犬って飼い主のことを忘れちゃったりするの?

  • 11,077

  • author Daniel Kolitz - Gizmodo US
  • [原文]
  • 岩田リョウコ
犬って飼い主のことを忘れちゃったりするの?
Image: Chelsea Beck/Gizmodo US

飼い主としては、犬に忘れて欲しくないですが、本当のところは?

長年付き合って同棲していた人と別れ、悲しみの中、新しい引越し先を探す。ガランとした新居に落ち着くと隣の部屋から犬の鳴き声が...。恋人とずっと一緒に飼っていた犬のことを思い出します。どうしてるかな? 自分のこと恋しがってるだろうか。何年も散歩してご飯をあげて一緒に寝ていたワンコ。でもちょっと待てよ、犬って一緒に暮らしていた飼い主が突然いなくなると忘れてしまうんでしょうか。忠犬ハチ公は毎日ご主人の帰りを待っていましたが、あれはレアケース? 今回も疑問を解くべく、専門家に聞いてみました。

犬は飼い主の行動を思い起こすことができる

Sarah-Elizabeth Byosiere、ハンター大学動物行動学講師。

ペットを飼っている人のほとんどは、自分のペットには記憶力があると言うでしょう。たとえば、散歩するときにつけるリードの音がしたり、リードを見ると犬は大喜びして玄関へ行く。これは「意味記憶」といって、過去に学んだ情報を呼び起こしているのです。

動物の意味記憶はいろいろな種で観察することができます。犬の認知研究がたくさんされていますが、「飼い主を忘れるか」どうかというのは意味記憶ではなく、「エピソード記憶」という種類の記憶に関係があります。エピソード記憶は時間や場所、またそのとき湧いた感情が含まれる記憶(自叙伝的経験)のことです。ですが、動物の自己認識を判断するいい方法はありません。特に犬や他の動物がエピソード記憶を持っているかどうかを調べるのは大変難しいことです。(編注:動物はエピソードを語る言葉を持ちませんからね)

これを判断するために研究者たちは意識構成からエピソード記憶に必要な行動基準を分け、これを「エピソード的記憶」と名付けています。この定義を使うことで、動物行動学の研究者たちは動物が自叙伝的経験を思い起こして行動しているのかどうかを判断することができます。(編注:その性質上、エピソード記憶を持っているか否かわかるのは人間だけです。そこで研究者たちは、動物におけるエピソード記憶っぽいものを「エピソード的記憶」と呼んで区別しているのです)

今日までに大型類人猿やイルカ、アメリカカケスなど人間以外の動物がエピソード的記憶を持っているということがわかっています。では犬はどうなのでしょう。飼い主を覚えているのでしょうか、それとも忘れてしまうのでしょうか。2016年の研究で、犬のエピソード的記憶を評価した例があります。結果は飼い主の行動を思い起こすことができるということでした。この発見により、犬はおそらく特定の時と場所に関連するエピソード的記憶を持っていて、その延長で「だれ」という記憶もある可能性が高いとわかっています。この疑問に対しての答えを出すにはまだまだ研究が必要だと言えますが、今の所、家に帰って犬が駆け寄って来てくれるのは、飼い主に会えて嬉しいからだって信じておきたいですね。

ポジティブな関係を長い間築いた人は、長年記憶されうる

Stefano Ghirlanda、ブルックリン大学心理学教授、ストックホルム大学動物学習記憶リサーチ客員教授。

動物の多くは長期記憶を持っています。名前が示す通り、ある出来事が何年も記憶に残るということです。動物が絵を見分けるトレーニングをしたり、何ヶ月何年か後に記憶のテストをするといった実験結果があるため、ペットが最初の飼い主、そしてペットの人生における大事な人を覚えているという風につなげて考えられることがあります。しかし実際は、人間からすれば賢くないと見られているハトでさえ、何ヶ月もの間、何百種類もの絵を記憶していられるのです。

問題は、動物の記憶というのは覚えられて形成されるのかと言うよりは、最初の段階で形成されているのか?ということです。つまり、動物は自分にとって意味のある出来事やシチュエーションを長期の記憶として形成しているのか?ということです。もしある人がその動物に意地悪をしたとすると、その動物は、即座にとても強い嫌悪の記憶を形成し、恐怖や攻撃の態度を表します。もし逆に、ある人が、ポジティブな関係を長い期間、その動物と築いて来たとすると、その人は長年記憶されることとなるでしょう。短期間の知り合い程度の人が記憶されるという風に私は思っていません。

犬や馬、オウムのような社会性動物にとって他者に対する記憶を形成するのは比較的簡単ですが、あまり他者と関わらない猫は、他者に強い感情を持ちません。猫は社会性が低いため感情を表すこと自体、犬に比べると少ないのです。これはもう犬派・猫派の話に逸れていってしまいますね!

新しい飼い主のもとでいい経験が増えれば、前の飼い主との思い出は薄れていく

Rachel Yankelevitz、ローリンズ大学心理学助教授。

忘却、記憶、愛、愛着。これは人間が他者に対して感じることを表す言葉です。たとえば、私たちは誰か大切な人と会えずに離れているとき、その人のことを考えます。そして再会するときに喜びを感じますよね。人間の場合、このプロセスには言語が関わっており、それによって(愛や執着といった)抽象的な感情を扱い、過去について語ることができます。しかし、犬がこういったことを心の中で思っているのかはわかりません。しかし、学習は言語なしでもおこなえます。何かいいことが起こったときとそのとき嗅いだ匂いを関連付けさせたり、一緒にいて心地のいい人とより多く時間を過ごすようになったりとか。こういった行動は言葉で今何が起きているのかなどを言い表す必要がないからです。実は犬はこのように物事を学んでいるのです。

でも関連付けの記憶は毎日の私たちの生活において不都合なときもあります。辛さ・痛さに関連付けられた記憶は忘れたいと思うものです。忘れる一つの方法として「反対条件付け」と言うものがあります。また、その記憶を思い起こさせるようなことがないままなら、時間が経つにつれて忘れることもできます。

他者との関連付けというのは、いいこと悪いことが合わさった二枚刃のようなものです。たとえば、ある犬が何年も会っていなかったペットシッターさんに会うとき、尻尾を振るという反応を見せるでしょう。反対に、ある犬がもつ、野球帽をかぶった男性に対する恐怖も何年も続きます。アニマルシェルターのスタッフやボランティアの人たちは、犬が人に対してもってしまった過去のネガティブな経験を克服するには、「人間=おやつ、おもちゃ、楽しい時間」というような新しい関連付けを作ることだと言います。しかし、ネガティブな経験が多すぎる犬はこのプロセスに時間がかかってしまいますし、トレーナーは新しいことを取り入れるのに犬の「怖い」という思いを最小限に抑えなければいけません。人間のように、犬たちにとっても安心しているときこそ一番学べるときなのです。ポジティブな経験の多い犬は、新しいおやつがもらえるなど、いい経験が増えるにともなって、前の飼い主との思い出が薄れていきます。なので、犬は飼い主を忘れてしまうこともあります。自分のペットが自分を忘れてしまうというのは残念なことですが、犬が何かを忘れてしまう能力というのは実は尊敬すべき点なのです。犬は現在の状況を受け入れるのが大変得意な動物なのです。心の中の思案、黙考、執着、分析のような言語プロセスなしのとてもシンプルな世界で生きているのです。

認知力が落ちても人を見分けられる動物がいる

Lynette Hart、カリフォルニア州立大学デーヴィス校人間動物行動教授。

これに関しての研究で思いつくものはありませんが、犬の挨拶行動というのは一定で、この行動により飼い主はよくできた犬だと思うのです。これは犬が人間を認識できるということを示していますが、犬も歳をとるにつれて認知力が落ちて飼い主を認識しなくなってきます。長年ゾウの介護をしている人によると、何年もそのゾウに会っていなくても、ゾウは介護してくれる人を見分けることができるそうです。

匂いの記憶はとても強く長く続くもの

Ruth Colwill、ブラウン大学心理学教授。

実家を離れて大学へ行っている大学生が冬休みに実家に帰って愛犬にで迎えられると、忘れられてないんだなと実感することが多いです。実はこういった経験はノーベル賞受賞者でオーストリアの動物学者Konrad Lorenzが著書『Man Meets Dog』で書いています。Lorenzが9ヶ月ぶりに家に帰ると、彼の犬Stasiはまず匂いを嗅ぎ、1分以上おかしくなったように遠吠えをし、それから興奮した様子でLorenzにぴょんぴょん跳ねてくっつき始めたと書かれています。これを見るとStasiは彼を覚えていたとしか考えられません。

匂いの記憶と言うのはとても強く長く続くものです。フランスの小説家マルセル・プルーストは彼のおばの家で香った紅茶に浸ったマドレーヌの刺激的な思い出を表現したことで有名です。犬は嗅覚刺激を処理する鼻と脳で匂いの意味を忘れずにいて、特に家族や感情的にコネクションの強い相手にたいしての匂いは覚えているということでしょう。

また、状況から得られるヒントというのも記憶を呼び起こす手助けとなります。たとえば、飼い主の匂いと入ってくる玄関の関係性など。しかし、例外もあります。人間のように犬も長生きをするので、痴呆になることがあります。そういった場合は、飼い主のことを忘れてしまうかもしれないですね。

犬は愛情を持った人間に対して長い記憶を持つ

Nicholas Dodman、タフツ大学臨床科学教授、the Animal Behavior Clinic創設者。

犬のアルツハイマーは存在します。人間のとは同じではないと唱える人も多いでしょうが、私はまったく同じものだと思っています。アルツハイマーを発症した人の脳には、アミロイドというタンパク質が蓄積されることがわかっています。そして、犬の脳でも同じことが起こります。ですから、犬がアルツハイマーで親しみのある人を忘れるということはあります。

最近YouTubeの動画でよくあるのが、軍隊で遠くの戦場に行っていた飼い主が家に帰ると飼い犬が大喜びしているというもの。あと有名なのはスコットランドのグレーフライアーズ・ボビーという犬の話。ご主人が死んでから、そのお墓に9〜10年も座り続けたというワンちゃんです。日本にも同じようにご主人の帰りを駅でずっと待つ犬がいましたね。こういう話から、犬は愛情を持った人間に対して長い記憶を持つことが確認できます。そしてその人の姿、匂い、すべてを覚えているのです。その犬の持つすべての感覚がその人に向けられるからです。

犬は一生の終わりの方で出会った人間にも強い愛情を持つことができる

Clive Wynne、アリゾナ州立大学行動脳科学教授。

ダーウィンは、測量船ビーグル号で世界を回り4年後に家に帰ったとき、犬が自分のことを覚えていたことにとても感激していたと言われています。ダーウィンほど有名ではなくても同じ経験がある人はたくさんいます。でも考えてみると、長旅から帰ってきて犬が自分を忘れてしまっていたと言う話は聞いたことがありません。もしかしたらそういうこともあったかもしれませんが、それを公表したい人がいないだけかもしれないですね。でも、犬が飼い主を何年も覚えているからといって、歳をとった犬が新しい飼い主に馴染めないというわけではありません。私はもっとたくさんの人が歳をとった犬をシェルターから引き取るべきだと思っています。子犬のころから育てないと愛情がわかないと思っている人もいるかもしれませんが、それは間違いです。犬は一生の終わりの方で出会った人間にも強い愛情を持つことができるのですよ。

    あわせて読みたい

    powered by