「共有する」って実はとても難しいかもしれない。
あけましておめでとうございます! わたくし、今年の年越しはPerfumeの3人と迎えました。
Perfumeは、12月31日から1月1日にかけて横浜アリーナでカウントダウンライブを開催。このライブは2018年の後半から全国を巡っていたツアー「FUTURE POP」の国内千秋楽でもありました。
カウントダウンで年をまたぎ、1時までぶっ続けで横浜アリーナに居り、終夜運転で揺られて家まで帰り、まさに1月1日の夜中。興奮さめやらぬなか筆をとっている次第です。2019年の書き初めは、非常に清々しい想いです。
Perfumeは不気味の谷を越えた
今回Perfumeは、カウントダウンの会場から中継でNHK紅白に出場しました。今年も、ほんっと度肝を抜かれました。近年はRhizomatiks(ライゾマティクス)が舞台演出のインタラクションを手がけ、何かとテクノロジーの点でも話題になりがちのPerfumeですが、とめどなく演出技術が進化しています。
とくに2曲目の『エレクトロ・ワールド』。公式のアーカイブ映像がなく、パフォーマンスのようすを貼れないのが悔やまれるところですが、ぜひ見て欲しいです。エレクトロ・ワールドに使われたシームレスMRと呼ばれるライゾマ独自の技術は、すでに2015年の紅白など各所で見せていますが、今回、大幅に進化していました。
シームレスMRは、実写映像とCG映像を自由に行き来して、現実では実現不可能なカメラワークを実現する技法。今回のものは、CG映像の解像度と現実映像へのマッピング精度が高く、現実とCGがほとんど区別つかなかったのです。これは不気味の谷を超えたような感覚で、本当にすごいことなんです。
3つのテッキーなカウントダウン
さて、大晦日の会場へ足を運んだのはPerfumeによるカウントダウンを見るためでした。
23時45分から約30分ほど行なわれたカウントダウンパートは、実はかなりテクノロジーを絡めた演出でした。これはギズモード的には見ておかなきゃと。
このカウントダウンパートは、通信テクノロジーを使っていかに「ライブを他の空間に共有できるか?」というテーマのもと行なわれました。
先端の通信技術を用いて、未来のエンタメを探るNTTドコモの「FUTURE-EXPERIMENT」プロジェクトの一環。主にドコモが進める5G通信や、NTTの強力なWi-Fiなどの通信技術とPerfumeが融合したパフォーマンスを披露しました。
その内容を3つに分解してみましたので、テクノロジーの目線でちょっと振り返ってみますね。
1. 横浜→渋谷を同期させる高速通信

平成30年最後の曲を『ポリリズム』で締めくくり、ソワソワしながら横浜アリーナでカウントダウンを待ち構えるなか、実は渋谷のスクランブル交差点に数千人規模のサテライト会場が設けられていたことが発表。
とくに告知も行なわれず、渋谷カウントダウンに来ていた人限定のサプライズでした。またFUTURE-EXPERIMENTのサイトでもネット配信されました。

そして横浜、渋谷、YouTubeで同時にHappy New Year!
カウントダウンの直後に、本年初の楽曲『天空』を披露しました。
渋谷のサテライト会場は、横浜アリーナの映像、音声、照明が同期するように設計されています。『天空』の演出同期・伝送の一部に5G通信が使われました。厳密に言うと、横浜から渋谷へは光回線で接続されたようで、渋谷に信号が到着してから5Gを使った信号送信が行なわれました。ちなみに5G回線の基地局は、タワレコ渋谷の地下に設置されたそう。
2. 遠隔操作式のライト

『天空』の演奏中、「フリフラ」と呼ばれる遠隔制御式のペンライトが演出に使われました。フリフラの個体は座席の位置とを紐づいていて、パフォーマンス中に手前から奥へウェーブをするような光の演出がされました。
フリフラの制御には5Gは使われていなく、フリフラ独自の周波数帯が使われています。
3. 1万台以上のスマホを扱える、とんでもないWi-Fi

『天空』が終わり、その他2曲を歌い終わってから、横浜アリーナの1万2000人による「PTAのコーナー」が行なわれました。いちおうPTAのコーナーというのは、Perfumeのファンクラブ名「PTA(Perfumeとあなた)」に由来していて、主に観客とメンバーの掛け合いをするパート。

たとえば定番のコールアンドレスポンスに、
Perfume「メガネ!」
観客「(メガネの人は大きく手をあげる)」
P「コンタクト!」
客「(コンタクトの人は以下略)」
P「裸眼!」
客「(裸眼の人は以下略)」
というのがあるのですが、このやりとりを通信に置き換えてしまう実験的な取り組みがありました。観客はスマートフォン上で、A~Cのボタンをタップして送信。その結果が、すぐにステージ真ん中の大きなスクリーンに反映される設計になっています。

アンケートは、1万2000人がすべて同じWi-Fiアクセスポイント(今回は「fe04」と名付けられていた)に接続します。通常、1つのポイントに集中して接続するとエラーが発生してしまいますが、このWi-Fiには、NTTの「高効率Wi-Fi」という大量アクセスに耐えられる技術が使われています。観客のアンケートの送受信はすべてこのWi-Fiが担っています。
そして集計されたアンケートデータは、ステージに出力するビジュアルを生成する部署に送信されます。このとき、一部のデータは5G回線を使っているとのことでした。
ライブを「共有する」って一体なんだろう…?
とにかく、まずは致命的な不具合がなく終わって良かった! とくにWi-Fiだって、コンサート会場に入った1万2000人以上の人が、一気に同じWi-Fiにアクセスするんですよ?
もう一度、紅白の話に帰結しますが、もはやPerfumeのパフォーマンスって、現場でみるよりVTRでみたほうが面白い場合があるんですよね。正しくは「現地とはまた違った面白さがある」と言えるんですが、どちらにしても、現地ファーストが崩壊して、フィジカルなのに場所を問わないコンテンツとして完成しちゃってるんです。これってすごいことだと思いませんか?
その点で、今回の「瞬間を共有する」というテーマです。言わずもがな、単なるパブリックビューイングなど、単にコンサートを大きな画面に映すことは、本当の意味で「瞬間の共有」ではありません。Perfumeは映像作品ではないので。そうなってくれば、やはり「共有する」行為として正しいのは、現地では体験できない別の楽しみを生み出すことなのかな…と。
今回のFUTURE-EXPERIMENT Vol.4は、1夜限りのコラボゆえに、Perfumeの芯をとらえた演出に落としこみづらい雰囲気も感じました。紅白のようなものすごい演出は一朝一夕では作れませんからね。とはいえ、ペンライトが光るだけで何か楽しいんですよね。アンケートがほぼリアルタイムで集計される様子は、その技術に驚きましたし、テクノロジーによって表現の幅が広がった先には、感動があります。
だから、今回のPerfumeのライブを見て、ますます気になったんです。現地で感じる感動と、(現地に行かずに)共有される感動は、一体どこがボーダーなんだろうと。
2018年1月2日 0:45修正:5G通信の移動局装置の画像を追加しました。
2018年1月10日 13:00更新:カウントダウンパートの映像が公開されました。記事内に埋め込み。