オスのマウスばかり使う実験が科学的研究をダメにしている

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オスのマウスばかり使う実験が科学的研究をダメにしている
Photo: Shutterstock

科学分野における性差別って人間の女性だけに向けられたものじゃないんですって。今週発表された新しい論文によると、動物研究でもみられるのだそうです。

実験に使われるマウスはオスばかり

どういうことなのかというと、エストロゲンのようなホルモンが実験結果を歪めるだろうという考えが今でもまかり通っていて、実験に使われる動物のほとんどがオスなんだそうです。(メスが難を逃れているという見方もできるけど…)。その結果、実験結果が歪められているらしいのです。

これは、ボストンにあるノースイースタン大学の心理学科のレベッカ・シャンスキー准教授の主張。サイエンス誌に掲載された彼女の論文には、最新の薬や神経疾患の理解を深めるために、長きにわたってオスの動物、特にマウスばかりが使われてきたと書かれています。そして、このような性による差別は全く不必要であり、深刻な害をもたらす可能性をはらんでいると説明しています。

歴史的に、オスのマウスは発情期がないことから実験に適していると考えられてきました。一方、メスのマウスは周期によってホルモンが変化するので、薬物に対する反応や脳スキャンの結果に影響を与えると信じられていたようです。しかし、シャンスキー准教授曰く、この仮定は多くのデータによって裏付けられていないのだそうです。

実験データに性差は関係ない

2014年に、マウスを用いた神経科学の研究を300件近くレビューしたところ、メスがどの周期にあっても、雌雄で脳のデータに大きな違いがないことがわかったとのこと。あるケースでは、行動特性においてメスよりオスのマウスの方が差が大きかったこともあるようです。2016年の別のレビューでは、神経科学の研究に使われたラットでも同じ基本パターンが見られたそうです。これが何を意味しているのかというと、19世紀まで遡る、女性一般について信じられていることにも通じていると、シャンスキー氏は言っています。

「人間の精神に関する最も根深い誤解のひとつに、男性は単純女性は複雑というのがあります。100年以上経った今でも、この考え方が、社会が女性をどう捉えているかだけでなく、生物医学の科学者がどのように動物研究にアプローチするかまで形成しているのです。」

もちろん、オスとメスの間に、科学者が考慮すべき重要な違いがまったくないとは言っていません。ホルモンを含む頭痛薬のようなものに対する動物の反応は、多くの要因によって変化するわけですし。しかし、それは科学者が仕事の一部として扱うべき変異性と記録であって、避けて良いということではないと思います。

また、科学者たちがこの非常に重要な基礎科学からメスの動物を排除すると、将来的に、途方もない盲点がいくつか残される可能性があるとシャンスキー氏は主張しています。

「臨床レベルでいうと、メスの動物を研究に使わない理由のひとつに、副作用が出る割合が高いことが挙げられます。」と論文に関する記者会見で述べました。そして、睡眠補助薬の「アンビエン(Ambien)」の例を強調しました。

「アンビエンは前臨床研究や臨床試験を経た上で推奨容量が決められました。しかし、女性は男性と代謝の仕方が違うので、実際は男性の半分の量を服用すべきだということがわかったのです。」

アンビエンは、FDAから、医学的に深刻な、時に生命に関わる副作用を引き起こすリスクが伴うとしてブラックボックス警告を受けています。

最近の研究は改善されつつある

人間側の状況は政府主導の取り組みによって、臨床試験にもっと多くの女性(妊婦を含む)を参加させようと徐々に変化しつつあるそうです。動物の分野では、米国国立衛生研究所(NIH)が2016年にSex as a Biological Variable (SABV)を制定し、公的資金で研究を行う科学者は、研究にメスの動物を含めることを義務付けました。また、カナダ版NIHも同様の規定を同じ年に設けています。最近発表された研究の中には、こうした変化がみられるようになりました。

しかし、シャンスキー氏は、SABVを歓迎する一方で、もう少し踏み込んで決めた方が良かったと感じている様子。というのも、NIHはどのように両方の性で研究をするべきかという正式な助言をしていないのです。その結果、まずはオスのマウスで、次にメスのマウスで実験を行うのが一般的となってしまっているのです。

シャンスキー氏は、雌雄混合のグループを作って研究することを勧めています。もし大きな違いが見当たらなければ、そのまま研究を進めれば良いし、違いが見つかったのなら、メスとオスのマウスの数を増やして、これらの違いを探せばいいとしています。そうすれば、19世紀の骨相学の教科書に書かれているジェンダーに関する仮定を引きずることなく、今の研究にふさわしい、ジェンダーによる違いを見抜くことができるだろうと考えているようです。

「メスはオスと比べて複雑というわけではありません。また、動物研究において、ホルモンは「性差の問題」でもありません。とシャンスキー氏。

「これらの仮定が最終的になくなり、この分野において、動物のオスとメスの脳が等しく有益であると見なされれば、すべての人にとっての精神的かつ神経学的な健康を前進させる神経科学研究の可能性は改善されるでしょう。」

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