ZOZO買収どころの騒ぎじゃない…
ニューヨーク生まれのWeWork(ウィーワーク)。オシャレな内装が売りで、気鋭の起業家やベンチャー、フリーランスのテッキーたちが利用する憧れのシェアオフィスとして、ソフトバンクからのファンドも受け、昨年には日本にも上陸済みで一時はユニコーン候補...ともてはやされていました。
が、赤字経営を改善できずIPOは延期、評価額が78%下落して大株主のソフトバンクがピンチです。
アメリカでは「WeWorkは詐欺?」という暴露記事が今ものすごく読まれていて、「これが本当ならIPOオワタ」と騒がれてますし、Oracleラリー・エリソンCEOも自邸に起業家を招いて「企業価値はほぼゼロだ」と発言していたり、もう誰も怖くて最後のババを引けないムードが広まっていますよ…。
孫正義氏と関連会社は所有株の38%を担保提供していますので(普通はせいぜい5%)、超ハイリスクハイリターンの賭けが外れたときの打撃は想像以上に大きそうです。
評価額がおかしい
WeWorkはオフィススペースを借り上げて、個人や中小企業などに小分けにして貸しているコワーキングスペースです。もともと評価額がバブル気味だとは言われていたのですが、8月に公開された目論見書(S1)で改めてその規模が浮き彫りになりました。
以下は黒字経営の競合企業・IWG(リージャスの親会社)と比べたReCodeのチャート。ご覧のように10倍以上の開きがあり、「本当は10分の1も価値がないのでは?」と言われています。
WeWork | IWG(リージャス) | |
---|---|---|
世界のレンタルスペース | 418万㎡ | 465万㎡ |
会員数 | 50万人 | 250万人 |
拠点数 | 29カ国 111都市 528カ所 | 120カ国 1000都市 3000カ所以上 |
2018年総売上高 (損益) | $18億(-$19億) | $34億(+$5億) |
企業評価額 | $470億→??? | $37億 |
会計規則がおかしい
さらに上記の数値さえも信頼性は薄く、目論見書は謎な会計規則のオンパレード。IPO分析会社のトライトンには「 難読化の傑作」と呼ばれています。たとえば暴露記事で指摘されているのは、次のような点です。
3. WeWorkは来年の請求まで今年の売上として計上し、回収してから大きく割り引いて自社の経費として扱っている。しかも仲介の不動産会社には契約の100%をコミッションとして支払っている(業界標準は10%)。割り引きで発生する経費も100%のコミッションも「コミュニティ調整金」名目になるため、会計処理には一切あらわれない。逆のことも行なっており、オーナーが賃料割引に応じると、割引分を売上として計上しているほか、退出後のメンバーに請求してから返金したりの操作もしている。いくらでも好きな金額を記入できる空小切手のようなもので、銀行決済を通さず、一定期間内に発行した請求の合計で処理しているのだから楽なものだ。
4. 収支報告やS1に記載された支出も誤っている。設備費と広告費という2大支出科目を隠すため、WeWorkは「コミュニティ調整金 EBITA」という新たな会計処理規則を考案した。それがなかったら累積赤字は40億ドルどころか60億ドルと記載しなければならないところだ。[...]
この「コミュニティ調整金 EBITA」については、ハーバードビジネスレビューやGQでも批判されていることなので、本当に行われているようです。「ビル&コミュニティ運営費」にかかる賃料、入居関連経費、 光熱費、ネット、ビル職員給与、設備という、WeWork最大の出費が赤字にまったくカウントされていないんですね。
アダムCEOはもう売り抜けている
今年上半期は赤字が9億400万ドル(約972億円)で、1時間に3000万円燃やし続けていることに。7月にはIPOを前に「コンフィデンス(信頼)を取り戻すため」さらに4億ドルを借り入れることを発表し、その直後に共同創業者アダム・ニューマンCEOはなんと、7億ドル(約735億円)分の自社株を売る「出口戦略」に意欲を燃やしていることがThe Wall Street Journalの調べで明らかになり、「コンフィデンスなさすぎだ」と騒がれています(自社発表では2017年に売却したことになっている)。
そのお金でミニ孫正義をやっている
で、売り抜けたお金で何をしているのかというと、投資です。家にオフィスを開設して、ファンドマネージャー雇って、目ぼしい不動産やスタートアップを買い漁り、ついでにWeWorkに身内を雇って、コワーキングスペースを貸し付けて、せっせと私腹を肥やしているのです。「さすがにそれは利益相反じゃないの?」と騒がれ、コワーキングスペースについては会社名義にすることになりましたが…。自分でオフィススペース借り上げて、WeWorkに貸し付けて賃料上げたら、自分の得がそっくりそのままWeWorkの丸損になるじゃないですかね。ありえねー。
商標「We」を創業者2人で買ってWeWorkに6.4億円で売りつける
暴露記事によれば、共同創業者ミゲル・マッケルビー役員と合わせると、10億ドル以上もうキャッシュアウトしてプライベートジェット乗り回しているんだそうな。それはまあ、よくある話かもしれませんけど、 親会社Weをつくってリブランディングしたときには、「ふたりでWeという商標を事前に買っておいてWeWorkに600万ドル(約6億4000万円)で売って儲けた」とも書かれています。急にWeとかいう呼びにくい名前になって不自然だと思ってたら、そういうことだったのか…どんだけ…。
悪評が広まると有名俳優とTV出演
インサイダー取引について、暴露記事にはこう書かれています。
7. アダムとミゲルはWeWorkで得た資金を海外のプライベートな投資会社を迂回させ、ほぼ一夜にして一等地の商用不動産のポートフォリオを築き、それをWeWorkに異常な高利で貸し付けている。自らのポンジスキーム(高利回りの投資案件を謳い、実際は運用しないで、新たな出資を募って配当していく詐欺)に創業者自らが乗っかってしまってるのだ。とてもまともな人間のやることとは思えない。ほかのビルはWeWorkのCLOで計5億ドルのローンを(JPモルガンから)確保して購入した。ポンジスキームで2億3000万ドル丸儲けしてもまだ足りないのだろう。
8. バレるとアダムは、何年も前にデモ用に買ったオフィススペースだと、しゃーしゃーと言い訳をはじめた。まじムカつく。この期に及んでも嘘で誤魔化すのだ。ほかにどんだけ嘘があるか知れたものではない。
9. 周囲のプレッシャーが強まるとアダムは、アシュトン・カッチャーとテレビ(CNBC)の特番に出た。[...]役者を使わないともう誰も説得できないのだ。
アダムが登場した番組は、動画を貼っておきますね。
Watch CNBC's full interview with Ashton Kutcher and WeWork CEO Adam Neumann from CNBC.
ご覧のようにアダムCEOは、見てるこっちの居心地が悪くなるほどに、アシュトンの高利回りの投資履歴を誉めそやし、アシュトンも「WeWorkは最初、テクノロジー会社じゃないと思ってたけど、内情をよく知るとほんと、テクノロジー会社なんですね」と一生懸命しゃべってますけど、「自分はWeWorkには投資してない」とも言ってます。隣でアシュトンの投資履歴をほめてるアダムはいったい…
暴露記事で孫さんの名前が頻出
暴露記事は怒りでヒューズが飛んでいて本当に読みづらいんですけど、目の前で470億ドルのビーストが血を吹いて倒れていくのを見るようなリアリティがあります。こんな原稿見たことない。読者からは「誤字脱字直してやる」という応援コメントがたくさんついていますよ…。孫正義(Son Masayoshi)氏の名前も何度となく登場しますので、主なところを訳しておきますね。
10. WeWorkが470億ドルもの評価額をつけたのはひとえに、日本の約1名が9回も投資したからだ。毎回、6~12か月前に自分が投資したときの倍の評価で投資を続け、結局、120億ドル(約1兆2906億円)注ぎ込んだ。ソフトバンクが最初に投資したのは2012年で、以後、他社はもうどこも投資していない。WeWorkが470億ドルの会社だと言っているのはもはやSon Masayoshiとアダム・ニューマンだけだ。[...]
11. なぜMasayoshiほどの頭脳の持ち主がこれだけのあからさまな詐欺にビリオンドル規模の金を投じるのか自分にはまったく理解できない。アダムとミゲルにまんまと騙されたのか。いや、ただ単にアダムもミゲルもMasayoshiも、持ち株を流通市場やIPO後の市場で100ビリオンドル以上の高値で売れないから、ソフトバンクの計9ラウンドの投資だけを根拠にアダムとミゲルに470億ドルの会社とPRしてもらうほか打つ手がないだけなのかもしれない。[...]
12. アダムの家では妻のレベッカもMasayoshiを口説き、もうひとつのポンジスキーム案件WeGrowに1億ドル投じさせた。
13. 危うくもう160億ドル追加投資させられるところだったが、サウジアラビアにFuture Fundから投資を引き上げると脅されて初めてMasayoshiも目が覚め、さすがにそれは思いとどまったからよかったようなものの、あのままずるずる160億ドル出資していたら危うくIPO前のFacebookの調達額の15倍を注ぎ込むところだった。追加投資のアテが外れたアダムは、IPOを早めるよりほかに道がなくなったんだろう。今はきっとIPOが延期になって、もっと細かい財務状況が用意できなくて戦々恐々なのではないか。IPOが永久に延期になれば、会社が立ちゆかなくなる心配もある。
14. 2016年、WeWorkは利益予想を76%下方修正し、それを内部告発した女子社員を訴えた。
15. 同業他社には最大手IWGと最高級LEO(ロンドン・エグゼクティブ・オフィス)のように黒字経営のところもある。120億ドル(約1兆2906億円)あればIWGを4回買収してもまだお釣りが出る計算だが、ソフトバンクはそれをまるまるWeWorkに注ぎ込んで、毎年IWG1社分の損を出しているのだ。
16. IPO前に集めた投資額を比べると、Facebookは22億ドル、Googleは1億3000万ドル、eBayは690万ドルだ。WeWork は140億ドル集めており、Facebookの7倍、Googleの140倍であり、なおかつテクノロジー企業ですらない。140億ドルものお金はいったいどこに消えたのだろう? 140億ドル集めたのに、残った手元資金が15億ドルもない。リースで抱えた負債470億ドルと、大きなスタバみたいなオフィススペースがあるだけだ。それさえも改修設備費のサイクルがめぐってきている。[...]
17. サービス付きオフィスも、既存のオフィスと利益率はそう変わらない。大体2~3%だ。ニッチなときは儲かるビジネスだったが、今は猫も杓子もレンタルスペースで、リースが横ばいの中、デスク当たりの単価は急落している。1980年代からある業種だし、最近は地場産業が主役になっており、ビルのオーナー、不動産会社、ホテル、カフェ、不動産仲介業者、Googleまで参入している。
18. サービス付きオフィスはホテルと似ているが、ずっとシンプルだ。机と椅子、交流エリアのインテリア(観葉植物とフォトフレーム)、Wi-Fi、電気、清掃、食器、電話線のひとつも用意すれば済むし、WeWorkみたいにJohn Robertson Architects、Oktraなどに外注してしまえばいい。おしゃれという意味ではLEO、Spaces、TOGのほうがハイクオリティだし、リノベもローカルのオーナーのほうが経験値が高く、WeWorkの外注先の比ではない。
19. コワーキングスペースは利益にならない。大体の会社はオフィスを貸して、その空きスペースを有効利用して採算を合わせている。WeWorkみたいに全フロア貸し切って切り売りしている会社はそうない。
20. それがどうしてここまで注目を集めたのか? 初期シードマネーを出資したビルオーナーのMortimer Zuckermanという人物がたまたまFast CompanyとNYポストの社主で、提灯記事を書かせまくったからにほかならない。「評価額がすごい」「彗星の如く現れた注目企業」と自分の投資先の会社をせっせとPRしたのだ。「今もっともイノベーティブな会社」というFast Companyの提灯記事はWikipediaで今も引用されている。
21. WeWorkはWeCafeまで立ち上げようとした。「カフェで働く環境のSaaS」がコンセプト。
22. 英国拠点のWeWorkは税金も適正に払っていない。
23. WeWorkが一番お金をかけているのは広告だ(特に記者のヘンリー・ブロジェットは、ソフトバンクが全額払う愉楽のWeRetreatに入り浸っている)。成功物語っぽい一般記事を有料で書かせているケースも多く、広報が共同執筆の一般記事さえある。「WeWorkの成長」、「WeWorkはいかにして470億ドル企業になったのか」という煽りのタイトルで毎月盛り上げているのだ。
24. ここまで読んでまだ詐欺だと思わない人は「wework hustle(ハッスル)」で画像検索してクリックするといい。オフィス中に「hustle」というネオンがあるのがわかるだろう(hustleはWeWork創業者のタグライン。詐欺の意味もある)。
25. アダムとレベッカ、ミゲルの3人はまだ集まってもいない未来の投資を人道支援にあてると誓ってPRした。まるでトワイライトゾーンだ。今後の10億より、これまで手にした10億ドルがどこに消えたのだ?と問いたい。社内では清掃スタッフが2回も賃上げストしている。そっちをなんとかすべき。
WeWorkの黒字転換は当分ないだろう。数百億ドルの売上と30億ドルの利益を出して初めて470億ドルの会社と呼べるのだが、その足元にもおよばないのが現実だ。
この暴露を受け、週明けにはソフトバンク孫正義氏もいよいよアダムCEO更迭に意志を固めたという報道が一斉に出ました。いやほんと、これは本当に早く手を打たないと、まずいなんてもんじゃないです…。
Sources: Henry Hawksberry, Barron's, ReCode
訂正[2019/09/24]記事初出時、小見出しで「weドメイン」と表記していましたが、正しくは商標でした。謹んで訂正いたします。