優しさと激しさのバランス、二面性ある世界の調律力が優れまくりで、モウ。
2014年、ヘッドホン界にベーシックでありながらプレミアムなモデルが生まれました。オーディオテクニカ(audio-technica)のATH-MSR7と名付けられたそのヘッドホンには絢爛豪華な装いはなく、しかしその音は全域にわたって精緻に描けるポテンシャルを持ったものでした。
無駄なく品質を追求したその姿に、ぶっちゃけていうと、移動時に聴くならこの音がいいな、と強く思っていたし、今もそう感じています。いや、いました。
あれから4年。ATH-MSR7は「ATH-MSR7b」というニューバージョンに進化。型番だけ見るとbがついただけ。デザインもそう変わりはありませんし、キープコンセプトのマイナーチェンジかと思いました。いや、思ってたんです。
ATH-MSR7は名ヘッドホンの1機だと思うココロは変わりません

1974年に登場した、オーディオテクニカ史上初の市販ヘッドホンがAT-701、AT-702、AT-703。「スペシャル・シート、きみだけの。」というキャッチコピーがつけられたオープン型3兄弟でした。
それから40年を経て登場したのがATH-MSR7です。オーディオテクニカのヘッドホン史上40年目に登場したモデルだったこともあり、当時のギズモードの記事には「40年目の到達点」「ベンチマークにもなりえる、長く使えるヘッドホン」といった見出しを使いましたっけ。
2014年といえばすでにポータブルオーディオ黄金時代です。1,000円くらいで購入できるモデルから、数十万円もの工芸品というべきモデルも勢揃い。いろいろマシマシなサウンドを放つモデルも多数ありました。その中でATH-MSR7は質実清楚な個性を持っていたんですよ。無駄なく、色づけなく、ひたすらに録音された音そのものを再現しようとする、 オーディオテクニカの誠実さを感じられる一品でした。
ええ、今でもATH-MSR7は名ヘッドホンの1機だと思うココロは変わりません。
ケーブル左右出しなど細部の数々が違うATH-MSR7b

ATH-MSR7とATH-MSR7bを比べてみると、ヘッドバンドの曲がり具合やケーブルの処理など、機能性をもたらす各部が大きく違うことに気がつきます。
ヘッドバンドの形状ってあまり目立たないところですが、実は装着感に大きく影響する部分。頭部との接触面積が増えればヘッドホンの重みが分散して頭頂部の負担が少なくなりますし、側圧にも関わってきます。オーディオテクニカの担当者さんに尋ねると、
「長時間のリスニングでも疲れにくく、頭全体を包み込むような心地よい装着感が得られるデザインにしました」
とのことです。ほほう。

イヤーパッド部は低反発素材を使用。僕は耳が大きく、耳たぶも大きめ。さらに常時メガネを装備しています。ヘッドホンとは相性が悪いのですが、ATH-MSR7bなら大丈夫。メガネのツルが押さえつけられてしまうコメカミも痛みなく、耳たぶ周りも楽なのに、着実にフィットしているんですね。外部ノイズもあまり聴こえないし、遮音性の高さも納得できます。
先ほどの担当者さんが「構想段階から軽量化を意識しました」というATH-MSR7bは、約290gから約237gへと53gも大幅にダウン。装着感の良さが手伝って、数値以上に軽くなった気がする!

またケーブルは両耳出しです。
取り回しという意味ではATH-MSR7が採用していた片耳・ステレオケーブル出しの方がいいのですが、両耳出しとすることで左右のドライバーとケーブルをダイレクトにつなぐことが可能になり、左右の音がクッキリと分離してステレオ感がさらに明瞭になるんですよね。また、ミドルレンジ以上のポータブルオーディオプレーヤーやヘッドホンアンプで使えるバランス接続に対応しやすいというメリットもあります。
付属のケーブルはステレオミニプラグのアンバランスケーブルと、4.4mmのバランスケーブル。またハウジング側のコネクタはA2DCとなりました。オプションのケーブルと交換することで音質をチューニングできますよ。同梱されているケーブルとオプションケーブル、どっちの音が優れているかは聴く方の趣味趣向と再生するジャンルによって変わってくるので、いろいろ試してみると面白いかも? また2.5mmバランスケーブルのHDC112A/1.2という、海外製高級ポータブルオーディオプレーヤーとバランス接続できるケーブルも選べます。

サウンドもアップデートしました。
ドライバーは刷新。45mm径とサイズは同じですが新たに設計し直し、ATH-MSR7のサウンドと比較してより伸びやかなトーンへと変わりました。また、振動板には限定仕様モデルATH-MSR7SEと同じくDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを施し、タイトな音の再生能力も持ち合わせているのです。そして2気室構造のチャンバーがドライバーの背圧をスムースにコントロール。わ、空気穴も大きいな。
オーディオテクニカの伝統芸といえる、ハウジング内部の多層空間設計の妙が生きていますね。
ボ、ボーカルのリアルさが深まってる! ストリーミングも心地よく聴こえる!

いやいや、驚きました。ATH-MSR7bの音は、現代の音楽シーンを心ゆくまで楽しめるものとなっていたのですから。
4年前はハイレゾのムーブメントが浸透しつつあった時代。ATH-MSR7はハイレゾサウンドを快適に楽しめるよう、しっかりとした骨格のもと、柔らかみも帯びたトーンにまとまっていました。しかしATH-MSR7bは、バランス接続にも対応し、スピード感とHi-Fiな性格を維持したまま、よりリラックスして聴けるようなサウンドへと進化、そして深化していたのです。

弾むピアノ、軽やかなベルに重なる澄み切った女性ボーカル。空気を切り裂くディストーションギター、ド派手でド迫力なスラップベースに負けないデスボイス。
生きてる。華やかで微かな音が重奏となったウィスパーボイスな曲も、ノイジーなスタイルのハードコア・パンクも、ボーカルがイキイキです。ブレス音を強調していない曲も、ボーカルの一瞬のタメが明確なんです。
これは苦手ジャンルないんじゃないかな。クラシックの次にメタルがくるような曲調が移り変わりまくるプレイリストであっても、すべてがハイクオリティですから。硬軟織り交ぜて試合を制するピッチャーっぽくあり、どんな球でも受け止めるキャッチャーぽくもあり。なんだよ、万能か!
そしてATH-MSR7が苦手だった、ストリーミングやYouTubeの音、すなわち圧縮音源も時にキレイに、時にヘビーに鳴らしてくれます。圧縮音源はハイレゾと比較するとロービットゆえに、製図のごとく全音を精緻に鳴らしちゃうヘッドホンだと優しげな曲でも激情の赴くままに聴こえることがありました。
ATH-MSR7bだと、いきなり荒ぶるようなことがないんです。言っても情熱的ってくらい。100%ロービットサウンドな、基板直出しチップチューンも適度な丸みを感じ取れるほどに気持ちいい。圧縮音源でも楽曲の世界観を崩さないようなサウンドステージを描いていくポテンシャルがあるから、抑揚のコントラストがクッキリとしているポップスやアニソンも、全パートを通じて鳥肌ものですよマジで。
4年という年月で高まったオーディオ技術と調律技術を感じますねコレは…。
旧モデルオーナーも、他モデルを愛している人も、一聴の価値アリです

AT-70xシリーズにつけられた「 スペシャル・シート、きみだけの。 」というキャッチコピーを改めて思い出しました。ATH-MSR7bの音はまさにスペシャルです。どんな椅子に座っていても、移動中に使っていても、快適なプレミアムなサウンドを届けてくれるものです。
ATH-MSR7bの音を知ってしまうと、ハイレゾ曲にフォーカスを合わせていたATH-MSR7はまだピーキーなところがあったんだなと感じるほど、ATH-MSR7bはどんな音楽好きにも優しいモデルとなりました。
旧モデルオーナーも、他モデルを愛している人も、高級なヘッドホンはハイレゾ曲じゃないと価値が出ないと思っている方にも聴いてほしい。これは発売日である10月19日以降に、大型量販店や専門店に足を運んで試聴する価値あり!
もしATH-MSR7bの音が気に入ったなら、あとは黒/青かガンメタ/赤の、どっちのカラーを選ぶかだけで幸せになれますよ!
Source: audio-technica