WHOが選ぶ「2019年世界10大リスク」に入ってしまった反ワクチン運動。
反ワクチン政権誕生のイタリアを中心にはしかが大流行し、上半期だけで4万人以上が感染して死者も出た昨年の欧州に続き、今年はアメリカでも反ワクチン運動のホットゾーンのニューヨーク(NY市)とワシントン州最南部オレゴン州境で児童が続々と感染。Jay Insleeワシントン州知事が非常事態宣言をし、警戒を呼び掛けています。
ワシントン州は42人感染、ハワイ旅行中の児童2人も感染
知事は「はしかは感染性が強く、小さな子どもは死にいたる恐れもある。予防接種を受けていない人はほぼ全員かかる」とツイートし、防止に全力を挙げると布告しましたが、その後も増え現在までに感染者は42人にのぼっています。すべて発生地は予防接種率が低いクラーク郡。
さらに同郡からハワイ島を旅行中の未接種児童2人からも感染が確認されました。ワシントン州からの緊急連絡を受け、ハワイ州が家族の居場所を特定し症状を確認した模様です。
最後の1人は予防接種をしっかり済ませていたにも関わらず感染してしまいました。全員がワクチンを接種しても、予防率は100%とはいかないのです。1人が接種しても、まわりが接種しない人だらけでウイルスが広まったら、こういうことも起きてしまいますよね…。
ワクチン前の子は外出もできない
困ったのは地元のママたちで、予防接種前の赤ちゃんがいる家では、食材もオンラインで買ったり、大変みたい。こちらのママも、予防接種までまだ1か月あるので今は外出を控え中です。「予防できることなのに」と憤りを隠しません。
2015年ディズニーランドの集団感染でかかったお金は4.5億円
ちなみに州知事が非常事態宣言するということは、危ない危ないと叫ぶだけじゃなく、州の医療予算を緊急カットしてワクチン拒否エリアの救済に割り当てる、ということを意味します。
大体いくらぐらいかかるのかな?と思ったら、アナハイムのディズニーランドで起こった2015年の集団感染では計136人が感染、うち20%が入院し、緊急対応だけで400万ドル(約4.5億円、治療費とは別途)かかった、と州保険長官がCNNに話していました。あのときの非常事態で接種が義務化され、接種率は4.7%上昇したんだそうですよ?
NYではワクチン未接種児童6000人超が2か月登校禁止に
東海岸ではNY市とロックランドカウンティという2つのワクチン拒否地域でもアウトブレイク中で、昨年10月から計209人が感染し、ワクチン未接種児童6,000人超。未接種児童の登校禁止を発表したら14,000人が慌てて予防接種を受けたらしく、「うっかり予防接種を怠けていた親も結構いる」と州保険長官Howard Zucker医師はCNNにコメントしています。予防接種手帳ってどっか消えたりしますもんね…。
両州に共通すること
アウトブレイク中の2州に共通するのは、「個人の信条を理由に予防接種を拒否する権利を認めている」点です。NYは宗教を理由に拒否できるため、ユダヤ教超正統派の地域がホットベッドとなっています。ワシントン州は隣のオレゴン州ともども、宗教+個人の信条でも拒否できるため、その他もろもろの理由で接種を受けたくない人びとのホットベッド。でも、あまりにも広まると、信条の自由どころの話じゃなくなるかも…。
「自閉症はワクチンの副作用」という都市伝説の時系列
よく「ワクチンは自閉症の副作用が怖い」とか言われますけど、はしかに関しては自閉症と関連付けて恐怖を煽る人には気をつけたほうがいいです。

Popular Scienceによると、「autism(自閉症)」を今の意味で使ったのは1943年、米ジョン・ホプキンズ大学のレオ・カナー医師が最初です(同年ドイツではハンス・アスペルガー医師がこれによく似た症状の論文を発表し、後のアスペルガー症候群となりました)。Autismはギリシャ語の「Auto(自我)」。転じて「隔離された自我」を指します。
最初の症例はDonald T.くん。
「ひとりでいる時が一番幸せで、貝のようにこもる。周囲が見えず、まるで自分の中だけで生きているみたいだ」という33ページにおよぶパパからの長い手紙を読んだのが発見のきっかけでした。おもちゃを片っ端から回す子で、頭を左右に振り、ずっと自分でも回ったり、物事の順序が少しでも崩れると壊れてしまう、自分を三人称で呼ぶ子。非常に強い関心を持ち、よく似た症例の子10人と合わせて発見点をまとめて発表した、その論文のタイトルが「Autistic Disturbances of Affective Contact」だったのです。
3種混合MMRワクチンは1971年リリース。MMRはMeasles(麻しん:はしか)、Mumps(おたふくかぜ)、Rubella(風しん)の略。効果はてきめんで、 はしかひとつとっても、欧州で年間260万人が死亡していたのが、ワクチン導入後の2012年には1万2200人まで減っています。
この自閉症とMMRワクチンを無理やりくっつけたのは1998年、英国のアンドリュー・ウェイカーフィールド医師の論文でした。「MMRワクチンで自閉症になる」と発表したところ、ゴシップ紙が飛びついてわっと広まり、予防接種率が激減、元の木阿弥になってしまったのです。論文はMMRメーカーを集団訴訟する家族の起訴事実の裏付けのために書かれたものであり、医師は病歴にいろいろと修正を施したのみならず、勝訴の見返りとして損害賠償金の一部を裏で受け取っていたことが判明、医師としてあってはならない利益相反行為と医学誌ランセットから見限られ、永久削除されています。
実際には、ワクチン接種した子もしてない子も自閉症発症率は一緒で、全世界どの条件で比べても変わらないことが数々の調査でわかっているんだそうですよ?
だから、今のワクチン戦争は情報戦です。アメリカでは4年前からワクチン推進派のふりして「馬鹿につける薬ないね。あいつら(反ワクチン運動の人たち)全員はしかで死ねばいい」とか、ひんどい書き込みをして反ワクチン派の被害者意識に火をつけ結束を強めるという、随分遠回りなことする反ワクチン工作員も現れていまして、まあ、これは主にロシアであることがわかっています。
Sources: CNN, The New Republic, Popular Science