ピーキーすぎるよぉ。
躍進めざましいAMDは、Intelよりもはるかに安価で高性能なCPUを連発して一躍檜舞台に上がりました。最新のRyzen Threadripper 2950XもIntelをパワーで凌ぐほどに強力なのですが、どうやらちょっと難がある様子。米GizmodoのAlex Cranzがレビューしてくれました。
正直に言います。AMDの新しい16コア怪物CPU、「Ryzen Threadripper 2950X」と付属のエアクーラーが到着した時、私はオフィス中を駆け回って見せびらかしました。このCPUはとにかく巨大で、Intelの一般的なデスクトップCPUの軽く2倍くらいの大きさです。若干中二がかってる「Wraith Ripper」なんて名前でLEDライトまでついたエアクーラーは、大抵の電源ユニット並みの大きさです。もし落とせば、足や床へのダメージは相当なものになるでしょう。見せた多くの人は、たとえコンピュータに全然興味がなくても感心していました。…ところが、CPUの値段を教えると、途端に興味を失いました。
Ryzen Threadripper 2950X

これは何?:AMDの最新スーパーマルチコアCPU
価格:900ドル ※北米時間8月31日発売予定
好きなところ:プロ用アプリケーションでは速い
好きじゃないところ:他では平均的
すでに持っているデスクトップPCをアップグレードしたり、あるいは新しく組んでいる人にとって、CPUの購入の際に考慮するのは二つ、スピードと値段です。過去数年、AMDのモットーは「競争相手より速く、安く」でした。新しいThreadripper 2も、比較対象を間違わなければ例外ではありません。Intelの同等のCPUより900ドル(約10万円)から600ドル(約6万6千円)ほど安く、2倍のコア数を誇る兄弟機のThreadripper 2990WXの半額と考えれば、2950Xはお買い得です。

でも、それはハイエンドのCPUを求めているならの話です。
AMDにしろIntelにしろ、もっと安いCPUは存在しますし、よほどのパワーを必要とするソフトを使っていない限り、それらの方が900ドルのThreadripper 2よりも賢い選択なのです。そこで今回はThreadripper 2を、第8世代の最新IntelデスクトップCPUと、AMDのRyzen 5と比較してみました。どちらも価格的には3分の1か半分ほどです。

その性能は一般的な用途では生きない
では、Threadripper 2は誰のためのものなのか? こういったCPUを求める層はプロフェッショナルか、Redditなどで自慢したい人たちでしょう。別にそれを批判しているわけではなく、私たちが日常的に使うアプリでは高価なパワーを持て余してしまうのです。そもそも、そういった日常的なアプリはThreadripper 2ほどのパワーを念頭に置いてデザインされていません。

他を凌ぐパワーの元は16というコア数です。一般的なマルチコアプロセッサは、コンピュータでも携帯でも2から8コアです(比較したCPUはどれも6コアです)。コンピュータによる計算はコアの中で行なわれ、コアが多ければそれだけ重い処理を手分けできるので、それだけ速くなる可能性があります。
「可能性」というのがキーワードです。なぜなら、すべてのプログラムがマルチコアを使いこなせるわけではないからです。もしブラウザが2コアに最適化されていたら、残りの14コアの使い道がわからず、使える2つだけを使って残りが完全に手持ち無沙汰という状態になります。
ブラウザ関連のタスクをどれだけ速く処理するかテストするソフト・WebXPRTを走らせると、ほぼそんな現象がみて取れます。Threadripper 2950Xは、Intel i5 8600Kやi7 8700Kも含めたすべての比較対象より遅いという結果になりました。差は大きくありませんが(経験上、スコアが500を超えてさえいれば素早く快適なブラウジングが楽しめます)、スコアを見てもわかるように、Intelチップと比べてAMDチップは最適化が欠けており、苦しんでいます。

また、ゲームを遊んだり、Photoshopで複数のRAW画像をリサイズして変換するような、ちょっとCPUに負荷がかかるタスクでも恩恵はありません。アクションゲーム『Rise of the Tomb Raider(ライズ・オブ・トゥームレイダー)』に付属しているベンチマークでは、どれもが平均20fpsでほぼ同等でした。プロセッサよりストレージのスピードの方が重要になるPhotoshopテストでも同様です。


唯一の例外はストラテジーゲーム『Civilization VI(シヴィライゼーション VI)』のAIベンチマークです。これはグラフィックスのテストとは違い、ゲームAIがターンを終了するまでの時間を計測します。なので、このグラフは短いほど有利です。ここではIntelのプロセッサには勝利しましたが、それでも225ドル(約2万5千円)のRyzen 5に負けてしまいました。

マルチコアだとヤバイ性能
Threadripper 2の本気を見れるのは、Geekbench 4です。これはCPU負荷の高いタスクを行なってスピードをテストするものですが、Geekbenchの場合は1コアあたりのスコアとすべてのコアを使ったスコアを両方出してくれるのです。スコアが高いほど速いプロセッサということになります。
AMDの場合、シングルコアのスコアは平均的で、やはりブラウザなどではその性能を発揮できないのがわかります。ブラウザは1コア、あるいは多くて2コアしか使わないようデザインされているので、シングルコア同士の対決ではどうしてもIntelに勝てないのです。

では、マルチコアの成績を見てみましょう。16コアのThreadripper 2 2950Xが、6コアのAMD Ryzen 5 2600X、Intel i7 8700K、Intel i5 8600Kと対決します。

i5のほぼ1.5倍のスコア! 31,485という成績は、比較されたプロセッサを凌駕するだけでなく、2016年にテストを開始して以来すべてのデスクトップCPUの平均スコアさえ軽々と超えています。
ここで気になるのが、現実世界のどういう状況で、そのパワーを感じ取れるのかということですね。
答えは、マルチコアを利用できるプログラムを使った時です。すなわち、ビデオエンコーダーのHandbrake、映像編集ソフトのAdobe Premier、3DソフトのBlender、建築ソフトのAutoCADなどです。これらは家にあるような普通のラップトップやデスクトップだけでなく、オフィスや大学、ハリウッドのスタジオなどにあるような高価なサーバーで利用されることも念頭にデザインされています。これらのアプリはコアがあればあるだけ使うので、多いほど有利になります。

まず、Handbrakeを使って大きな4Kの映像を1080Pに変換してみました。平均的に、このタスクは10分ほどかかりますが、Threadripper 2950Xは5分で達成しました。Blenderではさらに真価を発揮し、一枚のイメージをレンダリングする時間を計測したところ、平均でほぼ10分かかる物を2分30秒でこなしました。あまりに速かったので、確認のためにコンピュータを再起動して再度ベンチマークを行なったほどです。

CPU負荷の高いタスクに対して信じられないパフォーマンスを発揮する、900ドルの16コア Threadripper 2950Xと、1800ドル(約20万円)の32コア Threadripper 2990WX。その値段に見合う価値があるのかという疑問について結論を言えば、これを読んでいるほとんどの方に関してはノーでしょう。同じ16コアでも1500ドル(約16万6千円)するIntel i9 7960Xよりは良い買い物だと思いますが。すべてのことを超速で行ない、ゲームやブラウジング、その他でも決して引けを取らない性能を発揮しますが、これは私やあなたのためのCPUではなく、プロフェッショナルやお金の使い道に困っている人たち向けなCPUのようです。
まとめ
・速い
・デカイ
・値段は900ドルから
2018年8月17日:数字に誤りがありましたので訂正いたしました。