EUがインターネットをめちゃめちゃにする

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  • author かみやまたくみ
EUがインターネットをめちゃめちゃにする
Image: Wikipedia

誠に残念ながら…。

米Gizmodoがインターネットの非常事態をお知らせします。


2018年6月20日、欧州議会法務委員会はウェブをひっくり返すような決定をしました。そして、インターネットミーム・ニュース・Wikipedia・アート・プライバシー・二次創作…これらすべてが破壊の危険に晒されています。

寝て起きたら、欧州議会法務委員会はEU著作権指令(EU Copyright Directive)への投票を済ませてしまっていました。その中でもEU著作権指令11条と13条は一級のテック専門家たちから「多大な被害をもたらすもの」と見なされています。このふたつの条項では以下のような前代未聞の要求がされているのです。

・一般的なウェブサイトを運営する人すべてに対して
・サイト上の「著作権で保護されている情報」を監視する
・報道機関の記事にリンクするときは料金を支払う

法案を擁護する人たちは、批判的な人たちは法案が施行された後のことを推測し、誇張していると言っています。一方で、批判する側はリスクが利益を越えていると述べています。

いずれやってくる新しい規制によって、何が危機に瀕するのかを見ていきましょう。

13条はウェブサイトに監視を強いる

このセクションによって、著作権を守るにあたってのウェブサイトの責任が完全に再構築されるでしょう。今のところ、オンラインプラットフォーム(訳注:メディア・動画プラットフォームなどを総称した表現)は、著作権違反のペナルティから、いわゆるEC指令によって保護されています。ユーザーがデータをアップロードするときは、単なる媒介者として振る舞えます。

米国の法律でYouTubeが報告を受けた違反コンテンツを削除する努力をしているかぎり罰を免除されているのと近いですね。YouTubeは自動でコンテンツを認識するシステムと人力を組み合わせて、ユーザーがアップしたコンテンツをチェックしています。13条を批判する人たちは、ユーザーにテキストや音声、コード、動画や静止画のアップロードを認めているプラットフォームの上位20%には、そうした仕組みが必要だろうと語っています。

6月13日、テック分野でもっとも影響力のある70名が13条に反対する文書に署名しました。インターネットの父・ヴィントン・サーフやWorld Wide Webの発明者・ティム・バーナーズ=リーのようなパイオニアたちがオンライン世界のほぼあらゆる方面の専門家とともに、この法案が言論・教育・表現・スモールビジネスの自由を侵すものだ、すでに自身のサービスを厳重に監視しているGoogleやFacebookといった主要プラットフォームにのみアドバンテージを与えるものだ、と述べました。

13条の潜在的な意味について大々的に記しており、Electronic Freedom Foundationの特別アドバイザーであるCory Doctorowは、米Gizmodoの電話インタビューに応じ、コンテンツを監視できないプラットフォームに法案によって課される罰金は数億ドルに及ぶと述べ、生き延びられるのはGoogleやFacebookのような大企業だけと確信していました。

13条にまつわる大きな疑問は「著作権で保護されている情報がサイト上にあることを防ぐための“適切な対策”」という曖昧な要件にあります。法案は“効果的なコンテンツ認識技術”が使われるべきだと提案していますが、それが何を意味し、どう機能し、どうクレームを提出するのか、どんな実践的なことも説明されていないのです(※)。

※訳注:EU著作権指令は、「法案ではアウトラインのみを示し、具体的な内容はEU加盟諸国に任せる」という、「指令」という種類の法律。

批判的な人からすると、「巨大コンテンツプラットフォームはすでにあるシステムを利用し、残りのプラットフォームにはある種の中央集権的なシステムが要求される」というのは自然な結論です。しかし、そうしたシステムがどう機能すべきかは示されていないため、コンテンツに対して所有権を偽証する人々にはペナルティはありません

もし、誰かがシェイクスピア全集(パブリックドメイン──著作権が切れています)の権利を主張してアップロードした場合、プラットフォームはその主張がリスクをとるに値し、かの吟遊詩人のソネットをほかの人が引用することを許可するに値するかを個別に判断しなければなりません。もしプラットフォームがリスクをとりたくないなら、その誰かは著作権に関する主張を法廷で争わねばならないでしょう。

なお、お金持ち企業のアルゴリズムはひどいもんです。YouTubeでは先々週、MITなどの教育動画が海賊版フィルタによって誤ってブロックされました。過去には、ホワイトノイズや鳥のさえずりを著作権違反だとする馬鹿げた主張もありました。

加えて、13条のもっとも重要な問題点としてフェアユース(※)を認めないことが挙げられます。フェアユースはインターネットの基盤であり、著作権作品のリミックスを許可する法律において極めて重要な抗弁事由です。

※訳注:著作権者の許諾なく著作物を利用しても、分量や用途といった基準に照らして公正な利用に該当する場合は、著作権侵害に当たらないとする。米国の著作権法において、著作権侵害に対する抗弁事由として認められている。

11条が課す「リンク税」は報道機関と大企業を優遇

11条は「リンク税」「スニペット税」などと呼ばれています。GoogleやFacebookはここ10年でパブリッシャー(コンテンツの発行者・出版社)に対して大きな影響力を持つようになりました。それを緩和するために11条には、報道機関へのリンクと引用に関する新しい規則が成文化されています。オンラインプラットフォームは、報道機関にリンクする許可を得るために、料金を支払わなければならなくなります。ユーザーは報道機関のサイトに追いやられるでしょう。

きちんとしているように見えますが、11条はリンクとは何かの定義さえしていません。詳細はEU加盟国28カ国に任されるでしょう。各国でニュースを拡散する方法を政治的に乱用する可能性が生まれ、たぶん意図したのと反対の効果があるでしょう。

Googleには報道機関から許可を買うだけの余力があり、小さな組織にはありません。欧州議会のJulia Redaは、11条と13条に断固として反対しています。彼女は以下のように自身のサイトに綴っています。

ひとつの欧州規模の法の代わりに、加盟国28カ国が定めたうちでもっとも極端な法律がデファクトスタンダード(事実上の標準)になります。国際的なインターネットプラットフォームは、告訴されるのを避けるために加盟国中で施行されているうちでもっとも厳格な規定に従うことにするでしょう。

欧州議会議員であるAlex Vossは11条を擁護していますが、それに対して彼女はThe Next Webに次のように述べています。

「アンゲラ・メルケルがテレサ・メイに会う」という文は、ニュース記事のタイトルになり得ますが、著作権では保護できません。それは単なる事実の記述であり、独創的な創作ではないからです。Voss氏は繰り返しこうした純粋な事実の記述を11条の対象としたいと述べ、それによって報道出版社に与えられる保護はジャーナリストたちが得るものよりもずっと広範囲なものになるだろうとしています。(※強調は訳者による)

Redaは、ニュースコンテンツの極端な引用や大がかりな盗用は、現在の著作権法でもすでに違法だ、とも指摘しています。

法外な値段でリンク許諾を得たFacebookは、ユーザーによって自サービスに記事全文を転載されても罰を突きつけられることはないでしょう。しかし、Facebookがあるユーザーの特定の政治的視点を好まないとき、ユーザーがそれを表現するために小さなプラットフォームをはじめるのには大きな困難が伴うということなのです。

11条と13条による影響は推測の域を出ませんが、目論見と曖昧さが乱用を招きうるこの法案の性質によって、インターネットが引き裂かれ、地に落ちるのは不可避です。

ミームが作れなくなる

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有名なミーム「Distracted Boyfriend」。空白にうまいフレーズを入れておもしろい画像を作る
Image: Know Your Meme

音楽を不正利用する人々は死刑になるべきで、すべての報道機関は悪魔であると考えている人でも、ミームは好きなんじゃないかと思います。たとえば、ミーム「Distracted Boyfriend」を作る人は、それが無許可でアップロードされるプラットフォームへの苦情を集めているようなものです。iStockにアップするなんて悪い冗談です(巨大フォトストックサービス・Getty Imagesの子会社ですよ)。フェアユースがないということは、ミーム用の写真は自分で撮らなければならず、その旨をキャプションに記さなければならないということです。

アーティストの作品が気軽に使えなくなる

リミックスなんかは終了。フェアユースを利用して斬新な作品を作るアーティストも終わりです。一方で、監視好きなアーティストがあなたが友だちと一緒に撮った楽しいバースデーパーティのビデオを破壊するでしょうね。いくつかの曲がラジオで流れてますから。もしキャラもののTシャツを着た写真をプロフィール写真に載せているなら、アルゴリズムにチェックされてさよならです。残念ですけども。

政治家に悪用されうる

各々EU諸国が何がニュースで何がそうではないのかをどう定めるかはいったん置いておいて、著作権侵害の主張が政治資料を隠蔽するのに使われうるという話をしましょう。

Doctorowは、「政治的にセンシティブな動画が選挙の数日前にプラットフォームにアップロードされる」という例を挙げました。ここでは仮に、ある政治家がロシアに行ったときにホテルに女性を呼んでハメを外している様子を収めた動画としましょう。この動画はコンテンツ監視システムを備えた動画プラットフォームにアップされるかもしれませんね。もしその政治家がそのことを知ったら、公開前に著作権侵害の主張をしておくでしょう。そして、検閲フィルターが公開される前にこの動画を発見し、選挙の影で法的戦いが繰り広げられることになるのです。

監視の問題もあります。Facebookのように私たちが公開したものを細かく調べて違反コンテンツを見つけようとする人を雇っている会社があります。EUは、人的にであれアルゴリズム的にであれ、もっと多くの会社にそうした探偵行為をするように強いようとしています。この影の監視状態では、プラットフォームに投稿された私たちのすべてがモニターされます。Doctorowは「現代では、どんな検閲も監視だ」としています。

その他

活動家や学識者、人権グループ、オンラインビジネスが注目している悪影響はほかにもたくさんあります。わたしたちは3条について議論していませんが、これは人工知能スタートアップたちをひどく悩ませているものです。代議士に電話するよう促したいところですが、私たちは米国にいる傍観者にすぎません。EUの立法者たちを止める力はありません。ゆっくりとグローバルスタンダードになっていっているGDPRで見たときのような波及効果を持つかどうかわかりませんが、Doctorowは、著作権指令が実際に施行されるときには、先月のGDPR施行時のようになるだろうと語っています。「(施行までの期間で)みんなそれを忘れるだろうが、2年以内に目を覚まして、なんじゃこりゃと声を上げるだろう」とも。

2018年6月20日追記:欧州議会法務委員会は著作権指令とともに前進することを投票で決定しました。11条は13票対12票と接戦ながら委員会を通過。一方、13条は15票対10票と大きな差で通過しています。法案は議会全体での投票を経ることになります。具体的な日程は示されていませんが、2018年12月から2019年頭の間に行なわれると思われます。総投票後は多くの議論はされないでしょうが、ヨーロッパの人権団体European Digital RightsのJoe McNameeは、The Vergeに次のように語っています。

議員が受け取ったたくさんの電話やメール、文章は、法務委員会ではない人たちを心配させはじめていると聞いています。

Image: Wikipedia, Know Your Meme
Source: DocumentCloud, Boing Boing (1, 2), TF, Julia Reda, The Next Web (1, 2), The Cut
Reference: Wikipedia

Rhett Jones - Gizmodo US[原文
(かみやまたくみ)

2018年6月27日:脱字を修正いたしました。

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