【ネタバレ注意】冒頭10分は歴史に残る面白さ。映画『移動都市モータル・エンジン』レビュー

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  • author 中川真知子
【ネタバレ注意】冒頭10分は歴史に残る面白さ。映画『移動都市モータル・エンジン』レビュー
Image: ©Universal Pictures

冒頭10分は血が沸き立つ興奮。

車輪の上に作られた都市と戦争の話、というとジブリの『ハウルの動く城』を彷彿させますが、『移動都市/モータル・エンジン』はもう少し、いやかなりスケールが大きな話なんです。

『モータル・エンジン』は、たった60分で文明を破壊した「60分戦争」後の荒廃した世界が舞台。生き残った人たちは、巨大な車輪の上に都市を作り、小さな都市を捕食しながら資源補給しながら生活しています。しかし小さな都市を取り込むことでのエネルギー資源に限りが見えてきたため、最も大きく権力を持つ移動都市ロンドン」は、地に足ついた生活を求める人たちの静止都市シャングオ」の攻撃を目論みます。「ロンドン」の暴挙を止めるべく立ち上がるのは、個人的な事情から「ロンドン」の指導者サディアス・ヴァレンタインへの復讐に燃えるヘスター・ショウとアナ・ファン率いる反移動都市同盟軍。時速160キロで大地を駆け抜ける地上の絶対王者「ロンドン」を止めることはできるのか──、というのが大まかなプロットです。

製作はホラー復帰が望まれるピーター・ジャクソン(『ブレインデッド』『ロード・オブ・ザ・リング』『キングコング』)、監督は17歳で映画界入りし、ずっとピーター・ジャクソン映画に携わってきたクリスチャン・リヴァーズ

というわけで、今春最も注目される映画の1本『移動都市/モータル・エンジン』をレビューしたいと思います。あ、少しだけ内容に触れているのでネタバレ注意です。

Video: ユニバーサル・ピクチャーズ公式 / YouTube

冒頭10分はレジェンド級

映画は最初の10分で決まると言っても過言ではないでしょう。その10分で、世界観と出来事、キャラクター設定など、観客に知っておいてほしい前知識をすべて集約説明した上で、引き込まないといけないのですから。

『モータル・エンジン』の冒頭10分は、巨大な移動都市「ロンドン」が小さな都市を丸呑みしようと襲い掛かるところから始まります。荒野の絶対王者たる風格の移動都市「ロンドン」から必死に逃れようとする小都市のシーンを大画面で迫力ある映像に見せるために、ロングショットやクローズアップといったショットに合わせて、CGで作った移動都市を走らせるスピードを変える必要があったそうです。

都市の移動スピードの限界点を超える速さを出すこともあり、VFXチームが計算してホコリや揺れを加えると画面が砂埃で真っ白になってしまうこともあったそうです。私は小さな試写室で本作を鑑賞しましたが、この冒頭10分を4DXで見たくてたまりませんでした。もしかしたら椅子の振動でお尻が浮いてしまうかも…?

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Image: ©Universal Pictures
威風堂々という言葉がピッタリな「ロンドン」

シューシューと吹き出す蒸気と煙、ガシャンガシャンと音を立てて動く建物はスチームパンク好きを身悶えさせるほど格好いい描写のオンパレード。そこからのタイトルカットは、震えるほど格好良く、これから始まるスペクタクルを約束してくれていました。それにしても、こんなレジェンド級のオープニングを長編監督初挑戦で作れるものなのでしょうか…?

クリスチャン・リヴァーズ監督を支えたチーム

クリスチャン・リヴァーズは、17歳の時にピーター・ジャクソンに宛ててドラゴンのイラストを同封した手紙を送りました。その絵と仕事に意欲的な姿勢を気に入ったピーター・ジャクソンが、自身の初長編映画『バッド・テイスト』(87年)でリーヴァズをストーリーボードアーティストとして雇用。以来、『ブレイン・デッド』(92年)をはじめ、ジャクソンの全ての作品で右腕として活躍、共にキャリアを伸ばしてきたのです。

長編監督デビュー作となった本作は、リヴァーズの家族とも言えるジャクソンチームが周りを固めています。製作/脚本はピーター・ジャクソンですし、名を連ねるのはジャクソンチームのメンバーばかり。VFXはジャクソンチームのホームグラウンドであるニュージーランドのWETAが担当。リバース監督はWETAに在籍していたこともあるので、勝手知ったる仲なのです。Art of VFXが行なったWETAのインタビューでは、監督とWETAのチームはツーカーなので、監督はVFX以外のことに重きを置いて行動することができていたと話しています。

だが観客は肩透かしを食らう

ビジュアルは圧巻、作り手のチームワークも完璧。でも、残念ながら観客は少し肩透かしを食らうかもしれません。というのも、本作はイギリス作家フィリップ・リーヴのファンタジー小説『移動都市』4部作の第1巻をベースに2時間9分の映像にしているんですね。まぁ、長編小説の映画化にありがちなことではあるのですが、どうしても説明不足で深みのなさが目立ってしまうんです。

脚本を担当したのはピーター・ジャクソンと、ジャクソンの内縁の妻であるフラン・ウォルシュ、そして『LOTR』からジャクソン作品に欠かさず参加しているフィリッパ・ボウエンの3人。『指輪物語』を3部作構成の『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(と『ホビット』)にして大成功を収めた人たちですし、彼らにとって長編作品をまとめて映画の脚本に落とし込むのはお手の物だと思うのですが、今回はそれがうまく行っていないのです。

原作に見所がありすぎる上に、脚本家が原作に心底惚れ込んでいる証し(船頭多くして船山に上るとも言えるかも…)ともとれるのですが、なんていうかとっちらかっている印象を受けます(『キングコング:髑髏島の巨神』並みに色々ある)。

とくに主人公ヘスター・ショウを取り巻く「あんなこと」「こんなこと」、「彼女の人格形成を担う重要な人物」の掘り下げ方がびっくりするほど浅い。重要な人物のシーケンスなんて、思い切ってバッサリ切ってしまえばよかったのにと思ったほど。

それと、肩透かしを食らう大きな要素のひとつに、製作者と原作を知らない観客の間に大きな期待の溝があります。私を含め、おそらく多くの人が、『モータル・エンジン』を移動都市の弱肉強食バトルだと思ったでしょう。しかし、雑誌『映画秘宝』4月号のインタビューでもハッキリと言っていますが、ジャクソンは主人公ヘスター・ショウに焦点を当てたかったのであって、移動都市自体は付加価値程度にしか捉えていなかったのです。実際オープニングシーケンスが終わると「ロンドン」は主人公らを放り投げて走り去ってしまうのですから。

救世主はアナ・ファン役のジヘ

しかし悲観することはありません。移動都市「ロンドン」がヘスター・ショウと観客を置きざりにしても、途中からストーリーを爆盛りしてくれる救世主がやってきます。それが、反移動都市同盟の中心人物で首に賞金がかかっているアナ・ファン役の韓国人女優・シンガーのジヘ

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Image: ©Universal Pictures

窮地に追い込まれた主人公ふたりを助けてから行動を共にするようになるのですが、登場した瞬間から空気が変わるほどの存在感を発揮し、目が離せなくなってしまうのです。赤いコートに細身パンツ、ロカビリーヘアーがとにかく格好いい! しかも、やることなすことキザで、嫌味なほどキマってる。まるで少女漫画に出てくるイケメンヒーローみたいに完璧なんです。

アナの愛機ジェニー・ハニヴァー号と空中都市「エアヘイヴン」

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Image: ©Universal Pictures
愛機を操縦するジヘ

そんなアナ・ファンの愛機は、奴隷時代に自作したという真っ赤な「ジェニー・ハニヴァー号」。飛行船にヘリコプターをつけたようなデザインをした乗り物で、アナの住居でもあります。このジェニー・ハニヴァーの撮影は、飛行船の動きを出すために特殊効果スタッフが糸をつけて引っ張って動かしたのだそうです。

ジェニー・ハニヴァーが動くシーンを貼っておきます。ネタバレが嫌いな人は飛ばしてください(ああ、アナ・ファン格好いい‼️)

Video: Movieclips Coming Soon / YouTube

そして、アナログ手法と対照的に最新テクを使って作られたのが、空中都市の「エアヘイヴン」。この巨大なセットは、狭い通路や橋、ロープといった細かいもので構成されている上に、至るところに提灯や照明がついた複雑な形状をしています。

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Image: ©Universal Pictures
空中都市「エアヘイヴン」

そのため、デザインにはホロレンズ・ホログラフィックと呼ばれる最先端のMRプログラムが使われているのだとか。アーティストたちはヘッドセットをつけるだけでフルスケールのデザインやセットを体験できます。実際にセットをみることができるので、最終デザインが決定する前に微調整したり変更したりすることができたのだそうです。

劇場上映を見逃す手はない

レビュー記事を書くたびに毎回同じことを言っているような気がしますが、私は本作の劇場鑑賞を力一杯オススメします。小難しいことを考えることなくポップコーンをほうばりながら鑑賞できる映画が好きだから、というのもありますが、やはりあのレジェンダリーな冒頭10分の興奮を是非体験してもらいたいからです。

「ロンドン」を降りた後、地面に残された巨大な轍や空中都市での擦った揉んだ、固定都市征服を目論んで攻撃をしかける「ロンドン」との戦いーー、どれをとってもビジュアルは抜群です。スチームパンクジャンルはもちろん、『グレート・ウォール』や『トランスフォーマー』のような、馬鹿馬鹿しいけれどなんとなく勢いだけはあって全体的に格好いい映画が好きな人なら十分楽しめると思いますよ。オープニングシーケンスをとことん楽しみたいなら、是非劇場でご覧ください。

『移動都市 モータル・エンジン』は東宝東和配給で3月1日からロードショーです。

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