宇宙のどこでも物理ができるよ!
イェーイ! 質量の単位=「kg(キログラム)」の定義が新たにされました! って言われてもイマイチなにがどう変わるのか分からないですよね。体重が軽くなるのかな? 量り売りが安くなるのかな?
いいえ。ハッキリ言ってほとんど何も変わりません。というのも、あまりにもバックエンドで細かい話なんです。
でも、未来の私達はこの歴史的な瞬間に感謝するでしょう。
見本品から説明書になるけど、気にせずOK
これまでのキログラムの定義は、見本となる物体「キログラム原器」の質量ピッタリとされていました。フランスに厳重に保管されている、金属の塊です。要は、この見本品が絶対的に「1kg」なので、世界はこれに合わせて回ってくださいね、という若干(かなり)不便な体制でした。
今回の新定義はというと、とある数字「プランク定数」をカッチリ定めたので、とある道具「キブル天秤」を使えば「1kg」が再現できますよ、というもの。要は、この説明書に沿ってさえいれば良いよ、というナイスな体制になるのです。
でもだからといって、ちょっくらキブル天秤とやらを買ってやろうじゃないの、という必要は(多分)なく…。なにせキブル天秤は、小数点以下数十桁くらいの精度で質量を量るための道具で、使うとしたら私たちが使う市販の秤を作る会社とかなんです。
言い換えると、以前のキログラムの定義を気にせず生きてきた人ならば、そのまま引き続き気にしないでもOK。市販の秤があれば、十分です。
情報 > 物のワケ。楽にコピペをしたいから
ではなぜ、わざわざ新たな定義を作ったのかというと、いい加減「物」に頼るのをヤメたかったから。もうね、意味わからないことだらけでして。
たとえばキログラム原器の質量……変化してました。基準器としてありえないですよね。そりゃ極々小さい変化でしたが(真空などを駆使して厳戒に保管しているので)、基準が変わっちゃあ困ります。なにせキログラム原器が少し軽くなっていたら、世界の1kgも軽くなるんです。
そして世界との共有。どうやってこの世界にひとつしかない物を配るのか…。無理です。なのでなるべく完璧なコピーを作って、コピー品を主要国に配っていました。とはいえアナログな「物」の世界では完璧などほとんどありえないので、初めからエラーを抱えていたということに。
そのほかにも色々な理由があったのですが、とにかく見本品やら「物」による定義から卒業する必要がありました。
時間が経っても変わらず、簡単に共有できる定義にするなら…そう…説明書の形をした「情報」にせねば!というわけなのです。だって、良くも悪くもデータは楽にコピペできますからね。
物からの卒業おめでとう! 地球の卒業もしやすいよ
実はほかの基礎的な単位の定義はすべて情報化済みで、たとえば長さの単位メートルは一昔前まで「メートル原器」が基準とされていましたが、今では「光が1/299792458秒のあいだに真空を伝わる距離」とされています。そして今回のキログラムの情報化とともに、温度の単位「ケルビン」、電流の単位「アンペア」、そして物質量の単位「モル」の定義も更新されています。
メリットは明白です。より良い定義の仕方により、誰でも・いつでも・どこでも単位が再現できるようになりますし、それイコール科学&文明がどこにでも築けるということ。それこそ地球外、たとえば火星に住むときに、「あぁメートル原器とキログラム原器のなるべく軽いコピー品を持っていかないとなぁ」という悩みはなくなり、素材集めと加工の道具(最悪、自分の手)さえあれば宇宙のどこに行っても良いわけです。
物理学を「物」から開放することで、僕たちは確実に宇宙への1歩も踏みしめていたんです!