あの感覚を覚えているでしょうか。
「オンラインでポチる」ことにすっかり慣れている人からしたら、自分の姿を見つけるなり「いらっしゃいませ」と声をかけてくれるお店での買い物を、もはや懐かしいと思うかもしれません。店内に入れば、夏は涼しく冬は暖かくあなたを迎え入れてくれます。
いっぽうで、有名な老舗店の閉店や外資系ブランドの日本撤退などショッキングなニュースも最近では珍しくありません。アメリカでもかつて人気だったショッピングモールが衰退していくいっぽうで、オンラインの小売では品ぞろえが増えていくという状況。さらにネット購入商品を届けるためのユニークな配達方法も確立されつつあって、ネットショッピングの勢いが目に見えるかのようです。
そんななか、時代の流れに逆行するかのような動きもいくつかあります。ひとつは、Amazonのようなインターネットネイティブ企業が実店舗を展開するといった取り組み。これは日本でもポップアップストアが登場するなど大きな話題になりました。でも、リアル店舗にこだわる会社はAmazonだけじゃありません。
リアル店舗での買い物を勧める米GizmodoのAdam Clark Estes記者は、その理由を以下のように語っています。
店をかまえるという新しさ
マットレスを専門に扱う「Casper」は先日、北アメリカで新たに200店舗をオープンさせることを発表しました。ウォールストリートジャーナルによると、同社は「小売店を展開することで、オンラインショッピング客を奪い合う競合から頭ひとつ抜けられる」と判断したようです。皮肉的だととらえる人もいるでしょう。でも、Casperの意思決定は間違いではありません。なぜなら、お買い物に出かけるのは楽しいものだから。
ちょっと考えてみましょう。今までの人生のなかで「マットレスを買おう!」と思い立ったことはありますか? 人生の3分の1をこのうえで過ごすならば10万円以上しても構わないし、実物を見たり触ったりしなくてもなんとかなるだろう…なんて、マットレスに限らずオンラインで買い物をしたことがある人なら、想像力で商品のイメージを補いつつ購入ボタンを押したことがあるはずです。
普段買い慣れているものならまだしも、実物を見ないままちょっと冒険したりすると「あぁ、やめておけば良かった」ってのちのち思うときもありますよね(なお、Casperは多くのオンラインリテールショップと同様、返品無料・簡易的な返品プロセスを約束しています)。
買い物に行けば、返品作業が不要
返品無料なら問題ないと思う反面、そもそも返品の手続きが面倒臭く感じることもあるものです。必要なタグや返品シート、段ボールなどの入れ物を用意して郵便局まで出向く…「またこの人、返品に来た」と思われないか気にしながら…。そして、送り返した商品はきっと遠い倉庫に到着したあと、またほかの誰かの手元に届いては返品されるのか…なんて想像するものです。
店へ行くこともできるのに、なぜオンラインで済ませようとするのでしょう?
モールで1日を過ごす休暇を想像してみてください。いろいろな店をあちこち渡り歩いて、本当に欲しいものを納得して買うのって良いですよ。店によってはマットレスを家まで届けてくれて、設置までしてくれるところもあります。
もちろん、これはマットレスに限らずの話です。靴屋さんに行って、ちいさな椅子に腰掛けて試着し、サイズが合わなかったら店員さんが自分の元に持ってきてくれるのを待つ。店員さんは、履きやすいようにヒモをゆるめてくれたあと、慣れた手つきで結んでくれますよね。気に入って「このまま家まで履いていきます」と言うと、さっきまで履いていた靴を入れる袋までくれます。
こういった買い物をオンラインでやるとしたら、どうでしょう。まずは気になる靴のブランド名をググって、ちいさな画像から実物がどんなものかイメージしますよね。良さそうなものがあったら、今度は普段のサイズで良いのか、あるいは大きめにしたほうが良いのか頭を悩ませて…やがて購入ボタンを押し、そのときの熱が冷めた頃に手元に届くなんてこともしばしば。
でも、もし届いたものがイメージと違ったりサイズが合わなかったりしたら、待っているのは返品作業。このプロセスが好きな人っているんでしょうか。郵便局に返品しに行くよりも、店舗で買い物するために外に出かけたほうが楽しいものです。
スーパーに買い出しに行く楽しみ
外に買い物へ出かけることのメリットを挙げようとすると、そのリストはエンドレスになるでしょう。靴やマットレス、テレビなどのアイテムは実物を確認して購入するのが間違いないはずです。
食糧品についてもまだ話していなかったですね。小さい頃に親とスーパーへ出かけたことがある人は、食材を見分ける鋭い目線がいつか自分にも身につくのだろうかと考えたこともあるでしょう。それに、試食コーナーがあればドキドキしながらもらいに行ったことがある人もいるのでは。スーパーの帰り道にたい焼きを買って、家路に着くまでに食べるのも楽しいですよね。
アマゾンCEOで世界一のお金持ち、ジェフ・ベゾス氏にお金をまわす日常に飽きてきたら、外のお店まで足を運んでみてください。ご存知の通り、街中にはまだまだ良い店が残っています。
基本的に何でも取りそろえていて、買い物の途中に疲れたら休めるベンチやソファーを置いているデパートもあります。なかには近くにカフェがある店も、店内にカフェを併設しているところだってありますよね。お店によってはお茶を出してくれたり、高級ブランド店のなかにはグラスのシャンパンを提供してくれるところもあります。外で飲んだり買い物したりするのは、PCの光に顔を照らされながら家の中で同じことをするよりも気持ちが良いものですよ。
でも、外で買い物をするべき本当の理由は、あなたは消費者としてその権利があるから。どんな商品か確かめるように間近で見て触って、十分な情報を得て納得したうえでお金を払う権利があるのです。それに、お店で買い物するのって楽しいプロセスだってことももう一度思い出してみてください。