あらゆるカルチャー、業界の中でも特に早く世の中の変化の影響が表れることから「炭鉱のカナリア」にも例えられる音楽。なかでも現代のポップミュージックの最前線であるヒップホップは、デジタルデータを使ったDJ、CDからデジタル配信へのシフトなど、いち早く変化に対応してきた分野ではないでしょうか。
今回ギズモードでは、東京はお台場で生まれ育ち、今もお台場を拠点に活動するラップクルーNormcore Boyzにインタビューをすることに。弱冠20歳程度の彼らの音楽や活動から見える、インターネット、SNSなど、テクノロジーの発展がカルチャーに与えた影響とは?
子どもの少ないお台場で出会った、年齢の違う5人の幼なじみ
──みなさんは東京都港区台場出身とのことですが、幼なじみなのでしょうか?
Gucci Prince:そうですね。年齢はバラバラなんですけど、音楽をやる前から友だちでしたね。
──学年が違うとそこまで仲良くならないイメージがあるんですけど。
Gucci Prince:いや、そんなことないですね。遊ぶときも先輩後輩は関係なく遊んでました。
OSAMI:お台場は子供が少なくて学年にクラスも少ないので、上下のつながりが強いんですよ。
──なるほど。じゃあ仲が良かったから同じ音楽を好きになっていったのでしょうか?
Gucci Prince:そうですね。もともとDaluくんがいろんなヒップホップを聴いてて、それの影響を受けました。
OSAMI:俺もそうですね。遊ぶときに基本的に音楽をかけてるんですけど、昔からDaluがヒップホップを流してて。そこから自分でも知識を仕入れて「この曲でフィーチャリングされてるラッパーの曲も聴いてみよう」って広がっていった感じですね。
Gucci Prince:今だとSpotifyとかApple Musicのプレイリストでいいものが見つかるので、昔よりディグしやすくなりましたね。
OSAMI:Shazamも助かるよね。
──もともとYoung Daluさんはどうしてヒップホップに詳しかったんですか?
Young Dalu:僕も先輩にヒップホップ聴かされて好きになって、単純にそれをこいつらに聴かせてた感じです。聴いてたのはヒップホップだけじゃなく、パンクとかいろんなジャンルを聴いてたんですけど。
──共通して好きなアーティストは?
Young Dalu:KANDYTOWN。
Gucci Prince:KANDYTOWNには一番インスピレーションを受けたと思いますね。今みたいにトラップ(アメリカで流行しているヒップホップのサブジャンル。808のキック、スネア、ベース音が印象的)をやる前には、ブーンバップ(90年代らしいクラシカルなヒップホップ)とかもやってたりしてて。影響は大きいですね。
──そうなんですね。ちょっと意外でした。
Gucci Prince:あとはUSモノ(アメリカのヒップホップ)もみんな同じように聴いてましたね。それぞれ好みは違うんですけど。
Night Flow Mike:好みはいまのほうが全然違ってきてはいると思いますね。
Gucci Prince:そういう違いも大事ですね。
ただの普通ではないけど「お前らと変わんないよ」

──かつては“地元の仲間で音楽をやる”といえば、バンドを組むのが当たり前でした。この5人にとってはヒップホップのグループを組むのは当然の流れだったのでしょうか?
OSAMI:そうですね。Daluは昔バンドやったりしてましたけど。
Young Dalu:…そうですね(笑)。
──『Call I』のMVではレスポール持ってましたね。
Young Dalu:俺が好きだったアーティストがレスポール持ってたんで、それを買ってずっと置いておいたのを何年か後にMVで出したっていう感じですね(笑)。
でも中学のときはサマソニでグリーンデイを観たりして、そういうのをバンバン食らってましたね。
──でもこの5人で集まって音楽をやるとなると自然とラップだった、と。
Gucci Prince:そうですね。自然とそうなりました。最初はフリースタイルから入って。
Young Dalu:金かかんないし(笑)。
OSAMI:いざやろうって感じではなくて、自然と遊んでいる流れで作っていました。名前をつけたのも後からだし。
Young Dalu:クルーみたいな感じでやってて、それに名前がついたって感じですね。
──Normcore Boyzという名前の由来は?
Young Dalu:無地でシンプルなファッションを指す「ノームコア」がニューヨークで流行っていたってのと、自分たちは別に悪さをしてたわけでもなく普通に生活していて、一緒にいる間はひたすら音楽をやっていたから…。
Gucci Prince:ひたすらに。
Young Dalu:だから「ノームコアじゃね?」みたいな感じで。(お台場には)自由の女神もあるし。勝手に「ニューヨークなんじゃね?」って言ってて(笑)。ただの普通(ノーマル)ではないけど「お前らと変わんないよ」って。
Gucci Prince:最初はファーストEPのタイトルにもなっている『Normcore No More』って名前でブーンバップとかクラシカルなのをやっていたんですけど、それだと名前長いしNormcore Boyzのほうが気持ちいいかなって。
──洋服の話で言えば、最近はもうB-BOYっぽくない服装のラッパーも当たり前ですよね。先日Normcore Boyzが出演していたイベントに出ていた他のアーティストもファッションがバラバラでしたし。
Young Dalu:最近はB-BOYっぽくない格好の人もラッパーっていうか“誰でもラッパー”みたいなところはありますよね。俺らも全然目立つ格好してないけどラップやってるし、あいつらはあいつらという感じで。
──ラップはヒップホップという音楽ジャンルを超えて、スタイルというか技法になっている感じもしますしね。
OSAMI:一番幅広い音楽ですからね。
Gucci Prince:誰でもレコーディングできちゃうし。やる気があれば。
はじまりは「iPhoneのイヤフォンと、YouTubeで仕入れた最新のビート」

──Normcore Boyzはメンバーみんながラッパーですけど、一緒に音楽を始めて、どんな感じで曲作りを始めたんですか?
Gucci Prince:iPhoneに付属しているイヤフォンってマイクがついてるじゃないですか。それをパソコンに刺してそのマイクで音を録ってました。
OSAMI:知識がなさすぎて、そんな斬新な感じで録って、それをSoundCloudにアップしてました。今はもうその曲は消しちゃったんですけど。恥ずかしくて(笑)。
──ビートはどうしてたんですか?
OSAMI:YouTubeでビートを探して、それを使ってます。
──それは当たり前なんですか?
Young Dalu:僕らはそうですね。あんまり抵抗ない。
Gucci Prince:ないよね。
Young Dalu:別に。全然かっこいいし。
Gucci Prince:日本人のビートメイカーのプロデュースよりもType Beat(*)を使ってますね。音楽を聴いてて「最高。こういう曲作りたいな」と思ったら、そのアーティストのType Beatを検索してっていう感じで。
*:YouTubeやSoundCloud、その他専門サイトで配布 /販売される特定のアーティストをイメージしたビート。世界基準での旬の音が手軽に手に入るのが特徴。

──各メンバーがビートを見つけて持ち寄る感じですか?
Young Dalu:そうですね。「これでやりたい」って。
OSAMI:このビートでこういうことをやりたい、っていうのをLINEで送ったり。
Gucci Prince:それぞれ常にサイトやYouTubeでビートはチェックしてますね。
Young Dalu:うん。YouTube最強だよね。
Gucci Prince:マジ最強。
──練習や曲作りはどこでしているんですか?
Gucci Prince:地元にマリーンハウスっていう建物があって、そこの屋上には誰でも出入りできるんです。そこで休憩したり、集合場所にしたりもしてるんですけど、曲作りや練習もそこでやることが多いですね。僕なんかは最初全然リリックが書けなかったので、そこでひたすら練習しましたね。
OSAMI:お台場の海岸のところにあって、出入りにお金もかからないのでいいんですよ。
お台場は「島」であり「自分たちのエネルギー」

──自分が知る限り、これまでお台場には音楽シーンというものはこれまでになかったと思うのですが。
Young Dalu:ゼロですね。
──そこを拠点としていることがとにかく新鮮で。お台場はNormcore Boyzの音楽に影響を与えていると思いますか?
Young Dalu:全部に影響を与えていますね。
OSAMI:それがないと絶対今の状態になっていないし、これからも上にはいけないと思っています。街自体にエネルギーをもらっているし、あの街にいてこその俺らだと思う。特殊な街だしね。
Young Dalu:間違いないね。
──地方ならまだしも、東京都内で子どもの数が少ない場所というのもあんまりないでしょうしね。
Young Dalu:隔離されてるもんね。
Night Flow Mike:出られない(笑)。
OSAMI:島だよね。“◯◯区”とかじゃなく。
Gucci Prince:うん。一つの島みたいな感じ。

──その隔離感みたいなものは、どういうところに感じますか?
Young Dalu:電車がりんかい線とゆりかもめしか無いんですけど、東京テレポート駅も24時前には閉まっちゃうし、ゆりかもめの駅も24時半くらいには閉まっちゃう。遊びに行くとしてもその前から出ないと出られなくなっちゃうんですよ。あとは車を使うしかない。そういう意味ですごく“島”ですね。
──遊びに行くにもちょっと気合いを入れないといけない、と。
Gucci Prince:そうですね。
OSAMI:基本的に何かない限りはずっとお台場にいるようになりますね。服も買えるし、ご飯も食べられるから、大体のことは済んじゃうんですよね。
Gucci Prince:お台場で散歩するくらいですね。スピーカー持って音楽流しながらいろいろ話したりして。全然飽きないですね。
Night Flow Mike:5人住んでるところが近すぎて、すぐに会えて楽だしね。
──ニートtokyoのインタビューではお台場を“すけべな街”と表現されていましたが。
Young Dalu:そうですね。何が言いたかったのか俺もよく分かっていないんですけど(笑)。
──(笑)。
Young Dalu:夜になると全然が人いないんですよ。いたとしても訳のわからない外人だったり、終電逃してそこらへんで酒飲んでる奴とかばっかり。でも、俺らも暇すぎて知らない人とめちゃくちゃ話すんで、海の前にいる大人の酔っ払いグループの人に絡んで朝まで遊んだり(笑)。
──都会なのに浜辺があるお台場ならではって感じがしますね。
Young Dalu:朝まで遊んで「今度俺がやってる店来てよ!」とか言ってもらったり。去年の夏はずっとそんなんばっかりで、毎日訳のわからない人に絡んで遊んでましたね。たまたまだと思うんですけど、お台場は人がいいんですよ。来る人もいい。フィーリングが近いから。そういうところで「すけべだなー」って思いますね(笑)。
「俺らもやるっしょ」リリースすることは何も特別じゃない

──遊びの延長で始まったNormcore BoyzですがTokyo Young Visionというレーベルから作品をリリースするに至りました。そこまでの経緯を教えていただけますか?
OSAMI:「来なよ、録ろうよ」ってスタジオに誘ってもらって。そこで初めてちゃんとしたスタジオで録って、やり方が分かったので、自分たちの作品を作り始めたんです。
Gucci Prince:そこはもともとTokyo Young Visionの先輩のWeny Dacillo(ラッパー)が使ってたスタジオで。そこからレコーディングを重ねるうちに5曲できて、それを出そうということで最初のEP『Normcore No More』をリリースしました。
OSAMI:Wenyや身内の人間がiTunesでリリースしていたので、別にそれが特別なことという認識はなく、自然な流れで「俺らも出すっしょ」って感じで作りましたね。
──ちなみに初期の頃はブーンバップをやっていたとのことですが、『Normcore No More』を始めNormcore Boyzのサウンドはトラップを中心としたものですよね。
Young Dalu:音楽性が変わったというよりは同時進行でやっていたんですよね。ブーンバップと同時に今っぽいトラップも遊びで録ってて。気付いたらこっちの趣向が強くなってきた感じですね。
OSAMI:ブーンバップをやってた時もトラップを聴いていたし、逆に今トラップやってるけどブーンバップを聴いてるし、そもそもずっといろんな音楽を聴いていたので、全然抵抗はなかったですね。
Gucci Prince:個人的にはブーンバップからトラップに変わるとき、リリックで戸惑いはあって悩みましたけど。
──フロウが変われば、言うことも変わりますもんね。
Gucci Prince:そうですね。
Young Dalu:それと最近のUSは特にメロが強くて、歌える奴は強いなと思いますね。歌えない場合は…。
OSAMI:ヴァイブスでどうにかするしかない(笑)。
録ってすぐにリリースできる現代。制作スピードも加速する
──その後リリースした作品『TOKIO TELEPORT』も「たくさん曲ができたからアルバムをリリース」という感じだったのでしょうか?
Gucci Prince:いや、あれはまだアルバムじゃなく、ミックステープって感じですね。大量に30曲くらい作って。
Young Dalu:EPと同じような感じで、ね。
OSAMI:3~4カ月でひたすら作って貯めた曲の中から、10曲に絞って出した感じです。
──「どんどん曲できるから出して行こう」っていうスタンスなんですね。
Young Dalu:この前も、スタジオに近くに住んでるシンガーの女の子が来たので、その場で録ってSoundCloudでリリースしました。何も言わずにパッと作って、パッとレコーディングして、パッと出すっていう。
OSAMI:帰りの電車でジャケ写とか作って、帰ってDaluのPCで出して。
Young Dalu:最初ミスったよね。
OSAMI:そうそう(笑)。
Young Dalu:間違って違う曲をアップしちゃって。「やべやべ!」って(笑)。
──(笑)。
Young Dalu:でも、USの真似ってわけじゃないけど、いろんなところに配信したりするのは面白いですね。見てる側も面白いと思うし。なんでもエンターテインメントっていうか。
──やろうと思えばできちゃう時代ですからね。
Young Dalu:フィーチャリングのキャスティングもその場で来た人に「じゃあ入ってください」みたいな感じで、それさえも面白い。気を張ってやってはいるけど、8割くらいはリラックスして毎回曲を作ってるっていう感じっすね。
Gucci Prince:うん、ずっと変わらずに楽しいですよ。
──遊びで始めたけど、そのスタンスは今も変わらない、と。
Young Dalu:聴く人が増えたとはいえ、人のためにやってるわけじゃなく自分のためなんで、プレッシャーはないですね。質はマジで変わってきたと思うし、その分リリースすれば聴いてくれる人が増えるから「もっとやっちゃおう」っていう。味をしめたって感じで(笑)。

──曲は常に作り続けているんですか?
OSAMI:アルバムを作るためにスタジオに入るというわけじゃなく、定期的にスタジオに行くようにしていて。結果的にスピードが速くなってる感じですね。
──スタジオに入る時というのは、パフォーマンスの練習ではなく曲作りが目的ですか?
OSAMI:曲作りですね。録るだけです。
Night Flow Mike:何も決めないで、毎回行ってから「こういうのやらない?」って遊び感覚で録っていく感じ。
Gucci Prince:家でリリック書きづらいんだよね(笑)。
Young Dalu:確かに最近何も書いてない。家では何も浮かんでこないので、スタジオ着いて「よし!」って急に悟りを開く感じです(笑)。「やべー、やべー」って言いながら(笑)。
OSAMI:なんだかんだみんなスタジオでパーっと書いてますね。他の人たちがどうなのかは分からないんですけど、自分たち的にはこれが普通で。
──スタジオでは毎回どれくらい曲を作っているのでしょうか?
OSAMI:だいたい6時間で5~6曲書いてます。
Gucci Prince:日に日に完成させようとする意識が強くなってますね。
Young Dalu:うん。録った後にミックスまでして、とりあえず作品にしておくようになった。
OSAMI:曲それ自体は昔のほうが量産してたんですけど、ボツにするのが多かったんですよね。それに対して、最近はしっかり確実に仕留めにいってます。
──最後に、これまでの作品はすべて配信限定でしたが、CDやレコードでのリリースに憧れはありますか?
OSAMI:レコード出す?って言う話はちょっとあるんですけど、まだ決まってなくて。でも、基本的には今はデジタルでいいかなって感じですね。
Young Dalu:スポンサーがついて出せるなら出そうと思ってますけど、俺ら個人では「デジタルでいいかな」と。残るしね、デジタルでも。そこは時代の流れに任せていいかなと考えてます。
OSAMI:もちろん、作りたいって気持ちはありますけどね。それは流れに任せて。作るからには売れてほしいしね。
Young Dalu:そう。「なるべく金かけずに成り上ろうぜ」って感じですね。
