インパクトあるネーミング。
チェルノブイリ原子力発電所事故が発生したのは1986年のことなので、もうかれこれ33年も経つんですね。ちょっと自虐がはいってロゴも力強い異国風なのが非常にインパクトありますよね。
英国とウクライナの大学と研究施設がコラボした実験作品のようですが、ハイクオリティなウォッカという点を特に強調しています。低クオリティなウォッカだと翌日大変なことになっちゃいますし...。一番気になるのは安全性。米ギズモードGeorge Dvorskyのレポートです。ぜひ早く味わってみたいものです~。
立ち入り制限区域内だけでとれた水と穀物だけを使用
チェルノブイリの立ち入り制限区域内だけでとれた水と穀物を使用して作られたウォッカが話題です。その名も「ATOMIK」(原子の、原子力のという意味合いを含む)。悲惨な事故があった原子力発電所を取り囲む地域を開墾していく上での思いきったマーケティングです。
英国とウクライナの科学者が協力しながら開発したというこの製品、もちろんウォッカに含まれる放射性物質はゼロ。ポーツマス大学のプレスリリースによれば、チェルノブイリの立ち入り制限区域内でとれた穀物だけを使用したとされています。
「ハイクオリティなアーティザンウォッカ」を目指しており、醸造しているのは「チェルノブイリ・スピリット・カンパニー社(Chernobyl Spirit Company)」で、ブランド名はずばり「ATOMIK」。ただし、現在の時点で存在する「ATOMIK」ボトルはひとつだけ。まだ実験段階のため、残念ながら購入はできません。ですが、立ち入り制限区域内でとれた生産物が商用開発されたのは初めての快挙とBBCも伝えています。ポーツマス大学の環境科学教授であるジム・スミス教授がこのプロジェクトを率いています。
科学的な要素とマーケティング要素が絡み合ったこのプロジェクト、 壊滅的な状態だった原子力発電所の周辺を、穀物の育成などの形で、どのように今後活用していけるのかを示すことにも目的があるといえるでしょう。生産者であるチェルノブイリ・スピリット・カンパニー社はこの一本を皮切りに、さらに商業展開していければと考えているようです。経済的な苦悩にさいなまれるウクライナの伝統産業の再活性化を図る目的もあります。

収益の75パーセントは地区の発展と野生保護のために寄付
「もう、あの事故から30年以上経っています。この地域に今一番必要なのは経済的な開発と、人がいなくなってしまった後にもたらされた、ここにしかない野生の資源の有効活用です」とチェルノブイリ・スピリット・カンパニー社のウェブサイトでは謳われています。
この理念に基づき、ATOMIKが販売開始された後には収益の75%はこの地区の発展と野生生物保護のために寄付される予定とか。このウォッカでこの地域のすべての問題が癒されるわけではありませんが、回復の一助となるのは確かなこと。
1986年のチェルノブイリ原発事故の後、2600平方キロメートルにわたる地域が立ち入り制限区域とされてきました。事故直後に住処を追われた人々は11万6000人にものぼります。 その後22万人が地域に戻ってきています。強制避難が指定された地区は実に4200平方キロメートル。
人間の健康を守るため、そして放射性をおびた物質を外に持ち出さないために立ち入り制限区域が作られています。農業のためにこの土地を使用することはウクライナ政府より禁止されていきました。スミス博士とチェルノブイリ・スピリット・カンパニー社ではこれを変えていこうとしているのです。英国とウクライナ両国にスタッフを置き、スミス博士は過去3年間にわたり、制限区域外側周辺の穀物の育成の可能性について評価を重ねてきたと言います。

「現在は野生生物の保護地区となっているため、立ち入り制限区域内を広く農業に使用することはできないと思っています」とスミス博士。「人間の居住区で農業が禁止されている地区もまだたくさんあります」
制限区域内すなわち放射能の危険というわけではないため、立ち入り制限区域は3つのサブ区域にさらにわけられています。メインゾーンは事故現場から半径10キロ以内の地区で、この地区は未だにほとんどのことが禁止されています。バッファゾーンと呼ばれているのが第IIゾーンで、半分ほど機能している第IIIゾーンは事故現場から10~30kmの場所に位置しています。ここではさまざまな活動が許可されています。一般の人の立ち入りも管理下において可能です。(実際に観光などで開放されています)
チェルノブイリの町は事故現場から15キロ南の場所にあります。ポーツマス大学のプレスリリースによれば、ここには遠方から来ている季節労働者などが宿をとったりしており、役場やレストラン、医療施設も、文化センターもあります。(労働者のほとんどは事故施設の廃棄や解体のために集められた一時労働者で、この作業は2060年まで続く予定) 数千の住民がこの近辺に居住しています。

蒸留プロセスによって不純物を取り去った
ATOMIKウォッカを作るために、スミス博士とチームメンバーはこの立ち入り制限区域内でとれた水と穀物のみを使用したとしています。さまざまな試験の結果、穀物はわずかな放射性をおびており、 ストロンチウム90の含有量はウクライナ政府の安全規準の20 Bq/kgをわずかに超えるレベルであったようです。このレベルはパンを焼いて食べるのに安全といえるレベルではないとのことですが、蒸留するお酒となると話は別。蒸留プロセスによって穀物の不純物が取り除かれるため、ウォッカに試験を実施したところによれば、ATOMIKの安全性は十分に示されているとのこと。放射性レベルはほかの一般に購入できるアルコール飲料となんら変わりないレベルであったと言います。
また、このプロジェクトでアルコールを蒸留するのに使われた水はチェルノブイリの町の帯水層からとれたものを使用しています。この水もすでに試験で放射性物質による汚染は検出されなかったとしています。水質はフランスのシャンパーニュ地域からとれる地下水と物質的に似ているとか。
「33年経って、ようやく人が去っていったいろんな地域で安全に穀物を収穫することができるようになっています。もちろん蒸留することなく使えます」とスミス博士。「現在では放射能リスクのないメインの立ち入り制限区域以外の地域における経済の発展に貢献できるよう価値の高い製品を作ることを目指しています。」
ウクライナ政府立入禁止区域管理庁長官付アドバイザー オレグ・ナスヴィット氏によれば、ウクライナ政府でもこの「人のいなくなってしまつた地域を使い周辺の地域コミュニティを助ける」というイニシアティブを歓迎しているとのことで、「もちろん安全は最優先に考慮されなくてはならないが、できる限りの手を尽くして正常な生活を取り戻していくことは非常に大切なこと」と述べています。
肝心のウォッカのお味について、ナスヴィット氏は「非常にクオリティの高いムーンシャインだね」(訳注 : ムーンシャインはかつて非合法に作られていたウォッカあるいは寝かせないタイプの強い蒸留酒の総称。こっそり夜に輸送して、月の光に反射したボトルをそう呼んだとのこと)「普通のただ純度の高いウォッカというだけではない、ウクライナの伝統的手法によってつくられた穀物そのものの味わいがある。私は非常に楽しめた」とご満悦の様子。
現在は販売されていないATOMIKですが、スミス博士とチームメンバーの目下の目標は販売の合法性をクリアすることのよう。次にはまず小バッチから実験販売用のATOMIKウォッカを製造することを目指しており、年内にはこれを実現させたいとのこと。
残念ながら予約販売は今のところ受け付けていないようです。