三脚が15万円もするのはなぜか?

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  • author 三浦一紀
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三脚が15万円もするのはなぜか?
Photo: 三浦一紀

三脚買おうかなと考えている方に。

ギズモード読者のなかには、カメラが好きという方も多いと思います。いろんなカメラやレンズを調べたり、買ったり、使ったりしていることでしょう。

では、三脚は持っていますか?

編集部のメンバーにもカメラ好きは多いのですが、三脚まではあまり気を遣ってない様子。「なんで三脚買わないの?」と聞いてみると「だって結構高いですよね」という答えが。

三脚自体は、3,000円くらいからありますが、高いものだと15万円ほど、雲台を合わせれば20万円オーバーと、フルサイズミラーレスカメラを一台買えちゃうくらいのものがあります。

なんで三脚ってそんなに高いのか。3,000円のものじゃダメなのか。そもそも、カメラの性能上がっているのに三脚って必要? そんな疑問を解消するため、60年もの歴史を持つ、日本の三脚専業メーカーVelbon(ベルボン)さんにお伺いし、お話を聞いてきました。


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Photo: 三浦一紀
ベルボン株式会社設計部の白木雄士さん(左)と国内営業部商品課/広報担当主任の又平泰匡さん(右)


三脚を使うメリットは「手ブレ」以外にもある!

──そもそも三脚はどんなときに必要ですか?

又平さん:日常のスナップ写真以外の、作品的な撮影をしたいという方は、三脚があったほうがいいと思います。特に、夕景や夜景などにチャレンジしたい場合、手持ち撮影ではシャッタースピードが遅くなってしまい、撮影が難しいことが多くなります。そんなときは、三脚は必須といってもいいでしょう。


──最近のカメラは高感度性能が上がり、三脚なしで夜景が撮れるのをウリにしているカメラもあります。

又平さん:高感度性能が上がったカメラでも、光の軌跡を撮影するといった長時間露光は難しいですよね。また、暗い場所に限らず、昼間の風景や花の撮影などをするときにも、三脚は役立ちます。

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Photo: ギズモード・ジャパン
車のライトの軌跡を三脚を使い撮影

──昼間ならシャッタースピードはそれほど遅くならないので、三脚を使う必要がないように思いますが…。

又平さん:風景や花を撮る方は、構図を検討したり露出やホワイトバランスなどを撮影前に考えることが多いのです。そのときに、三脚にカメラを固定しておくことで、ファインダーから目を離していろいろ考えたり作業ができます。そういう面で、三脚を利用する方が多い分野かなと思います。ブツ撮りをする場合など、映り込んでいるゴミを取り除いたりすることもできます。


三脚には「1万円」と「2万円台後半」の壁がある!

──家電量販店には多くの三脚が並んでいますが、最初はどんなものを選んだらいいのでしょうか?

又平さん:いきなり高いものを買えないという場合は、数千円のファミリー用三脚でもいいと思います。ただし、プラスチック製のものがほとんどですので、耐久性や剛性といった部分はあまり期待できません。


──安い三脚と高い三脚の違いとはなんでしょう?

又平さん:「1万円の壁」と呼ばれていますが、三脚では、1万円がひとつの目安となります。

白木さん:1万円以下の三脚は、パイプ部分はアルミですが、それ以外がプラスチックになります。雲台もプラスチック製が多いですね。

又平さん:やはりプラスチック製の部品が多いと、三脚の足の固定力が弱かったり、雲台の締め具合にも違いが出てきます。また、重いカメラを載せるとたわんでしまうことがあります。ただし、ライトに楽しむ分には問題なく使えます。


──「1万円の壁」を超えると何が変わってくるのでしょうか。

又平さん:プラスチックの部品がアルミ製に変わります。もっと高いものになるとマグネシウムを使ったりもします。


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Photo: 三浦一紀
センターポールを上下させるギア部分も、1万円以下の三脚ではプラスチック製のものが多いが、高い三脚になると金属製になる。

──三脚のレベルが上がる感じですね。

又平さん:1万円から2万円台は、パイプがアルミ製のものがほとんどです。それが2万円台後半になってくると、カーボン製のパイプになり、細かな部分に金属製の部品が増えてきます。


──カーボン三脚でも、価格は3万〜15万円程度とかなり差がありますが、何が違うのでしょうか。

白木さん:高い製品になると使っている部品の信頼性が高くなります。実績のある製造元の部品を使うなど、こだわりが積み上がっていくイメージです。単純に高価な製品はその分予算がかけられるので、いいものが作れます。あとはパイプ径が太くなれば、その分価格に反映されます。

又平さん:同じカーボン三脚でも、高価格帯のものは、新しいカーボンが採用されています。ベルボンでは現在、従来のカーボン素材より弾性率が高く、変形しにくくなっている「ハイモジュラスカーボン」を用いた三脚を展開しています。


アルミ製とカーボン製三脚のメリット・デメリット

──価格以外に、アルミとカーボンの三脚では、どのような違いがあるのでしょうか。

白木さん:アルミに比べてカーボンのほうが振動を吸収しやすい特性があります。強度面でもカーボンのほうが高くなります。また、加工面でも、カーボンのほうが薄くて丈夫なものが作れるという利点があります。

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Photo: 三浦一紀
カーボン製のパイプは模様が入っていることが多い。アルミに比べ軽くて剛性の高いものが作れるため、三脚に用いられることが多い。アルミ製に比べやや割高。


──カーボン三脚のほうが全面的に良さそうですが、アルミ製三脚を使うメリットはありますか?

白木さん:アルミ製の三脚は、カーボンのように、薄く軽くはできません。ということは重たい三脚になります。その重さがメリットですね。重いことで安定してブレに強くなります。


──それでは、カーボン三脚と、重いアルミ三脚では、ブレに強い三脚はどちらなのでしょうか。

又平さん:同条件で厳密に比較をしたことはありませんが、一般的にカーボン三脚の弱点として、軽い反面、カメラを乗せると重心が上になってしまうため、安定感に欠けるということが言われています。特に、大きなカメラやレンズを使う方は気にするようですね。それを補うために、カーボン製三脚にはおもりを吊るすために、センターポールにフックが付いているものやストーンバッグが付属しているものが多くあります。アルミ製三脚はパイプ自体が重いので、置いたときに安定感はありますね。


三脚選びのポイントは「パイプ径」

──三脚を選ぶ際に気をつけたいポイントはどこでしょうか。

又平さん:よく、その三脚が耐えられる重さ、弊社では推奨積載荷重という呼び方をしていますが、その数字を目安にされる方が多いかと思います。しかし、これはメーカーごとに計測も呼称もバラバラで統一されていないんです。


──決められた基準がないと?

又平さん:はい。ベルボンでは初めて三脚を選ぶ方が参考にして間違わないように、数値的には低く表記しているんです。他社なら5kgとしているものと同じ性能の製品でも、ベルボンでは2kgにしたりとか。営業的には不利なんですけどね(笑)。


──では、何を基準に選んだらいいのでしょうか。

又平さん:メーカーをまたいで三脚を選ぶ場合は、パイプ径で比較してもらうのが一番かと思います。家電量販店でよく見てみると、書いてありますよ。


──一般の人が幅広く使えるパイプ径は何mmくらいですか?

又平さん:一眼レフでオールマイティに使うのならば、25mm前後がいいかなと思います。そこを基準に、持ち運びを重視するなら20mmや22mm、安定性を重視するなら30mm以上のもの、というように選んでいただけるといいでしょう。


白木さん:大型のレンズを使われる方などは、パイプ径は太いほうがいいでしょうね。


──三脚の足を伸ばす方式も、ナットタイプとレバータイプがありますが、こちらはどう選べばいいのでしょうか。

又平さん:特にありません。お好みでいいと思います。レバーは折れてしまうと足が固定できなくなります。一方でナットは、中の部品が少々壊れても、足の固定はできることが多いので、故障に強いという面があり、プロの方はナットタイプを使う傾向があります。


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Photo: 三浦一紀
左がナットタイプ、右がレバータイプ。現在はナットタイプのものが多いとのこと。


三脚は「大は小を兼ねない」

──初めて三脚を買うときのおすすめを教えてください。

又平さん:個人的なオススメとしては、1万円を超える、部品がプラスチックではないものを選べば、長く使えるかなと思います。もし、しばらく使ってみて不満が出たら、2本目の三脚を購入して、併用すれば撮影の幅が広がります。


──最近の三脚界での流行のようなものはありますか?

又平さん:カメラが軽くなっている流れもあり、携行性を重視したトラベラータイプですね。機構が複雑なものが多いので、初心者の方には使いづらいかもしれません。ただ、弊社のトラベラー三脚「UT」シリーズはかなり売れていますね。


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Photo: 三浦一紀
ベルボンのトラベラー三脚「UT」シリーズの新製品「UTC-63」。ハイモジュラスカーボンを素材に用い、高剛性、軽量。折りたたむと40cm以下になるコンパクトさがウリ


──1台ですべての撮影に対応する三脚はないんですか?

又平さん:三脚は「大は小を兼ねる」という感じにはならないと思います。メーカーとしては、目的ごとに揃えてもらえればうれしいですね(笑)。


──最後に、三脚メーカーさんの立場から、三脚を使う際の注意点などがあれば教えてください。

又平さん:最終的に写真が撮れていればいいと思うんですけど、使う前に取扱説明書を読んで、練習をしていただくといいと思います。


白木さん:三脚はなんとなく使えるものなんですけど、夜景や星の写真を撮るときなど、暗いところで操作しようとするとわからなくなりますから。多少慣れておいたほうがスムーズに操作できるようになるでしょう。


Source: ベルボン