ジョナサン・アイブに訊いた新iPad Proのデザイン「iPhone 5の頃に、戻りましたよね?」

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  • author 山本勇磨
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ジョナサン・アイブに訊いた新iPad Proのデザイン「iPhone 5の頃に、戻りましたよね?」
Photo: 山本勇磨

最適にしてこそ前進。

iPad Proが世に披露されたのが、かなり前のことのように感じます。キーノートからまだ一カ月しか経っていないのに、実際に使っていると感じるんです。新型iPad Proは馴染むのが早いって。

すっかり、前モデルから大きくデザインも変わって、ホームボタンすらなくなったのに。

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Photo: ハイロック
イベントが行なわれたBrooklyn Academy of Music

さて、2018年10月30日のこと、ギズモード・ジャパンはApple Special Eventを現地で見るため、ニューヨーク・ブルックリンに行ってきました。ブルックリンは、世界的に見てもアートの街。当日は、在住の著名アーティストであるKAWSが訪れるなど、クリエイティビティ溢れるiPad Proを発売するのにバッチリのロケーションでした。

そしてギズモードは今回は、特別にグラフィックデザイナーのハイロックさんと同行。その感想戦をムービーで公開中です。

Video: ギズモード・ジャパン/YouTube

その中から、気になった話をアーカイヴ。実はハイロックさん、今回のiPad Proが発表されたことをきっかけに、Appleの最重要人物、ジョナサン・アイブと話ができたそう。

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Photo: 山本勇磨
左から、鈴木康太(ギズモード・ジャパン編集長)、ハイロックさん

鈴木康太(ギズモード・ジャパン編集長):この動画を撮るときにハイロックさんからメールいただいて、そこに気になる名前が書いてあったんですよ。ある人と話をする機会があったんですよね?

ハイロック:これはね、もう死んでもいいなと思ってるんですけど。ジョブズさんいなくなった今、Appleの最重要人物といってもいいデザイン最高責任者、ジョナサン・アイブと話す機会がありまして。

鈴木:もうね、仕事抜きにして羨ましいです。

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Photo: 山本勇磨

ハイロック:非常にクローズドな催しとして行なわれていて、Appleの方に短い時間、隅っこのほうに放り込んでいただきました。場所はホテルのスイートルームなんですが、そこにブルックリンで発表された製品と、ジョナサンアイブさんが居まして。そこで会話をさせていただきました。

鈴木:どんな会話をしたんですか、、、?

ハイロック:これね、もう、与えられた時間、少ないってわかってるんですよ。何分とか言われていないですけど。10分以上話したら失礼だなと思って「I have two questions.」。二つ質問がありますと最初に伝えました。

で、一つは製品のこと。

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Photo: 山本勇磨
左が新iPad Pro(11インチ)、右が旧iPad Pro(10.5インチ)

ハイロック:今回のiPad Proはフラットなデザインになったじゃないですか。昔は背面に沿ってカーブがついていたんだけど、今回は削り取ったようなデザインで、iPhone 5やSEに近くなりました。

この会話は雑談ベースで行なっているので、公式のコメントにはならないことを頭おきに話すんですけど、

今回のiPad Pro、iPhone 5のようにデザインが少し後退しましたね?

と、少し意地悪に投げかけてみました。

だけど、この質問に対してジョナサンアイブは、

デザインはいつも前進させていくもの。常に最適なものを求めている

と答えてくれました。

デザインと機能の両立っていうのがAppleの一番良いところで、デザインだったらどんどん新しいスタイルだったり、今までに見たことがないものを探していく行為。あとは、今までよりも使いやすくすること。その両輪を回して初めていい製品となるんだけど、今回、主としたのはこのApple Pencilをつけること。

それからケース(Smart Folio、SmartKeyboard Folio)が今回、両面を覆うタイプになってますけど、それを機能させる形でないといけない。さらにサードパーティーが組み込みやすくすることで、Appleだけでなく、他の会社にも関連性を持たせたい。そんなことを踏襲したアイデアとして、フラットになったと言っていました。

鈴木:やっぱり、一番のポイントはPencilなんですね。

ハイロック:と言ってましたね。iPadとPencilをセットで買ってもらわないと、一番の力が出せないということの表れかと思います。

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Photo: 山本勇磨

鈴木:もう一つは何を聞いたんですか?

ハイロック:もう一つは、デザイナーとしての質問ですね。僕自身、デザインをやっていると迷うことがあるんです。最終的にAとBの答えがあって、どっちを選べばよいか。たとえば赤にしようか青にしようか、四角にしようか丸にしようか、すごく迷うんです。「そういった場合って、最後はどうしますか?」と聞きました。

たとえば、わかりやすい選択肢だと、コインを上に投げて裏表で決めるとか。クライアントや、社員に多数決を取るとか。AとBが両方完結して、自分のなかで答えが出たうえでの選択だから、どっちになってもいいじゃないですか?

だけど、ジョナサン・アイブの場合は

答えは絶対にある

と。

かならず考えて考えて考え抜いて、最後に選び抜くという答えでした。まぁ当たり前なんですけどね。

鈴木:でも最終的にどっちに決めるかって、その人の思想が出そうなところではありますよね。二つの質問をする時間って、短い時間だったんですか?

ハイロック:そうだね。だけど僕的には夢のなかに居るからスローモーション。だけどおそらく5分も経ってない。

鈴木:でもジョナサン・アイブと一対一で話せる機会を持っている地球人ってそう多くないですよ。

(終)

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Photo: 山本勇磨
最後に撮影のようすを

フラットなデザインが、後退ではなく最適な解だと言うアイヴ。すなわちデザインにおいては、過去に戻ることが前進になることもあります。

たとえば、iPad ProにApple Pencilがくっつくデザインは、iPad Proがクリエティブに親和であることを示すために重要なポイント。つまり、ペンを据えるスペース充電機能を実現するために、ソリッドな側面になりました(このシステム本当すごい。いつ使ってもApple Pencilが100%なんだもん)。

またフラットな背面は、SmartKeyboardで背面までカバーし、フラップの構造をシンプルにするためのデザイン。iPad Proの大胆なデザイン変更の裏柄には、過去の意匠にとらわれると実現できなかったことを打開するものなのです。

この話はまだ一つの製品を織りなす、一本の糸をつむぐような小さな哲学だと思いますけどね。でもこうした生のコメントが聞けると、Appleのデザイン哲学の一部を実感できた気がして、ちょっと嬉しくなりますね。

彼の足元に注目。Appleのジョナサン・アイブは私たちと同じ人間だったんだ!

彼の秘密は足元にあり。Apple(アップル)のチーフ・デザイン・オフィサーとして、製品のデザインを監督しているジョナサン・アイブ。普段はなかなか公...

https://www.gizmodo.jp/2017/10/jony-ive-is-a-human-man-with-good-taste-in-shoes.html