息苦しくなるほどリアルな閉塞感。人類初の月面着陸を描いた映画『ファースト・マン』の監督にインタビュー

  • author 中川真知子
息苦しくなるほどリアルな閉塞感。人類初の月面着陸を描いた映画『ファースト・マン』の監督にインタビュー
Image: ©Universal Pictures

アポロ計画を疑うレベルの描写。

米ソ冷戦時代に火花を散らしていた宇宙開発競争と人類初の月面着陸成功を、宇宙飛行士ニール・アームストロングに焦点を当てて描いたSFヒューマンドラマ映画『ファースト・マン』。一足早く鑑賞してきましたが、想像を絶する「没入感」! しかも疑似体験できるレベルで一人称視点てんこ盛りな一方で、ミッションの困難さや時代背景、ニール・アームストロングという人物に関しては客観的に理解させるという絶妙バランスでした。

静かだけど恐ろしく暴力的な宇宙開発戦争映画を監督したのは、『ラ・ラ・ランド』で史上最年少32才でゴールデングローブ賞監督賞とアカデミー賞監督賞に輝いたデイミアン・チャゼル

今回、ギズモードはデイミアン・チャゼル監督に直接インタビューする機会に恵まれました。ちょっと聞きにくい質問もぶつけてみたのですが、果たして監督の答えはーーー?



Video: ユニバーサル・ピクチャーズ公式/YouTube

歴史上最も有名で、最も寡黙な人物を主人公にするということ

ニール・アームストロング船長:人類初の月面着陸を成功させ、「That's one small step for (a) man, one giant leap for mankind(一人の男にとっては小さな一歩だが、人類にとっては巨大な飛躍だ)」という名言を残した人物。彼は非常に寡黙で、ごく一部の親しい人にしかユーモアを見せなかった人物として知られています。

──ライアン・ゴスリング演じるニール・アームストロングは淡々としていて感情を出すような場面が最小限でした。ニールという人間の深みを表現する上でどんな工夫をしたのでしょうか。

チャゼル監督:(ニールは)私生活や感情をほとんど語らない寡黙な人間です。そんな人の内側を映像としてセリフなしで表現することは非常に難しい作業でした。小説のように文章で説明することはできませんからね。

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Image: ©Universal Pictures

ニールの人生や生活のことを語れるほどのダイアログが存在しなかったので、宇宙空間を比喩的に使おうと考えました。彼は非常に穏やかで落ち着いた人間に見えますが、ミッションの困難さを通して彼の心情を表現したり、月面の荒涼さで彼の嘆きを表現したりしました。

リアルの追求。当事者と同じ感覚を再現

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Image: ©Universal Pictures

──本作では、宇宙の広大さと宇宙船の閉塞感の対比を強調したかったと伺いました。私は閉所恐怖症で、実際に宇宙船のシーンで幾度となく息苦しさを感じたのですが、あの閉塞感はどうやって表現したのでしょうか。

チャゼル監督:宇宙の広大さと宇宙船の狭さを対比させるのには、準備が必要でした。どうやって見せれば表現できるのか、どのアングルで撮るべきかなど、考えることはたくさんありました。宇宙船の狭さと閉塞感について詳しくいえば、その空間を立体的に伝えることに重きを置きました。

これまでの映画では、船内で顔を横や正面から捉えたものが多く、登場人物が一体何を目にしているのかを伝えきれていません。私は、自分が実際にカプセルの中に入って経験した閉塞感をすべて観客に疑似体験してもらおうと考えました。そのために本作では、顔と壁の距離を見せているんです。そうすることで、狭さを強調できました。

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Image: ©Universal Pictures
本作では、月のダイナミックさを映し出すために、月面シーンの撮影にはIMAXカメラを使用し、その他のシーンでは16mmカメラを使っています。

具体的には、足元への視点カプセルに乗り込む時の視点窓の外への視点をうつしています。これに加え、カプセルのサイズを原寸大(ライアン・ゴスリングの体格を考えると実際には5%ほど大きくした可能性があります)で作っています。撮影用のセットだとカメラの都合で少し大きくなってしまうことが多いのですが、原寸大にこだわりました。

それと広角レンズを使っています。POV(ポイント・オブ・ビュー)のトラベリングショットという、人物舐めからのパネル撮影といった、観客に全体的な空間を把握してもらえる撮影方法を採用しています。

──本当にすごかったですね。閉所恐怖症の私にとって、宇宙船のシーンは本当に怖かったです。

チャゼル監督:ありがとう。そしてごめんなさい。

──私が宇宙船の中にいたわけではないのに、まるで自分もそこにいて、少ない酸素を他の乗組員と取り合うような感覚に襲われました。

チャゼル監督:実は僕も閉所恐怖症なんです。自分が感じる恐怖を作品に込めるのは簡単でしたよ。

──やっぱり! あれは閉所恐怖症でないと表現できないリアルさです。よくもやってくれましたね(笑)。パニックになって過呼吸になるかもしれないので、次の鑑賞では紙袋持参必須です。

チャゼル監督:ははは、間違いないね。

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Image: ©Universal Pictures

──そうとうリアルにこだわって撮影したそうですが、予期せぬ出来事はありましたか。

チャゼル監督:宇宙ミッションは、そのすべてをカメラの前で撮影しようとしたからちょっと難しかったね。グリーンスクリーンではなく、プロジェクションを採用したしね。カプセルのタイミングと動き、ジンバルの動き、プロジェクションに写す映像、ガス、火、すべてがプラクティカル・エフェクトで、撮影の時には全部がコーディネートされていないといけなかったんだ。

撮影初日のことはよく覚えているよ。サウンドステージで全く撮影ができなかったんだ。いろいろと遅れていたし、問題も発生して、結局何もできなかったんだ。最終的にうまく行ったけど、そこまでいくには時間を要したよ。

月面着陸陰謀説について

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Image: ©Universal Pictures

──この映画を観終わったあとの私の率直な感想は「月面着陸陰謀説は正しいのではないか」でした。知れば知るほど、ミッションは狂気じみているほど困難だと感じたのです。監督は月面着陸を徹底的にリサーチした上で本作を作っていますが、一度でも月面着陸成功を疑ったことはありますか

チャゼル監督:いいえ、疑ったことは一度たりともありません。もちろん驚きはありました。知るほどに、とんでもないミッションだったことがわかりましたし、それを実現させたことにも驚きを隠せませんでした。しかし疑う余地もないほど、圧倒的な証拠が残っています。

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Image: ©Universal Pictures

リサーチをしていく中で、ミッションの無謀さや当時の最先端技術、政府の人類月面着陸への強い意志にも驚きました。しかしなにより宇宙飛行士の勇気、人によっては狂気というかもしれませんがー、そういった不確定要素だらけのものに到達しようと、自らを小さなカプセルに押し込んだことに心底驚きました。何が当時の人たちをそこまで駆り立てていたのかーー、ミッションを成功させた技術よりも、そこに感動しました。



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Photo: 奥野和彦

『ファースト・マン』は、月面着陸という人類の大イベントをより深く理解し、まるで自分のことのように感じられる貴重な作品です。歴史の授業の副教材として扱われてもおかしくないでしょう。どうせなんらかの形で見ることになるなら、ぜひ、IMAXで見て欲しいです。そして、私と同じように、ロケットに乗り込まずともロケットの狭さを感じてほしいです。

ともに宇宙に飛び立てる映画『ファースト・マン』は2019年2月8日(金)から東宝東和配給で全国ロードショー。

Source: 映画『ファースト・マン』公式サイト, YouTube

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