映画を見る目が変わるかも。
みなさんは映画を見ているとき、カメラワークに注目することってありますか? カメラワークって、それひとつでキャラクターの心理状況を表現できたり、製作者の意図を暗に伝えているんですよね。試しに、好きな映画の好きなシーンを思い浮かべて、それをプレーン・ステージング(全体が把握できるように遠くから撮る)で撮影されていたらと想像してみてください。一瞬にして退屈で意味のわからないシーンになってしまうのではないでしょうか。
ちょっと考えただけでもカメラワークの重要性と、込められたメッセージに気づきますよね。カメラワークを知ると映画が断然面白くなりますし、自分で映像を作るにしても、どうすれば言葉にせずとも自分の表現したいことを暗に伝えることができるのかがわかるようになります。
今日は、そんなカメラワークの面白い映画を紹介したいと思います。
『ロッキー』『ロッキーIV』:クロスカッティング
『クリード』が大ヒット上映中なので、オリジナルの『ロッキー』を改めて見ている人も多いでしょう。無名だったシルベスター・スタローンが脚本を執筆し、自分を主役にして映画化することにこだわり抜いて、高額オファーを蹴ったとか、脚本を制作会社に持ち込んでいた時に貧乏すぎて愛犬を売ったとか、裏話まで興味深く、知れば知るほど勇気をもらえる作品です。
そんな、『ロッキー』で注目したいカメラワークは「クロスカッティング」。交互に異なった描写のシーンを見せることで、比較が表現できます。
『ロッキー』では、ロッキーがアポロと戦う直前の控え室のシーンで使われていて、史上最強世界チャンピオンのアポロとの対戦を前に不安に駆られるロッキーと、落ち着いた表情のアポロの対比を見せています。
『ロッキーIV』では、完全に管理されサポートされたドラゴと、我流のロッキーの練習風景の対比としてクロスカッティングが使われています。
『ブレードランナー』:トラック・スルー・ソリッド
SF代表作のひとつとして知られる『ブレードランナー』(1982年)。2017年に公開された続編『ブレードランナー2049』をきっかけに知った人もいるかもしれませんね。この作品では、難しそうに見えて意外に簡単な「トラック・スルー・ソリッド」を紹介します。
トラック・スルー・ソリッドとは、硬いものをカメラがすり抜けるように撮影する技法です。どんなものか、下の動画をご覧ください。
初めて見た時は驚きました。今は特典映像で舞台裏や制作方法を知ることができますが、VHSの時代は魔法を見るような気持ちで映画を鑑賞していました。
後に、ジェレミー・ヴィンヤード著『傑作から学ぶ映画技法完全レファレンス』を読んで床をカメラがすり抜けているように見せる裏側を知りました。切れたセットの前をクレーンのカメラが通っているだけなんですって。今はVFXでどうにでもなるので目新しさはありませんが、その昔はビックリさせられました。
『ミッションインポッシブル:フォールアウト』:命がけのロングショット
ロングショットは数あれど、ヘイロージャンプのロングショットは『フォールアウト』だけ。しかも、このロングショットを叶えたのは、先に飛んだカメラマンのヘッドマウントカメラだというから、二重の驚きでした。D-BOXでなくても、画面の向こうから風を感じるかのような臨場感を楽しめます。
本作の長回しはヘイロージャンプに限りません。アクションシーンは全体の流れが把握できるロングショットの長回しが基本です。なので、殴り殴られ殴りかえすといった一連の動きをずっと目で追って入られます。
他のアクション映画と比較するとわかりますが、肉弾戦の重みが全然違います。本作は、嫌という程カメラワークを意識させられた作品でした。アクション映画を見慣れている人は余計に感動させられたと思います。
『アメリカン・プレジデント』(1995年):ズームからのクローズアップ
これは私が大好きなポリティカル・ラブ・コメ映画。現役の大統領(バツイチ子持ち)が、環境問題ロビイストと恋に落ちるシンデレラ・ストーリーで、ズームがとっても印象的な作品でした。主にスピーチでズームが使われていて、表現しようとしているのは、「自信」です。
ひとつめは、大統領が背後にいることに気づかずに、アネット・ベニング演じるロビイストが饒舌に大統領批判するところ。
調子づいてきたあたりからズームが始まります。今でこそ女性進出が進んできているハリウッド映画ですが、90年代はまだ男性が主役で女性はサポート役という設定が多く、ましてファーストレディでもないのに大統領に対して臆することなく意見するキャラクターというのは珍しく、本作は映画における女性の描かれ方を変えた作品のひとつとしても知られています。
ラストの大統領演説でもコッテコテなズームが使われています。
支持率が下がっていた大統領が、歴史に残る演説をして国民の意識を変える約4分半のパワフルなもので、最後はマイケル・ダグラスのドヤ顔にズーム。スピーチの構成、ダグラスの演技、声のトーン、単純だけど効果抜群なカメラワーク。個人的には『インデペンデンス・デイ』のビル・プルマン演じる大統領のスピーチよりも好きです。見惚れる、聞き惚れるってこういうことか、と思います。
ここで紹介したのは、ほんのごく一部です。ちょっと知るだけでも、映画の見方が変わったのではないでしょうか。
Reference: 『傑作から学ぶ映画技法完全レファレンス』
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