スティーブ・ジョブズとジョナサン・アイヴの夢は、永遠の環の中に完結した。iPhone 11に寄せて

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  • author 照沼健太
スティーブ・ジョブズとジョナサン・アイヴの夢は、永遠の環の中に完結した。iPhone 11に寄せて
Image: Justin Sullivan / スタッフ / Getty Images News

ジョブズとアイヴの物語が終わり、アップルが始まる。

9月10日のApple EventでiPhone11シリーズが発表されましたが、デザイン的にはほぼiPhone Xということで「変わりばえしないからスルー」という人も多い気がします。

これは初代iMac以降のアップルデザインを一手に引き受けてきたジョナサン・アイヴがアップルを退社した弊害なのでしょうか?

確かにそうかもしれません。アイヴは変わらずアップルを顧客として一緒に仕事をするとは言われています。ただ、先日のイベント後にハンズオン会場でiPhone 11を食い入るように見つめ「近づき過ぎないように」とスタッフに注意されたというエピソードからも、彼が最終の仕上げにノータッチだったのではないかということや、コミットメントの希薄化も伺えます。

ジョニー・アイヴ、新iPhoneに近寄りすぎて注意される

今日のAppleプレスイベントにはJony Iveも来ていました! 隣にいるのはジョブズ夫人(別の角度)。写真を撮ったNeil Cybartさんに...

https://www.gizmodo.jp/2019/09/jony-ive-at-apple-event-2019-sept.html

しかし、そんなiPhone 11 Proを見るに、ジョナサン・アイヴは志半ばでアップルを離れたのではなく、“成し遂げた”からこそ離れたのではないかと思えてきます。

そう、アイヴとアップルは「iPhone X」で“iPhoneの原型”を完成させたのではないでしょうか?

iPhoneは完成し、新たな“自転車”となった

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Image: Alex Cranz/Gizmodo US

今回のiPhone 11、そしてiPhone 11 Proから感じられるのは「iPhoneは購買意欲をそそるためのデザインで競合製品と差別化するつもりはない。これがiPhoneだ」という姿勢です。

iPhone 11 Proの軍用プロダクトを連想させるミッドナイトグリーンという新色、そしてProというネーミングは象徴的ではないでしょうか?(カメラを強化した新製品であることから、ライカカメラのオリーブグリーンを意識している可能性も考えられますが、そのルーツも軍納入カメラのカラーリングです)。

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Image: Leica

もちろんiPhoneは競合に比べプロダクトとしての精度は圧倒的ですし、無印11はカラフルなカラーバリエーションを揃え、趣味嗜好に合わせて選べるようになっています。さらには数々のサードパーティー製のケースを使えばいくらでもiPhoneで自己主張することはできます。しかし、それはあくまでオプションであり、本質ではありません。

近年、アップルの姿勢は明らかに変わりました。

iOS12でiPhone旧機種の動作が改善・最適化されましたし、旧機種の下取りやリサイクルに明確に力を入れています。MacのCMキャンペーン「Behind The Mac」では、現行機種ではない古いMacも積極的に取り上げています。

これはMacと同様に、iPhoneも長く使う時代になったということでしょう。

つまり、iPhoneは世界を変えたのです。世界を変えるということは、つまり“インフラになる”ということなのです。

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Image: Mario Tama / スタッフ / Getty Images News

かつてスティーブ・ジョブズ(世界で初めてコンピュータを一般市民個人の手に行き渡らせた人物でもある)は、パーソナルコンピュータを“人間個人の知性をブーストさせる自転車”と捉え、個人が自由を獲得するための道具と表現していました。

もはやiPhone(が生み出したスマートフォンというカテゴリ)は、人類にとって(本物の)自転車以上の存在となっていることは疑いようのない事実です。

街中を走る自転車を見ても、よほどの自転車好きでもない限り「自転車だ」としか思わないはずですが、それはiPhone/スマートフォンも同様です。10年ほど前はiPhoneを使っているとそれだけで色んな人に話しかけられたものですが、もはやそんなシーンはありえません。

そんな“iPhone/スマートフォンの原型”が完成したのはつい最近。それこそが2017年の「iPhone X」でした。

iOS 7で転機を迎え、iPhone 6で飛躍し、iPhone Xで完成された「スマートフォン」

稀代のヴィジョナリーだったスティーヴ・ジョブズは、自分でプログラムを書くことも、デザインを生み出すこともありませんでした。しかし、その理想を共有し、形にする人物とのつながりをその時々で確実なものとし続けてきました。

1997年、かつて自らを追い出したアップルに復帰したスティーヴ・ジョブズが、新たなヴィジョンを実現する片腕として誰よりも信頼した人物こそがジョナサン・アイヴでした。

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Image: Apple

ボンダイブルーの半透明ボディーをまとった初代iMacでアップルの復活を印象付けたジョブズとアイヴは、その後もPowerMac G4 Cube、iPod、iPhone、iPadといったハードウェアのデザインを手がけ、アップルというブランドイメージを確固たるものにしました。

2011年にジョブズがiPhone 4Sの発表を見届けこの世を去った後、アイヴが注力したのは、iOSのリデザインでした。これは「プロダクトデザインから、UI /UXデザインへ」とも言える大転換ですが、それは時代の必然でした。なぜなら、OSのデザインこそが、iPhoneというプロダクトの大半だからです。

それまでiOSのデザインは、すでにこの世に存在するもの(計算機やカレンダーやメモ、カメラなど)を、できるだけリアルにシミュレーションしたようなものでした。

新iOSの噂の的「フラットデザイン」とはなんぞや?

https://www.gizmodo.jp/2013/05/ios_17.html

しかし、もはや受話器を模した電話のアイコンが若年層には通じないように、iTunesのアイコンからCDが消えたように、それまで存在しなかったスマートフォンというジャンルが当たり前となるにつれ、従来のデバイスや概念にとらわれない、スマートフォンならではのデザインやユーザー体験が必要とされるようになりました。

何かの真似ではない“スマートフォンファースト”なOSを、フラットデザインと画面間の奥行きある位置関係、フリック操作を軸とした操作によって作り上げたのが、アイヴが指揮をとったiOS 7だったのです。

[ #WWDC2013 ]iOS 7、フラットデザインというより「奥行き」のデザインである

今日、アップルはジョニー・アイブによって完全にリデザインされたモバイルソフトウェアを発表しました。数ヶ月間にわたる推測、数週間にわたる噂の末、つい...

https://www.gizmodo.jp/2013/06/post_12510.html

そして、Phoneというハードに歩み寄り、新たなiPhoneを作ろうとしたOSが「iOS 7」だったとしたら、ハードウェア側からiOSに接近したiPhoneこそが、画面とエッジの継ぎ目を極限まで減らし、ハードと画面が一体化したような曲面型のエッジを採用した「iPhone 6」でした。

iPhoneのカーブに沿って画面に指を滑らせると、画面上で吸い付くようにアプリやページが切り替わる体験。これは紛れもなく、スワイプ操作を主体に生まれ変わったiOSとiPhoneが融合した、ソフトとハードが一体となった記念碑的瞬間でした。

そしてそれを推し進め、完成させたのが「iPhone X」なのです。なぜなら、ホーム画面を取り払ったことで、全ての操作がタッチ&スワイプに集約され“iOSに直接触れる”という体験が極まったのですから(表裏が完全に一体となった「iPhone 7」のジェットブラックは“もう一つの完成”でした)。

こうして、iPhoneは10年をかけ、自らの原型を完成させるに至ったのです。

その証拠に、2年前に発売されたiPhone Xを今使っていても、何ら不満はありませんし、一切の時代遅れ感はありません。iPhone 11 Proと比べても、それ以外のAndroidスマートフォンと比べても、です。

ジョナサン・アイヴが成し遂げたのは「ジョブズが描いたヴィジョンの完成」だった

ジョブズ亡き後、アップルのデザインチームを率いて偉業を成し遂げたジョナサン・アイヴですが、おそらくその根底には「ジョブズがやり残したことを完成させる」という、力強い動機があったはずです。

その根拠の一つが、iPhone Xの画面の角が丸くなったこと。ジョブズが“角のない四角形”に異常なまでにこだわっていたのは知る人ぞ知るエピソードです。Macのウインドウも、iOSの各種アイコンも角が丸い四角形でした。それが、iPhone Xではついには画面自体の角を丸くするに至ったのです。捉えようによってはiPhoneというデバイスは、Macのウインドウを直接手に持つようなものなので、角が丸くなるのはジョブズの思想からすると当然の結果。Apple Watchも、iPad Proも、2018年モデルから画面の角が丸くなりました。

そしてもう一つが、MacBook ProのTouch Barです。賛否両論、いやどちらかと言えば不評の声が目立つUIではありますが、アップルは頑なにTouch Bar採用を推し進めています。そう、ジョブズがファンクションキーを忌み嫌いながらも渋々Macに採用していたことを思い出してみましょう。

ここまで来ると怪談話や都市伝説のようかもしれませんし、誇大妄想のようでもあります。

しかし、何よりの根拠が、2017年に完成したアップルの新社屋「Apple Park」です。

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Image: Dronandy / iStock Editorial / Getty Images Plus

巨大な宇宙船とも表現される、巨大な円形構造をしたこの建築こそが、スティーヴ・ジョブズが最後まで注力した仕事であり、ジョナサン・アイヴが手がけた過去最大のプロダクトでした。

晩年のスティーブ・ジョブズが、自身の最高傑作として挙げたのはMacでもiPhoneでもなく、アップルという企業そのものだったことをご存知でしょうか? 「アップルという企業があれば、自分がこの世からいなくなった後も、リベラルアーツとテクノロジーの交差点として働き続けるだろう」という旨を彼は語っています。

その永遠の循環という思想を具現化したものこそが、件の新社屋なのです(旧社屋はInfinite Loopと呼ばれていました)。

この巨大建築には狂気的なまでのこだわりと技術が注ぎ込まれ、その芸術性や革新性は高く評価されていますが、それと同時に専門家からは「より流動的に働くようになるであろう未来に対応していない時代遅れの建築だ」と言った批判も寄せられています。

しかし、アイヴとともにこの新社屋を手がけたノーマン・フォスターはそれに反論しています。

これはスティーブ・ジョブズの情熱から生まれたものなのだ」と。そして、それはティム・クックほかアップルの経営陣も同じ想いなのだと言います。

つまり彼らには、経営的判断や、合理性といったアイデアを、あえて破棄している部分があったのです(もしかしたらTouch Barにも)。

なぜか?

スティーヴ・ジョブズという欠落した一人の人間が描いた夢と理想を、完結させなくてはならなかった

その結果が「Apple Park」(と、もしかしたらその他いくつかのアイデア)だったのでしょう。

ジョブズ亡き後、ジョナサン・アイヴはそれを成し遂げました。

完成したばかりの新社屋で、彼は何を感じたのでしょうか。おそらく、そこには大きな達成感と同時に、確かな喪失感があったはずです。

二人の男の物語は完結し、新たな物語が始まる

今後、iPhoneは永遠の環を具現化したApple Parkで絶えず改善が繰り返され、美しいブラッシュアップと時代に合わせた最適化を続けていくことでしょう。

もう、“ジョブズとアイヴ”の役目は終わったのです。二人の天才が自らの人生を賭けて生んだMacやiPhoneを、私たちは自転車のように、紙やペン、ハサミのように使っています。

2019年現在、すでに多くのiPhoneユーザーは、スティーブ・ジョブズのことも、その隣にいたジョナサン・アイヴの存在も知らないはずです。

もちろん、現実には永遠など存在しません。いつかはその環が途切れるときや、あるいはその環が広がり世界を覆い尽くすまでになるかもしれません。

ただ一つ確かなのは、アイヴはジョブズとともに作り上げたアップルを去り、新たな人生を歩み始めたということです。『トイ・ストーリー4』の主人公ウッディのように。

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