テック企業がAIを駆使して温暖化を加速してしまうという話

  • 7,164

  • author Brian Merchant : Gizmodo US
  • [原文]
  • Kaori Myatt
  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …
テック企業がAIを駆使して温暖化を加速してしまうという話

驚愕の事実。

クリーンエネルギーとか、再生可能エネルギーとか、どんどん進んでいると思いきや...。

今やテック企業なしでは生活することも難しくなっているほど影響力があるのに、どうしてこんなことになってしまったのでしょう。暖房に電気に、エネルギーは私たちの生活にはなくてはならないもの。AIもイノベーションも、もっとわたしたちの地球を守るために使ってほしいですよね。

米Gizmodoでは、『Introducing Automation』と題し、オートメーションが近未来に与える影響についての特集を組んでいます。今回は、米ギズモードBrian Merchant記者がテック企業の悲しい実態を明るみに出してしてくれました。


メジャーなテック企業が油田企業とコラボ

石油・天然ガスの探査などを手がけるSchlumberger Limited(シュルンベルジェ社 /本社パリ、ヒューストン)、そして自動化を専門とするRockwell Automation(ロックウェルオートメーション社) 。巨大でありながらなんとなく実態がよくわからない、このふたつの企業がジョイントベンチャーに乗り出したことで今、エネルギー産業だけでなく、世界を騒がせる事態となっていますよ。

その合弁事業は、その名もSensia(センシア)ヒューストン・クロニクル紙によれば、この新事業は「油田事業に関連するデジタルテクノロジー、およびオートメーションの進歩を目指した設備とサービスを販売する」ことを目的としているようです。このパートナーシップは単なるエネルギー産業の枠を超えて計り知れない影響を孕んでいるといえるでしょう。いまやメジャーなテック企業が油田企業とタッグを組んで新たな事業を打ち立てるのは、いわばひとつのトレンドになってるんです。油田企業とのベンチャーで、自動化やAI、ビッグデータサービスを使って油田探査、採掘、石油の生産の拡大を狙っているのです。

Rockwellは産業分野での自動化を専門とする企業では世界最大手の企業です。Schlumbergerは、エネルギーサービス事業を営むHalliburton(ハリバートン社)と張り合う、世界最大級の油田サービス事業者です。プレスリリースが伝えるところによれば、Sensiaは「世界初の油田事業での完全統合デジタルオートメーションプロバイダー」となる模様。油田の採掘スケジューリングを自動化したり、油田まわりの設備間での通信自動化を図ったり、機械の修理や修正が必要なときを知ることができたりと、石油の採掘がスマートに行えるようになり、ひいてはコストを抑えて効率性をあげることができるようになります

これによりSensiaは、少ない作業員数で多くの量の石油や天然ガスを採掘できるようになる、とクロニクル紙は書いていますが、ちょっと待って。これって...今地球がやらなければならないことと逆行してませんか。

気候変動は今や無視できないところまで来ています。 国連の科学者による環境報告書では、気候変動や温暖化を抑え、それに伴う海面上昇を抑制するためには、排出ガスを抑えなくてはならないが、わたしたちに残された時間は10年ちょっとしかないと言っているのですよ。

石油企業との協働は温暖化の促進に

ところが、最大手でもっとも影響力を持つテック企業はこぞって油田企業とパートナーシップを組み、この排ガス抑制に逆行するような、温暖化の加速を行おうとしています。Amazon(アマゾン)、Google(グーグル)、Microsoft(マイクロソフト)はいずれも金儲けに走っているのです。数10億ドルという金を目の前にして、自動化、クラウド、AIサービスを世界最大規模の油田企業に提供しようとしているんです。

こういった油田事業とのタッグは、つい昨年ごろから特に増えてきました。気候変動による脅威についての一般の認識が高まる中、石油や天然ガスの採掘をより有益にするために、合理化を図ろうとしているのです。何もこういう共同事業は秘密にしているわけでもなんでもなく、ビジネス関係の雑誌や新聞の記事にだって堂々と書かれていますが、こういったテック企業の油田企業との蜜月関係は、なんとなく世間の批判の目を逃れようとしているようにも見えます。

「テック企業の最先端技術は未来を見つめなくてはならないのに、これでは文明を石器時代へと導こうとしているようなもの。非常に遺憾です」とペンシルベニア州立大学の大気科学の権威マイケル・マン博士。「究極的には企業の道徳観念がものを言うのです」Amazon、Google、Microsoftは気候変動には前進的であるような雰囲気を漂わせ、クリーンエネルギーへの投資を自画自賛しています。でも実際には地球温暖化が危機へと転落するような自動化を図っているのです。

Googleは最近Microsoftとともに2万5000ドル(約276万円)ものカネを、あるカンファレンスにスポンサー提供して批判を浴びていました。このカンファレンスは気候変動を否定するグループが中心となるものでした。Googleは石油会社がさまざまなテクノロジーを使って石油や天然ガスを採掘する支援をしており、これにより地球の温暖化が進むのは確実です。

昨年、Googleはあまりおおっぴらにすることなく、ひっそりと石油、ガス、エネルギー部門を立ち上げてもいます。そこにBPで25年のキャリアを誇るダリル・ウィルスを雇用しています。ウォールストリートジャーナルに「Googleが石油・ガス会社のご機嫌とりをするために作った新しい部門」と言わしめてもいます。Google Cloudエネルギーソリューションの統括責任者としてウィリス氏はこの年、エネルギー関連会社に儲け話をもちかける営業に注力してきました。「人々に暖を与えることや光をもたらすこと、人を移動することに関することならなんでも興味を寄せました」とウィリス氏はウォールストリートジャーナルに語っています。「わたしたちの計画は、エネルギー産業がこぞってがパートナーとなりたくなるような存在になることです」とも。

テック会社と資源会社との蜜月関係

昨年、Google Cloudとフランスの石油巨大企業Total(トータル)が「石油および天然ガスの採掘と生産における地表面下のデータ分析のためのAIソリューションを共同で開発する計画の同意書に署名した」と石油・天然ガス関連の求人会社であるRigzoneが報告しています。 同時に、ヒューストンの投資会社Tudor, Pickering, Holt & Co(チューダー・ピッカリング・ホルト)とのパートナーシップにも署名しています。

これについてもクロニクル紙は「ヒューストンでもっとも古くからある産業が石油倒産をきっかけにコスト削減に乗り出すことで、また電気自動車や再生可能エネルギー源がマーケットシェアを獲得していくにつれ、競合性を維持するためにGoogleはヒューストンでさらに存在感を獲得するだろう」としています。要約すれば、このパートナーシップは再生エネルギー企業に対抗し、石油会社が戦う力を維持することに一役買うことになります。

Googleはまた油田サービス会社であるBaker Hughes(ベーカー・ヒューズ)および冒頭のSchlumbergerとメジャーな取引を締結しています。またサウジアラビアの巨大石油会社Aramco(アラムコ)のためにテクノロジーのハブとデータセンターを構築する話し合いもしているようです。 石油・ガス業界との蜜月関係の締めくくりに、GoogleはAnadarko Petroleum(アナダルコ・ペトロリアム)とも甘い関係を結んでいます。Financial Times誌が12月に報じたところによると、 「全米大手の石油採掘・生産企業であるAnadarko PetroleumはGoogleと共同し、生産量を最大化し、効率性を高めるため、AIを使って大量の地震探鉱データと採掘データを解析して石油を掘り当てようとしている」模様です。

Googleは機械学習を使って地下・海底の埋蔵原油を掘り当てるつもりなのです。Googleのデータサービスは既存の油田の採掘現場を合理化・自動化しており、石油会社がコストを削減してクリーンエネルギーの新興企業と張り合うのを手伝っているのです。奇しくもGoogleの行動規範から「Don't be Evil」(悪にならないこと)というフレーズも削除されたことだし、気候の変化が世界にもたらす脅威が急激に加速しているこのときに、イノベーションのGoogleは化石燃料採掘産業の「手先」と化してしまったということです。

ここまでくると、Amazon Web Servicesにも石油・ガス部門があるんだよと聞いても、「あっ、そう」となっちゃいますよね。臆面もなくAmazonも石油関係の企業にいろいろ売り込みをかけているというわけです。Amazonは、再生可能エネルギーや持続可能性の発展においては、他のテック企業と比較して大きく遅れていますし。あっ、でも配達でのCo2排出をゼロにするというビジョン「Shipment Zero」をようやく、つい最近発表していましたね。

Amazonも例外ではない

Amazonは化石燃料の会社に媚を売るウェブサイトを立ち上げています。そこに掲げる文言は以下のようなものです。

石油会社とガス会社は、複雑な自社専用の IT ワークフローを AWS で簡素化して再編成し、価格の低下、マージンの縮小、市場の乱高下などがあっても目標を達成できます。

探査技術者は深い洞察をいち早く引き出して現場の計画を改善できます。地球科学者はより要求の厳しい HPC 処理を実行して潜在的な資源の宝庫を迅速かつ安価に特定できます。また製油所ではメンテナンスや在庫計画を予測することで製造工程を最適化できます。

AWSは、いまやAWSサーピスなしではもはや世界が機能しないほどに、インターネット全体にサービスを提供しており、サービス利用者の中にはBPRoyal Dutch Shell(ロイヤル・ダッチ・シェル)などの石油関連の大企業や、GEオイル&ガス事業も含まれているのです。

Google同様、Amazonのサービスは化石燃料企業にAIでの躍進を約束しています。「AWSの高度な機械学習と高性能計算(HPC)ツールは、石油・ガス企業が地震探査に必要な時間を数ヶ月単位から数日単位へと短縮します」また自動化は「 より深い地質学的洞察を加速し、資源探査と生産における意思決定ほ向上、石油の採掘がより生産的になります。時間のかかるプロセスを自動化し、精度もあがります」というように、Amazonは機械学習や自動化で石油関連会社が探索や生産能力を最大化、金儲けも最大化しようとしているように見えます。 これは二酸化炭素の排出を最大化するのと同じこと。極めつけにAmazonは、最近石油事業まで立ち上げてもいます

さて、ビル・ゲイツは世界でも屈指の博愛主義者でもあります。 10億ドルのクリーンエネルギー基金を立ち上げ、気候変動と戦う細かい計画もブログに綴っています。ただし、ゲイツのこの計画には「石油とガスをAIで躍進させる」という項目が抜け落ちています。これはアブダビで開催される年次カンファレンス、石油関連では最大の国際石油展示会ADIPEC(Abu Dhabi International Petroleum Exhibition & ConferenceにおけるMicrosoftの2018年のブースでのテーマでもありました。

「人工知能とクラウドとエッジコンピューティングを駆使したAIが、油層の特性を分析し、採掘を最適化し、ダウンタイムを減らし、さらに安全な採掘を可能とする...」とMicrosoftの担当者もカンファレンスで語っています。一方、ゲイツが創設したファンドは7年計画のうちの2年目にあるとされていますが、これまた石油では大手のChevron(シェブロン)の石油採掘と流通を助けたことにより、すでに10億ドルの価値を得ているとささやかれています。

「Chevronはデータ、データの解析、IoTを非常に賢く使用しています」 とクラウドサービスであるMicrosoft Azureのグローバル・インフラ担当のトム・キアンは事業についてプレスリリースで語っています。「Microsoft Azureとともに、効率的に石油の採掘をどう進めるかだ」と言っていますが、はい、どう進めるんでしょうね

Microsoft AzureはShellにマシンビジョンソフトウェアを販売しています。そして機械学習がそれを加速させています。BPのAIツールの構築を支援し、油層からどのくらいの原油を採掘できるかが予測できるようになりました。MicrosoftのデータサービスはExxon(エクソンモービル)の子会社 XTOを助け油井の稼働と採掘可能性に新しい視野をもたらしたとしています。 Microsoft AzureはEquinor(エクイノール) (ノルウェーの国営石油会社旧Statoil(スタトイル)とパートナー契約し、データサービスを提供して多額の儲けを得ています。

その他もろもろ、叩けば埃が出てくる出てくる。これらのどれをとっても、ゲイツの博愛主義とは相いれないものばかり。

時代に逆行するイノベーションなんていらない

新興産業の会社とその創設者は常に旧産業とは別の意思をもって、より野望をもって動く、というのは、シリコンバレー神話でもあります。また「世界を変える」という言葉は繰り返し聞かれる呪文ですが、これは常に「よりよくなる」ことが前提でもあります。でも化石燃料に逆戻りすることが果たして世界をよりよくすることにつながるのでしょうか。そして気候変動の改善につながるのでしょうか

科学によって、人間が気候変動を悪化させていることがはっきりと示されています。化石燃料はできる限り地下にそっとしておくべきなのです。AIで新しい原油の油層を嗅ぎ当てる必要性などないのです。二酸化炭素の排出を悪化させる天然ガスを掘り出すための機械学習プログラムなんていらないんです。自動化・ネットワーク化された採掘機は、海面上昇をさらに押し上げてしまうばかりでなく、いずれ自身を滅ぼすことになるというのに。

Googleが使命として掲げる世界の情報のインデックス化と石油企業の支援がどう関係しているのか疑問ですし、ビル・ゲイツがダボスで気候変動との戦いについて演説しているその最中に、Microsoftが気候変動を推し進める企業を躍進させる手助けをしているのも、理解に苦しみますよね。また、AmazonがKindle(キンドル)のセルフパブリシングサービスを宣伝するような調子で温暖化推進を最大化するサービスを宣伝するというのも、なんか違うような気がしませんか。

マイケル・マン博士によれば、こういった企業はイノベーションを使って気象危機を抑制こそすべきなのであって、悪化を促進させることがあってはならないとしています。「エリック・シュミットがCEOだった時代、Googleは温暖化抑制のみに注力していました。Googleの企業モラルを導く方位磁針はどうやら狂ってしまったようです。前にも言及しましたが、(「Don't be Evil」という行動規範から) Don'tを取り去ってしまったかのように見えます」

わたしは今回上記で言及したすべての企業に質問状を送っています。積極的に気候変動を進める石油会社のためにデータサービスのAIと自動化システムを開発することが道徳的であるかどうかを問いただしています。これについての回答は残念ながらどこからも得られませんでした。

何度も書きますが、気候変動がどのような危険を人類にもたらすか、これまで以上に明らかになっているのですよ。なにが明らかになっているのかを知りたいならぜひググってみるとよいでしょう。もっともパワーを持ち、信望を集めるテック企業が最先端のイノベーションを使って石油マネーという残念なカネの儲けをあてにすることで人類の文明にとっての最大の脅威を悪化させるなんて。

アメリカ例外主義ならぬシリコンバレー例外主義がついに幕を閉じようとしているのかもしれません。その理由はスキャンダルがあったからでもバブルがはじけたからでもなく、ほかでもない、じわじわと広がっていく「ビッグオイル」との癒着なんです。