写真家 佐藤健寿さんに聞く、カメラ遍歴と愛機:「そろそろ引き算の発想のカメラを」

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  • author 照沼健太
写真家 佐藤健寿さんに聞く、カメラ遍歴と愛機:「そろそろ引き算の発想のカメラを」
Photo: 照沼健太

ソニーとライカのあいだに“現在”があるのかも。

世界中を旅しながら、「アルゼンチンのUFO村」や「世界で唯一の洞窟村」など、“奇妙なもの”を撮影している写真家、佐藤健寿さん。代表作とも言える写真集『奇界遺産』、そして『クレイジージャーニー』など人気テレビ番組での活躍も知られている佐藤さんは、その作品だけでなく世界を股にかけて写真撮影を行なうライフスタイルにも注目が集まる人物です。

危険な地域に踏み入っての撮影や、予想だにしない環境での撮影も珍しくない佐藤さんは、どのようにカメラを選んでいるのでしょうか。

佐藤健寿(Kenji Sato)

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Photo: 照沼健太

フォトグラファー

世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。NHKラジオ第1「ラジオアドベンチャー奇界遺産」、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、TBS系「クレイジージャーニー」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。トヨタ・エスティマの「Sense of Wonder」キャンペーン監修など幅広く活動している。

単焦点レンズ一本での撮影が、原体験

── 人生で初めて手にしたカメラは何でしたか?

コンタックスのRTSIIです。父親が昔使っていて、棚に飾り物として置かれていたものなのですが、ずっとかっこいいなと思っていました。それで自分でカメラを使ってみたいと思った時に「これちょうだい」って(笑)。プラナーの50mm/f1.4を付けて使っていましたね。

── 自分で最初に買ったカメラは?

正直、最初のカメラは覚えてないんですけど、自分でちゃんとカメラをやろうと思って買ったのはキヤノンのEOS-3です。今のデジタルカメラのラインナップだとフラッグシップの1シリーズ、ハイアマチュアの5シリーズがありますが、その中間にあった”高性能かつ小型”というシリーズでした。

あとは途中からデジタルがそこそこな値段で使えるものが出てきて、EOS-10Dもしばらく気に入って使っていましたね。

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Image: キヤノン
EOS-3



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Image: キヤノン
EOS-10D

── フィルム、デジタルともに一眼レフを使われていたようですが、レンズはどれを選びましたか?

カメラマンになろうと思っていたわけでもなかったので、EF24mm F1.4一本で南米などに行ってましたね。EF24mm F1.4はアメリカで店員のおっさんに「これが良い」と勧められて「そうか」って買ったんですけど(笑)。EOS-10DはAPS-C機なのでクロップされて35mm程度になるのでちょうど良かったんですよ。

── 行きたいところに行って、持っているもので撮れるものを撮るというスタンスだったんですね。

そうですね。別に「大三元を持って行かなくちゃ」みたいなものはなかったです。アメリカの大学に行った時に、先生が良い先生で「ごちゃごちゃレンズを持たないで単焦点一本でやると勉強になるよ」って言っていて。「最初にズームレンズを使っちゃうと画角の感覚が身につかないから」って。良い先生だったと思いますね。単焦点を使うと、身体とレンズの感覚が一体になる感覚を覚えられるので。


手元に残っているのは気に入ったカメラだけ。その使い分けとは?

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Photo: 照沼健太

── 佐藤さんがカメラやレンズの選ぶ基準は?

これに関しては、初期、中期、現在とでそれぞれ変わってきました。

・初期

「なんでもいい」って感じでした。「明るいレンズならいいんじゃない」くらいでしたね。

・中期

その後詳しくなっていくにつれ「オールマイティーでそつなく色んなものが撮れる機材がいい」と思うようになりました。これに関しては今もそういう部分は残っています。

・現在

カメラ買いとしてそこそこのお金をかけてきて、詳しくなった現在思うのは「トータルで良くなかったとしても、一点突き抜けてるカメラがいい」というものです。今はそういう買い方になってきていますね。

逆に言えば、今の市場に出ているカメラはほぼ全部オールマイティーなんですよ。極端に突き抜けてるカメラはなくて、どこを長所として他の部分とトレードオフするかという程度の差別化しかない。そういう中で訳のわからないところにこだわっているカメラがあると惹かれますね。

── そんな佐藤さんが現在使っているカメラは?

ソニーのα7RIIIをどこにでも持って行ける汎用カメラとして使っています。あとはライカのM10-Pと、ハッセルブラッドの中判ミラーレスX1D。そしてキヤノンのEOS-1D X Mark IIです。フィルムカメラはコンタックスの645とT3、そしてマキナの670を持っています。いま手元に残っているものは全部気に入っているカメラです。

── 使い分けはどのようにされていますか?

基本的に被写体によりますが、α7RIIIは一通りレンズが揃っているので、天気も含めどういう状況で何を撮影することになるかわからない場合は抑えとして必ず持っていきます。そして風景寄りの撮影ならX1Dを、旅全体を通して撮影する仕事の時はライカですね。フィルムで撮影してほしいと言われたときや、自分がフィルムで撮影したいと思った時は645とかマキナを選びます。ただ、どちらにせよライカとソニーは常に持っていて、他はケースに応じてという感じですね。

「ソニー α7RIII」は、圧倒的な最高性能を武器とした汎用カメラ

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Photo: 照沼健太

── ソニーα7RIIIではどんなレンズを主に使われますか? 汎用カメラとしてはやはりズームレンズでしょうか?

ズームも大三元など持っているのですが、正直あんまり使っていないですね。基本的には単焦点を使い分けていて、ベースとしては35mmや50mmで、山などの望遠が良さそうなところでは85mmとか。ズームと単焦点1本、あるいは単焦点2本、もしくは50mmを1本だけなどの組み合わせを場所によって選んでいます。あとは夜間の撮影では明るめのレンズを選ぶなどしています。

── ソニーの中でもα7RIIIを選んで使っている理由は?

圧倒的に最高性能というところですね。α7SIIも持っていたんですけど、高感度性能においても場合によってはα7RIIIのほうが良いと思うこともあります。もちろん動画に関してはα7SIIの方が断然良いんですけど、静止画ではα7RIIIの高解像度感が高感度ノイズを打ち消してしまうくらいで、それほど圧倒的なんですよ。

そして、それでいてオールマイティー。α7RIIの時は連写が遅いなど「もう一歩」という感じがあったのですが、α7RIIIではそこが解決されました。α7RIIIが発表されて最初にスペックを見た時「これを出したら、次に発表するα7IIIでは何をやるんだろう?」って思ったくらいです。

そういう攻めた姿勢から、昔からミノルタが好きだったことも含め、ずっとソニーは支持しています。一眼レフのα900シリーズから使っていて『奇界遺産』の表紙もα900で撮ったものですから。

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Image: ソニー
α900

── α900時代からソニーを使っていたという人は非常に珍しいと思います。

今でこそソニーはカメラ業界のリーダー的なポジションまで来ていますが、数年前はプロで使っている人はほとんどいませんでしたからね。自分も「なんで使ってるの?」って言われるくらいでした。

── それでもミラーレス以前からソニーには使いたくなる魅力があったのですか?

カメラって、デジタルになった瞬間に主導権がボディに移ったんですよ。かつては色や写りなどの画質を決めるのはフィルムとレンズで、ボディはレンズさえくっつけば連写やAF以外どれでも同じでした。

でも、デジタルになった瞬間にボディ側のセンサー性能とレンズが重要になったわけです。センサーが重要になるということは、カメラが家電化していくのが間違いないから「ソニーやパナソニックが強くなるのは当たり前だ」と10年くらい前に思いました。メーカーの姿勢としても、その頃に異質なカメラを作っていたのはソニーでしたし、早い段階でソニーが良いな、と。

本当に突き抜けたカメラが持つ魅力「ライカ M10-P」

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Photo: 照沼健太

── 一方でメインカメラの一つがライカM10-Pですが、その魅力とは?

本当に突き抜けてるカメラというところです。

まず、画質が良いのは当然として、自分の中では「小型である」ということも重要ですね。各社ミラーレスを作っていますが、どうしてもレンズは大きくなってしまう。でも、ライカのレンズは、マニュアルではありますが群を抜いて小型なんですよ。

あとはデザインが良い。特に僕なんかは旅をしてる間って、財布とパスポートの次にカメラが重要なくらいで、それだけ常に身につけてるんです。そうなると物としての美しさというのは重要になってきますね。テーブルの上に置いたときに眺めて楽しんだり、そういうのはカタログスペックでは数値化できない魅力だと思います。

── 商品の公式ページを見てもそうですが、ライカはほとんどカタログスペック的な話をしないですしね。

ここ10年くらいのカメラって、新しい機能をどんどん付加して、フィルム時代はできなかったことをできるようにするのが大きな楽しさだったと思うんですけど、今はどのメーカーも飽和段階に近づいているように感じますね。

しかし、その中でライカはまったく逆の方向を向いている。今では当たり前の動画撮影機能をM10で削ったり、もともと静かなM10のシャッター音をM10-Pでさらに静かにするという訳のわからないチャレンジをしていたり(笑)。

でも、それって進歩主義に対する反動のようでいて、実は日本のメーカーが10年後にやり出すようなことかもしれないんですよ。カメラがどれも高性能なオールマイティーなものばかりになってコモディティ化したとき、最終的にはシャッターのフィーリングや音、ものとしての造形の美しさなど、人間の感性に響く部分が重要になると思うんです。そういう部分を追求しているメーカーというのは、現在のカメラ市場ではライカ以外にほとんどないですよね。

そういう意味ではハッセルブラッドは良い線行ってると思いますね。X1Dは久しぶりにすごく良いなと思って買ったカメラです。 画質だけでいえばクラストップの性能ですが、余計なものを潔く取り払っているので撮影に集中できる。メニューなんかもシンプルでよく考えられています。

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Photo: 照沼健太

── 一見すると懐古主義的なようでいて、実は未来はライカ側にあるかもしれないと。

日本のメーカーってパソコンでも携帯でも家電でもそうでしたよね。途中まで世界をリードしているのに、機能を付加していく技術的成熟段階が終わると、その先のヴィジョンを失い、iPhoneのようなまったく違う感性で作られたものに抜かれてしまうっていう。一方で、技術というのはコストダウンが早いので、右往左往しているうちに、中国や台湾にコストパフォーマンスでも負けてしまう。今またカメラで同じ道を歩もうとしているように見えます。

自分が日本のメーカーに言いたいのは、機能増強の方向性と並行してでもいいから、そろそろ引き算の発想のカメラを作って欲しいということですね。フルサイズで、とにかくシャッターフィールとデザインが良くて軽いっていう、そういう従来と違うベクトルの製品を作らないと、いずれまた海外に抜かれてしまうと思います。もうみんな、機能は十分だというのがユーザーの本音ですし、メーカー側も実はわかっていると思います。この状況は日本のガラケー末期に似ているなと思うんです。

ライカやハッセルは値段が高いので、この市場を食うとは思えないんですけど、中国のガレージメーカーやKickstarterで資金を集めたようなメーカーがそういうコンセプトを突き詰めた製品を出して、結構売れちゃう可能性は十分あると思います。今のドローン市場やスマートフォン市場がすでにそうであるように。

最近、ライカユーザー増えていませんか?

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Photo: 照沼健太


── そうした潜在需要の表れか、インスタやYouTubeを見ていても近頃ライカユーザーが増えている印象があります。

そこにはいろいろな要因があると思います。まずはファッション方面で流行って、シュプリームを着てるような子たちの間でライカを身につけるのが一つのスタイルになったこと。HYPEBEASTなど海外のファッション系メディアでもライカの新製品が紹介されるくらいですからね。それは逆に言えば、例えばシュプリームを着るような若い人たちがぶら下げたいと思うカメラを、日本のメーカーは作ってこなかったということでもあると思います。

── 写真ではなくファッション方面からの入り口があるわけですね。

それと同時にインスタのフィルターに影響されたフィルムブームもあるでしょうね。フィルムカメラ的な写りをデジタルでやろうとすると、詳しい人はアダプタを買ってオールドレンズをつけるなどできますが、若い女の子をはじめ、普通はそこまでギークにならないんですよね。でも、ライカの場合はオールドレンズを買ってつけると本当にローコントラストでフレアバリバリみたいな写真が撮れるから、みんな「これだ!」となるんです。自分もたまに美容師の友だちに、インスタの画面を見せられ「こういうの、どうやったら撮れるの?」って聞かれますから。ファッションのルックブックがライカで撮影されていることも多く、そういう写真が影響力あるアパレルや美容師界隈で好まれているのも大きいでしょうね。

── なるほど。

そしてもう一つ、カメラが家電化していくにあたって、消費者も買い疲れてきているんだと思います。せっかくカメラを買っても、毎年新しいモデルが出てリニューアルされていく感覚があって、疲れが出始めているわけです。それに比べ、ライカにはタイムレスな世界が広がっている

── たしかに。ギズ読者にもカメラの買い疲れしている方は少なくないと思います。自分もここ数年ソニーをメインに使ってきましたが、ライカのそうした古びないカルチャーにどんどん魅力を感じるようになってきました。

ライカへの入り方って、カルチャー方面からや、カメラの手触りや外観のデザイン性からなどいろいろありますが、それだけならここまで評価されないはずなんですよね。でも、実際は入ってみると、まず写りが良くて、世界観や歴史があって、レンズの深い沼が広がっているんですよ。

後ろには60年の歴史があって、60年前のエルマーとか今のカメラにも着いちゃうわけですから。しかもそれがいまだに10万円や20万円するし、何より実際によく写る。そういう「良いもの買った感」を与えられるブランドって日本のカメラ業界にはほとんどないですよね。男がライカレンズ好きなのって、女の人が宝石好きなのと似てる部分があると思いますよ。ずっとそれを眺めているおじさんもいますしね(笑)。

どれだけデジタルが進歩しようとも、レンズだけは物理的

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Photo: 照沼健太

── 機能増強が現在のカメラの主流であり、その反対に引き算がある一方、第3の方向としてスマートフォンがあると思います。佐藤さんはスマートフォンでの撮影はされますか?

撮りますけど基本的にメモがわりで、作品として撮ることはまずないですね。一応、iPhone XSとか、ライカのトリプルカメラを搭載したHUAWEIのP20 Proは持っていて、防水なので水辺で撮ることはあります。

── やはりスマートフォンのカメラは性能的に不満ということですか?

作品が撮れないかというとそんなことはないと思うし、実際スマホで撮影している方もたくさんいますよね。そういうスタイルもあると思います。でも単純にカメラに比べればまだまだなので、無理してスマホで撮影する必要はないなと。RAW撮影もできますが、補正幅が狭すぎてあまり意味がない。

ポートレートモードで撮ったこともあるんですけど、実際のカメラを知っていればいるほど凄さよりも嘘くささが目についてしまうんですよね。被写体のエッジの立ち方と後ろのボケ方なんて、ライカはじめ各社が光学的に突き詰めているところをデジタルでそれっぽくシミュレーションしているわけです。エッジの認識がずれて変なところがぼやけて、チープなレンズによる収差バリバリの描写みたいに見えちゃうんです。

── ちなみにカメラ好きの間で話題によく上がる「レンズにお金をかけるか、ボディにかけるか」についてはどう思われますか?

基本的にはレンズにかけるべきだと思います。いろんなメーカーがぶつかっているジレンマがそこにあって、ボディは小型化できるけど、最終的にレンズの光学的な部分をコンパクトにするには限界があるんですよ。そういうどうにもならない部分だからこそ、マウントさえ変わらなければ10年後も20年後も大きく変わりません。だから、レンズとボディどっちかを買おうっていうときはレンズの方がいいかなと思いますね。

── 今日はありがとうございました。最後に「いつか買いたい機材」を教えていただけますか?

手に入る範囲の話でいうと、ライカのNoctilux 50mm/f1.2ですね。今現在の相場では250万円くらいでしょうか。間違いなく高いけど、無茶すれば買えない値段ではない。でも仕事で使えるかと考えると躊躇するし、コンディションが良いものはないっていう悩ましいレンズです。何回か試し撮りしたことがあって、確かに良いんですよ。f1.0ほど無理してないから周辺落ちも控えめだし、意外とシャープだし、でもオールドレンズとしての味もすごいあるっていう。今のノクチより小型ですしね。だから程度の良い個体で安いのがあればいつか買いたいですね。




デジタルカメラに始まり、ミラーレス化によってさらに加速した「カメラのコンピュータ化/家電化」。しかしそれは逆にあっという間に商品が旧モデルとなり陳腐化してしまうことも意味してしまいます。佐藤さんの指摘する「カメラの買い疲れ」は頷くひとも多いはずでしょう。

しかし、ライカは高すぎて誰もが変えるカメラではないのも事実です。日本のメーカーには「家電ではなくカメラ」といったフィーリングを備えた、シンプルな製品がこれから求められてくる、そう感じさせられました。もしかしたらレンジファインダーが流行る…?


CP+イベント情報

カメラと写真映像のワールドプレミアショー「CP+2019」(開催期間:2/28(木)〜3/3(日)にて、3月3日11時に実施されるCP+主催イベント「奇界遺産トークショー」に佐藤健寿さんが出演されます。入場は無料、事前登録が必要となります。登録はこちらから。

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