魔法の赤い突起。
iPad Proを買ったのはいいけど、仕事でパソコンを使っているときは持て余しがち、という人は多いはず。せっかくキレイなディスプレイなのに、カバンに入れっぱなしはもったいない。あぁ、いっそiPadをパソコンのディスプレイにできたらなぁ...
という夢を叶えてくれそうなアプリは実は過去にいくつかありました。でも日常的に使っている人を見たことがありません。遅延がすごい?画質が悪い?ケーブルがうっとうしい?とにかくなにかしらの理由で使い続けることをあきらめられてきたのです。僕もその1人。
そんなiPad持て余しマン達の目に飛び込んできたのがこの赤いやつ、Luna Displayです。どんな魔法なのか、これをMacに挿せば、iPadが今までになく快適なMacのサブディスプレイになるみたい。ソフトウェアだけではできなかった品質を、このドングルで実現できると。
ほんとにぃ?と勘ぐりながらも、専用ハードを見せられるとなんだか期待しちゃいますよね。長期間使ってみたので、レビューしていきます。
Luna Display

これは何?:iPadをMacのサブディスプレイとして使うためのドングルとアプリ
価格:79.99ドル(約8,680円)+ 別途送料10ドル(約1,080円)
好きなところ:ワイヤレスで接続しても画質が良く、安定しているところ
好きじゃないところ:動画の画質が悪いこと。縦位置に対応していないこと
今回レビューした環境:MacBook Air 2018、iPad Pro 2018 11インチ
去年の10月に一般販売が開始されたLuna Displayは79.99ドル(約8,680円)のキットで、公式サイトから購入できます。蓋を開けると中に入っているのは専用の赤いドングルだけ。これをUSBメモリのようにMacに接続して、MacとiPadで専用アプリを起動させて使います。
この赤いのが、外部ディスプレイのフリをするらしく、これによりMacのグラフィックパワーを最大限に活用できるのがウリ。

iPadとMacは同じWiFiネットワークに接続する、もしくはUSB接続することでデバイス同士がお互いを認識します。接続がうまくいくとMacの画面がiPadに映し出されるわけです。
半信半疑で試してみたのですがコイツ、かなり優秀でした。やっとここまできたって感じです。過度な期待を防ぐために予防線を張りますが、思わず声が出るような感動はないし、サブディスプレイとしては完璧とは言えないんです。この手のアプリのパイオニアである「duet」で感じていた不満が、毎日使っていても支障が無いレベルまで改善されたってのがLuna Displayです。
USB接続は高画質・低遅延、でもゼロ遅延ではない
まずはiPad ProとのUSB接続で試してみました。


まずびっくりするのが、iPadに映し出される画質の良さ。デスクトップの背景やアイコン、メニューバーがくっきりRetina画質で表示されるんです。壁紙の砂漠の空のグラデーションもしっかり映りました。
ただしこの画質は画面に動きがないときの話。たとえばWebページをスクロールするなど、画面に動きがあるとじわっとその周辺がブロックノイズのように曇ります。動きを止めるとまたRetina画質に戻ります。
遅延もまったくないわけではありません。タイピングしているときは遅延を感じないのですが、ウィンドウを動かしたりスクロールすると手の動きよりもiPad上では若干遅れて動いているように見えます。
それでも画質にしろ遅延にしろ、僕が日常的に使う上では支障ありませんでした。ブラウザやPDFをiPad側でひらいて、仕事をしていましたが、「duet」(最近Luna Displayに対抗してアップデートされた)と比べてもやはり低遅延。決して強がって無理して使っているという感じはしません。「このくらいならいいか」と納得できるラインをちゃんと越えてきたんだと思います。
強いて言えば、使いかたによって問題がありそうなのが、動画再生です。

画面に動きがあると画質が荒くなると言いましたが、お察しのとおり動画は残念画質です。地下鉄で見るYouTubeみたいに荒い状態で再生されます。iPad側に表示したいものが動画だっていうのであれば、Luna Displayは向いていません。
もうひとつ注意したいのが、iPadの接続にかかる時間。iPad側でアプリを再起動したり、長時間スリープすると、Macと再接続するまでに数秒かかってしまいます。僕は写真の編集をiOSアプリで行なうのですが、その間Luna Displayから離れないといけません。そのあとLuna Displayに戻ってきて再接続に数秒かかる...これはすこしだけストレスでした。
Luna Displayはタッチ入力にも対応しています。クリックやピンチ操作による拡大ができますが、あまり反応がよくありません。Macを使っているのにわざわざ画面に手を伸ばす必要もないので、この機能はほとんど使いませんでした。
Pencil操作が可能、さらにAstroPadでも使える
Luna DisplayはApple Pencilで書き込むことも可能です。さらに、同じくAstro HQ社のアプリで、iPadをMacの液タブに変える「Astropad」もこの赤いドングルに対応していて、こちらは筆圧にも対応しています。これまではミラーリング表示にしか対応していなかったAstoropadですが、Luna Displayのドングルと一緒に使うことでiPadをサブディスプレイ化しつつ、液晶ペンタブレットとしても使うことができるんです。
じゃあAstoropadアプリだけ使えばいいじゃん、と思うところですが、そうはいきません。Astropadはペンの追従がすばらしく、ほとんど遅延がない代わりに、ペン入力以外のウィンドウ移動やスクロールの遅延がLuna Displayより大きいことがわかりました。体感ではありますが、Astropadは液タブ特化、Luna Displayは事務作業に特化して使えるよう、それぞれチューニングされているみたいです。
「WiFi接続が快適」は正義
Luna DisplayはWiFi経由で使うことをおすすめします。理由は2つ。
1つは、そもそもWiFi接続がかなり安定しているから。これがなかったらLuna Displayをオススメできないところでした。USB接続のほうがよさそうなもんですが、WiFi接続を試したところ、遅延や画質がUSB接続のときとほとんど変わらなかったのです。少なくとも僕の体では違いを感じることはありませんでした。
Luna Displayによると独自の「LIQUID」という無線ディスプレイ技術のおかげでこれが実現できているのだそうです。WiFiの状況によるとは思いますが、これはうれしい。正義です。

2つめの理由は、配線・充電の問題。
まずiPadとMacをUSBで接続した場合、iPad Proへの充電が遅くて追いつきません。今回のレビュー環境では、使っているうちにiPad Proのほうがバッテリー切れで力尽きてしまいました。iPad側にUSB-Cのハブをかまして、充電用とMac接続用に分岐...も考えましたが、WiFi接続の安定性を考えるとそこまでする必要がありません。
そして赤いドングル。これがMacのUSB-Cポートを1つ消費しているので、MacBook Airの場合は残りのポートは1つです。ここにiPad Proを接続してしまうとMacの充電ができません。ということで、マルチハブが必須になってしまいます。Luna Displayのためにわざわざ購入するのであれば、やめたほうがいいでしょう。配線もかなりごちゃごちゃになりますし、WiFi接続で十分です。
ただし、WiFiルータやその他ネットワーク機器の設定によってはLuna Displayが動作しないこともあるので、職場などで使いたい場合は注意が必要です。
Mac miniとの組み合わせ

最新のMac miniとも接続してみました。海外メディアが「Mac miniの最高のディスプレイ」としてiPad ProをMac miniの上に乗せた様子が印象的でしたが、結論から言うとメインディスプレイとしては使うのはおすすめしません。
まず、Luna Displayをセットアップするために、別のモニターを用意する必要があります。モニターを用意する代わりにiPadを使いたいのに、そのためにはモニターを用意する必要がある、という謎の状況。
セットアップのときだけTVにつないで、以後はLuna Displayだけでがんばる、ということもできなくはありません。ただ、MacのLuna Displayアプリがちゃんと起動しない、などトラブルがあったときに、いちいちTVの近くまでMacとiPadを持っていかないとトラブルシューティングすらできないのです。そう考えると、Luna Display + iPad Proだけをモニターにして運用するのは現実的じゃありません。

iPad Proのキーボードは一応動作しました。ただ、入力切替は「Ctrl + スペース」でやらなきゃいけなかったり、「+」が入力できなかったり(JIS配列の場合)と、慣れないことが多いです。Escキーなど存在しないものもあるので、実用レベルではありませんでした。
とはいえ、メインではなくサブディスプレイとして使うぶんにはMac miniとの相性はいいと思います。たとえばMac miniで写真現像するために、MacBookやiMacと同じクオリティのモニターを用意しようとすると、高額な予算(それこそMac miniが買えるくらい)が必要になってしまいますよね。代わりにそこそこの安いモニターだけ用意して、iPad Proをサブディスプレイとして使えば、たとえば現像中の写真の最終確認だけ画質が良いiPad Proに表示して行なう、ということが可能なわけです。
完璧じゃないけど、毎日使います
Luna Displayはほかのアプリに比べると頭1つ抜け出したクオリティでした。ただ、本物のモニターと比べるとやはり動きモノの遅延や画質劣化が気になってしまいます。特に動画を流しっぱなしにしたい場合はご注意を。

ただ、この弱点を差しおいても毎日使うことができるものだと思います。完璧ではないんだけど、それを飲み込んで使い続けてもストレスにはならない、そんなガジェット。
使い始める前は、iPadをiOSタブレットとして脇に置いておくほうがいいのでは?と頭をよぎりましたが、やっぱりMacの延長として使えるのはありがたいです。特にFinderやフル機能のブラウザはiOSでは使えませんし、しっかり作業するならMacのサブディスプレイとして使ったほうが効率的。
Luna Displayの価格は79.99ドル(約8,680円)+ 別途送料10ドル(約1,080円)で、総額1万円近くになりますが、この値段でモバイルモニターが手に入るならその価値はありますよ。
と、このレビューを書いて公開の準備をしていたのですが、なんと先週Luna Displayアプリの大幅アップデートがあり、さらに低遅延に拍車をかけています。特にUSB接続したときの遅延が劇的に少なくなっているほか、画面に動きがあったときの再描画も速くなりました。WiFi接続は体感ではアップデート前と違いを感じませんでしたが、やはり日常使いするのに問題ないレベルです。アプリのアップデートさえすれば、赤いドングルについてはそのまま使えますよ。USB-Cポートの数に余裕があるMacBook Proなどで使う場合にはUSB接続で使うのも快適そうですね。
Source: Luna Display