加速するテクノロジー社会に絶望した彼女は…。360度短編SF動画『Merger』

  • 10,367

  • author Brian Merchant - Gizmodo US
  • [原文]
  • 岡本玄介
加速するテクノロジー社会に絶望した彼女は…。360度短編SF動画『Merger』
Image: Keiichi Matsuda/vimeo

MS Officeのクリッピー君が唯一の友達……?

Keiichi Matsuda氏が作った、360度短編SF動画『Merger』。この世界ではスクリーンの前に座り、作業に従事する女性が独り、絶えず複雑になるデータの海に囲まれています。急速に増え続けるタスクはみるみる内に積み重なり、バーチャルな世界を埋め尽くしていきます。

映像は未来の姿を描いたSFであるものの、現在私たちが向き合っている社会の暗喩でもあります。星新一のショートショートが好きな人は、きっとお気に召すことと思いますよ。

Video: Keiichi Matsuda/Vimeo

作者はあの『HYPER-REALITY』の人

この映像を作ったのは、かつて「ARが日常化した世界」を描いたコンセプト・ムービー『HYPER-REALITY』や、Leap Motionの「バーチャルウェラブル」を制作された、UIデザイナー兼映像作家のKeiichi Matsudaさん。彼が生み出すSF映像は、いつも現実世界の延長線上にあります。お得意のUIが大量に登場する辺りは、映画『マイノリティ・リポート』で有名になったシーンを想起させますね。

The Vergeのインタビューにて、彼は「私はいつもあんな感じのUIを作るよう頼まれるんですよ」と笑いながら答えています。

あまりにも孤独で、リアルな世界観

Matsuda氏のトリックは筋書きやUIではなく、絶望的な孤立を必然的に引き起こす「映し方」にあります。たとえば、視聴者は視野を回転させ、主人公が必死にデータの高速な流れを操縦しようとする姿を目の当たりにできます。彼女はTo-Doリスト、ニュース記事、共有文書、非公開フィードなどのデジタル世界に囲まれていますが、どの角度を回しても他に人は見当たらず、独りです。

この世界観は、ハイテク企業が私たちに向かわせたがっているところが現実世界とソックリですね。私たちは皆が人工的に拡張された、超加速的な車輪の上を走らされ、世界の頂点にいることを課せられたハムスターなのです。そして人工知能や自動化システムと、競争させられた末に訪れた荒涼たる未来であり、同時にいま現在でもあるのです。

古典SFと似た部分も

この作品は、『眺めのいい部屋』を書いたE. M. フォースターが1909年による初期SF作品『機械はとまる(The Machine Stops)』を想い起こさせます。機械化された世界の中でしか生きられず、毒ガスに汚染された地上を避け、地下の蜂の巣のような住処に籠もり、親子ですら人と人との繋がりが希薄な暮らしが当たり前という、現代人を風刺した作品です。人間はあまりに機械に飼いならされてしまい、機械が壊れても誰も直し方を知らず、最後には自滅してゆく物語となっています。

結末はどうなる?

『Merger』の主人公も、「企業を永遠に頼ることはできない。それは人が作ったものだけど、いまはもう独自の意志を持ってしまい、我々の周りを囲んでいる」と話し、それをコントロールするべく自身をアップグレードしようとしました。

でも彼女が頼るシステムもまた、その“企業”のものでしょうね。彼女に何が起こったか? 最後は想像に委ねられます。

Source: Vimeo, KEIICHI MATSUDA, The Verge, NCSA Web Archive

    あわせて読みたい

    powered by