2019年ってもう「近未来」でしょ?
最新ガジェットで身を固め、機械との融合を図るギズモード編集部員たち。これだけテクノロジーが発展しているんだから、そろそろ自らが究極のガジェット=サイボーグになれてもおかしくはないはず。
その思いを煽るかのように、超絶テクノロジーなサイボーグ達がアクションするSF映画『アリータ:バトル・エンジェル』もついに公開されたし、いよいよ居ても立っても居られなくなってきた!
そこで今回は、映画『アリータ:バトル・エンジェル』とコラボしていて、しかもサイボーグになるには欠かせないコネクターの部門で世界No.1のシェアを誇っている、タイコ エレクトロニクス ジャパン合同会社(以下、TE)に話を聞きにいきました。
「サイボーグになりたいんだけど、どうすりゃいいんすか」という脳も機械化したほうが良さそうな疑問に真面目に答えてくれたのは、TEでデータ・アンド・デバイスのアドバンスド・テクノロジー部門シニアディレクターを務める白井浩史さん。

サイボーグって実現できそうなの?
──サイボーグになれる日は来ますか?
白井浩史(以下、白井):生体のほうは専門ではないのですが、機械のサイドだけから考えると、十分可能だと思いますね。ただ、やっぱりいまの技術を相当改善しないといけないと思います。
映画『アリータ:バトル・エンジェル』だと、サイボーグはさまざまなパーツを接続していますよね。我々エレクトロニクス業界での接続っていうのは、基本的に金属と金属を押し当てているのですが、物理的な接触による電気接続っていうのは、動き回る生体とは相性がよくない気がします。水分の心配もありますし。
それにやっぱり人間の脳って、かなりの高密度で信号をやり取りしていますからね。実現を可能にする要素技術としてはひとつひとつあるんですが、いまはまだそれぞれの物理的なサイズや必要な電力がちょっと大き過ぎるんです。たとえば髪の毛1本ほどの神経を再現するにも相当太いケーブルが必要なので、サイボーグ実現までには越えなきゃいけない壁がまだまだあると思います。
──なるほど……ちなみに、サイバーパンク系のSF小説や映画みたいにサイボーグ化するとしたら、まずは身体にケーブルを接続するためのデカい端子を付けたいんですが、あれって現実的なんですかね?
白井:あれも物理接続っていうよりは、金属を限りなく近づけて信号をやり取りする無線接続っていうような形なのかもしれませんね。無線といっても、やっぱり近ければ近いほどより多くの信号や電力を送りやすくなるので。
完全な無線とは言えないのかもしれないんですが、直接接触するのではなく静電結合や誘電結合を頼った接続もコネクターでは使われ始めています。脳で言えば、シナプスのような形ですね。直接触れるのではなく、至近距離でイオンのやり取りをするかのように。
あと、物理接続はちょっと水に濡れただけで動かなくなっちゃいますから、無線はそこも有利ですね。

──TEはほかにどんな部品を作っているんですか? サイボーグにも使えそうですか?
白井:うちは電子部品の会社で、インターコネクト、日本語に訳すとすれば相互接続という意味になるものを広くとらえて、さまざまな製品を提供してます。
みなさんの一番身近なものだと、電子機器のコネクターとかケーブルといった製品ですね。たとえばスマートフォンの場合、物によってだいぶ幅はあるにせよ、高級機では1台あたり20個以上のコネクターは入ってると思います。センサーということになれば、さらにもう何十個か入ってることになるので、相当な数のコネクティビティー関連の部品が入っているわけです。
うちは特に自動車部門が強いのですが、自動車の場合は1台で、1000接点分くらいのコネクターが入っていることもあります。
そこにとどまらずに、インフラで使われてるような通信機器、産業機器の中にも。特にインフラでは信頼性の高い電気接続が必要で、厳しい条件下でも使えるような部品を提供しています。
簡単にいえば、接続をキーにしてさまざまなメーカーの開発を広く支えるというようなことを生業としている会社なので、どこかの企業が「サイボーグを作るぞ!」と意気込んでいるなら、お手伝いできそうですね。
──僕らはすでに、TEさんのパーツに囲まれながら生きているんですね。
白井:そうですね。こういういろんなものをつなげる技術は、みなさんの知らないところで身近に結構あるんですよ。
──その中で白井さんはどのような形で仕事をされてるのですか?
白井:我々の会社はたとえば自動車部門とか、産業機器部門とかいろんな部門があるんですけど、私の部門はスーパーコンピューターや携帯電話のデータをやり取りする部分でのコネクターとか、ケーブル アセンブリを中心にやってます。たとえばデータセンター向けのハイスピードなコネクターでは、1本あたり112Gbps通せるレーンを複数まとめて、1個のコネクターで通すっていうようなものを開発しています。いま手元にあるこの製品は24本用ですが、96本用の製品もあります。

サイボーグになれたら、どんな感じ?
──112Gbpsが96本……(計算ができない)。そんなすごいスピードを実現させるパーツがあったら、サイボーグになっても映画『アリータ:バトル・エンジェル』の中で描かれてるように、人間的な繊細な感覚をもったサイボーグにもなれますかね?
白井:将来的には十分に可能だと思います。ただ、いまの技術は人間の感覚に近づけるには、かなり改善していかないといけませんね。人体の感覚神経って細かいだけじゃなくて、アクティブに読み取りにいけるところが、非常に優れているんです。
たとえば今ある温度センサーのパーツとかは全部パッシブなものなので、こまめに「温度を教えて」とリクエストする必要があるんですね。温度状態をわれわれが読みに行って、その結果を見ることで温度が分かるという構造です。しかし、人間の皮膚にある温度の触覚は変化があるたびに触覚細胞そのものが電気信号を出すので、わざわざ読みに行かずとも温度を感じられるんです。このように感覚細胞は基本的に皆アクティブなんで、要は脳に負担がかかりにくいんですよ。

──サイボーグっていえばメタリックな金属部品なイメージなんですが、実際作るとしたらどんなものになるんでしょう?
白井:個人的には生体的なものに近づいていくんじゃないかなと思いますね。金属とかプラスチックを組み合わせて作っていく機械的なもので追求していっても、ちょっと限界が見えると思います。
というのも、今あるパーツを100倍とか1000倍で凌駕する高密度にしていくと、ものすごく時間とコストがかかっちゃうと思うんですよ。
──TEさんでは、そういった生体的なものの研究はされているのですか?
白井:生体とまではいきませんが、有機素材に関してはアメリカのコーポレート・テクノロジー部門で基本的な調査をしています。世の中にいろんな技術があるので、大学とやり取りをしたりして、どういった技術が将来コネクターに使えるかっていうところを調べているんです。
──サイボーグ・パーツの耐久性は高くできますか? あまりメンテナンスに通いたくないです!
白井:耐久性って、いろんな見方があるんです。たとえば機械的な繰り返し荷重に対する耐久性もあれば、熱サイクルに対する耐久性、ガスへの耐久性とかとかもあります。
我々の製品はいろんな所で使われるんで、さまざまなことを想定して製品を世の中に出す前に、いろんな負荷をかけていくんですよ。高温の中に入れてみたり、ガスの中に入れてみたりね。

それに耐えられなかった場合……大体は設計で解決するんですが、将来の要求に対して準備しているようなひとつ先の製品ということになると、それでは解決できないことも多いので、新しい表面処理技術などを試します。
あとは材料も検討します。ちょっと前にカーボンナノチューブを使えないか真剣に考えましたね。非常に強度が高い材料なので。その当時はすぐには使えるような用途は見つからなかったんですけれども、将来的にはさらに微細化が進んで、本当に基本強度の高い材料が必要っていうときには、そういったものも考えには入れないといけないかなと思っています。
耐久性を上げるという機械的な意味では、そういった材料の工夫など、どんどん積極的にやっていくようにしています。
サイボーグになるなら人間を越えていきたい!
──サイボーグ化するんだったら、やっぱり人間を凌駕する性能が欲しいんですが、TEさんのやってる研究で、凄い能力をつけられそうなものってありますか?
白井:どうしても自分の近いところで見ちゃうから、生身の人間と比べてより多くの情報を速く処理できるハイスピードの接続技術とかの話をしたくなりますね。
たとえば、凄まじい速さで計算ができるスーパーコンピューターっていうのは、何万個っていうプロセッサーの固まりなんですね。その凄まじい量のデータを処理できるプロセッサーを、いかに効率良くつなげるかが重要になります。
そういったデータ接続技術の部分で、我々は最先端をいっていると思います。実際、少し前にはスーパーコンピューター「京」にも納入しましたし、いわゆるGAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)といった企業のデータセンターでも使われていますしね。

ただ、人間の脳のレベルを実現しようと思うと、なんとかして巨大で複雑な3次元ネットワーク構造を頭に持ってこないといけないんですよね。私はいまの2次元的な半導体の延長だけでは、それを実現するのは非常に難しいと思っています。
3次元的な半導体の実用化まで、まだ、かなりのステップを踏まなきゃいけないんですけれど、いまの段階からだと、2世代先ぐらいまでは見えてるかなといったところです。
──やはりTEさんは接続なんですね。SFで定番の接続といえば、神経を接続してロボットなんかの別の身体を遠隔操作なんてのもありますが、その方向でも活かせそうですか?
白井:テレパシー的な1対1の意思疎通や視覚のイメージの共有などは、いまの技術でもできると思いますが、人間そのものの全身の操作はやはり難しいのではないかと想定しています。
ただ、全身じゃないですが、危険な場所に入って作業するロボットと接続するといった部分では、かなり期待されてる技術です。
人類の進化に寄り添う企業
──これを読んでいるエンジニアの中にはサイボーグを実現するためにTEさんに入りたいという人もいると思うんですが、どういう人がTEさんで働くのに向いていると思いますか?
白井:好奇心旺盛なのが大事ですね。我々は、本当にいろんなお客さんを相手にしているので、自分のデータ・アンド・デバイス部門だけだったとしても、携帯電話そのものや、その基地局のスイッチもあり、スーパーコンピューターも、事務機もありますんで、それぞれの技術について勉強もしておかないと、お客さんにいい提案ができません。
自分たちで気になった製品を分解して研究できる職場なので、中がどういうふうになっているのか好奇心を持っていろいろ探求・追求していきたいような人には、ぜひ来てもらいたいです。
──サイボーグになることに興味がなくても、楽しそうな職場ですね。白井さんはどんな瞬間が楽しいですか?


白井:これは今で自分で使ってるノートPCなんですが、これのドックについてるコネクターはうちの製品なんです。これ実は競合他社と競争して、最終的にわれわれのものが採用されて、製品になったものなんですよ。実際に自分の作った製品を見るのが、やっぱり一番楽しいですね。
CPUソケットとかはPCの外からでは見えませんが、お店に行くと、マザーボード単体で売りのときはコネクターやソケットも見られますし。現実のものが見られなくても、たとえばデータセンターで使われてるケーブルの場合だったら、ウェブサイトを見たときに「このサイトで見えてるケーブルは全部うちのだ」と思うわけです。
完成した形での製品を売るわけではないですが、やっぱり世の中の進歩に貢献したと実感できるのが電子部品業界でのひとつの楽しみだと思います。世の中の動きをすごくよく感じられるんですよ。いろんな業界に入ってるんで。
──ある意味で究極のガジェット専門家になるかもしれないですね。
白井:私もここに来てからはパソコンが中心ですが、家電にも関わりました。でも段々と新しい技術というのは導入されなくなってきて。でも、そうしたら携帯電話/スマートフォンが出てきて、クラウドコンピューターも出てきて、あと携帯用ゲーム機にもといった具合でやってきました。パソコン専門の会社に入っていたらパソコンだけで終わりだったと思いますが、いろいろなものに関われていますね。
技術っていうのは昔から今までずっと継承してきているもので、昔があるからこそ最先端のものが作れるっていうのもありますから。そういう意味で一貫して技術を捉えていける会社ですね。
──人類の進化を陰ながら支えている会社って感じですね!
白井:困っている所を、すごい知識やパワーで助けられるというような、映画にたとえたら、アリータをよみがえらせたサイバー医師のイドのような存在を目指しています。
実際、お客さんが我々に求めるのは製品というよりも、解決策なんですよ。どう接続するかをひとつとっても、お客さんはすごく悩んでいますからね。大手企業はもちろん、スタートアップやベンチャーの方々ともやり取りをしていますが、まず相談して欲しいと思います。困ったことがあったら、まず我々に声をかけて欲しいですね。

というわけで、やはり映画『アリータ:バトル・エンジェル』に出てくるようなカッコいいサイボーグになるのはまだだいぶかかりそう。しかも、思っていたようなメタリックなルックスにはならないのかも?
でも、これからも人類の技術は進歩し続けていきます。サイボーグになりたい人は、その最先端で活躍を続けるタイコ エレクトロニクス ジャパンの今後の動向に注目しておくと良いのではないでしょうか!
Source: タイコ エレクトロニクス ジャパン合同会社