人間にも磁気コンパスがあることが大判明

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人間にも磁気コンパスがあることが大判明
Image: Gerry Shaw/Wikimedia

渡り鳥みたいなコンパスが、なんと人間にもあることがわかりました!

学会誌eNeuroに今月掲載の論文で明らかになったもので海外では話題沸騰です。無意識のレベルで起こっている話ですけど、脳には地球の地磁気を感じる磁気受容なるものが備わっているんだとか。進化の過程でご用済みになった尾てい骨みたいなもので、用途は一切不明。方向感覚とかの行動や能力にどんな影響があるのか、今後の研究が待たれます!

「磁気受容」は、脊椎動物と無脊椎動物の多くに見られ、原初からある能力と考えられています。有名どころでは 菌、原生動物、渡り鳥、ウミガメ。

犬もフンをするときにはなぜか地球のN極とS極を結ぶ地磁気にぴたっと体を合わせて用を足す妙な傾向があることが近年大判明しています。東西じゃなくて南北なんだって。東西じゃ調子が出ない。で、地磁気が弱くなるとフォローもいい加減になるらしい…面白いですね。

ずっと謎だった

人間にもそんな能力が備わっているかどうかを調べる動きは30年ほど前にもありました。でもそのときは、どの研究も再現性がないか、決め手に欠けるものばかりで、みんな「人間には備わってなさそうだ」ということにしてギブアップしちゃったので、結論はずっと棚上げになっていました。

その後、動物のいろんな研究で磁気受容の正体が複雑な神経系の処理能力であることがわかり、それにヒントを得てカリフォルニア工科大学(カルテック)のJoseph Kirschvink地球物理学教授Shin Shimojo実験心理学教授がやってみたのが、今回の実験というわけです。

エスパーではない

さっそくKirschvink教授に話を聞いてみたら、ポイントを次のように語ってくれましたよ。

「実験では脳波の動きだけに注目してみるアプローチを採用してみました。脳が磁気に反応しなかったら、行動にも影響が出るわけないというね。脳でキャッチできないと行動にも出ないし、『ESP(超感覚的知覚)』なんてものはない、ということでやってみたらどんぴしゃで、多くの動物同様に人間にも知覚系として備わっていることが実証されたかたちです」

ファラデーケージ

気になるのは実験の進め方ですよね。こちらがKirschvink教授とShimojo教授(東大OB)が用意した実験道具です。磁場やら何やらの干渉を防ぐのはこんなに大変だったのか…

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Image: C. Bickel
すてきな実験道具

まず密室そのものが、導体に囲まれたファラデーケージでありまして、外部の磁場をシャットアウトしています。壁の防音パネル、これは屋外の音をシャットアウトする用だし、椅子と床は木製にして磁気コイルの干渉をシャットアウトしてるんです!

あとは被検者に脳波計(EEG machine)のヘッドギアを被ってもらって、縦横3本のコイルがクロスする方形コイル(「メリットコイル」といいます)で磁力を調整しながら脳波の反応を確かめてみたんですね。白い装置は電池駆動型の脳波計で、別室のコンピュータに光ファイバー回線でつながっています。

実験では磁場の中央付近に頭がくるように座って、64の電極から脳波データを回収。完全な闇の中で、磁場の向きを何度も反転させながら、所要1時間の実験を重ねました。被験者は成人総勢34人、全員合わせて数百回実施。実験はすべて二重ブラインドで行ない、対照群も加える厳正っぷり。

結果、「磁場の変化に気づいた」と答えた人はだれもいなかったけど、34人中4人のEEGデータには、とある変化が観測されました。

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Image: Wang et al., eNeuro (2019)
EEGデータ。磁場でアルファ波の強度に影響が出ているのがわかる!

論文によれば、「地球の地磁気逆転のシミュレーション」に「人間の脳が強く反応」したのです。特に顕著だったのが、脳波の8~13Hz成分であるアルファ波の振幅で、これが減る反応が4人で確認され、何カ月も後にやっても再現性があることがわかりました。反応をトリガーするには磁気逆転を2回行なえば十分であり、頭を上下にうんうんと振るとか、左から右に動かすのと同等のムーブメントが引き起こされたとのことです。

アルファ波が減るってどういうこと?

アルファ波リズムとは、五感の刺激を処理したり、作業をしたりしていないとき、神経系から発せられる脳波です。逆に「刺激が急に与えられ、脳が働くと、アルファ波は減ります」(論文)。つまり実験でアルファ波が減ったということは、脳が磁場をなんらかの刺激として受け止めている証左というわけです。神経学的にどんな目的があってそうなるのか、また、知覚することによってどんな結果を引き起こすのかはわかりません。でもこの知見を土台に「人間に備わった磁気受容の行動の研究が進むのではないか」と書いています。

磁気を感じるメカニズム

磁場感知のメカニズムは不明です。Kirschvink教授がプッシュしているのは「磁場専用の感覚細胞があって、中に磁気を帯びたクリスタルが詰まっている」という説。なんでも「実験結果をすべて説明できる唯一の仮説であり、これを裏付ける動物の生物学的データもある」そうでして、1992年には仲間と一緒に人間の脳から生体マグネタイトの特定に成功した経験もあるんだそうですよ? まったくない話ではなさそうだし、だれかがその線で掘り下げてくれるといいですね。

米Gizmodoの取材にこんな風に語っています。

「動物には、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、重力、温度などとまったく同じ知覚系の能力として磁気受容の能力が備わっています。マイクやビデオカメラで拾った情報をパソコンで処理するみたいに、どれもみな専用の細胞があって、そこで光子なり音波なり感知して脳にシグナルを送ってるんですね。ただ、パソコンにソフトがないと、マイクやカメラ単体では知覚できませんよね。それと一緒で人間も進化の過程で磁気探知器を知覚していた時期があったから(おそらくは磁鉄鉱をベースに)、脳にそのシグナルを処理するソフトが備わっているんだと思いますね」

今後は感知レベルの計測など、生物物理学の観点からこの能力の正体を解き明かしていきたいとのことです。

自覚できるとしたら...

一方、Shimojo教授は磁気受容の能力を自覚できるレベルにすることも可能なのではないかと考えており、それが可能ということになると、研究の方向性もまったく新たな展開を見せることになります。つまり、体内コンパスを備えており、星が見えなくても北の方角がわかる未来の超人類誕生、な~んてことになるやもしれません。

誰でも再現できる実験

ドイツのカール・フォン・オシエツキー大学オルデンブルク生物学環境科学研究所のMichael Winklhofer教授に感想を伺ってみたら、「磁場の変化に反応する脳の電気系統の動きを記録するときには干渉(ノイズ)がどうしても入ってしまうもの。それを排除するあらゆる対策を講じている」し、実験手法の説明も微に入り細を穿つため、だれでも簡単に再現できるところが魅力だと絶賛し、次のように語っていました。

「磁場に反応することが一点の曇りもなく示されたのは人類史上初の快挙。無自覚であれ磁場に脳が反応することが示されたということで、(他の科学者も)磁場がニューロン(神経細胞)の活動を誘発するメカニズムの解明に動き出すものと思われます」

米ノースカロライナ大学チャペルヒルのKenneth J. Lohmann教授は「エキサイティングかつセンセーショナルな研究」だと語り、「地磁気を感知できる動物はほかにもたくさんいるので、人間にその能力が備わっていても何らの不思議もない」と評価しつつも、実験結果の解釈は「かなり慎重に」行なう必要があるとの見方。

「微細な磁場に呼応して脳の活動に微妙な変化が観測されたことイコール、人間が本当に磁場を感知して活用しているとは限らないので、切り分けて調べる必要がありますね」

と米Gizmodoに言っていますよ。まあ、それは論文著者自身、声を大に言っていることではありますので、今はとりあえず磁場の波動に脳が反応したという事実があるだけですね。残りのことは今後の研究に委ねるということで。

磁場に反応する力。そんなものがなぜ人間に存在するのか。そしてそれがどうわれわれの行動に影響を与えるのか。大きな謎がゴロンと示されたかたちです。これからの研究に大注目ですね。


Source: eNeuro

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