「人間が経験しうる最悪の痛み」を専門家に聞いてみた

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「人間が経験しうる最悪の痛み」を専門家に聞いてみた
Image: Chelsea Beck(Gizmodo US)

人生痛いことだらけ…。

歯痛、腰痛、失恋、親はだんだん白髪になって死んじゃうし、人生のバーはどんどん下がっていくし、腹痛、鼻の痛み、発生源もわからない痛み、それやこれやをやり過ごしていっても、けっきょく最後は死ぬほどの痛みで死んでしまうんだもん。たまんないですよね。

なんの気休めにもならないけど、痛みの専門家と医師に「この世でもっとも恐ろしい痛み」を聞いてみました~。

David C. Yeomans准教授

スタンフォード大学医学部麻酔学・術中管理・疼痛医学科准教授

最悪の激痛。よく言われるのは、三叉神経痛というのですね。

三叉神経は頭と顔の痛みを司る神経。歯も、顔も、目も、まあ、なんでもいいけど、とにかく頭部の痛みはぜーんぶこの三叉路を通っていくんです。

人によっては血管が膨張とか肥大化して、この三叉神経をぐりぐり押してくるわけですね。 その痛みたるや、まあ、患者さんの言葉を借りると、顔面のすぐ隣に雷が落ちる感覚だといいます。長くは続きません。続いても2分かな。でも1日数百回起こる人もいます。ちょっとした刺激で。ひんやりした風が吹くとか。歯を磨くとか。ひげを剃るとか。そのたびに三叉神経痛の人は歯を磨く手を休めなきゃならない。だから虫歯になりやすくて、そっちも痛いんです。

痛みの世界ではよく10段階で痛みを評価してもらうのですけど、三叉神経痛の人は全員が全員、10を選びます。それがどれほどの痛みなのかは推して知るべし。

でも治療もできます。「tegratol」という、てんかんの薬なんだけど、これが効く人も多いです。少なくとも最初のうちは。ただこの薬、あんまりうれしくない副作用もあります。IQが下がってしまうんです。ボーッとなって、イライラしたり。

外科手術も2種類あって、最終的にはそこに行きつく人もいます。ひとつは頭蓋骨を開けて、神経と血管の間にちっちゃな枕を入れること。これで痛みはたちまち治まるんです。でも、50%ぐらいの人は再手術が必要になります。あとひとつは、局部への思い切り絞った定位放射線治療です。体内の奥の奥まで狙って照射します。よくあるのは頭の中。焼き付けてしまうようなイメージ。これで治る人もいますが、時間はかかります。

あとは出産の痛みが最悪ってよく言いますよね。でも両方経験した女性に言わせると、三叉神経痛はさらにひどいそうです。

Theodore Price教授

テキサス大学ダラス校・疼痛神経生物学研究グループ・主幹研究員兼脳行動科学教授

僕が思うに、一番堪えられない痛みはたぶん、自分でコントロールできない痛みなのではないかと。難治性慢性疼痛の人はこれ大問題でね。もともとケガで痛みを感じるようになったはずなのに、ケガが治ってからも痛みがまったく治まらない、ということが起こります。

この慢性的な痛みがよく起こるのは、自動車事故で手足を骨折したとき。このトラウマで神経もやられて、神経がやられると、神経障害性疼痛に。そうすると、ケガがいくら完治してもだめで、やられてしまった神経が原因の神経障害性疼痛のほうは延々続くんです。

もうひとつ最近増えているのが、がんの化学療法です。がん細胞を殺すのはいいのだけど、毒素で神経がやられて神経障害が起こってしまうので、化学療法を止めてからもそっちは消えません。がん完治でうれしいはずなのに、手足に焼けつくような痛みが残って、それが何年も続きます。

こういう痛みがあると、クオリティ・オブ・ライフは台無しだし、基本的な身の回りのことにも支障を来たします。このレベルの慢性的な痛みを抱える人は、全人口の7~10%もいて、しかも尋常じゃなく治療が難しいんです。あまり知られていないことですけどね。

Mohab Ibrahim准教授

アリゾナ大学麻酔学薬学・准教授兼慢性疼痛クリニック所長

どうにもこうにも治まらない痛みは、一定条件を満たすと大体、線維筋痛のカテゴリに落ち着きます。繊維筋痛は治療が難しいことで有名。無理というわけじゃないけど、ほんとに大変なんです。症状には個人差があって、主に拡散痛ですが、鬱も併発します。

まあしかし、体ということでいうと、一番苦しいのは、原因不明な痛みでしょうね。ありとあらゆる検査をやっても全部シロというやつ。

そうなると気持ちの上でかなり参ってしまいます。心理的なことが身体的な痛みになって現れることもあります。これを治すひとつの方法は、体以外のことが原因かも、という方向に目を向けることです。あとひとつは精神科の先生を巻き込むこと。いずれにしても痛みの原因がわからないことには治療のしようがないので、ほんとに厄介なんですよ。

James McAuley上級研究員

オーストラリア神経科学研究所・上級研究員兼グループリーダー・STREAM Health腰痛研究グループ現代表

うーん、こればかりは人によりますね。

最悪の痛みと言うと、よく「爪の間に針を刺し込む」痛みと言いますよね。トラウマ体験的な。でも、あれはそんなに長くは痛みません。痛みは強さと長さ、この両方で評価するので、ずっと消えない腰の痛みに比べてどうかといわれると、どっちもどっちかなあと。

ただ、痛みを測るときもうひとつ重要なのが、痛みをどう捉えるか、です。痛みの目的。

痛みの目的って、体の危険信号を脳に伝えることじゃないですか。赤信号が神経から脊髄を通って脳に行き、内容に応じて脳が判断する。

数年前、オーストラリア海軍のダイバーがシドニー港でダイビング演習していたときのこと。海面に上がっていきながら、なんだか流木が体の横と下にあたってるなと思って、ちょっと邪魔だったので、押そうとしたら手が動かないことに気づいた。「ああ、流木じゃないんだな」と思って下を見たら…なんと片脚がまるまるシャークの口に収まっていたんです。手もシャークの口の中。それを見た途端、想像を絶する痛みに体全体が襲われた、と言ってました。

全身の神経がやばいやばいの大合唱! それが脳にも伝わっていたはずなのに、まさかシャークに襲われるなんて思ってないから、目で見るまで感じなかったんですね。この話を聞くと、痛みのメカニズムが少しわかりますよね。片や体が送る信号があって、片や脳が受け取る信号がある。いくら信号が送られても、脳が処理できないと、痛みとは認知できないんです。危険信号と処理されて初めて、痛みの強さを判断しはじめる、というわけ。

大体の人は痛みというと、体の危険シグナルだと思ってます。腰痛の人はたとえば、ヘルニアだとか、 椎骨にひびが入ってると疑ったり。 でも往々にして痛みは、不安からくる痛みで、心配だから余計に痛い、ということなんですね。いま痛みの科学で注目されているのがこれです。原因が取り除かれてからも延々と続く痛み。これは体の危険信号じゃない。脳の情報処理が変わってしまった、ということなのです。