倫理的な討論が必要だって。日本政府が世界初、「人間の臓器をネズミの体内でつくる計画」を承認【追記・修正あり】

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  • author Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US
  • [原文]
  • Kaori Myatt
倫理的な討論が必要だって。日本政府が世界初、「人間の臓器をネズミの体内でつくる計画」を承認【追記・修正あり】
Image: Gettyimages

ネズミと人間を融合させるとかそういう話じゃないですよ。

iPS細胞を使ってネズミの体内でヒトの臓器を作る計画が日本で承認された、というニュースを米Gizmodoのライアン・マンデルバウムが伝えています。

2019年8月1日15時40分:本記事で紹介されている研究プロジェクトのメンバーの方から表現・内容について「不正確な理解に基づいて書かれている」とのご指摘をいただきました。ギズモード・ジャパン編集部では、それに伴って以下のような追記・修正を行ないました。

・原文の書き手であるライアン・マンデルバウムの不正確な理解に基づく文言に注を付し、記事下部に修正内容を明記。

・誤訳の修正と修正内容の明記。

誤りを含んでいたことをお詫びいたします。


これまで禁止されていた内容を政府が承認

動物の受精卵にヒトの細胞を組み合わせるという計画を政府が承認しました(注1)。これにより、人間と動物のかけあわせであるキメラが生まれることになるのかも。(注2)

総合学術誌のNatureによれば、文部科学省の専門委員会が、ネズミの胎内で人間の膵臓を成長させるという東大の計画を承認したとのこと。日本では人間の細胞を含んだ動物の胚(動物集合性胚)を14日を超えて成長させたり、そうした動物の肺を代理子宮に移植したりすることは明確に禁止されていました。しかし、2019年3月に新しいガイドラインが制定され、初めて今回のような計画の承認に至りました。(注3)「10年がかりの研究がこれでようやくできるようになった」と中内啓光教授が朝日新聞で語っています。

人間の細胞を注入した羊や豚の胚は以前につくられていますが、それらを胚胎させる実験は数日か数週間で終了させられています。(注4)でも、この実験では胎児の妊娠を満期完了させ、出産を実現させますることで動物人間をこの世に迎えることになるのです。(注5)

猫女はとりあえず生まれない

米Gizmodoの編集部でも落胆のため息がもれましたが(みなさんの中にも想像を膨らませてがっくりした人もいるかも)残念ですが、少なくともこの実験では(イーロン・マスクが期待しているような)猫女は生まれません。

ついに科学が「猫女」誕生の活路を開いたね。

または、大好きな動物と自分を融合させることもできません。りすになりたいとか、うさぎになりたいとか、まだムリです。人間の臓器は手にいれるのが難しいため、この手の実験はあくまでも人間の臓器を、豚などの手軽に扱える動物の胎内で作り出すのが目的なのです。

この研究では、中内教授のチームはバイオエンジニアリングで膵臓を作ることのできないネズミを作り出し、そのネズミの胚に人間のiPS細胞を移植することにより、人間の細胞をかわりに成長させることを狙いとしています。さらにその胚を大人のネズミに移植しますが、中内教授はまずは妊娠満期前までの妊娠で様子を見てから出産に移行する慎重な計画があることを明らかにしています。胚の脳に人間の細胞が入り込むことがあった場合には、実験は直ちに中止されるとのこと。

倫理問題も考えよう

倫理的な問題を懸念するのはなにもあなただけではないでしょう。2017年には生命倫理研究機関ヘイスティングスセンターの医学倫理学者キャロライン・ニューハウス博士は米Gizmodoに、科学者はもっと倫理的な討論をすべきと語っています。

人間の細胞が動物の脳にはいりこんだらどうする?とかいう倫理的な問いかけについては、すでに日本の研究チームでは話し合いが進んでいるようですが、人間の臓器を豚から「収穫」するのは許されるのか、といった倫理については、工業型農業や動物の研究利用などとならんで、物議をかもす内容でもあります。

「食用の豚を育てることと、倫理的にはそう変わらないかもしれませんが、臓器を得るために育てられる豚は研究用に育てられる豚とかなり違う“生い立ち”をたどることになることは、間違いないのです」とニューハウス博士。その一方では臓器を待っている大勢の人がおり、その人たちの気持ちもここでは考えなくてはならない重要なものです。

ということで、2019年の時点では悪夢に出てきそうな動物人間はまだ出現しそうにありません。ほっ。でも令和のその先は? それはあなたの想像におまかせするしかないでしょう。


注1:初出時は「政府の承認は世界初」としていましたが、「法制上は米国・英国その他の国では実施可能」とのご指摘を受け、修正しています。

注2:研究プロジェクトの方から以下のような内容で、不正確な理解に基づくとの指摘をいただき、それを確認しましたので削除いたします。

「人間と動物のかけあわせであるキメラが生まれる」とありますが、ヒト-動物キメラはヒト細胞が混在する動物であり、細胞レベルでもヒト細胞と動物細胞が交雑(掛け合わせ)・融合するわけではありません。

キメラ動物の語源となった神話上の動物、「キマイラ」もライオンの頭、ヤギの胴体、蛇の尾を持った動物であり、ライオンとヤギと蛇の中間種ではありません。

注3:初出時、「これまで禁止されていた動物と人間の細胞のかけ合わせが今年3月に解禁されたことにかかり」とありましたが、動物集合胚は動物と人間の細胞をかけ合わせるものではないため、修正いたしました。

注4:初出時、「実は動物人間の胎児を作る実験が行なわれたのはこれが初というわけではなく、羊や豚と人間の細胞をかけ合わせる実験も過去には行なわれてはいるのです。」とありましたが、注3と同様の理由から修正いたしました。

注5:動物と人間がかけ合わさった「動物人間」が生まれることもないため、当該部分を削除いたしました。また、「胎児」という文言にかかっていた「キメラの」という修飾を外しました。

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