ヒュブリスという魔物。ゴーン会長逮捕への元GM副会長とフランスの反応

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  • author satomi
ヒュブリスという魔物。ゴーン会長逮捕への元GM副会長とフランスの反応
カーガイことボブ・ラッツ元GM副会長

カルロス・ゴ~ンとなった今回の事件。海外はどう見ているのか?

米自動車界のカリスマ、ボブ・ラッツ元GM副会長は日産・三菱・ルノー会長逮捕の速報のとき、こんな風に語っていましたよ。

ゴーンも「CEO病」から逃れられなかった

司会:電撃逮捕どう受け止めましたか?

ボブ・ラッツさん:驚き呆れるばかりですね。もっとも有罪と決まるまでは無罪と思わなければいかんけど。所得を少なく申告したり脱税したりで有罪になったら、世界中どの大企業でもCEOとして雇ってなんかもらえない。日産の仕事がなくなったらもう全部ゴーンだ。もう64だしね。

驚いてる反面、驚いていない自分もいる。カルロスはものすごく能力が高くて、頭もものすごく切れて、それをものすごく意識している人だからね、己の能力と影響力というものを。そういうパーソナリティーの人は、下手すると紙一重な素行に走ってしまうんですよ。

世のCEOは誰ひとりとして「CEO病」と無縁ではいられない。考えてもみてくださいよ。3社あって、どの会社に行っても崇められるんですよ。イエス、ボスってね、みんな言うことをきく。マイナス評価なんてもらうこともない。これが政治家だったら、アメリカ合衆国の大統領だってマスコミに朝から晩まで叩かれるのに、CEOは全然それがない。だから用心してないと、われわれが「CEO病」と呼ぶところの病に罹ってしまう。

CEOは「ああ、俺って神に選ばれたリーダーなんだな。どこ行っても好かれてチヤホヤされる」ってうぬ惚れてしまう。で、世の中のルールを超越した人間なのだと勘違いして、悪事に走っちゃうんだね。

司会:エンペラーズ・ミステイクですね。実際のところ日産とルノーはどうなるんですかね?

ボブさん:カルロス・ゴーンのことはとてもよく知っている。誰もが無理だと思った難業、自分もずっと無理無理と叩き続けていた側なのだけど、それを立派に成し遂げ、おかげで2社は救われた。その成果が消えることはないし、これからも続く。この競争社会だ。三菱、ルノー、日産の3社連合はびくともしないですよ。だって正しいことだから。

司会:協調体制は続くと。しかし戦略転換はあるんじゃないですかね。優先順序が変わるとか。トップ交代とか。

ボブさん:それは私にだってわからんよ。先のことは読めないが、これまでのところ3社連合で3社ともとても得してるから、これからも続くんじゃないかと思うね。

司会:(肩透かしにあって質問に詰まりつつ)ゴーンが長年掲げてきた野心的な戦略目標は今後どうなるんですか?

ボブさん:もう少し現実味のある目標、あんまり表向き宣伝していない地道な戦略重視路線に変わるかもね。ゴーンがマスコミに喧伝してきた日産の数値目標やなんかは、どのみち一度だって実現できた試しがないんだから。どでかい目標を掲げて全社一丸となって邁進する起爆剤になることもあれば、そうはならないこともある。あまりにも現実味のない目標を掲げると、目標達成のために会社はなりふり構わずになって、企業倫理に背くことやバカなこともやってしまうから。日産の米国法人を見てごらん。インセンティブが異常でしょ。要は市場シェアの数値目標達成のために、利益後回しで売ってるんですよ。ゴーンの掲げるああいう夢幻の目標は消えてしまっても悲しむ人は誰もいませんよ。

いやあ…ラッツ節は健在ですねぇ…。次にフランスのテレビの反応を見てみましょう。

今年の自動車業界はスキャンダル続き

FRANCE 24英語版ニュースは「カルロス・ゴーンの凋落。日本がルノー・日産トップを税金不正疑惑で責める」というタイトルこそ気遣い全開ですが、中身は結構言いたい放題言ってます。

冒頭ではプライベートジェットで空港に着いた直後の、逮捕前の生々しい映像が流れています。英語版は英国にオフィスがあるらしく、「日産は英国内最大の自動車工場オーナー」とも紹介していますね。社内クーデターの要素もあるけど、会長ひとりの責任であると。それなのに株価が大幅に下がって、ルノーの15%の株主はフランス政府なんで、労組がカンカンだと言ってます。

ゲストに招いたのはゴーン会長の母校のミンヌ・パリテックの教授と内外の記者さんたち。前半だけ翻訳しますね!

司会:ゴーン会長の拘留は下手すると23日間におよぶ可能性もあるとのことですね。ブラジル生まれのレバノン人でフランスの大学を出た64歳、突然の凋落。フランスにおいても日本においても、もっとも高給取りなCEOなのに日本側の所得の多くを隠して申告したとの疑いが持たれています。企業の英雄と崇められた人物だけに、ショックは隠せませんよね。

ウィリアム・ディエム元業界紙特派員:誰もが驚いた。ショックかどうかはわからない。喜んでる人もいるでしょ。

司会:喜んでる人もいる…(笑)。ダグラス・ボルダーAutomotive News欧州版編集長はどう受け止められましたか?

ボルダー編集長(在ミュンヘン):そりゃショックですよ。今年は自動車業界じゃ不祥事続きですからね。アウディのCEOが刑務所に行ったと思ったら、もうひとり逮捕で、またですからね。どうなっちゃってるんでしょね。

司会:「トップの呪い」とまで囁かれていますよね。2017年ルノーと日産は生産台数で世界トップになりました。トヨタもトップのときは散々だった。フォルクスワーゲン(VW)も。で、次がこれです。ナンバーワンになると呪われるんですかね。

ボルダー編集長:(恐ろしく通信ラグがあってから)まったくだよね。トップまで上り詰める力がありながら、考えられないような悪運でやられるんだから、呪われてると言われても仕方ないですよ。まーしかし、今回は3社を巻き込む1人物の問題なのでVWのディーゼル不祥事、トヨタの安全性不祥事とはだいぶ違います。3社とも長い目で見ればずっと立ち直りは早いと思いますね。

司会:ですね。カルロス・ゴーン1個人の問題。一番の驚きは月曜深夜の電撃記者会見でしょう。かつてのボスを斬切りする後任・西川廣人CEOの様子をご覧ください。(「ひとりに権限が集中し過ぎた」という部分の録画が流れる)日本のリアクションは?

ユカ・ロワイエ特派員:1時間半にもおよぶ長い記者会見ということ自体が異例ですよね。CEOは記者からの細かい質問にも答えました。日本では経営陣が並んで一斉に頭を下げたりしますけど、西川CEOはただの1度たりとも頭を下げていません。日産は被害者であるということを明確にしたかたちです。社内で内部告発があって検察に捜査を依頼したことも明らかにしました。

司会:内部告発は誰が?

ユカ特派員:それは明らかにされなかったですね。ただ社内ではずっと調査を進めていたとも言っています。続報では、前から会社のお金を使いこんでいるという黒い噂はあったという情報もあります。なぜ今ごろになって?ということみたいですね。

司会:西川CEO自身の告発という見方もあるわけですが、なるべく距離をとって自分に害が及ばないようにしているのか、それとも単なる役員会クーデターなのか。どっちなんですかね?

ディエム元特派員:西川CEOが告発するとは思えない。どちらかというと隠蔽に加担する側だったのではないかと思うので、司法取引の性格が強いと思いますね。ボスを差し出して自分は逃げる。よくあることですよ。

司会:豪勢な暮らしぶりも日本ではだいぶ叩かれているみたいですね。

ユカ特派員:再婚したときの結婚式も豪華で、日産のお金だったとか書かれてますね。会計書類には一切残っていないので、結婚式とか離婚の慰謝料とかそういう詳細は不明ですけど、日産社内では会社のお金で豪遊しているという噂は前からあったようです。それにしても解せないのはなぜ所得を隠すのかです。

司会:だよね。あれだけもらっておきながら。

フランク・アジューリ教授:僕にもまったくわからない。それよりもっと驚いたのは、このスキャンダルが日本から来たってことですよ。日本では現神人のように崇められていたわけで。まあ、フランス国内に限って見れば、カルロス・ゴーンの悪事は今にはじまったことでなく、面白くなく思ってる人間はたくさんいますからね。去年は社内で自殺事件もあった。2011年には中国に企業秘密を売ってると一部役員をスパイ呼ばわりする事件もあったでしょ。結局、事実無根だったけど。

司会:2016年には株主説明会が大荒れでしたよね。あまりにも給料払い過ぎてるという不満が爆発した…

教授:そうそう。株主説明会で経営陣の発表に株主が異議を唱えるなんて、フランス国内ではあれが初めてですよ。カルロス・ゴーンはCEOと会長兼務だったので、コーポレートガバナンスがまったくないのが問題でした。

司会:フランスでは珍しいことじゃないですけどね。

教授:大企業の8割は会長とCEO兼務ですね。

司会:結局、現神人と崇められているうちに自分の力におぼれてしまったんですかね…

教授:うん。庶民の感覚とはだいぶ違ってたかもね。

司会:ディエムさんは何十年も記者として追っていたわけですが、どんな人物という印象ですか? 社内では血も涙もないチャンプ、コスト・キラーと呼ばれてたようですが。

ディエム元特派員:経営感覚は一流ですよ。恐怖で人を操る。絶対服従。でもいろんなことを教えますからね。おかげでルノーは黒字になった。ルノー叩き上げのカルロス・タバレスがプジョーCEO兼会長になって、見事なターンアラウンドをやってのけた。あんなにひどかったのに今年第2四半期は好調でした。

彼の前のプジョーCEOのパトリック・ペラートはゴーンのスケープゴートだった。カルロス・ゴーンがTVでスパイ疑惑を喧伝して「証拠はあがってるんだ」って散々騒いだ。でも証拠なんかどこからも出てこなかった。だってやってないんだから。あれで役員3人が会社をクビになった。ひどい話だよ。ルノーにあれだけ貢献した有能な人材をあんな風に辞めさせるんだから。

司会:ボルダー編集長はどうですか?

ボルダー編集長:僕は取材の印象しかないけど、有能な人物でしたよ。どんな質問しても淀みなく答える人。で、その答えがまたいいんだよね。日産、ルノー、そして三菱。誰が見たってあれだけのことをするのは偉業ですよ。ちょうど先月も取材する機会があったのだけど、みんなNAFTA( 北米自由貿易協定 )の文句言ってたら、「変化に順応するのがわれわれの仕事だ、変化はどんなところからも襲ってくる」って言ってましたね。まさかその本人からこんな激変が襲ってくるとはね。

司会:まあ、高給高給と言われるけど、世界中を飛び回ってますからね。どうなんでしょう、仕事とペイのバランスは?

教授:もらい過ぎですよ。いま世界中でこれが問題になってる。もっとCEOの取り分を減らして社員に還元しなければならない。CEO対社員の給与差を見ると、'60年代アメリカでは20対1だった。それが今や300対1ですからね。誰が見たっておかしい。さっき言及のあったプジョーCEOのカルロス・タバレスは国会に呼ばれたときこう言った。「自分たちはスポーツカーみたいなもの。普通と違うのだから、給料ももらう」とね。でもそんなのおかしい。メシアじゃないんだから。スポーツのコーチみたいな仕事なのに。

司会:フランス国内メディアの反応も2つに割れていますね。右翼は日本の謀反だと。左翼はデブ猫(ブルジョワ)の失墜だと。フィナンシャルタイムズの論説はプライベートジェットで太陽に近づきすぎたんじゃないかと書き、ギリシャ悲劇の「ヒュブリス」(身の破滅をもたらす驕り)が今ほどCEOに蔓延している時代はない、こんな高給取りの時代はゴーンのジェット墜落とともに終わる、と言っています。本当に国民の信頼は失墜するんですかね?

教授:ですね。現に米CNBCの世論調査でも中国以外はみな、大企業の経営陣の給与が問題だと答えています。世界中の潮流です。

司会:グラウンドゼロのルノー日産自動車工場(パリ)の様子を見てみましょう(19:52-)。

労働者:仕事がなくなったら家族をどう養っていけば…

労働者:経営者が辞めるのは構わないけど、会社のイメージは悪くなりますよね。

労働者:ここで1日8時間働いて、もらった給料は全部申告してるよ。なんだよ、あんなにもらって隠すなんて。

労組組合員:全然驚かない。なんせ1日45,000ユーロもらってんだから。1日で!それでも足りないと思ったんだろうね。おかげで社員はいい迷惑だ。

日本からは「それでも日産のためにはよくやってくれた」というコメントが…。まあ、そうなんですけどね。

Source: CNBC

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