愛と美の女神=ヴィーナスの名をつかさどった惑星。
昨日ソフトバンク傘下のHAPSモバイル社が発表した空中基地局プランはすでにご存知でしょうか? 上空2万メートルに巨大な無人ドローンを複数飛ばして、そこから地上に向けてモバイル通信の電波を飛ばすというビッグプランです。
発表会場では「全人類をインターネットに繋がれるようにしたい」という理念と、「37億人という巨大なマーケットを切り開きたい」というビジネス戦略、そしてそれらを実現するための「最新技術やパートナーシップ」が語られていました。
でも実はコレ、ラピュタ&金星への一歩であるとも言えるんですよ。……いや、ちょっと飛躍しすぎましたかね。でも、まったく根拠がないわけでもないんです!
どうしてそう言えるのか、昨日の発表の様子を振り返りながら触れてみます。みなさんはどう思います…?
電波塔でも衛星でもない:HAPSというフロンティア

HAPSはHigh Altitude Platform Station=成層圏通信プラットフォームの略で、ひとことで言えば上空1万メートルから5万メートルの高高度空域をモバイル通信などに活用しようという構想です。でもたとえば日本では、地上の基地局(電波塔)などが発する4G LTEの電波で人口の99.9%をカバーできていると言いますし、そうでない地域では宇宙にある衛星を使った通信が使えます。なぜそんな「事足りてる」ともいえる状況のなかで、「空飛ぶモバイル基地局」を、地上と宇宙のあいだにある成層圏に浮かべたいのか。

それは、背の高い電波塔(基地局)がそう簡単に建てられないから、という点に集約できると思います。地上にある基地局だと、都市では同じくらいの背のビルなどに電波を反射(&減衰)させられてしまうという問題があり、地方ではユーザーの少なさが基地局の建設を経済的に難しくしています。そのどちらともを一挙に回避できるのが高さです。
数千・数万メートル級の高さから電波を発することができれば、数百メートル級のビルにも電波を反射されることなく地上のユーザーと通信できますし、ひとつの基地局で広大なエリアをカバーできるのでユーザーの少ないエリアでも経済的に成り立ちやすくなってきます。とはいえそんな高さの電波塔を経済的に立てる技術は確立されていないので……ドローンやバルーンなどを駆使して空飛ぶモバイル基地局を成層圏に浮かばせようというわけです(成層圏が選ばれたのは気流が安定しているため)。そしてHAPSモバイルがまず着手したのは、ソーラー駆動の無人ドローンを使うHAPS技術。
ズッ飛びドローン:HAWK30

じつは日本は1999年頃からHAPS技術に取り組んでいたそうで、2002年には高度2万メートルで4時間の飛行を成功させていました。しかし当時のソーラーパネルと電池の性能では夜間の飛行が不可能だったため、いったん断念されていたんです。
それから数年が経ち2016年のこと、2019年には両方の性能が条件を満たすことが判明したことから(材料・物質研究機構=NIMSのおかげみたい)、プロジェクトは再始動します。以前の取り組みでもドローンの開発・製造を担っていたAeroVironment社と協力し、HAPSモバイル社は翼幅78m(ジャンボジェット以上)というスーパー横長なソーラー駆動の無人ドローンHAWK30を開発したのです。

1機で直径約200kmのエリアをカバー可能で、40機以上あれば日本列島全体がカバーできちゃうそう。それぞれが一箇所で旋回しながら、空飛ぶ基地局として機能します。ただし1機あたりの同時接続数にも通信速度にも限りがあるので、ソフトバンクは「地上の基地局もアグレッシブに」充実させてハイブリッドで運用する予定だと言っていました。とはいえです。たとえば災害などで地上の基地局が使えない・復旧が追いつかない状況になったら、たまに・少しでも通信できるだけでも多くの人々に安心感を与えてくれそうですよね。

HAWK30は2023年ごろからサービス飛行を開始できるそうで、まずは赤道付近のアフリカ・南米・東南アジアの地域でサービスの提供を始めたいとのこと。というのも、HAWK30の「30」という数字はその性能が由来の数字で、赤道から緯度プラスマイナス30度のあいだにある地域でないと連続飛行ができないという制限があるんです。なので国土のほとんどが北緯30度より北にある日本では、サービスの本格開始が2025年から。次世代機のHAWK50がサービス飛行を始めてかららしいですよ。
ただ、HAPSモバイル社はあくまでもそういった空中基地局を運用することが主軸に置かれている会社なので、HAWKシリーズ以外の空中基地局もウェルカムだそう。実際、今回の発表でも、Google(グーグル)の姉妹企業であるLoonとのパートナーシップが副題のひとつとして上がっていました。ドローンではなくバルーンを活用する企業です。
賢い風船:Loonバルーン

Loonの紹介は過去にもしてきたので詳細は省きますが、ひとことでいえば、気流を予測しながら昇降して一定の範囲に留まり続ける気球を使った、空中モバイル基地局サービスです。ドローンの代わりに賢い気球を使っているイメージですね。
すでに飛行・運用実績があり、HAPSモバイルはLoonと「戦略的資本提携」を結ぶことで、情報の共有と運用時の協力、そして市場の開拓でパートナー関係にあります。たとえば地上とドローン・バルーンの通信をHAPSモバイルが担当して、それらの運用ノウハウをお互いに共有するといった感じ。
ラピュタと金星はそう遠くない

空中基地局。とても意義があって、夢が広がって、可能性を秘めている事業だと思います。でも今回の発表で一番印象に残ったのは、この言葉でした:
人類は成層圏を使いきれていない
たしかに。地上から上空1万メートルの対流圏は旅客機などが飛び回っていますが、成層圏は特殊な航空機以外いない印象です。しかしそのさらに上空、宇宙空間はすでに民間の人工衛星にあふれているという、空白のサンドイッチな状況でした。目からウロコです。

でもその視点で今回の発表を振り返るとめちゃくちゃワクワクなSF妄想が広がってくるんです。
HAPSの技術を3つの主な要素にわけると:「機体を成層圏に留まらせる技術」「成層圏を通信網に活かす技術」「機体と通信網を運用する技術」になります。これです。成層圏に留まる技術。人類はこれまでどこかに留まれるとわかれば、必ずと言っていいほどその空間を開拓してきました。
地表を歩み、海に出て、地下を掘り、空に飛び出て…宇宙まで……(サイバーも?)。

と、それらの空間はそれぞれに活かされていますが、「開拓できたな」と感じるのはそこに人が集まった時。いまのところ人が実際に「暮らせて」いるのは、地表・地下・海洋・宇宙(低軌道)ですよね。地表と地下はもちろんのこと、海洋には大きな船や潜水艦で日々を過ごす方々がいますし、低軌道には宇宙飛行士たちが暮らす国際宇宙ステーションがあります。でも空は以外にも移動手段としてしか使われていないんですよね(かつては飛行船などで数ヶ月の空の旅などが楽しめましたが…風が弱点)。
だからもしHAPS技術の発展によって「機体を成層圏に留まらせる技術」が成熟したら、いま宇宙ホテルの実現が騒がれているみたいに、そして海洋に豪華客船が浮かんでいるように、今度は空飛ぶホテルを造る猛者が現れると思うんです。

それはもはやラピュタですよね(成層圏はちょっと高いですが)。
そして地球の上空に人が留まれるようになると、そういった関連技術が発展し、別の惑星の大気にも浮かばせられるじゃないか?と動き出す人達が出てくると思うんです。というか、NASAは実際にすでにそういったプロジェクトを金星で実施できるか検討していました。
もう、ワックワクが止まりません。もしかしたら僕らが生きている間に人類はラピュタや金星に行けるかもしれないし、着々と進んでいる月面&火星の植民地プロジェクトも忘れちゃいけません。こういう発表があるたび、人間に生まれてよかったなぁとしみじみ感じます。
今回のHAPSモバイルの発表にそこまでの意味が込められていたとは言いませんが……確実にラピュタや金星、そのまた先のフロンティアへ繋がっているのだと、思います。どうでしょう? ちょっと言い過ぎですかね?