Appleプロダクト最大の個性「デザイン」を担ってきた男。
iMac、iPod、MacBook、そしてiPhone、iPadを手がけ、生きながらにして伝説となったデザイナー、それこそがジョニー・アイブです。
Apple(アップル)に詳しいジャーナリスト 林信行さんがこんな文章を書いています。Appleのプロダクトのデザインによるインパクト、すなわちジョニー・アイブの世界への影響を実に簡潔にまとめています。
21世紀最初の秋に、世界は変わった。最大の事件は、世界情勢を一変させた9・11テロだが、そのわずか1カ月後に、世界の風景を変えるもうひとつの事件があった。
初代iPodの発表だ。
しかし、当初のメディアの反応は冷ややかだった。なぜなら、機能は音楽の再生だけ。おまけにパソコンにつながないと使えない。
(中略)
だが、ふたを開けると世界の消費者はiPodを大歓迎した。あまりの歓迎ぶりに最初は渋っていたアップルも、ついにはMacだけでなく、ウィンドウズで使えるiPodも開発する。そして、それがきっかけでアップルは大躍進を果たした。コンピュータの市場シェアが3パーセントまで落ち込み、過去の栄光にすがって一度は潰れかかった旧「アップル・コンピュータ社」は、時価総額世界一でまだまだ躍進を続けるデジタル時代のライフスタイルブランド、「アップル社」へと変貌を遂げたのだ。
このiPodのサクセスストーリー以降、「デザイン」を製品戦略の主軸に据えることは世界の常識になった。
この文章が掲載された『ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー』は2015年に刊行された本ですが、デザインがプロダクトにおいて重要であるという認識は強まる一方。よいデザインは今後もひとつのイノベーションとして評価されるでしょう。そして、この流れに大きく貢献したジョニー・アイブがAppleを去る、ショッキング。あちこちで速報になりますし、Appleの株価が1兆円近く吹っ飛んだりもするわけです。
この記事では、過去にギズモードに掲載されたジョニー・アイブ関連の記事を紹介します。今後どうなるかは未知数ですが、今は少し落ち着き、彼の過去のエピソードを読んで、その偉大さを噛みしめましょう。
1. どんな人かもうちょい詳しく
真ん中あたりに少し詳しく書かれています。
こちらは過去のお話。がっつりですがおもしろいですよ。
ジョブズがアップルへと復帰した直後、例のジョニーが篭る地下のデザインオフィスを自ら訪れては衝撃の一言が発されたそうです。
「オー、マイガッド! ここにこんなにスゴいものがあるのに我々は何をしていたんだ?」
もし未読なら、冒頭で引用した林さんの文章が入っている『ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー』はおすすめです(Appleの電子書籍アプリ「ブック」で読むとエモいと思う)。
2. プロダクトについて語ったこと
全ての部品、全てのプロセスは、それらが本当に役立ち便利なのか? ユーザーの体験を向上させることができるのか?考えに考えを重ねました。この配慮と考慮が、あなたのiPhoneと一緒に持ち歩く様々な大切な情報を守る方法Touch IDへと導いてくれたんです。
Touch IDが当たり前になりすぎて「Face IDに切り替えたくない」って人も多いんですから、すごい話です。2013年のテクノロジーですよ…。
iPhone 5sと合計で発売3日間で900万台を売り上げたiPhone 5cについて。
今回、私たちは全く新しい構造を考えだしました。まずは1枚のポリカーボネートからはじまります。端っこには強化するためにスチールを添え特注の部品で更に強化しました。その後、ボタン用の穴を丁寧に開けて、いくつかの仕上げ工程に入ります。その一つが宝石のような輝きと素晴らしくグロッシーな表面を作ってくれる透明のラッカーのハードコート。そして、あなたがプラスチック製品のものと聞い想像しているのとは全く違うカッコよくて素晴らしいものに仕上がっています。
そうでした、ただのプラスチックではなかったんですよね。
また、Apple Watchのデザインについては、身につける製品だけに、何百万というユーザーを満足させるのは非常に難しいチャレンジだと語りました。どうやったら、多様性を持ちつつ、明確で1つの意見を持つプロダクトを作り出せるだろう? この議題が、アイブ氏にとってアップルウォッチをデザインするうえで最大のチャレンジとなっていたようです。
スマートウォッチももう当たり前のガジェットに、Apple Watchはシェア1位に君臨。“最大のチャレンジ”は大成功でしたね…。
「今回のiPad Pro、iPhone 5のようにデザインが少し後退しましたね?」
と、少し意地悪に投げかけてみました。
だけど、この質問に対してジョナサンアイブは、
「デザインはいつも前進させていくもの。常に最適なものを求めている」
と答えてくれました。
3. 「フラットデザイン」という哲学
今、ほとんどのアプリはこのフラットデザインで作られています。これもジョニー・アイブの仕事で、ネットを見ているとよく出てくるワードです。
フラットデザインが重要視するのは、物理的デザインのディティールよりもGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)における効果的で機能的なスタイル。つまり、影やグラデーション、ベヴェル加工や反射は全て削除し、デジタルインターフェースとしての強みを前にだしたいという方向性。物理的な端末からの移行ユーザーだけに縛られるのではなく、デジタルにはデジタルの役目があると考えます。
「デザインとは、何かが見せるためだけの手段ではありません。それは全て、とても多くの異なるレベルで実際に動くものです。最終的には、もちろん、デザインは私たちの経験を定義づけるものです。深遠で永続的な美しさはシンプルさと明快さと効率性の中にあると思います。そしてそれらは複雑さの中に秩序をもたらします。」
こんなアイブの言葉が引用されています。
4. デザインについて語ったこと
アイブ特有の、簡明ながらも独特の言葉が続きます。
我々は、名もない、どうでもよいものに囲まれて過ごしています。それは、人々は自分が使うものなんてどうでもよいと思っているから、と考えたくなることもあるかもしれません。しかし私たちが作ってきたものは、人々を夢中にさせるものです。これは単なる美学ではありません。人々はじっくりと慎重に考えて作られた素晴らしいものに夢中になるのです。
彼いわく、デザイナーにとって重要なことは、
・どう心を込めるか学ぶこと
・どう集中するか学ぶこと
・失敗とやめることを恐れないこと
の3つだそうです。
5. スティーブ・ジョブズとのエピソード
彼(ジョブズ)は僕のアイディアをひと通り吟味して、「これは良くない。あんま良くないね。あれは好きだけど」とか言うんです。で、後で僕が話を聞いてる人たちと一緒にいる席にきて、それをあたかも自分のアイディアのように話すんですね。僕はそれこそ気が狂うギリギリのところまでアイディアの源に集中してやってるんですよ。アイディアをノートいっぱい書きためたりして。だから僕のデザインを彼に横取りされると、僕だって傷つきます。
ジョニー・アイブは他の会社がアップルのデザインをコピーすることについても「それは泥棒だよ…」と言っています。
5. 人となり
ジョナサン・アイブは皆さんが思っているほど小柄ではありませんよ。むしろ、ラグビー選手のようにガッチリしていて、思い悩んでいる大学教授のような厳格な面持ちでした。
しかし、故スティーブ・ジョブズについて話すときの彼はすごく柔らかい表情になっていたのが印象的です。
イベントに姿を現した際の様子に、こんな様子を見せたんだそうです。
6. キャリアについて
一時期現場を離れていました。
でも、戻ってきて…
その結果…
Source: 『ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー』(リーアンダー・ケイニー, 林信行, 関美和, 日経BP, 2015), Forbes