インタビューをして、もう1度『ジェミニマン』を見たくなった。
90年代に映画化の話が出るも、技術が追いついていないからという理由で幾度となくプロジェクトが浮上しては立ち消え、完成するまでに20年以上を要した『ジェミニマン』が、ついに、ついに10月25日に公開を迎えます。
本作の目玉はCMでもジャンジャン流れているように、ウィル・スミスがフルCGで再現された若きウィルと共演したこと。そして、3D+IN HFR(60fpsの3D映像)というこれまでにないカメラ技術で撮影されたため、アクションシーンを人間の肉眼に近い状態で見ることができ、没入感がヤバい状態になっていること。
そんな『ジェミニマン』を作ったのは、『ライフ・オブ・パイ』でフルCGのトラを少年と共演させたアン・リー監督と、70年代から今まで常にドル箱映画を作り続けてきたプロデューサーのジェリー・ブラッカイマー!
今回、そんな映画界の先駆者とも言えるふたりにインタビューする機会に恵まれたので、いろいろ聞いてきちゃいましたよ。
ジェリー・ブラッカイマー(プロデューサー)

──『ジェミニマン』は20年以上も製作難航していた作品です。今回、映画化を聞いてどう思いましたか?
ジェリー・ブラッカイマー(以下、ジェリー):まず、素晴らしい脚本だと思いました。ただ、15年前の技術では若い頃のウィル・スミスをリアルに作るというのが難しく、技術が成熟するまで待とうという決定が下されました。でも、『ライフ・オブ・パイ』でアン・リー監督がトラをフルCGで作ったのを見て、ここまでの技術があるなら、『ジェミニマン』でも同じことがやれるだろうと考えました。
アンが参加してくれたことは幸運でしたね。アン自身もやれると確証があったわけではなかったんですよ。だから、僕とアンは製作会社のスカイダンスと配給のパラマウント、投資家のところに行って「本当に完成させられるかは、わからない」と話をしに行ったくらいです。最終的にやり切ることができてよかったと思っています。
──あなたはスター性を見抜く天才ですが、どうやって才能を見抜いているのですか。
ジェリー:いや、それは映画次第ですね。脚本家によって書かれたキャラクターに息を吹き込む俳優や女優を探します。誰が演じてもいいというわけではありません。新人発掘の場合は…そうですね、経験がものをいいます。たくさんの人を見て、その中に光るものを持つ人を見つけられるんです。
1990年に公開した『デイズ・オブ・サンダー』というトム・クルーズ主演の映画を作った時のことです。キャスティングをしていた時、ロバート・デュバルはこれなかったんです。なので、他の俳優を配役していたのですが、脚本を読ませてもいまいちしっくりこなくて、脚本家にセリフを書き直す必要があると伝えていました。
ところが、後日、ロバート・デュバルが台本を読むことになって、まったく同じセリフを言わせてみたら、これがもう素晴らしくて。何1つ変える必要がないんです。こういうのが「この人だ」と言える瞬間ですね。生まれ持った才能なのか、学んで得たものなのかはわかりませんがね。ただ、こういう「才能の見抜き」には見る側の経験値が必要です。

──あなたは『バッドボーイズ』で20代半ばのウィル・スミスと仕事をしていますね。『ジェミニマン』で若い頃の姿を見た時、ノスタルジックな気持ちになりましたか?
ジェリー:もちろんだよ。
面白いことにアンは『バッドボーイズ』の車中のシーンから、20ショットくらいあった内の2ショットだけ、ウィルをデジタルのウィルに置き換えた映像を自分に見せてくれたんだ。そして「ジェリー、どれがデジタルのウィルだったかわかる?」と聞いてきたんだ。僕はどれがデジタルだったか言い当てることができなかったよ。それくらい完璧だったんだ。デジタルか本物かの違いを言えないという時点で、この作品が特別なものになると実感したよ。
──『バッドボーイズ』のウィル・スミスと『ジェミニマン』の若い頃のウィル・スミスには内面の共通点が無いように感じるのに、入れ替えてもわからないということは、デジタルのウィルの中にもウィルの本質を入れ込むことができていたということなのでしょうか。
ジェリー:ああ、『バッドボーイズ』に当て込んだのは、デジタルのジュニアを入れたのではなく、『バッドボーイズ』でウィルが演じたマイク・ローリーというキャラクターをデジタルにして入れ替えてみた、ということだよ。
──おぉ、なるほど、わかりました。『バッドボーイズ』の話をしていたら、もう一回見たくなりました。
ジェリー:アメリカでは新作の『バッドボーイズ フォー・ライフ』が2020年初めに公開を控えているから、楽しみにしていてほしいな。
──そういえばあなたは娯楽性の高い映画を作ることをモットーとしていますよね。あなたにとって娯楽性とはなんですか。
ジェリー:娯楽の定義は人によって違うけど…。見る人が登場人物に感情移入できるかは大事だろうね。
僕個人が求めている娯楽映画とは、映画を見ている最中は嫌なことを完全に忘れられる作品のことを指すよ。スクリーンを見ている間は、昨日のことや嫌なこと、その日の朝に足の小指を壁にぶつけて痛かったことなんかを完全に忘れて、映画の中で起こっていることだけに集中できる作品にしたい。劇場を後にする時に、感情が満たされているかが重要で、ジャンルは問わない。
真面目な映画でも、情報が多い映画でも、観客を引き込むことができたかが大事なんだ。メッセージを伝えたいとか、そういうことが目的じゃない。自分の映画を見てくれる観客が、たった2時間でも嫌なことを忘れることができたらと思っているんだよ。
──確かに。私はあなたの映画を山ほど見ましたが、映画を見ている間は日常のしがらみから解放されます。そんな映画を作ってくれてありがとうございます。
ジェリー:こちらこそ。嬉しいよ。
──あなたはハリウッドで最も成功しているプロデューサーのひとりですが、プロデューサー業は仕事というより、人生であり趣味だそうですね。一方で、あなたは完璧主義者としても知られています。
プロデューサーの仕事といえば、ストレスの多い職業だと思いますが、どうやってプロデューサー業と完璧主義者を両立しているのでしょうか。
ジェリー:すべてを完璧にすることなんてできないよ。でも、精一杯の努力はする。僕はある分野にはすごく執着するし、そこに到達させるために最大限の力を注ぐ。
僕の成功の秘訣は…完璧主義者と一緒に仕事をすることだね。
アン監督は素晴らしい人物で、まるでオーケストラを操るようだった。素晴らしい耳と素晴らしい目を持っている。俳優に話す時だって、伝え方ひとつで俳優のパフォーマンスを向上させることができたんだ。目を見張るものがあったよ。彼の仕事を尊敬している。彼のような完璧主義者と仕事をすると、僕の仕事の負担は減るね。
アン・リー(監督)

──『ジェミニマン』は3D+IN HFRで撮影されたアクション映画ですが、アクションシーン、特にバイクフーのシーンを撮影するために、何か特別なカメラや技術は使いましたか。
アン・リー監督(以下、アン):もちろんです。とても扱いにくかったです。
アクション映画は動きが素早いのですが、自分たちは3Dカメラで撮影していたのでカメラを水平に素早く動かしたりカット繋ぎでごまかすといったことをしたくありませんでした。私はすべて自分で撮りたいと思ったので、アクションディレクターやアシスタントに、何週間にもわたってカットを何パターンも撮らせず、全ショットのすべての詳細を徹底的に詰めて備えました。どのタイミングでタッチアップするとか、そういうところまで。ブラーやシャドーフォーカスでごまかしながら必死さを演出するのは避けたいと思いました。
3Dで撮るというと、今までなら静かな絵を撮っていたと思うんです。背景だとか、動きが少ない絵を。でも、私たちは3Dでアクション映画を撮りました。バイクで疾走するシーンや、細い路地を走るシーン、そういったものを3Dカメラで撮っていたので、扱いにくかったですよ。
3Dカメラがどんなものかはご存知でしょう。ふたつのレンズが付いているカメラです。アクションシーンの場合、ひとつの固定されたカメラを使うのが一般的で、2つのカメラで撮ろうなんて考えないものです。だって、どっちのレンズも個々に揺れるので面倒なんです。でも、僕はアングルにも拘りがあったので、2つのカメラで撮ることを主張し続けました。その代わり、常にカメラの揺れのことは意識していましたね。

わざわざ不便な方法を選んでいたので、時代錯誤かもしれません。でも、結果には満足しています。観客に新たな視点を提供できたと思うし、アクション映画でも、細部を見せることができるのだということを示すことができたと感じています。ハッキリと見せることで、アクションのストラテジーを見せることができたのです。ブラーでごまかされたアクションからは、そういったものを読み取ることはできません。
自分が最初に撮った格闘技の映画は『グリーン・デスティニー』です。私が考えるに、格闘技というのはダンスのようで、格闘技映画とというよりミュージカル映画のジャンルに入ると思っています。
私が求めたのは、筋肉だとか狂気だとかのストラテジーです。それに、単純に人が人を殴った云々といったことを撮りたかったわけでもありません。YouTubeで検索すれば出てきますが、人が喧嘩したり戦っている時間ってものの数秒です。しかし、私たちの場合は観客を喜ばせる必要があるから、4分間も戦わせないといけない。それをどうやって叶えるか、というのが私の20年間の課題でした。
今は技術が発達して、ウィルのモデルが作れます。スタントマンの動きを元に動作やリズムを修正したりで自分の求める絵に変えていくことができます。
──監督は人生は信じず映画を信じているそうですね。映画の中の世界へのあこがれは強かったと思います。監督はそういった思いが高じて、没入感を大切にする映画作りに至ったのでしょうか。
アン:いや、それは違いますね。
映画は私の人生ですが、映画を映し出せる媒体が変化したからというのが大きいです。
たとえば神は神秘的な働きをしていて、想像していることは非常に複雑です。でも、ストーリーにすることで、『ライフ・オブ・パイ』のような境遇も語らせることができます。そして、そういった言葉やシンボルを伝えるために媒体が必要になります。
その媒体が変わりつつある中で、今までなら疑問とも思わなかったことを疑問に感じ始めました。自分個人の中に生まれた変化はそういったことです。
映画化しようという段階になると、多方面とコラボレーションすることになります。お金の話も始まりますし、投資家なんかが絡んで公のものになっていきます。できるなら個人の規模にとどめたいと思っても、映画作りはお金がかかりますから、資金の問題をどうにかしないといけなくなってきます。
確かに映画は私の人生の一部です。時に混乱しますが、美しいものを追い求めてはいます。私は、映画作りもストーリーテリングも劇場も観客との関係も大好きなんです。今は何か新しいものを追う時期だと感じていて、前と変わらないものを作るとしても、新たなフォームで作りたいと思っていますよ。
ジェリー・ブラッカイマーはどちらかといえば気難しいイメージがありました。なにせ、マイケル・ベイが『バッドボーイズ』の脚本をジェリーに初めて見せた時、その脚本をはたき落としたなんて逸話があるほどですから。まぁ、映画にする価値なしというレベルのものだったらしいので、そういった態度に出たのでしょうが、そのエピソードに始まって完璧主義者という情報もあったので、ミスしたらどうしようとドキドキしながらインタビューに望みました。
しかし、話してみるととても穏やかで、観客のことを心から大切にしている人なんだとわかりました。そして、知らず知らずのうちに、私が彼のプロデュースした作品を見てストレスや不安を軽減していたことにも気付きました。これがわかった時、なんとも言えない感謝の気持ちが湧いてきました。
アン・リー監督にしても、64才にして新たなことに挑戦するスタンスを崩さない生き方にインスピレーションを受けました。『グリーン・デスティニー』は改めてもう一度みようと思います。
映画『ジェミニマン』は東和ピクチャーズ配給で10月 25日(金)全国ロードショー!
ハリウッドの流れやテクノロジーの行先を知りたいなら、是非、3D + in ハイ・フレーム・レート対応の劇場でご鑑賞ください。
Source: 映画『ジェミニマン』, YouTube