どこが人気か分析できちゃう。
ある場所がInstagram(インスタグラム)で話題になると、それまでとはまるで世界がガラッと変わったようになったりします。ひと昔前でいえば(今もそうかもしれませんが)テレビの人気番組で取り上げられた店の前に、しばらく行列が絶えなくなる、なんてことも聞いたことがありますよね。
でも、いっきに人が押し寄せるのは都会だけじゃありません。海外では、インスタで話題になった大自然の秘境がたちまち人気スポットになることも増えてきました。
大自然がトレンド化すると、どうなるのでしょう。知る人ぞ知る大自然の穴場がたちまちインスタで話題になったら、たとえば人気(ひとけ)のなかったトレイルの利用者が増えたり、森の奥に隠れた泉は泳ぎに来た人たちで溢れ返ったりすることになります。
一見、地域活性の良い例にも思えますが、整備されていない岩壁や、多くの人を支えるための強度設計がなされていない橋など安全性を懸念する声もあります。また、なかにはソーシャルメディアが自然を破壊するという意見も。アウトドアは探検と冒険をする場所として、位置情報は公開しないほうが脆い自然のためになるのではないかと問いかける写真家もいました。
データを活用した新しい自然保護のあり方
「いつ・どこのエコシステムを訪ねたか」を示すソーシャルメディアのデータが特定のスポットに人々を集中させるいっぽうで、自然の維持・保護に役立てようとする動きもはじまっています。
bioRxivで公開された論文では、こうしたビッグデータが自然リクリエーションの評価や分析に役立つことが指摘されています。ケーススタディとして、アバディーン大学の研究者チームはスコットランドにあるケアンゴームズ国立公園で人々が具体的にどこを訪ねたか記録を調査しました。スコットランド政府による全国調査から野生動物のホットスポットデータを取得し、Flickr画像の位置情報にタグ付けされた時間と場所と比較したところ5年もの期間一致していたことがわかりました。
研究者チームによれば、季節ごとに異なるパターンも調査データとよくマッチしていたことがわかり、公園がどのように使われているかに関しては数キロメートル単位で正確に示すことができたといいます。来訪者によるFlickrの投稿は政府調査よりも素早く、手軽に、安価で公園のスペースを利用していたということになりますね。
ワシントン大学のCenter for Creative Conservationで環境科学者をしているSpencer Wood氏は、アウトドア環境がどのように使用されているか理解するために、ソーシャルメディアを活用している良い例だと、第三者の立場として評価しています。
さらに、調査データとFlickr画像を比較するなかで、ある程度のバイアスが含まれることを指摘しながら次のようなコメントを残しています。
ソーシャルメディアプラットフォームでの人気は、現実世界にも映し出されます。
我々はこうしたバイアスがどんなものか解明するのに取り組んでいるほか、こうした論文がより理解を進めてくれると思います
Wood氏はこれまで、どれほどの人々がアメリカ西部にある38の国立公園を訪れたか正確に計測するのにFlickr画像がどのように使われるか研究してきたほか、ベイカー=スノコルミー国立森林公園との共同プロジェクトで、公共の土地の利用方法の研究にも携わっています。

現時点では概念実証的なものですが、こうした研究データは最終的に、国有林のインフラが来訪者の数を支えるのに十分であるかどうかを判断するのに役立ちます。 米国農務省林野局が大規模なデータ収集を行なうのは4〜5年ごとですが、ソーシャルメディアデータは月ごとの変遷をカバーできると考えられています。
林野局は、国有林の利用に関する全体的な情報を多く保有しているいっぽうで、実地の管理者から聞いていること以外「どのトレイルをどれくらいの人がどうして利用しているか」といった具体的なことは知らないであろう、とWood氏は指摘します。ソーシャルメディアからのデータによって、たとえば眺めの良いハイキングコースが人気だと示された場合、将来どのような土地管理計画を立てるか選定できることも指摘しています。

人間が足を踏み入れる自然を最適化させる
公共機関もこの取り組みを始めつつあります。アリゾナでコミュニティプランナーとして「チーム一丸となって同じ課題に取り組んでいます」と述べるのは、国立公園の保全やアウトドアのレクリエーションプロジェクトを務めているAdam Milnorさん。Woodさんの研究と共通して、彼らのプロジェクトの目的もまた「訪問者たちが広大な公園のどこで時間を過ごすのか」知ること。現在はより良い研究アプローチのためのブレストを行なっている段階だそうです。
また、ソーシャルメディアのデータの収集や使い方に関するプライバシーについては理解したうえで、個人がどのように公園を使っているかの情報ではなく、あくまでトレンドのパターンに焦点を当てているとのこと。そのため「公開設定にされている投稿から利用可能なデータだけを使用していること」「すでに共有されているものから学びたいだけであること」と述べています。プライバシー問題は今複雑ですし、宣言は大事かも。
我々は、複数の国立公園で記録的な訪問者数を経験しています
Milnorさんは、公園内でインスタ映えする多くの場所に、来訪者が爆発的に集まったと指摘しています。全国の国立公園の訪問者数は3億3千万人以上で、40年前と比較すると約2倍も増加。2014年以降に、年間訪問者数が4千万人も爆増したそうです。

ソーシャルメディアの役割が日常生活だけでなく、大自然と人々のインタラクションを理解することにも拡大してきているなか、研究者のあいだでは自然スポットがトレンド化するにつれて、どんな情報が役立ち、どんな情報がミスリーディングになるかを見極めながらデータを活用することがひとつの鍵となっています。
野生動物と自撮りしようとするのは控えてほしいところですが、ソーシャルメディアとアウトドアの関係性に関して言えばおそらく今後さらに深まることでしょう。