安い分妥協があったとしたら、それは何だったのか?
この春、キヤノンからフルサイズミラーレスカメラ最安となる「EOS RP」が発売されました。フルサイズなのにこの記事翻訳時点の実勢価格は13万円台からと、お手頃すぎて逆に不安になるほどかもしれません。そんな大丈夫なのか感を検証すべく、米GizmodoのAlex Cranzはソニーのα7 IIIと撮り比べてレビュー。以下、どうぞ!
キヤノン EOS RPは、クオリティ的にもデザイン的にも、別に最高のカメラじゃありません。ダイナミックレンジの広さで表彰されることもなければ、色再現性の高さで絶賛されることもなく、画素の多さに誰かが涙を流して喜ぶこともありません。でもEOS RPは、今あるフルサイズミラーレスカメラの中で一番、低価格なんです。それも今までの最安機より大幅に安いので、このカメラがあるからこそ写真の未来を垣間見られるって人が少なからず生まれてくる、そんな可能性のあるカメラなんです。

これは何?:今買える中で最安のフルフレームミラーレスカメラ
価格:1,300ドル(日本国内実売、約13万3000円〜)
好きなところ:安い、メニューが使いやすい、JPEGがきれい、プログラムモードが賢い
好きじゃないところ:ボディ内手ぶれ補正がない、ダイナミックレンジがひどい
そもそも「フルサイズ」とは?
EOS RPの特徴は、まず「フルサイズ」カメラであることです。って、フルサイズとは何か? デジカメは、デジタルセンサーを光に当てることで被写体を捉えます。センサーが大きければ大きいほど、一定時間あたりに入ってくる光は多くなり、とくに暗い環境では有利になります。フルサイズカメラのセンサーは、より低価格なマイクロフォーサーズとかAPS-Cのカメラより大きく、さらにスマホのカメラセンサーと比べたらもっともっと大きいです。
フルサイズであることのメリットがあとふたつあります。ひとつめは、センサーが大きいと背景のボケもより大きくなります。ふたつめは、センサーが大きい分画角も大きくなる、つまり撮れる風景の範囲が広くなります。
まとめると、光がたくさん入り、より良くボケて、より広い範囲が撮れるので、小さいセンサーのカメラより柔軟な撮り方が可能になります。ただ問題は、フルサイズカメラは一般にセンサーの小さいカメラより高価になることです。EOS RPが出るまで、フルサイズカメラで一番安かったのは2,000ドル(日本では実勢19万円弱〜)のソニーα7 IIIでしたが、それでもだいぶお手頃でした。なので、もし13万円台から買えるEOS RPが十分なクオリティを実現していれば、かなりの良い買い物になります。
そんなわけでEOS RP、これまでフルサイズはさすがに買えないな〜と価格面で躊躇していた人には吉報かも。今までEOS Kissのエントリモデルでファミリー写真を撮ってた人とか、5年前のソニーのNEXシリーズでカジュアルにストリート写真を撮ってた人とかがEOS RPを使えば、すごいアップグレードになりえます。
私自身はソニーのα7 IIIを持っているんですが、その前はキヤノンのデジタル一眼ファンでした。そこで今回、ソニーとキヤノンそれぞれの最安フルサイズミラーレスカメラを比較して、実勢で5万円以上にもなる差には相応の意味があるのか、はたまたお手頃なEOS RPで十分なのかどうかを検証してみました。といってもさすがに価格差が大きいので、スタンスとしては「たいして変わらないんじゃないか」というよりは「安いぶん妥協しなきゃいけない点はどこなのか」を明らかにすることに重点を置きました。またこのテストで見るのはスチル写真だけで、動画は対象にしていません。動画になるとまた話が全然変わってきますからね。
カメラのデザイン、操作性
キヤノンはもう何年もミラーレスカメラを出してはきましたが、会社としての本気が見えだしたのはようやく去年、プロ向けのEOS Rが出てきてからでした。なのでキヤノンはミラーレスの世界では、ソニーやパナソニック、オリンパスといったメインな会社に比べると出遅れ感があります。キヤノンの出遅れはいくつかの大問題(あとで詳しく書きます)につながっていますが、それでもキヤノンはデジカメ作り全体においては超ベテランであり、メニューシステムや操作系の完成度を長年かけて高めてきたことには違いありません。

メニューとか操作系の優秀さはEOS RPにも発揮されていて、やっぱり私のα7 IIIより明らかに使いやすかったです。というかα7 IIIがすごく使いにくく感じられました。たとえばある日の夜、かばんに両方のカメラを入れて撮影に出たときのこと。とりあえずどっちか取り出そうとしてゴソゴソやってたらEOS RPが先に出てきました。どっちも24-105 mmのレンズを付けてたんですが、重量感はほぼ同じくらいなんです(厳密にはα7 III一式のほうが100gくらい重いんですが)。で、「今この状況でああいう写真を撮るには、シャッター速度長めで絞りは開放、ISOは低めで…」とイメージはできてたので、その通り設定したんですが、その作業にかかった時間はほんの数秒、タッチディスプレイ上の数字をタップしてISOを調節するだけでした。
その後EOS RPで撮り終えてから、今度はα7 IIIで撮ってみましたが、撮ろうとした瞬間に出鼻をくじかれてしまいました。α7 IIIにはカードスロットがふたつあって、私はひとつにしかカードを入れてなかったんですが、それでも最初に設定を開いてスロットを選択しなきゃいけなかったんです。つぎにシャッター速度と絞りの調節はまあ手早くできたんですが、ISOの調節をするにはボタンにそれを割り当てるか、メニューに行ってISOの設定を見つける必要がありました(編集注:背面ホイールでISOを変更できるのでそこまで面倒ではないはず)。この余分な作業のおかげで、キヤノンのUI設計の素晴らしさに気づきました。

撮れる写真の違い
EOS RPは、相対的には安いといっても13万円以上もするので「安い」というわけじゃありません。でもフルサイズミラーレスカメラがほしいけど高価なカメラにありがちないろんな機能は必要ない、という人にとっては手頃な入り口になるはずです。まったくのビギナー向けというわけでもないんですが、プロ向けでもないはずです。なので私は、写真撮影後に編集しない人の多くがそうであるように、RAWでなくJPEGで撮影しました。
EOS RPの良さはJPEG撮影のときに光ってます。JPEGの場合たいていはEOS RPで撮ったもののほうがα7 IIIよりずっとキレイでした。画像は明るく、彩度も高いです。ブルックリンのレッドフック地区で撮った下の比較写真で見られるように、被写体が良い意味でパッと目に飛び込んできます。


もうひとつ、こちらの桜の写真を見てください。EOS RPで撮った桜のほうがよりピンクで、明るく、暖かく(過ぎるくらいに)撮れています。


でも暗い環境では、全体的にα7 IIIのほうが信頼できる感じがしました。α7 IIIは拡張で最大ISO感度を204800にまで爆上げでき、常用でも最大51200です。EOS RPは拡張ISOの最大が102400、常用が40000です。どっちにしろISO最大にするとざらっとした粒子感が出てくるし、JPEG化の処理自体が荒っぽいものなので、組み合わせるとスマホで撮ったみたいな写真ができあがります。


粒子の粗い元画像を見栄え良く処理するのは、ソニーのほうが得意みたいです。RAW画像を比べても、α7 IIIのほうがEOS RPよりずっと良いものでした。


他にもいろいろ難しい環境で試してみて、α7 IIIで撮れる画像がEOS RPとはだいぶ違うのがわかってきました。JPEGで撮っているときはEOS RPの欠点がうまく隠れていたんですが、RAWファイルで見るとすごくはっきりしてきます。やっぱりセンサーそのものが、α7 IIIとEOS RPでは比較にならない感じです。
たとえばこの、くもり空を背負ったレンガのビル。数秒違いで撮って、その後Photoshopで編集し、雲とレンガがもう少し際立つように明瞭度を上げています。あとは自然な彩度を両方とも100にして、空の青が雲に対して引き立つように加工しています。


α7 IIIのほうがよりクリアで、雲や明るい青空をきれいに再現していて、レンガのディテールもシャープです(α7 IIIのほうが絞りを開いているのにです)。EOS RPのほうは、レンガがふやけてしまってます。色温度は同じになるよう修整したんですが、EOS RPでは全体に黄色っぽいフィルターがかかってる感じです。
さらにこちらは夜、三脚を付けて撮ったものです。α7 IIIの写真は、JPEGで撮っても、RAWで撮ってPhotoshopでJPEG化しても、クリアでくっきりしてムーディです。一方EOS RPのほうは、比べるとかなりベタっとしてます。




こちらのネコの写真でも、EOS RPのダイナミックレンジの問題が目立ってます。白い部屋に黒ネコで、ネコの胸にも白い毛があるので、露出オーバーかアンダーになる可能性があります。EOS RPはネコの毛並みのディテールは全然捉えてなくて、何か黒いかたまりみたいになっちゃってます。α7 IIIは同じセッティングでも、ネコの頬周りのディテールを捉えています。


ただ、普段使う上で最大の問題になりそうなのは、EOS RPにはボディ内手ぶれ補正がないことです。ネコの画像だとそれが顕著に表れてます。シャッター速度1/25秒で撮るってことは、その間カメラをしっかり固定する必要があり、上のEOS RPで撮ったネコがボケてるのはそのせいです。α7 IIIはカメラ本体に手ぶれ補正が入ってるので、ネコがくっきり撮れてます。
この違いは、夜間にモーションブラー撮影した下の例でさらにはっきりしてきます。このときは高速道路をまたぐ歩道橋の上で撮ったので、手はぶれなくても足場そのものが揺れてて、この写真は手すり上に固定して撮ったんですが、それでも明らかに振動がありました。なので全体的にシャープじゃないのはしょうがないんですが、それでもα7 IIIで撮ったものはある程度使えるレベルだと思います。


とはいえ、ここで取り上げたEOS RPの欠点は、絶対ダメってもんでもないです。全部のカメラが全部できるってわけじゃないんです。α7 IIIだって、たとえばα9みたいなもっと高価なハイエンドモデルに比べると得意でないことがあります。三脚と十分な明るさがあれば、EOS RPはほとんどの環境で十分信頼できて、しかもセンサーの大きいカメラならではの柔軟なコントロールが可能です。光が十分なら良い写真が撮れて、別途ソフトを使わなくても美しいJPEG画像が作れます。
EOS RPは、実勢13万円台という価格にしては、フルサイズカメラのエントリーレベルとして十分なものになっています。露出がどうとか考えるのが面倒なときでも、たいていの場合ちゃんとした写真を撮ってくれます。これより良いカメラはもちろんたくさんありますが、EOS RPほど使いやすくもなく、安くもありません。EOS RPは、良い意味で十分なカメラです。
まとめ
・実勢13万円台という価格はフルサイズミラーレスカメラ最安で、二番目に安いα7 IIIとは実勢で5万円以上の差があります。
・JPEGがキレイで、加工しない人にはぴったりです。
・ボディ内手ぶれ補正がないので、高価なカメラに期待されるような写真が撮れない場合もあります。
2019年5月30日 10:00修正:一部、「EOS RP」の表記が「EOS PR」となっておりました。お詫びして訂正いたします。