ディープラーニング界のゴッドファーザーに「AIのこれから」を語ってもらった

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ディープラーニング界のゴッドファーザーに「AIのこれから」を語ってもらった
コンピュータ科学博士で、ニューラルネットワークを使ったAIの利用を研究しているGeoffrey Hinton氏。カリフォルニア州、マウンテンビューのGoogle本部にて。2015年3月25日。 Image: Elevate/YouTube

現在のニューラルネットワークを形作った天才は、これからをどう見るのか。

Martin Ford氏は、2015年に出版した『Rise of the Robots』で、加速していく自動化の流行、そしてそれがビジネスと、特に雇用にどういった影響を及ぼすかを解説したことで旋風を巻き起こしました。彼の次回作、『Architects of Intelligence: The Truth About AI from the People Building It(AIを作っている人々が語る、AIの真実)』は、副題通りAI研究における著名人たちにインタビューを行ない、AIの現状とこれからを探っています。その著名人の一人がGeoffrey Hinton氏。彼はトロント大学のコンピュータ科学教授で、Google Brainプロジェクトの一員でもあります。人工ニューラルネットワークの分野におけるパイオニアとしての功績が評価され、Hinton氏は同分野の研究者たちから「ディープラーニングのゴッドファーザー」と呼ばれています。

以下は『Architects of Intelligence』からの抜粋で、自身の開拓したシステムの普及が経済や社会に与えうる影響について、Hinton氏がFord氏と対談しています。


「富めばほかの人の助けになる社会システム」を作ろう

Martin Ford(以下MF):AIの持つリスクについて話しましょうか。私が以前書いたことのある側面は、求人市場と経済に与えうる影響です。それによって新たな産業革命が起こり、求人市場を完全に変えてしまうと思いますか? もしそうなら、それは私たちが心配すべきことなのか、それとも大げさに語られすぎているのでしょうか?

Geoffrey Hinton(以下GH):生産率を大幅にあげ、より多くの物が世界に出回るようになるのなら、それは良いことだと思います。しかし、それが良いことになるかどうかは、社会システムに完全に依存しています。技術の進歩が問題であるかのように見られていますが、テクノロジーは関係ありません。社会の仕組みが、すべての人々にフェアに利益を与えるのか、それとも1パーセントの富裕層のみに利益を与え、それ以外の人々を下層階級として扱うのか、そこが問題です。テクノロジーがどうこうという問題ではないのです。

MF:でも、多くの職業、特に反復作業が多い職種は簡単に自動化され、人々は職業を失うことになる。そういう問題はやってきますよね。社会システム的なそれに対する答えの一つはベーシックインカムだと思うのですが、それはどう思いますか?

GH:ええ。ベーシックインカムは非常に現実的なアイデアだと思います。

MF:では、AIが求人市場と経済に及ぼす影響に対しては政策レベルでの対応が必要だと思いますか?

人によっては自然な成り行きに任せるべきだという人もいますが、それは無責任ですかね。

GH:私がカナダに引っ越したのは、税金が高いからです。ちゃんと使われる税金は良いことだと私は思います。政府がすべきなのは、人々が自身のために行なうことが、自然と周りの助けにもなるようなシステムを作ることです。高い税金はその一つです。人が富めば、税金によって周りの助けにもなる。AIが皆の利益になるにはまだまだ課題が多いことは私も同意です。

国際的な取り決めや規制が必要な問題も

MF兵器化など、その他のAIに関するリスクはどうでしょう?

GH:最近のプーチン大統領の発言に私は懸念を抱いています。人の手を介さずに殺戮を行なえる兵器は、国際レベルで化学兵器や大量破壊兵器と同等に扱われるよう訴えかけ始めるべきだと思います。

MF:兵器としてのAIの研究開発にはモラトリアム(一時停止)を設けるべきでしょうか?

GH:神経ガスの開発がそうだったように、そういった研究にもモラトリアムを設けることはできないでしょう。しかしガスに関しては、広く使用できなくさせる国際的取り決めがあります。

MF:兵器使用以外のリスクはどうでしょう。プライバシや透明性に関して問題は起こりえますか?

GH:選挙や有権者を操る可能性は不安材料ですね。Cambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ、昨年のFacebook騒動の発端となった)を設立したBob Mercerはマシンラーニングの分野出身です。今年のスキャンダルを見れば、ケンブリッジ・アナリティカの与えたダメージが莫大と分かります。それを真剣に受け止めなければなりません。

MF:規制を行なう余地はあると思いますか?

GH:ええ、かなりの規制を行なうべきです。非常に興味深い問題ですが、私はそこは専門ではないので、あまり詳しいことは言えません。

MF世界的な兵器開発競争についてはどうお考えですか? 一国がほかより大きく抜きん出ないのは重要でしょうか?

GH:それは世界政治の問題ですよね。長年英国は頂点にいましたが、振る舞いは横暴でした。今は米国が頂点ですが、やはり横暴です。もしこれから中国が頂点に立つとしても、結果は同じだと思います。

MF:業界レベルでの制度は必要だと思いますか? 米国やその他の西洋諸国はよりAIに注目し、国家的に注力すべきでしょうか?

GH:技術的な大きな革新はこれから起きるでしょうし、諸国は間違いなく常に最先端を追い求めるでしょう。ですので、私も政府による大きな投資が必要だと思いますし、もっとも理にかなっているのではないでしょうか。

「基礎」への投資

MF:総合的にみて、あなたは比較的楽観視していますか? AIによる利益は、不利益に勝ると思いますか?

GH:利益が不利益に勝ることを願ってますが、そうなるかは分かりません。でも、それはテクノロジーではなく、社会システム次第です。

MF:AIの分野では、雇用機会は増えていますが技術者が不足しています。この分野に踏み入ろうとしている若者に、より多くの人を集められるような、そして彼らをAIのエキスパートにするような助言はありますか?

GH:「基礎」を疑う人が少ないことが心配ですね。カプセル(訳注:カプセルネットワーク。Hinton氏の提唱したニューラル・ネットワーク)には、私たちが基礎と思っていた方法はもしかしたらベストではなくて、もっと広い視野で模索する必要があるのでは、という考えが根本にあります。私たちは、もっとも基本的と考えられているものでも、それとは別の方法を考えることが求められます。私がよくするアドバイスは、もし周りの人のやっていることが間違っていて、もっと良い方法があるかも知れないと感じたら、自分の直感を信じるべきだということです。

間違っている可能性は高いでしょう。でも、物事を劇的に変えられるような直感は信じてあげなければ、すべてが行き詰ってしまいます。私が思うに、もっとも劇的なアイデアの源は、大学でしっかり勉強した大学院生たちです。本当に斬新なアイデアを思いつく自由があって、かつ失敗を繰り返さないだけの勉強をしていますから、その状態を維持すべきだと思います。修士号を取得して即座に分野に飛び込む人は革新的なアイデアは思いつけません。数年くらい、静かに考える時間が必要だと思います。

MF:ディープラーニングに関するハブのようなものが、カナダで形成されつつあるようですね。それは偶然なのか、それともカナダにはそうさせる特別な何かがあるのでしょうか?

GH:Canadian Institute for Advanced Research(CIFAR)は、高リスクな分野で基本的な研究の費用を投資してくれました。これは非常に重要なことです。それと幸運なことに、一時私の博士号研究員だったYann LeCunやYoshua Bengioが共にカナダにいました。私たち三人は非常に有益なコラボレーションを行なうことができ、CIFARはそれに投資してくれたのです。特にこの時期、私たちを取り巻く環境は厳しくーディープラーニングの分野を取り巻く環境はつい最近まで厳しいものでした。論文になる前のアイデアを自由に共有できるミーティングに時間を使える投資はとてもありがたかったですね。


Martin Ford著『Architects of Intelligence: The Truth about AI from the People Building It』より承諾を得て引用。Packt Publishing Limited出版、Copyright (c) 2018. All rights reserved.

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