Appleのプライバシー推しは本物? 計算ずくだよね、と専門家

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Appleのプライバシー推しは本物? 計算ずくだよね、と専門家

サードパーティは放置だし、そのほうが純正がきれいに見えると。

プライバシーなんてもう10年くらい前に死んでしまったかと思いきや、今それは世界的な大問題として注目され、各国政府やテック業界、そしてユーザーたちの戦いの火種になっています。でもその戦いに参加する人たちが我々のプライバシーの実態をきちんと把握しているかというと、必ずしもそうじゃないかもしれません。そしてAppleのApp Storeは、プライバシーをめぐる戦いの中でももっとも重要な、それでいて見落とされがちな、戦場のひとつです。

Appleが先日WWDCで発表したものには、予想通りのものもサプライズもありましたが、ひとつひとつのネタにからめてプライバシー重視が発信されてました。というかAppleに限らず最近のシリコンバレー系イベントでは、GoogleもFacebookもAppleも、スキあらばプライバシー保護の取り組みをアピールしてきます。

サードパーティにはあえて突っ込まず

WWDCでの発表の中心にあったのは、彼らが最近推しているスローガンWhat happens on your iPhone, stays on your iPhone.(iPhoneで起きたことは、iPhoneにとどまる)」でした。でもこれって本当なんでしょうか?

違います

とバッサリ言うのは、Electronic Frontier Foundation(電子フロンティア財団)のテクノロジスト・Bennett Cyphers氏です。

彼らの言い方と、実際のユーザー体験の間には、かなりのギャップがあります。

AppleはApp Storeを独裁的に支配していて、「箱庭」だと批判されてもいますが、その分サードパーティアプリの中身に踏み込めるというメリットもあります。つまり、ユーザーのどういうデータを集めてどう使われどう売られるべきなのか、デベロッパーに対して透明性を求めることができるはずなのです。

たしかにiPhoneでは、Androidよりはプライバシーが守られがちだし、Appleのハードウェア・ソフトウェアはたいてい、業界最先端のプライバシー対応をしています。ただそうとも限らないのは、App Storeのサードパーティアプリが使われる場合です。そしてiPhoneにおいては、サードパーティアプリを使うのはごく当たり前で、ほとんど避けられません。

App Storeは今、独占禁止法違反の疑いで調査されるのではと言われています。App Storeで彼らがやっていることが、当局の目ですみずみまで調べ上げられるかもしれません。米国司法省がどこに焦点をあてるのかまだわかりませんが、SpotifyがヨーロッパでAppleに対して起こした独禁法訴訟と同じく、App Storeのサードパーティアプリデベロッパーに対する制限とか、アプリの売上から徴収しているいわゆる「Apple税」がやり玉に挙げられるのかもしれません。

App Storeの厳しいルールによると、各アプリは品質やセキュリティ、プライバシーについて一定の基準を満たす必要があります。でもこれまでAppleは、ユーザーに関するデータ収集、利用の透明性を高める目的では、その強大な力を行使せずに来ました。というのは、Appleはサービス業にシフトしつつある今、純正アプリと競合するデベロッパーのプライバシー対応がイマイチでもあえて放っておいて、「うちは違いますからね」とばかりにプライバシー重視を打ち出したほうが有利だという考え方なのでしょう。そんな彼らの戦術の犠牲になっているのが我々のプライバシーであり、その恩恵を受けるのはデータを手にする広告業界です。

(Appleの)マーケティングチームは、プライバシーにフォーカスしています。

そう語るのは、ユーザーが自分でプライバシーを守るためのアプリ「Disconnect」 デベロッパーのCEO、Casey Oppenheim氏です。

「iPhoneで起こることはiPhoneにとどまる」なんて、私たちから見ると、真実ではありません

この件に関しAppleにコメントを求めましたが、回答は来ていません。

アプリに埋め込まれた無数のトラッキングツール

Disconnectの調べでは、App Storeのサードパーティアプリにはのべ数千種類ものトラッキングツールが仕込まれていて、定常的にiPhoneからデータを取り出しています。そしてその動作は、ユーザーがiPhoneを操作していないときでも続いているんです。

たいていのiPhoneは、多くのユーザーが考えもしないようなデータのリクエストを何千回もしています

とOppenheim氏。

この現状は、「iPhoneで起きたことはiPhoneにとどまる」という考え方と矛盾しています。トラッキングツールはユーザーがインストールしたアプリのタイプの情報を収集するだけではなく(そこにはきわめてパーソナルな、たとえば妊娠アプリや宗教関係のアプリ、ダイエットアプリ、性的指向を明らかにするアプリがあるかもしれません)、位置情報を常時送信したり、体重や健康上の問題、性別といったセンシティブな情報もアプリデベロッパーに送っているんです。

Appleからの有意義な一手

でもWWDCのキーノートで、Appleはプライバシーに関して実用的で有意義なインパクトのある発表をいくつかしました。

Sign in with Apple」は、GoogleやFacebookといったデータに飢えた猛獣みたいな会社がサードパーティアプリやWebサイトに提供しているログイン手段の代替ですが、それらと違うのはユーザーをトラッキングしないということです。興味深いのは、この機能ではランダムにアドレスを生成することで、ユーザーがメールアドレスを教える相手を選べるということです。サインアップごとにユニークなアドレスが割り当てられることで、どの会社がユーザーのデータを売っていてそれがどこに渡っているのか、より把握しやすくなるものと期待されます。

スマートフォンでのプライバシーの最大の問題のひとつは、多くのアプリがつねにユーザーの位置情報を把握できてしまっていることです。iOSの新たに発表された機能では、アプリがいったん位置情報を取得してから再度リクエストした場合、ユーザーのパーミッションを求められるようになりました。位置情報はアプリが収集するデータの中でも特に重要で、場合によっては一番センシティブなデータなので、このオプションができることは本当の意味でプライバシー強化につながります。

Appleはキッズアプリでのトラッキングを制限または廃止することも発表しました。GoogleもFTC(米国連邦取引委員会)から子どものプライバシーに関する法律違反を指摘されて、すでに同じ方向に動いています。

サードパーティへの制限を強化すべき、と専門家

Appleにはユーザーからデータを集めるつもりがないというのは、嘘ではありません。

Cyphers氏は言います。

でも彼らは、他社がユーザーから膨大なデータを集めるのを許しています

App Storeの人気アプリにはたいてい、サードパーティのトラッキングツールがパンパンに埋め込まれています。その多くは、ユーザーがインストールするアプリのデベロッパーが開発したものでも、Appleのものでも、ユーザーのものでもありません。トラッキングを止める簡単な方法もなければ、そもそもトラッキングされていることに気づく手段もありません。パソコンではトラッキングを可視化して止めるソフトウェアとか拡張機能が無数にあり、iOSにもその手のアプリは多少ありますが、それでも自分のデータがどこにいくのか知るまでには高いハードルがあります。

Appleはデベロッパーに対し、アプリに入っているサードパーティツールの報告と、それが入っている理由の説明を義務付けるべきです。そうすればユーザーはアプリをインストールする前に、インターフェース上でサードパーティの存在に気づくことができます。

Cyphers氏は言います。

iPhoneユーザーとして思うのですが、Appleはユーザーに対し、アプリを入れると何が起こるかを教えるべきなのです。

とOppenheim氏。

スティーブ・ジョブズいわく、プライバシーとはユーザーが、自分が何に登録しているのか知ること、のはずでした。でもティム・クック氏のAppleでは、アプリのトラッキングはそれにあてはまらないようです。データの使われ方はプライバシーポリシーに書いてあるかもしれませんが、多くのユーザーは読んでもいません。Appleは誰がトラッキングをしていてどんなデータが取られているか、もっと前面に出すべきです。

それでも規制しない理由

でもプライバシーを最優先した場合、デメリットはあるでしょうか? WWDCに集まったデベロッパーに対しては、ありえるはずです。ユーザーからデータを吸い上げてお金に換えるのが急に難しくなれば、良い無料アプリが減ってしまい、引いてはAppleの利益にも大打撃を与えるかもしれません。10万円以上するiPhoneを買ったユーザーがApp Storeに行ったら砂漠だったなんて、Appleにとってはホラーでしかありません。

Appleは巨大な市場シェアを持つリーダーです。

とOppenheim氏。

彼らがアプリデベロッパーに対し、ユーザーデータの開示契約をした相手企業を開示するよう要求すれば、アプリデベロッパーがデータパートナーの選定を厳しくすることにつながるし、データを収集する会社はデータの共有相手をより限定しようとするでしょう。

このデータ収集のコアにあるのは、Appleの広告識別子です。それは各Appleデバイスに割り振られた番号で、パーミッションなしでアクセスでき、それがユーザーのプロファイル構築とか、iPhone上にあるアプリすべてについて使われています。それをオフにするオプションはあるんですが、それはiOSの奥深くに埋め込まれているので、ほとんどの人は存在すら知らないと思われます。

これこそ、サードパーティのデータ収集者に対する価値の源泉です。

とCyphers氏。

これによって個々のアプリのデータからユーザーを識別でき、Facebookのプロフィールやメールアドレス、信用情報にひも付けられます。それは、サードパーティのデータ収集者がすべてのデータをひとりの人に結びつけるためのカギなのです。

ユーザーの気持ち良さより、利益?

WWDCのキーノートでは、MacやApple Watch、Apple TV、iPad、iPhoneのOSについて発表されました。ほとんどの発表に関して、ティム・クックとその手下たちはプライバシー重視の姿勢を繰り返しました。

Appleは大手テック企業の中ではベストなプライバシー対応をしており、それは他社の状況から考えるとそんなに難しくないかもしれませんが、とはいえ大事なことです。Appleの純正アプリやサービスは、たしかにプライバシーを前面に打ち出して作られていて、他社と比べれば問題が少ないです。たとえば既存のサードパーティの月経管理アプリにはセンシティブなデータを広告系サービスに送信しているがあったりしたので、Apple純正の月経管理アプリ・Cyclesによってそういったユーザー的に気持ちの悪いことがなくなっていけばうれしいです。

でもAppleのデバイスでは、Apple純正アプリより圧倒的に多いサードパーティアプリが、ユーザーのデータを収集しています。そこでAppleが果たしている役割と、生まれているお金を見過ごしちゃいけない、と思います。

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