労働が自動化しても利益は企業へ。じゃあリストラされた人たちはどうなるの?

  • 5,200

  • author Brian Merchant - Gizmodo US
  • [原文]
  • 塚本 紺
労働が自動化しても利益は企業へ。じゃあリストラされた人たちはどうなるの?
Photo: Drop of Light / Shutterstock.com

自動化は「勝手に進む」んじゃなくて「進められてる」。

ダボス世界経済フォーラムで提出されたレポートでは「政府が税金を投入して自動化によって生まれた失業者の再教育をする必要がある」と提案しています。パッと聴くと納得しそうな表現ですが、米GizmodoのBrian Merchant記者は「ビジネス経営者たちの視点から提唱されている内容であることを忘れてはいけない」と警鐘を鳴らしています。


労働のマシーン化、自動化が進む中で何度も繰り返されてしまう誤った認識があります。「自動化は顔の見える人間の仕業ではなく、ただ我々人間たちは抗う術なく適応しようと、もがくしかない」というものです。この認識は技術決定論がもっともアグレッシブに現れたものであり、一般的には大きな誤りと言い切れます。

自動化を推進するのは企業のえらい人

これまでも書いてきたことですが、自動化は実際には人々の意思決定の結果行われています。人々とは主に、大企業のエグゼクティブであったり管理職の人々です(必ずしもそうとは限りませんが)。自動化が一般的にどのような方向に向かって進むかを決めているのは、一つは自動化の採用を考えている雇用主、もう一つは実際に自動化された職場で働く従業員です。リソースと権限を持っている人々の中には「自動化したい」という衝動は存在するでしょう。しかし決して運命のように予め決められたものでは無いのです。

これは重要なことです。というのも「自動化は抗うことが出来ない必然だ」と設定することで、ダボスで行われた世界経済フォーラムのレポートのような提案が出てくるからです。世界経済フォーラムでは、世界でもっとも裕福なエグゼクティブたちや、TEDトークに登場しそうな”リーダー”たち、そしてこういった人物たちを寵愛する政治家たちがスイスに集まって、経済政策をフォンデュでも食べながら語っているのです。

リストラされた労働者の教育は政府の責任

経済フォーラムで出されたレポートによると、「アメリカにおける全体47億ドルの投資を通して、民間市場は職を失った労働者のうち25%に技能再教育を行い、コストと収益のバランス面でも意義のある再雇用を行うことができる」だろうとのこと。

このレポートによると、残りの75%の労働者の技能再教育の責任は政府にあり、そのコストは199億ドルにものぼるそうです。

190123_davos1
再教育コストのうち経営者たちが損をせずに負担できるのは14%、ということを説明するイラスト。Illustration: World Economic Forum

自動化の波の中で生まれる失業者たちに技能再教育を行うこと自体は、とても良い行いのように聞こえます。世界経済フォーラムのマネージング・ディレクターであり新経済と社会のためのセンター(the Centre for the New Economy and Society)の責任者でもあるSaadia Zahidi氏はプレスリリースで「あらゆる経済において、誰が失業者と技能再教育のコストを支払うのかという命題はますます緊急性を高めています」と述べています。

「企業のツケを政府が払え」というレポート

しかし、ここで少し立ち止まって一体このレポートがどういう文脈で生まれているのか、じっくりと考えてみましょう。

世界でもっとも裕福なビジネス経営者たちを代表して発表されたレポートが、彼らが雇う従業員たちが現在行っている仕事のうち100万人以上が担当しているものを自動化してしまうと予想しています(そのプロセスで労働力コストを節約し効率性を高めさらに収益を増やすことは明らかです)。そして、その結果生まれてしまう失業者たちが仕事を得るためのコストは税金から支払われるべきだと結論付けているのです。

そうして再教育された人や”より高い技能を身に付けた”労働者たちは、自動化がさらに進化した未来の業界において、同じ企業たちのもとで務めて、これらの企業を経営する富裕層たちはさらに収益を高めることができるわけです。

経済フォーラムはつまり、彼らが収益を増加させるために失業してしまう人材を、政府の資金を使って再教育し、彼らの将来の労働力にするべきだと言っているわけです

190123_davos2
アメリカにおける台頭する職業と衰退する職業を示すリスト。Illustration: World Economic Forum

もちろん、これは複雑な事柄を単純化してしまっていることはわかります。しかし大変であっても方針の転換が必要であることは確実です。これらのレポートは自動化を進める資本主義が「避けられないもの」としてしか描けなくなっています。そして同時に、その結果もっとも利益を受けるのは未来の就労に関して陳腐な決まり文句しか言えないダボスに集まる種類の人間たちであることは曖昧にしてしまいます。

自動化は避けられないとしても

自動化が市場に大きな変化をもたらすことは間違いありません。しかしこういった種類の予測やレポートは自動化によって利益を得ようとしている人々の観点から作られていることを忘れてはいけません。自動化がさらに進んだ社会への移行をスムーズにするためにできることはたくさんあります。もちろん、自動化の経済的な利益を平等にシェアするという方向性だって存在するわけです。

世界中の政府にお金を出してもらって自分たちの労働者を再教育してもらえば、無事またジェフ・ベゾスやビル・ゲイツのような大富豪の企業で働くことができますよ〜…というのはその方向性とは大きく違います。

「自動化の時代の中で、雇用をキープするための唯一の方法はビジネスの利益が最大化するように運営することだ」。自動化にまつわる思考がこんなふうに貧しいものにならないようにしなければいけません。その思考の結果、実際に経済的に貧しくなることも避けなくてはいけません。

    あわせて読みたい

    powered by