なににどこまで鍵かける?
iPhoneの新しいTV CMが公開されました。プライバシーがテーマで、「Appleはプライバシーを大切なことだと思ってますよ、iPhoneは大丈夫ですよ」と伝える内容になっています。
最後のAppleロゴに鍵がかかるアニメーション、よき。
Appleはこれまでもプライバシーに関しては一過言あるぞとアピールしてきました。Face IDはすごいよ、データはiPhoneのなかでだけで使われるよ、Appleには送信されないよ、とか。このあたりのことはよく聞きますよね。
ティム・クックCEOに至っては自らデータ保護のイベントに登壇して、サービスを使うユーザーのプライバシーデータを売り物にしてマネタイズするGoogleやFacebookのことを厳しく批難しています。FBIの捜査のためにロック解除できるiPhoneのソフトウェアを作れと言われたときにも、それだけに止まらないと要求を拒否したことも記憶に残っています。まるでテック界のプライバシーガーディアンです。
こういうことを知っているからか「AppleがつくるiPhoneはAndroidスマホよりはプライバシーに考慮されていて安全な気がする」と、漠然としたイメージはあります。

実際、iPhoneはユーザーがどの個人情報をどのアプリに対して渡すことを許可しているのか確認できたりコントロールできたりします。アプリが位置情報など個人情報を使うときには必ずプライバシーアイコンの画面が出ますよね。
さいきん知って「へ〜〜〜」と関心したのはさいきんじわじわ評判のいいAppleのマップアプリのデータの使い方。まず基本的な考え方として、個人のデータの扱いを最小限にとどめていますよーと。収集するのはサービス体験の向上のために必要なデータだけにしますよーと。これが基本的な考え方。加えて、収集するデータはAppleが「差分プライバシー」と呼んでいる、データをランダム化する技術でユニークなユーザーのものであることはAppleには伝わらないようになっています。
で、マップアプリで目的地までのルートや到着予定の時間を調べるとしますよね。このとき、この検索がワンセット、ひとつのデータとして扱われていると「この地点を出て、ここを通って、ここまで行った人がいる」と、行動のプロファイルに使われるかもしれません。

ですが、Appleのマップはそのデータを出発してからの500メートル、到着までの500メートル、その途中と、3つのデータに分けて扱います。そしてこの3つのデータにランダムなIDを割り当てることで「ここから出発した人がいる」「ここを通った人がいる」「ここにたどり着いた人がいる」と関連性のない別々の3つデータとして見えるようになり、プロファイルすることを難しくしているんです。ほーーー! なるほどねと。
ユーザーに必要なサービスを提供する。だけど、プライバシーは守る。そのための工夫なわけです。
「便利」と「プライバシー」の天秤はつづく
でも、でもですよ。GoogleだってFacebookだってプライバシーを大切にしていると主張はしますよね、当然。で、彼らが僕らユーザーのデータでマネタイズしている! それは悪!と言っても、実際僕らが何か被害を受けてる感じがしないのが正直なところだったりもします。
たとえばGoogleは検索からマップからメールからあらゆる便利なツールを提供してたくさんの人がそのツールを日常的に使っています。この「便利」の代わりに僕らの個人情報ってものが吸い上げられて、ツールの質を上げるためにもそうですが、Googleの稼ぎになっているのはわかってます。誤解しないでほしいんですが、決してこれを正当化するつもりはありません。メディアの業界だって矢文が飛んできそうな話です。
ただ、こういう「とは言っても…ねえ」とか「しょうがないよね」って意識がインターネットとテクノロジーがあたりまえになっている今の時代では多くなっているんじゃないかなって思うんです。麻痺していると言われればそうですしこれこそが問題なのかもしれません。でもこれが今の時代でデジタルツールに囲まれて暮らしている僕らの宿題なのかなって。

今回のようにAppleがiPhoneとプライバシーの関係を推すのが、本当に正しいことをしようとしているからなのか、「安心」を売りたいからなのか、それはわかりません。たぶんどちらかの話じゃなくどっちもなんだと思います。何にしても、最終的に何を使うのか決めるのは僕ら自身で、もしプライバシーが気になるなら自分の情報をコントロールできるiPhoneを選ぶのがいいかもしれません。
さいごに。この記事を書くにあたっていろいろ調べながらほかの記事でも「プライバシー、プライバシー」ってこの言葉をたくさん見たんですが、意外と言葉自体を説明している記事は見当たらず。「プライバシー」ってものがあるらしくてどうやらそれは守られなければならないものなんだーって透明なレイヤーがあるのはわかるけど見えない、そんな感じでした。
辞書には「私事。私生活。また,秘密。」とありましたけど、自分で考えてしっくりきたのは、「人に知られたくないことを、知られないままでいる権利のこと」かなあ。むずかし。