当たればシリコンバレーキング、外れればバブルキング。どっちに転ぶのか。
ソフトバンクが投資部門の躍進に支えられ、6月末までの四半期営業利益が前年比49.2%も急上昇! 孫正義氏のビジョンファンドは、シリコンバレーでも存在感を増しています。
明日の命も知れないとばかりに1000億ドルを大放出し、あまりのリターンに、5月には「もう1000億ドル集める」と発表。もう配るところないんじゃないのと早くも心配されています。出資を受けた起業家に取材したCNBCによると、その投資スタイルはいろいろ異例ずくめのようです。浅~くまとめてみます。
1)豪邸でスリッパでプレゼン
サンフランシスコとシリコンバレーを結ぶ国道101号を走っていると、ソフトバンクの支社が見えます。ここからほど近い高級住宅街ウッドサイドに孫氏は2012年、1億1750万ドル(約130億円)という米史上1、2を争う高値で豪邸(写真上)を購入し、ここでプレゼンをさせるのだといいます。
ウッドサイドは家よりも馬が多い高級住宅街です。どの家も道からは見えません。社員も起業家もみな門の外で待たせて警備員が邸宅まで案内し、玄関では別の警備員が出迎え、そして…
全員スリッパに履き替える
のだといいます。全米一、二の豪邸でスリッパ。
やがて孫氏は最低ふたつはある会議室のひとつに客人を案内し、そこでプレゼンを行なわせます。2か月のデューデリジェンス(事前の調査)を終え、重厚な木の調度に囲まれた巨大スクリーンでプレゼンを行なった Cohesity創業者Mohit Aronさんによりますと、「超エリート」待遇で、だいぶ気分がアガるようです。
2)握手でディール成立
1時間ほどのプレゼンをする間、孫氏は時どき口をはさむ程度です。「どれぐらい大きくなると思う?」という質問には、何か含みがあるんじゃないか、とかなり慎重に答えたのですが、パスしたようで、孫氏はテーブルを叩いて、よしやろう!というようなことを言いながらぶんぶん握手しました。
「日本のビジネスで握手がどれほどの重みをもつのかまったく見当がつかなかったんですが、握手はディール成立、細かいところは後で話し合えばいいって意味だって後になって聞きました」とAronさん。このときのディールでは2億5000万ドル(約278億円)が動いた模様です。
3)フォースを感じろ
そんな1時間やそこらのプレゼンで孫氏はいったい何を目安に投資を決めているんでしょうね? 不思議に思っちゃいますけど、Wall Street Journalのジェラルド・ベイカー編集長が5月に行った対談では、次のように語っています。
これだけ場数を踏んでいると、計算はもう必要ない。考える必要すらない。勘でわかる。ヨーダも言っているではないか。考えるな、フォースを感じるのだと。
ジャック・マー(オンラインマーケット企業・アリババグループの代表)だってビジネスプランなんかなかった。プレゼンもない。でも5分で決めた。目がぎらぎらしてたんだ。いくらビジネスプランがあっても、そんなものは時々刻々と変わる。投資した当時、彼はB2B事業しか持っていなかった。今のアリババを見てごらん。B2B事業は全体の1%にも満たない

4)社内のスキゾフレニア的采配
もちろんフォースだけでここまでお金が集まったわけではありません。孫氏が今ビジョンファンドのトップを務めている腹心のラジーブ・ミスラ氏と運命の再会を果たしたのは、2014年夏、南イタリアで世界中のセレブを集めて開かれたニケシュ・アローラ氏の結婚式の席でのことでした。結婚式の数日後に孫氏の後継としてグーグルを辞めてソフトバンクに迎えられたニケシュ氏は解任劇が有名ですが、結婚式の数か月後にソフトバンクに請われてドイチェバンクを辞めて入社したミスラ氏の方は、アラブのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子と孫氏を結び、Uberがボロカスに叩かれたときに筆頭株主に入ったり、辣腕ぷりを発揮しています。
リスクを厭わないリスクテイカーだと、Financial Timesは評しました。チーム・ミスラはじゃんじゃん気前よく投じ、孫氏率いるソフトバンク実働部隊は成長戦略をきちっきちっとやる、「まるでスキゾフレニアだ」という、投資を受けた起業家のコメントを紹介しています。
5)東京に呼ぶ
昨年出資を受けたNaruto創業者Stefen Heckさんの場合、縁結びの神様はAndroid生みの親のアンディ・ルービン(現在はVC、ベンチャーキャピタル)でした。
午後4時ぐらいにいきなりアンディから電話が入って、全予定キャンセルして明日日本に飛べ、と言われたんです。そんなこと言われても、こっちだって客先の会議で予定はぎっしりです。どうしても行かなきゃだめ?と言ったら、MASAに一生会いたくても会えない人もいるらしいぜと言われ、全予定キャンセルして飛びました。着陸後、MASAに会ったのは1時間か2時間です
スーツは絶対着るなとアンディに釘を刺されていたんですが、スーツで現れると、これが大外れで、「MASAはスリッパで茶を飲みながら現れた」といいます。ホワイトボードを囲んであれこれ議論すること1時間。1億ドル(111億円)の投資が決まりました。
6)博覧強記
「計算は要らない」と語る孫氏ですが、記憶力は薄気味悪いほどあるようです。Brain Corp.の創業者Eugene IzhikevichさんはCNBCにこう語っています。
なんでも覚えています。半年前に話したことを、あたかも今しがた聞いた話のようにしゃべるので、うかつな数字は口にするのもびびるほどです。うちが顧客に請求する金額まで覚えているんですからね。尋常じゃないです。ほかの社に対してもこうなのか?って勘ぐっちゃうぐらいです
7)21世紀のKEIRETSU
孫氏は出資後も起業家に四半期ベースで会って激励し、ソフトバンクワールドなどのイベントに呼んで起業家同士が交流できる場を設け、「ビジョンファンド傘下の仲間はみなファミリー。お互い助け合おう」とことあるごとにシナジーを推奨し、また、かわいい起業家たちの口利きも厭いません。「まるで21世紀のKEIRETSUだ」と評されています。
8)ソフトバンクでIPOが消える
ひと昔前はIPOで一般投資家からお金を集めて会社はやっと一人前でしたが、ビジョンファンドの投資先スタートアップはそんなちまちま集めなくても当分生き残っていけるだけのお金があるため、IPOする必要すらありません。VC筋では「ソフトバンクでIPOが消えた」とまで言われています。
9)高い持ち株比率を求める
ビジョンファンドは大体15%、多いときで30%ほどの持ち株比率を求めます。これは起業家が思うより高い比率なので、起業家サイドは出資をいかに低く抑えるかでむしろ苦労するようです。ところ変われば…ですね…。
みな大ボラ吹いてビリオンドルもらっても結果が出せないと後が怖い、ということなのか…。かたや孫氏は2月の企業家賞受賞挨拶で「ホラを英語でビジョンと呼ぶ」と言って会場を笑わせたりしています。
10)起業家は断れない
ロイターも書いているように、いざ投資をもちかけられたら、起業家側に断るという選択肢はもはやないに等しいです。なぜならば、断ると、競合にビジョンファンド砲が着地し、途方もないスケールメリットを奪われて、あっという間に潰されてしまうから。
孫正義氏は2000年2月にソフトバンク株が史上最高値をつけたときに一瞬世界一の金持ちになり、バブル崩壊で90%ほど失い、またアリババの当たりくじで上昇気流に乗り、どういう黒魔術だというほどの勢いで1000億ドルのファンドを集め今に至ります。
最初は「どうせバブルの二の舞」という声もよく聞かれたし、それは今も変わらないんですが、ここ1年半ぐらいは名だたる投資ファンドも、ビジョンファンドに対抗するためお金集めに必死です。ビジョンファンドに対抗されるのを警戒しながら投資先も決めなければなりません。張り方を間違えると、せっかくの投資が水の泡になってしまうからです。なんだかここまでくると、政府が黙っていないような気がして心配ですけど、トランプ当確後、トランプタワーに一番先に駆け参じたのは孫正義氏…。
最近も「最初に来たCEOは自分だったよね」と聞く孫氏に、「そうだそうだ」とトランプ大統領が答える一幕がありました(下記動画の0:26~)。しばらくはこの勢い、止まりそうもありません。
Source: CNBC, ロイター, WSJ, Financial Times, Wikipedia
References: Forbes, 産経