

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Photo: ギズモード・ジャパン

──Appleの動画をきっかけにこれからどんどん忙しくなりそうですね。

ルイジ:そうですね。マッシヴ・アタックとARを使ったプロジェクトの計画もありますし、しばらくは忙しいと思います。また直近は難しいと思いますが、Instagramに半年くらい毎日作品を投稿するプロジェクトも考えています。今度はARがいいですね。ARだとスケール感が非常に重要だと思います。

──iMac Proのパワーがあれば、Instagramを使ったプロジェクトにしても、かつてのような4時間という作業時間が3時間で作り終えて自由時間もとれそうですね。

ルイジ:いや、4時間は4時間で変わらないでしょう。しかしマシンのパワーのお陰で製作時間が短縮される分、クリエイティブに時間を費やします。もっと挑戦幅を広げていきたいですね。



ルイジさんは半年間毎日、作品を作ってたわけですが、これは日々頑張っている日本の人たちを見て「自分も頑張ろう」と奮い立たせていたからなんだとか。「これがフランスだったらできなかったでしょう」という言葉になんとなく納得してしまいました。

ルイジさんの作品はモノに動きをつけて何かを語らせるのではなく、そのモノがもつ形にフォーカスしたシンプルさが特徴。Instagramのページに行けば、ミニマルな中に存在する美、アートとしてのミニマルを楽しめるはず。今後のエンパワーされたルイジ氏の活躍がとても楽しみです。


Photo: ギズモード・ジャパン
Source: YouTube(1, 2

中川真知子

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