20代、30代でリタイアする「FIREムーブメント」が流行ってる

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20代、30代でリタイアする「FIREムーブメント」が流行ってる
Video: PBS NewsHour/YouTube

ストレスいっぱいな社会と別れを告げる若者たち。

AIが広まって、「働かなくていい未来」が見え隠れしている今、20代、30代でリタイアするムーブメントがギークの間で注目を集めています。

名付けて「FIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的に独立して早期退職)」。火付け役はこの写真のPete Adeney(ピート・アデニー)さんです。

4%ルール

夫婦で各6万7000ドル(約750万円)のソフトウェアエンジニアの仕事をしながら無駄遣いを一切やめて貯めこみ、20万ドルの家と60万ドル貯まった30歳のところでスパッと会社を辞めました。60万ドルあれば運用利回り4%を生活費に回すだけで、夫婦と子ども計3人の家計は十分回っていくと考えたからです。

その経験をブログ、Mr. Money Mustacheで広めたら共感を呼び、年間40万ドル(約4500万円)の収入源になってしまってるわけですが、いちおう30歳のリタイア時点の資産で13年間、生活は賄えているようです。

Video: PBS NewsHour/YouTube
「まだ老後が55年ある」と語るピートさん

1年で使うお金の25倍必要

アーリーリタイアするために必要な貯蓄は、年間支出の約25倍です。ピートさんの場合、車も持たず、家も安い地域でつましく暮らしていたので、3人家族で年2万4000ドル(約270万円)もあれば十分でした。この面でも、60万ドルでOKだった、ということに。

贅沢は要らない。自由が欲しいだけ

早期退職っていうと悠々自適な贅沢ライフのイメージがありますけど、ピートさんを見るとわかるように、FIREの人たちは別に贅沢したいわけじゃなくて、自分の時間、自分の人生を自分で決めたいという思いが強いのが特徴です。永久就職が過去のものになって、海外アウトソースとAIで仕事が奪われて、明日をも知れない時代。「会社なんてなんのアテにもならない、自分の身は自分で守らなきゃ」という意識ですね。

昇進レース、昇給の心配、住宅ローン、過労、終わりのない大量消費…といった悪循環をお金の力で断ち切りたいと切望する人たちがミレニアル世代を中心に現れ、数の計算を始めたら、ちょっと工夫すればできると誰かが気づき、Redditなんかのネットで情報交換しながら実践する人が増えている、というわけです。

成功体験をブログする人が多い

成功した人たちは、その体験をブログや書籍でシェアして副収入源にしています。実践方法を紹介するポッドキャスト「FIRE Drill」も、Apple Podcastで上位100に入る人気っぷり。けっきょく夢見る人が多い割には実行に移す人が少ないから安定的に読者が確保できるんでしょうね。

使えるものはすべて使って貯める、という拡大再生産の面もありますけど、ブロガーのインタビューを見ると、社会のレールから外れる中で自分を見失わないように記録して発表しているという、メンタルな効能もあるようです。

Lean、Fat、アービトラージ

FIREにも2通りあって、「Lean FIRE」は体脂肪を燃やしまくるかのごとく、とことん切り詰めるタイプ。「Fat FIRE」は普通の生活水準を保ちつつ、余剰収入(fat=脂肪)を貯蓄と投資で肥やしまくるタイプです。

さらに「バリスタFIRE」なんてのもあって、これは会社の健康保険目当てにスタバでパートで働くセミリタイア。アメリカは健康保険バカにならないのでこんな変則型ができたんでしょうね。

現在進行形で「firing」と書けば、それはケチケチ貯めこみ、家計の柱となる金の卵をコロコロ太らせ、経済的独立を目指す段階を指します。あがりになると「fired」の完了形にステージアップします。面白いですよね。英語で「fired」っていうと普通はトランプの「You're fired(おまえはクビだ)!」という決め台詞みたいに受動態でしか使われないのに。FIREムーブメントの「fired」はあくまでも能動態です。

ちなみに「金融用語がとても好き」という特徴もあって、たとえば賃料の安い地域に引っ越すことをFIREムーブメントの人たちは、「arbitrage(アービトラージ、サヤ取り)」と呼んだりもします。ゲームのモノポリーのような感覚で「持たざる者」から「持てる者」への転換を図っているんですね。

やるか、やらないか

日本でも「セミリタイア」、「早期リタイア」、「資産形成」、「断捨離」などはバズワードとして定着しているので、海外に限った動きではないですけど、FIREムーブメントはとにかく退職年齢がめちゃ早いという違いがあります。

ウォール街の金融関係で7年働いて225万ドル(約2億5500万円)貯め込んで28歳でリタイアした女性J.P. Livingstonさん(29)はその最たる例で、小中学の頃から書店でリタイア本を読み漁り、あのバカ高いハーバード大を学生ローンゼロで3年で卒業し、給料の7割を貯めて蓄財に励んで見事あがりを果たしました。夫はまだ働いていますが、そちらの稼ぎを抜きにしても、これだけの元手があればもう一生働かなくても親子3人で年間6万7000ドル(約760万円)の生活費は勝手に入ってきます。

そんな成功例を見て「27歳で1億円リタイア」を目指してマイカーと自宅の空き部屋3室をすべて賃貸して貯めまくってる新卒の子なんかもいて、「お金のために働かなくていい自由の切符を人生のなるべく早い段階で手にいれる」というのが大学進学よりも、ある意味、大きな人生目標になっている状況です。いい大学に入っても、卒業する頃には学生ローンで借金漬けということもアメリカは多いですからねぇ…。

アメリカ人は収入の大体3%しか貯蓄がなくて(連邦準備制度理事会調べ)、「いざというとき自由になるお金が400ドル(約4万5000円)もない」層が半分近くもいます。ミレニアル世代(30歳以下)の3分の2は「老後の蓄えゼロ」なので本当に一部のムーブメントですけどね。

月々で物事を考えている限り資産は一生貯まらないけど、お金がお金を生む資本主義のしくみに早い段階で気づいて、できることをやっていけば結構差はつきます。いや本当にやばいぐらいつきますので、そういうことを教えてくれる人が周りにいない20代、30代にこそ意識してもらいたいですね、FIRE。

Source: YouTube, The Guardian