現代の錬金術師に会いにいく。アメリカの新元素発見をリードする女性化学者の想い

  • 5,804

  • author Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US
  • [原文]
  • 勝山ケイ素
現代の錬金術師に会いにいく。アメリカの新元素発見をリードする女性化学者の想い
現代の錬金術師と言うべき業績をもつアメリカの化学者Dawn Shaughnessy

周期表は化学の聖典です。それは単なる元素のリストではなく、行と列(周期と族)から新元素の存在その性質を予測することができる道しるべでもあります。世界にはこの周期表を更新すべく日夜「新しい元素」を作ろうと試みる研究者たちがいます。鉛から金を生み出そうとした中世ヨーロッパの錬金術師達のように、プルトニウムからフレロビウムを作成することができます。

アメリカの化学者Dawn Shaughnessy(以下 ショーネシー)は新元素研究のリーダーのひとりです。ショーネシーの研究チームは、近年周期表に追加された新元素のうち3つモスコビウム、テネシン、オガネソン)を発見しました。米Gizmodoが、そんな現代の錬金術師に会いにいきました。


ショーネシーと核化学

インタビューの舞台はカリフォルニア州、風力タービンが並ぶ丘の谷間に位置するローレンス・リバモア国立研究所です。彼女は時にディズニーランドや『スターウォーズ』についての話題も挟みながら、なぜ核化学の道を進むことになったのかを語ってくれました。

ショーネシーはエンジニアの父から電子工作キットと実験セットを与えられ、科学の追求を奨励されて育ちました。当初は外科医の道を考えたものの人体を切開することが向いていなかったため化学者の進路へ。そうして進学したカリフォルニア大学バークレー校の学部生時代、化学が単にビーカーで液体を混ぜるだけのものではないことを知ります。それは原子そのものを作り出すことでした。その出会いを彼女はこう語ります。「私にとって核化学は信じられないほど素晴らしいものでした。取り出して、混ぜて、全く新しいなにかを作り出す。まるで錬金術のようです。」

冷戦の終結が近づくにつれ米国の原子力企業も縮小し、核化学者にとって選択肢は少なくなります。ショーネシーは始めにローレンス・バークレー国立研究所で環境研究の仕事に就きした。そしてその後に、ローレンス・リバモア国立研究所で「巨大な加速器/ビーム/衝突」という彼女が真に情熱を傾ける研究にたどり着いたのです。

重元素の作成

核融合
カリホルニウム原子核にカルシウム原子核を衝突させてオガネソンを生成する、超簡単なイメージ

今や新元素の作成は魔法でも夢物語でもありません。原子は陽子と中性子が集まってできた原子核を持ち、周囲を電子に囲まれています。その中で元素のアイデンティティーを決めるのは陽子の数です。新元素を作るには、原子核に陽子を強制的に追加する方法を見つけなければいけません。

特に大きな元素の作成実験には、大きなエネルギー科学者の国際的な協力が必要です。アメリカではまずショーネシーと彼女のチームが実験する化学反応を決定し、試料をロシアのチームに送ります。するとロシア最大級の科学研究組織であるドゥブナ合同原子核研究所(JINR)の粒子加速器オペレーターが、標的となる原子に、より軽い元素をビームにしてぶつけます。そこで生成された元素の崩壊過程を観測し、新元素が作成されたかどうかを判定します。

簡単ではありません。実験に使う元素も非常に高価で、生成される原子もごくわずかなうえに数秒で崩壊してしまいます。両チームはそれぞれ、実験結果が正しいことを確認するために独立した分析を行なう必要があります。

このような研究はなぜ行なわれるのでしょう。あっという間に崩壊してしまう元素を、爆弾や兵器以外でどのように活用すると言うのでしょうか。これらの基礎研究は科学者が物理と化学の理論的限界をテストするのを助け、原子と、私たちの世界で物質がどのように振る舞うかを理解する助けとなっているのです。

核化学者の国際協力

今日、重元素研究はアメリカ-ロシア間で発生するめったにない協力関係の象徴です。重元素研究を牽引する米国のグレン・シーボーグとロシアのゲオルギー・フライロフは冷戦下では互いに敵意を抱いていたとショーネシーは説明します。しかし1989年に冷戦が終結し、研究対象の新元素がより重いものになったとき、ロシアのフライロフはリバモアの物理学者アービン・K・ヒューレットと会議の場で会いました。彼らは互いが互いにとって有用なツールを持っていることに気づき、協力体制を打ち立てます。ショーネシーによれば「科学とはそういうもの」なのです。

ショーネシーのチームとロシアチームは6つの新元素の発見に貢献し、そのうち4つは2016年に名前が正式に決定しました。日本の理化学研究所が命名権を獲得したことでも話題になった113番元素ニホニウム。モスクワにちなんだ115番モスコビウム。 オークリッジ国立研究所があるテネシーから117番テネシン、そして118番オガネソンは有名なロシアの原子力化学者のリーダー、ユーリイ・オガネシアンからとって名付けられました。

周期表は次のステージへ

周期表
118番のオガネソンで終了?いいえ、まだまだ続きます

第7周期が完成しても、新たな元素を探す研究は終わりません。ロシアは第8周期の119、120番の元素を探すべくJINRの加速器をアップデートしており、ショーネシーのチームもさらなる重元素研究のために核反応速度を研究するプロジェクトに移行しました。もちろんニホニウムを発見した理化学研究所も研究を進めています。

しかしショーネシーは今、アメリカの人々が科学を恐れているように感じています。エリア51ではUFOの燃料としてフレロビウムを備蓄しているという陰謀論も耳にするそうです。彼女は「iPhoneは一夜で生み出されたわけではない」と、これらの基礎研究こそが他分野での進歩を支えていることを強調します。スマートフォンに使われる充電池がリチウムの性質を利用しているように、解明されていくそれぞれの元素の特性私達の生活に役立つテクノロジーに変わります。 ロシアのアメリカ合衆国大統領選挙への干渉に関する調査などで、米露の緊張は再び広がっています。簡単に維持できるものではありませんが、ショーネシーはロシアチームとの協力体勢が続いていくことを願っています。彼女は言います、「私達はただ科学したいだけなのです。」

    あわせて読みたい

    powered by